きれいな人だ。そう思った。そして胸の奥で何かが音を立てて動いた。
あれは夕方だった、ドアを開くと夕日を浴びてきれいな人が立っていたのだ。あまりにきれいだったので夢でも見ているのかと思ったほどだった。そしてその人はこちらを振り返り、微笑みかけてくれたのだ。
「どうも、お邪魔しております。ダナーク・レフィード・フェリエンです。父は用事があったので代わりに私がやって参りました。お初にお目にかかります、フェリシア様。父がいつも世話になっているそうで・・・・。」
その時初めて気が付いた。彼こそが今見に行こうとしていた客___フェリエン公爵の息子だということに。
「あっ、すいません、お見苦しいものを見せてしまいましたわ。はじめまして、私フェリシア・ドレナ・ガーテンタですわ。以後おみしりおきを。」
反射的に出た挨拶の言葉、でもその後何を話したのかはよく覚えていない。あまりに衝撃的な出来事だったから。
フェリシアは13の時風邪を引いた。そのとき心臓に穴があき治療不能であるといわれた。後、長くても5年ぐらいしか生きられないという。
___馬鹿じゃないの、名医かんだか知らないけど、今まで運動しまくってたのに、いきなり心臓に穴があくはずないじゃない。お父様もお父様よ、何だってこいつの言うこと信じてるのよ。さしずめ治療大でもふんだくるつもりでいるこの医者に。
医師の言うことを素直に信じる父親にフェリシアはいくらか腹が立ったが自分のことを心配してくれてると思うと頭ごなしに文句もいえなかった。そしてその日から月に一度の割合で通院するようになった。
通院と薬を飲むことによって、フェリシアは自分の病気を素直に認めるようになった。いや、だんだんと信じてきた。そんなときだ、フェリシアが、フォーランドと会ったのは。
医師の友人ということで、わざわざ家に薬を届にきたフォーランドに、最初は何も気にはとめなかったが医師のところに行けば会うし、よく家にも来たのでだんだんと話すようになってきた。個人的に会うことも多くなり、いつしかフェリシアはフォーランドのことを好きになっていた。
そして、フェリシアが15のとき、婚約をしようと申し込まれた。___が、父親はこのことに反対した。単なる親ばかであったが、さすがに無視もできずに月日が流れた。
フェリシアは頼みに頼んだ、『残り少ない人生なんだから、少しぐらい自由にさせてよ!!』そう言うと、イグルはしぶしぶとだが16歳になればいい。そういった。
フェリエン公爵のところの次男が来ると聞いた時、フェリシアは次男の情報を徹底的に集め始めた。しかしなかなか集まらない、有一旅をしているということだけが手に入った。長兄の年齢から行くと、きっと自分と同じくらいだろうと見当をつけて、警戒した。
父は、婚約に反対している。自ら相手を連れてくる可能性だってあるわけだ。それなら、こちらからぶち壊してしまえ!そう意気込んで思いっきり叫びながらドアを開いたのだ。いや、半分くらいは地だったが
でも、フェリシアの予想に反した人物がそこにいたのだ。
朝食のとき、話をするうちにダナークのことを警戒するのが馬鹿らしくなってきた。口説きはする、お世辞も言う、でもそれはけして不快なものではなく心地よいものであった。
ダナークの話は面白かった。誰も知らないような話をいくつも知っているのだ、本に載っていることではなく実際に見たことのすばらしさが伝わってくるようだった。
「お仕事は普段何をなされてるんですか?」
「いつもは、大抵父の許しが出る範囲で旅をしてますよ。イークトリアにはすばらしい建物や、風景、文化がありますからね。旅して学ぶことはたくさんあります、視野が広がりますしね。フェリシアさまも一度は旅に出てみてはいかがですか?なかなかよい体験ですよ。」
ダナークは笑顔で答えてくれた。フェリシアはその笑顔がとてもまぶしく見えた。
「ええ、私も一度はしてみたいけど・・・・あまり健康ではないので。」
言ってから、しまった、そう思った。ダナークは自分の病気のことを知らなかったのだ。しかしまぁ大丈夫だろう黙っていればそれなりに病弱に見えないこともないのだから、と考え直した。
「それよりも、旅した各地のことを教えてくださらないかしら、私、旅人とかからお話を聞くのが好きなんです。」
「ええ、構いませんよ」
そしてダナークはまたいろいろと話し始めてくれた。
フェリシアの記憶に一番残ったのは、キースラー人という人種のことだ。
「イークトリアの、そうですね漠然とですが南のほうに小さな村があったんです。そこにはキースラー人とエルフたちが暮らしてましてね、きれいなところでしたよ、村の北側には森が広がり、滝があり川が流れていて・・・・。残念なことに、今はもう焼け跡しか残ってませんが。」
そう語るダナークは、なぜかとても淋しそうで、なおかつ、燃えるような怒りをたたえた目をしていた。詳しいことが気になったが、さすがに聞けなかった。
その目を見てから、フェリシアはダナークに対する警戒はあさっりと消え去った。
フェリシアは、最近の自分の体調の変化に気がついていた。いやいやながら飲んでいた薬も、やめるとひどくいらいらするのだ。物にあたり、人にあたりそして薬を手に入れようとする執念。それらがすべて恐ろしかったがフェリシアはどうすることもできなかった。薬がなくなったらどうなるのか?そんなことは考えたくもなかった。
しかし、それは訪れた。いつも紅茶に入れて飲んでいた薬がこつ然と消えたのだ。フェリシアはあせったあれがなければ困るのだ。病で死んでしまう、いろいろな感情がフェリシアの中を埋めていく。それはもう、狂気としか呼べないところまできていた。
苛立ちから、花瓶やらをひっくり返して侍女を呼ぶその姿は狂っているとしか言いようがなかった。
「ねえ、お願いよ、キャスリン。薬をちょうだい。私あれがないと死んじゃうのよ、ねぇ、どこに隠したの?出してよ、ねぇ。」
「お嬢様、薬はもうなくなってしまったんですよ、いいかげんあきらめてください、明日になればフォーランド様もお見えになるからその時頂くまでありませんよ。」
ふざけないで!!あなたたちが隠してるのは解ってるのよ、そう言いたかったが言葉が出ない。そして出たのは手だった、手当たり次第にその辺にあるものをすべてキャスリンに向かって投げつけた。あんなやつ死ねばいい、本気で思ったほどだ。
キャスリンの悲鳴。フェリシアはわけがわからず意味不明に叫びたてる。___とそのとき扉が開きそこからダナークが現れた。とたんに何故か解らないがフェリシアはほっとした。ただ目に見えるところにダナークがいるそれだけでとても安心できたのだ、
「・・・・・・・あなたは・・・・・・。」
自分でも何が言いたいのかよくわからなかった。でも口をついて言葉が出てきたのだ。
そしてフェリシアは気を失った。