愛しの久美ちゃん 4


いよいよ女子短大学園祭のメインイベントのダンスパーティだ。久美ちゃんは、裾のひろがったピンクのスカートをはいてきた。ながい髪に、ゆるいウエーブが、かかっていた。うすく化粧もしている。眩しいくらい綺麗になってしまった。成るほど、伊勢丹で私に無理やり新品のネクタイとシャツを買わせたわけだ。いつもの、垢じみたワイシャツと色のあせた親父のお古のネクタイじゃ、八芳園のパーティー会場にそぐわない。

久美ちゃんは、いつもより背筋をぴんと伸ばして、まるでグレース・ケリーみたいだ。
しまったな、ついでに靴も買っちゃえばよかった。スーツは、下宿の住人が就職試験の面接用に最近買ったものだから、まあまあだ。しかし、靴がまずい。下宿の玄関でいいかげんボロキレで靴墨をたっぷり染み込ませて、ゴシゴシこすったから、表面の傷はなんとかごまかせた。でも、いくら光って見えてもしょせん厚塗りの鈍い靴墨の光だ。ダンス会場のシャンデリアと、ミラーボールのきらきらするなかで、ワックスでみがき抜かれた床を滑るように、ステップをふむ靴ではない。

久美ちゃんは、同級生や顔見知りの上級生と挨拶をしている。彼女たちは、皆同じように素早く横にいる私の品定めをする。顔をちらっとみて、それから上から下をみて、視線があうと軽く会釈をする。
私は靴が気になって、どうも落ち着かない。畜生、ほんとうに失敗した。 そうだ、早く人込みにはいっちまえばいい。久美ちゃん、久美ちゃんてば、あっちがよさそうだよ。わたしはなんとか、ひとの沢山いる壁ぎわに誘った。
ところが、久美ちゃんは、すぐ友達に引っかかってしまう。わたしというボーイフレンドを連れてきて、久美ちゃんはすっかり得意になっていたのです。彼女の同級生は殆んど、女同士できていた。お嬢さん大学のクラブ活動で、交流のある都内の有名大学の男子学生は、沢山きていても二人だけのペアとなると少ないのです。

薗田憲一とデキシーキングスの演奏が始まった。
凄い数の入場者だ、さしもの広いフロアーも踊る学生たちでいっぱいだ。 久美ちゃんは私の手を掴んで、フロアーの中央にすすんでゆく。真中かよう、困るなあー。でも久美ちゃんはお構いなしだ。わたしは、体で拍子をとった。両手を繋いで、寄って、また離れて、右手を離して、挙げた左手の下をくぐらせる。久美ちゃんがくるっと回ってこっちを向く。
久美ちゃんの腕を引いて、ぐるっと逆に回すと元に戻った。
なんだ、俺もやれるじゃないか。

じつは、わたしはスーツを貸してくれたK大学のHさんに一週間の特訓を受けてきたのだ。Hさんは新潟県出身の遊び人だ。鬼瓦みたいな顔をしているけど、ダンス・パーティで知り合った女の子が時々彼の部屋にきている。
変な関係はないよと言っていたけれど、下宿人たちは誰も信じていない。
とにかくお友達作りに実績のあるHさんの指導でジルバとルンバとフォックストロットとワルツの基本ステップをおぼえてきたのだ。

久美ちゃんは、やたらに上機嫌で顔をかがやかせている。
この際、世界がどうなろうといいや。ワシントンとモスクワの上空で、水爆が炸裂したって八芳園のボウルルームが今すぐ消えちまうわけで無し、戦争なんてどうでもいい。それよりは、今はわたしの腕のなかの久美ちゃんの笑顔のほうが大事だ。

久美ちゃんの額に汗が浮かんでいる、そして久美ちゃんがわたしの胸にぴったり顔をつけて踊っている。爽やかな匂いがしてきた。久美ちゃんは、香水を耳の後につけてきたのです。久美ちゃん、好きだよ。好き、久美ちゃん。

この時、この今という時が大事なんだよ。

                ***

久美ちゃんが時々私の下宿に来てくれるようになったのですが、一寸具合が悪いのです。つまり、その、なんと言うか、プライバシーと言う点でいうと、まったく無いのも同然なのです。

隣部屋との仕切りも廊下とのしきりの壁も薄いベニヤ一枚なのです。久美ちゃんが来ると下宿中に俄然緊張がはしりました。例えば、わたしの真うえの部屋にはデパートなみの校舎の間口の広さで、有名なH大のUさんが住んでいたのです。彼は麻雀が好きで友達を呼んでよくやっていました。ガラガラガラガラ、昼間から賑やかでした。

久美ちゃんが来ると部屋の扉を内側から厳重に鍵をかけて、キスなんかしていると何時の間にか二回のガラガラ音がやんでいるのです。
久美ちゃんはノーテンキだから、そんな事おかまいなしで鼻をならして、わたしの物(このごろ、久美ちゃんは横暴にも、自分の物だなんていいだして、勝手に「ボクチン」なんて、ペット並みの名前を付けちゃったのです。)を、引っ張り出して撫で撫でしている。

久美ちゃん、久美ちゃんとわたしは、久美ちゃんの悪戯ずきの手を、おさえます。
「どうしたの。気持ちよくないの?」
違うんだよ久美ちゃん、マージャンの音だよ。
久美ちゃんは、何の話かてんでわかっていない。スカートを脱がないで横の金具だけはずして緩め、パンティを器用にくるくる足首まで下げて、私のズボンのバンドのはずしに掛かる。ボクチンが早く欲しいのだ。困ったこだ。

わたしは、「ボクチン」を久美ちゃんの「メアリーちゃん」に滑り込ませ、久美ちゃんの口を押さえて、音をたてないように腰をうごかす。久美ちゃん最近上達いちじるしい。声もタイミングよくだせようになった。でも、下宿中の学生たちにサービスするには、もったいないくらいの美しい響きなんです。頼むよ、久美ちゃん、もうすこしボリュームをさげてね。


と言うわけで、わたしは引越しすることにしたんです。久美ちゃんと日曜日、中央線沿線のアパートの周旋屋をまわってみました。久美ちゃんは、自分のアパートを探すみたいに、私に口挟ませない。
周旋屋が持っている商売用のノートを取り上げてしまい、これはどうなの。こっちの物件の日当たりはどうかしら、部屋代が高いんじゃないと、勝手に交渉を進めてしまう。
何軒目かで周旋屋のおじさんが、「いやーあ、奥さんには負けた。こんな美人の奥さんに責め立てられちゃ断れませんな。良し解かった。礼金は一ヶ月分まけましょ。部屋代も500円安くしましょう。」
本当、感激!ここににきめますわ。いいわねって、久美ちゃんはわたしを見る。久美ちゃんが勝手に決めてしまった。

久美ちゃんは周旋屋のおじさんを更に攻め立てる。畳表を変えさせ鍵も新品、室内のガス管も水道の蛇口のパッキンも変えさせる約束も取り付けた。凄腕だ。

周旋屋のスプリンの飛び出しそうなソファに並んでいて、久美ちゃんは「奥さん」と呼ばれるたびに私の方ににじり寄ってくる。久美ちゃんのはちきれそうな腿が私の腿にぴったりくっ付いているし、久美ちゃんは上体をくの字にして私に押し付けてくる。ちょっと、ちょっと、久美ちゃん。いくらメアリーちゃんが潤って来たからって、ここじゃ拙いよ。おじさんが目を白黒させてるってば。


トップに戻る