ぼくは先生が好きだった 3
ぼくの一番の親友は水島君でした。水島君は5年生の時に転校してきました。
家が近所だったから、一緒に学校に行くようになり、自然に親友になりました。
教室でも、水島君とは席が近くでした。
ぼくは、隣のこうちゃんと毎朝水島君を迎えにゆきました。
水島君のお父さんは警察署長さんでした。ぼく達が待っていると、
水島君の家の前に黒い大きな自動車がきてとまり、
帽子をかぶった詰襟の運転士さんが出てきて、後ろのドアを開けます。
すると水島君のお母さんが、玄関のガラス戸をひいてでてきます。
その後から、金ボタンぴかぴかの制服をきたお父さんが胸をそらしてでてきて、
お母さんの手から黒いカバンを受け取り運転士さんに一寸手をあげ自動車に乗り込みます。
水島君はとても勉強ができました。4月に転校してきて、9月には級長さんに選ばれました。
妙子先生も水島くん水島くんと、何かと彼をかわいがっていました。
水島君は情報通で、妙子先生のことなら、なんでもしっていました。家がどこで、お嬢さんは一人いて久美子というんだって教えてくれました。
水島君は、本当に先生のことをよくしっていました。先生の旦那さんは電波探知機の研究者で、戦争中一生懸命研究しすぎて肺結核になってしまい、戦後すぐ亡くなってしまったそうです。
先生のお嬢さんの久美ちゃんは、隣町の小学校二年生か、三年生ということでした。
とにかく、ぼくが何年も妙子先生の担任のクラスいたのに、全然知らなかった先生のことを、半年もしないで彼は調べあげたのです。
水島君に聞けば先生の事は大抵解ってしまう。同級生の事もよくしっていた。
例えば水島君に級長の座を奪われた雄一くんは、じつは副級長の柏木みちこのことが好きで、
学校の帰り道は、遠まわりなのに柏木みちこの家の前をとおって帰っているそうです。
昼やすみのことでした。水島君がぼくにいい事をおしえてくれました。
授業中に鉛筆を机から落とせというのです。そして、それを拾えと。
昼休みの後、算数の時間でした。妙子先生は、いつものレースの飾りのついたブラウスで、
スカートは紺色でやはりふわっとひろがるやつでした。
<<みなさん、今日はこの前にやった鶴亀算の復習をやります。後でテストをやるから、先生の説明を良く聞いてるのよ。>>
ぼく達は鶴と亀の数を計算するのに夢中でした。
ぼくは、鉛筆を斜め前の柏木みちこの横あたりに落としました。
鉛筆を拾いながら、斜め上をみると柏木みちこの半そでの袖口から腕の付け根がみえました。
細い黒い腋毛が腕にそってちょろちょろ、体にそってちょろちょろと二手に別れてはえていました。
水島君はほんとにいい事を教えてくれた。
ぼくは時々ほかの場所にも鉛筆を落とす事にしていた。
ぼくのすぐ横の下田さんも少し生えていた。一番背の高い島田さんにはないのが意外だった。
でも、いちばん綺麗に生えていたのは柏木みちこでした。
真っ白い肌が脇の下でしわしわっとなって、
ちょろちょろっとちじれた黒い毛が薄く生えているのが、なんともいえなせんでした。
ある日、ぼくの後ろの佐藤たまこが、授業中にいきなり妙子先生にいいつけた。
「先生、モト君が柏木さんの脇のしたを覗いています。」
クラス中の女子の非難のまなざしが一斉にぼくに突き刺さった。
柏木みちこは真っ赤になって、うつむいてしまいました。
ぼくは妙子先生の命令で廊下に水を張ったバケツを提げ、半日も立たされました。廊下をよそのクラスのやつらが、休み時間にぞろぞろ見にきました。
噂はたちまち広がってしまい、ぼくは学校中知らない者がない助平という事になってしまいました。
あれから、ぼくは柏木みちこと普通にしゃべれなくなってしまいました。
柏木みちこもぼくとすれ違うとき、うつむいて赤くなっていました。ぼくは柏木のことを考えると、なんだか悲しいような、嬉しいような気持ちになってしまい、訳がわかりません。
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