「ダナークって、なんか気品があふれてるよね。神々しいって言うの?なんて言うか、もう生まれ持っての貴族って感じだよね。まぁとにかくこの仕事、君が一番の適役者なんだ。やってくれるよね。」
麗らかな昼下がり、にこにこ笑いながら、レオは半ば押しつけるようにダナークに詰め寄る。こういうときのレオはハッキリ言って何かあるのだ、自分がやらなければいけないような弱みを握られた。そう思うとダナークはなんだか気が重かった。
「いや、僕は遠慮しとくよ、僕向けの仕事じゃないし・・・・・・・。」
と、仕事の内容はよく知らないけど、とりあえず保身のために断っておく。貴族からの仕事なんてろくなもんじゃない、と身をもって体験した仲間が口をそろえていっていたからだ。
「何言ってるのさ。父親に会いたくないの?」
ほら来た、何が父親だよガーデンタ公爵の家に何で僕の父親がいるのさ。などと心中密かにダナークはため息をつく。それを見てレオはさらに詰め寄りながら、
「この宝石、君の母親の形見にして父親のものなんでしょ?この紋章、ガーデンタ家のだよ。しかもこれ、爵位を次ぐ人しかもてないものだから君の父親はガーデンタ公爵なんだって、知らなかったの?」
「はぁ?」
ダナークは今までの人生を思い起こしていた。物心つく頃には父親がいなかったのを覚えている。ただ病弱な母親から、立派な人だった。とかいってたことぐらいしか覚えていない。そして母親もダナークが5歳の時に死んだ。
死ぬ間際、ずいぶんと高そうなネックレスを父親のものだといっていた。
それからは村の近くの山で生活をしていた。山には食べ物も水もあり、たまに村から服とかくれる人が来て、なんも不自由なかった。
友人もそれなりにできた。でも9歳の時そのささやかな平和は終わってしまった。村が、魔大戦の影響で放火、虐殺されたのだ。山まではさすがに火は来なかったけど、結構やばかった。
そのあと、イークトリアの27士とか言う怪しげな所に世話になり、27士の一人になり、今に至る。____が、今の今まで父親が公爵なんて思いもよらなかった。
さしずめ、母親を捨てるような薄情なやつだとか思ってた。宝石のことも考慮して、きっと泥棒だったんだろう、という説がダナークの中では有力だったのだが、レオの一言で、ダナークの父親のイメージは半ば崩壊しかけていた。
今まで、どこの誰が父親かわからなかったのを、数秒で2歳年下の、しかもまだ15歳のレオがわかったのも手伝って、しばらくダナークの口は、ぽかんと開いていた。
「父親に会いたくないの?」
「会いたいよ!会ってみたいさ、でも・・・・・・」
「でも、今更どんな顔して会えばいいかわからない、か?」
と、レオはダナークの答えの続きを予想して口に出す。
「そんなんじゃない!どーゆー仕事の内容なのさ!!」
そうだ、こいつはこんな奴なんだ、面の皮の厚さは普通の人の数百倍、平気で嘘つくポーカーフェイス、悪辣非道。笑顔で人を殺す極悪人、いや極悪人が束になってかかっても負けない超極悪人。しかも、なまじ顔はいいから始末におけない。
「何ぶつぶつ言ってるんだよ、とにかく仕事の話をしてくれよ。」
「はいはい、まぁ計算はちょっと狂ったけど、いいか。ガーデンタ公爵には4人の子供がいて、一番上がフェリシア、15歳。2番目がロイド6歳3番目がジャスミン4歳、末がトレント2歳だ。で、フェリシアが、最近婚約しようとしてるらしい男がいて、名前はフォーランドというらしいが、どうもそいつがあまり人間的によくないらしい。でも、フェリシアは若い頃にありがちな思いこみの恋に落ちて、父親の言うことに耳を貸そうとしないんだ。まったく、恋は盲目とはよく言ったものだよ。」
何が若い頃にありがちな、だよおまえはいくつだ!と、つっこみたのを我慢して適当にうなずく。
「で、金持ちってのはここから訳がわからねぇんだけど、いきなり父親が婚約者役を貸してくれと言い出したんだ。まったく何考えてんだか。まぁ断るわけにもいかねえだろ、こっちは金がないんだから。どうせその場しのぎだし、それなら礼儀作法がちゃんとしてて、顔もそれなりによくねえとってことで、改めてみんなの食事風景を見たけど、目を覆うばかりの悲惨さだ、ダナーク、君は別としてね。」
「でも、フェリシア?だっけ、そいつが猛烈にいやがって、速攻でフォーランドと婚約しそうになったらどうするんだよ。」
「えっ?ああ、そんなのきまってんじゃん、殺すに。」
やっぱり、と思ってがっくり肩を落とす。
「引き受けてくれる?こっちも準備しないといけないから早く返事してほしいんだけど。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いやならいいけど」
それって、脅しに聞こえるんだけど。とは言えず、ゆっくりと、ダナークはうなずいた。
27士は確かに強い人ばっかりだ。
27士は確かにすごい人ばっかりだ。
27士はいい人ばっかりだ。
けど、金欠だった。