「花時計」二〇〇二年秋号披講     (二〇〇二年十二月二十八日)
 暮れも押し詰まってからの送付、遅れて申し訳ございません。
 早速披講に入ります。

りんどうや山靴に慣れ早足に   睦

●山歩きの調子が出てきた様子がよく伝わってきます。実感から生まれた句という感じがして
好感がもてました。(由利子)
●りんどうって、草深い山道の影に咲いてるんですよね。上り坂を軽快に踏みしめていく
姿が目に浮かぶ。(国子)
●山登りには不慣れですが、このイメージはわかります。惜しむらくは、「早足に」まで言わなく
ていいかもしれないということ。〈りんどうややうやう慣れし登山靴〉とか。あるいは逆に「慣れ」
をやめてしまって〈山道を早足でゆく濃竜胆〉とか。どちらかに絞りたい気がします。(光世)

角曲がるたび変わりゆく虫の声   国子

●ドップラー効果のようなものでしょうか(?)または、場所が違うと生息する虫が違う
ということなのかな? 面白い光景だと思いました。(由利子)
●「道の角を曲るたびに、何かの物音が違って聞こえる」という事はよくあるのですが、それを、
こういう風に俳句にまとめたのは上手だなと思い、いただきました。(睦)
●実感ありますねえ。まさに秋の夜真っ只中。そうして家路に着くのかな。(光世)

父親の心音聴く子秋の昼   睦

●お父さんの心音というのが面白いと思いました。安心しきった子どもの雰囲気が「秋の昼」
とともに伝わってきます。(由利子)
●肉親の心音とか、好きな人の心音とかって、不思議な感動を覚えるものです。(国子)
●お父さんに抱かれてるのでしょうか。普通は母子像であるイメージをいい意味で裏切っていて、
秋の日差しがまばゆい。(光世)

心字池とび発つ鳥と来る鳥と   国子

●飛び立つ鳥と飛んでくる鳥、地方の湖沼などではありふれた光景でしょうし、それもまた美しく
詩的な世界だとは思いますが、心字池という場所が素敵だと思いました。また、場所が「街の喧騒と
一線を画している」という面もあり、また、最近の時代的な「喧騒」とも一線を画しているという
感じがして、心ひかれました。(由利子)
●この句のポイントは「心字池」だと思います。作者が何か考え事をしているのかもしれません(睦)

休暇明けこころ何処かに置き忘れ   麗子

●つい最近、こういう心境になり、あまりにも私の気持ちをあらわしてくれていると思いました。
でもこれ、無季ですよね。(国子)
 ※「休暇明」「休暇果つ」などの形で秋の季語ではないかと思います。(光世)
●茫然自失の状態。もうこういう状況にならなくなって久しい。懐かしいな。(光世)

顎髭を鏡に映しすいつちよん   光世

●「顎鬚」と「すいっちょん」の取り合わせがユーモラスで俳句っぽいです。(由利子)
●あごひげのある人に温かい思いを抱いているのでしょうね。(国子)
夜なべして襖の向う時代劇   光世
●ふすまのかもし出す、日本的陰影が、庶民的な明るさの『時代劇』で、救われててすき。(国子)
●ご自分が時代劇を見ておられるのか、時代劇のワンシーンを詠まれたのか…
襖の向うには、何者かがいるのでしょうか。時代劇なら何者かが現れそうです。(麗子)

曼荼羅の壁に真向ひ新酒酌む   光世

●本当は「曼陀羅を掛けてある壁」なのでしょうが、曼陀羅の壁と言ってしまったところが
少々乱暴ながら。ひとりで飲んでいる感じがしますが如何。(睦)
●出来あがった新酒を奉納しているのでしょうか。曼荼羅との組み合わせがいいなと思いました。
(麗子)

布縫えば心安らぐ冬近し   睦

●最近は、何かを作ることを主目的にした針仕事というのはあまり無いのでしょうが、ゆとりある
趣味とか、精神的安定などのためにする針仕事というのも貴重な時間かもしれません。あらためて、
そういうことを考えさせられました。(由利子)
●「心」って難しい題。俳句はそもそも心を詠うものだから、そのままストレートに「心」と詠むと
成功しにくいと聞きます。この句は、布を縫うという行為自体にすでに安らぎやぬくもりを感じるの
に、「心」の一字を添えてもくどくなっていないところがすき。(光世)

薄野に外来種来る古戦場   麗子

●「古戦場」に「外来種」という、時間の流れが面白いと思いました。諸行無常の響きあり、
みたいな文学的な気分になりました。(由利子)

りんだうに有無を言はさぬお人かな   光世

●りんどうに似つかわしい凛とした女性。(麗子)

心病む戦争好きや冬の月   ゆり子

●現在の世界状況をいったものでしょうか。冬の月のあやうさ、漠然とした不安を感じる。(麗子)

りんどうの茎の屈折切子のびん   国子

●茎に対して「屈折」という大仰な言葉遣いが面白いです。下六はどうにかしたいなあ。「江戸切子」

なんてしちゃうと壜の感じが出なくなるかなあ。(光世)

枕辺に本の散らかる夜長かな   睦

●秋の夜はついこうなってしまいそうです。(麗子)

陽だまりを探しては寝て秋の猫   麗子

●だんだんと忍び寄る寒さに、生活の知恵を働かせる、飼い猫のユーモラスな姿。(国子)

ふわり跳ぶばったの案内して散歩   麗子

●ばったに案内されるんじゃあなくて、ばったを案内するところが面白い。(国子)

点心の蒸籠の湯気も獺祭忌   光世

●獺祭忌というのは正岡子規の忌日でしたでしょうか?何となく漢語が合いますね。
大勢で集まって会食している様子が、わかる俳句ですね。(睦)

竜胆や目的地まで二キロ弱   ゆり子

りんどうを活け始業前屈伸す   ゆり子

芋天や揚げるそばから子の口へ   国子

虫とりて虫の個体差知りにけり   ゆり子

単線に駅舎の灯り残る虫   睦

りんだうやベル鳴らしゆく女学生   麗子

まつかさをくるくる回し絵の具塗り   国子

【次回の兼題】
 恵方 霜柱 大根 「一」の入った句 「み」で始まる句 当季雑詠
  以上の中からいくつかを使って、五句以上七句まで
【送り先】
 海老沢光世あて
【締め切り】
 二〇〇三年一月二十日(月)