つらつら短歌 その5
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・あなたへの返しきれない優しさを胸あたたかく目つぶり思う
・葉挿しせしセントポーリア根つきたり新芽がポチとこの世に生まる
・友ら皆ぶっつけ合った言葉すら呑み込み今日は気迫失せたり
・シャボン玉に鬱の一文字吹き入れて花いちもんめ空に放てり
・見られいる思いのありて仰ぐ月介護受けいる吾に照りおり
・忙しくしている時が良き事と思える時は元気な証
・節分草木洩れ日を浴び白三花顔を擡げる姿こそ春
・着陸の近きにシャトル爆砕す巨大技術がもろく惜しくも
・下駄箱の上に椿の花白く一輪を置く風情またよし
・白鳥の舞い立つ瞬時を写したり萎えゆく力を友はあつめて
・キッチンの圧力鍋が蒸気吹き夫の手料理夕焼け小焼け
・好物の焼き烏賊を食べ奥歯割れ口腔内が震度7なり
・つくりたる「もどき料理」の一品に夫との会話今宵は弾む
・引越しの知らせのあとを母はまた電話にわれの身体気づかう
・二世帯の新居の成りて父母と妹夫婦に幸いの来よ
・ホトケノザ、イヌノフグリにナズナ見て車いす吾は寄り道多し
・ひとすじの畦道淡く霞たちナズナを揺らす風やわらかし
・支援費の地域格差を筋ジスの仲間は嘆き心が痛む
・福寿草目覚めるようにいちどきに朝露払い花開きたり
・生かされていると気付きて夫の胸にささくれ立ったわたしは消える
・軒先へミモザの花房密に垂り今朝の視界は黄色に染まる
・四人部屋の施設にいまだ馴染めずと叫ぶごと友の言うを聞くのみ
・弱いところ小さいところ遠いところ自己変革を清水氏は言う
・花冷えとなりし結婚記念の日三通も次ぎ訃報の届く
・蕗を摘み土手登りゆく夫の背に陽射しいっぱい緑に染まる
・玄関にて微笑みながら話し呉れぬエホバの証人重荷残しし
・筋ジスの吾を介助し昼餉あと夫は居眠り高鼾かく
・活けしまま三週間になる桜まだ花散らず青き葉を吹く
・花を閉じまた開きしがチュウリップ風一閃し吹かれて散りぬ
・生命と繁殖力を持ち合わすベイビーリーフよ羨ましかり
・人の手にすでに渡りし古里の家の前過ぎ歩を引き返す
・故郷は黒くかなしき色もてり五月の空に生家仰げば
・百五十年歴史過ぎたるわが生家リフォームがすみ若夫婦住む
・真昼間を雷の轟き一瞬に白装束教団の報道も消す
・この冬も貰いし切干大根が立夏の今日は消えてなくなる
・電動の車いすに吾と目が合いし幼はかたえに母の手さぐる
・我が家への配達バイク噴かす音われが聞き知る音止まりたり
・失敗を笑い飛ばして福祉の家「べてるの家」は生き様みせる
・上映会見終えた後の話し合い梅雨空を抜く安らぎの風
・上映会の車いす吾に価値ありという眼差しを見た思いする
・故障せしマウスの替り無きを知り筋ジス吾はおろおろとせり
・おろおろと夫に直しを頼みたり今欲しいのは使えるマウス
・故障したマウスをいくら宥めてもマウスはダブルクリックのまま
・パソコンの孤独世界にひたりつつ癒しの時と自ら思う
・目覚めれば蕾のハートサボテンは花ひらきゆく現実見おり
・ハートサボテン華腐死せんと蜜ひたすごと花びらの白汚れきつ
・まだら髪赤毛に染めて気恥ずかし美容室出で梅雨空仰ぐ
・一輪もつぼみを着けぬ紫陽花のこの小現実を歌に詠まんか
・いつの日か「ボブ」が似合うと言われしが介護しやすく髪刈り上げん
・里芋の葉の露あつめ墨磨れり七夕の日の亡き祖父おもう
・朝露で墨磨り書きし願いごと叶うと七夕軒端に揺れる
・鉢植えの紫陽花の葉を揺らしては青小蛙の二つ来ており
・格別のその苦さ恋うにがうりをヘルパー替われど調理しくれぬ
・常さんの遺作詩集をひらきつつ懐かしみ愛く静かな.るエール
・神様が良しとされたるわが病みの苦痛に耐えん気持ちの動く
・探してと頼みて夫が見つけたりわれら二人の水着の写真
・若き日に石取り太鼓打ちたりし夫の写真の何処かにあるはず
・アルバムの整理すすまずぽろぽろと一つ一つに零るる思い出
・定年の退職無事に迎えしに友は病院へ通うと嘆く
・我が家から花火を見て居し三つの児いつしかタオルを抱えて眠る
・五年振り来て呉れし甥六歳を頭に三人の親になりたり
・押しながき アサガオの花涼しげにその青と白いろ透きとおる
・黄泉の国に逝きて三月の友の顔夢に見えたり「桃泉果」持つ
・調味した手料理よりもコンビニの味を子は好くと友嘆き言う
・その蕾十三も持ち高砂百合傾くに夫は添え木を与う
・二世帯の住宅なれば一つ庭和洋折衷の趣とする
・病室の壁に貼りある水彩画描きて見舞いし友も偲ばる
・雨上がり車いすに行く農道に稲の花こめ水滴光る
・太刀掛を父に贈りし夫おもい父のこころを思い更かす夜
・炎天の土に腹見せころがれる蝉の骸の何故に美し
・新盆を迎えて友は亡き夫のその存在の重しと涙す
・句会へと母を送りてあとひとり父は弓引く背筋伸ばして
・降り強き雨にただただ気をもみて訪問ヘルパーをひたに待ちおり
・華やぎの写真の席に誘(いざな)うに躊躇う父母にふと老いを見る
・カトレアの開花知らねど蕾いま白露の夕べ艶やかさ増す
・自宅では咲くこと無しと思いしがカトレアの紅二輪開花す
・心地よく風のぬけるを感じつつ「選者小言」をゆっくり学ぶ
・夕映えの色調まさにローランサン目を凝らし見る窓の視界に
・姪っ子の笑顔に似居る行員に小さき預金をしてみたくなる
・15号台風一過の今朝眩し夏の断片もなき高き天
・夏草を刈る機械音遠くなり天ぷら揚げる音と競えり
・言葉には尽くせぬ涙溢れくるレーナマリアの讃美歌コンサート
・委ねきる赤子のように暢びやかなレーナマリアの賛美歌の声
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