「今日かい? 扇情の和了依存」

キョウカイ センジョウ ノ ホーライゾン

 

 

 

 武蔵アリアダスト学院のとある教室に、多くの生徒がおり、中心にぽっかりと空白があった。

 空白には小さな卓が設けられており、4組の男女がついている。

 東南西北を示す位置に男が座り、その後ろにパートナーたる女が立っていた。

 席についているのは、

 葵・トーリ。

 シロジロ・ベルトーニ。

 立花・宗茂。

 そして、点蔵・クロスユナイトだ。

 彼らの後ろで、それぞれ違った表情の女が見守っている。

 へらへら笑っているトーリの後頭部を不安げに見詰めるのはネイト・ミトツダイラ。

 傲然と腕を組むシロジロをにこにこと眺めているハイディ・オーゲザヴァラー。

 居心地の悪そうな宗茂に採点するような目線を向けるのは立花・ァだ。

 メアリ・スチュアートはよくわかっていないらしく可愛らしく首を傾げて、点蔵に話かけた。

「あの、点蔵様? これは一体どういった儀式の集まりなのでしょうか?」

「メアリ殿、ええと、これはつまり、なんと申し上げるべきで御座るかなあ……」

 言葉を選ぼうとして上手くいかない点蔵の代わりにトーリが、

「リアル脱ぎ麻雀だよ! リアル脱ぎ麻雀!! 俺らが打って負けた点棒の分だけ連れのオンナが脱ぐルールなんだぜ?」

「トーリ殿、昨今は名称は脱衣麻雀に改めらて御座るよ」

「おお! そういえばそーだったな! 流石テンゾーだぜ! カノジョができても変わらねえなあ、まだエロゲ買ってんのか?」

「ちょっ! トーリ殿にだけは言われてたくないで御座るよ自分!」

「脱ぎ麻雀改め脱衣麻雀……。そうなのですか宗茂様」

「ええ、どうやらそうみたいですね」

 目をすうっ、と細めたァに、宗茂は微かに頬を引きつらせる。

「ほうほう成程。宗茂様は妻の目の前で他人の女を脱がすという新たなプレイに目覚めたということで宜しいですね?」

「いやっ、それは違いますよァさん落ち着いてその義腕を下して下さ……いや私の頭にではなく!」

 ァの遠慮のない義腕の振り下しを神速の挙動で受け止め、必死の弁明をはじめる宗茂を横目で見つつ、ネイトは自分のパートナーの細い肩を控えめに指で突いた。

「あ? なんだよネイト? 便所なら先に行っておけよ? 間違ってもその辺でするんじゃねーぞ?」

「いい加減に犬扱いはおやめなさいな総長。トイレではありません!」

「じゃ、なんだよ」

「どうして私がこの場にいるのですか?」

「あぁ? なんだよネイト、俺の相手は不満だってか?」

「そ、そそ、そういうことを言っているのではありませんわ! 総長にはホライゾンというれっきとしたパートナーがいるのですから! 私がこの場にいるのはおかしいのではないか、と、そう進言しているだけのことです! それだけです!」

 おいおい必死だな、という周囲の視線をあえて無視してネイトは薄い胸をそらした。

 トーリは分かっているのかいないのかフンフンとうなずいて、

「まあ気にすんなよ。俺は気にしてねえぞ!」

「少しは気になさいませ! ほら周りをご覧なさい! 皆それぞれ自分の相手を連れているではありませんか! どうして私がこの場にいるのがおかしいと分からないのですか?」

「そんなこと言われても、朝ホライゾンのやつに声かけたら『今日は店主様より料理を教わる予定になっておりますのでトーリ様の相手をしている暇は寸毫たりとも御座いません』って言われてさあ。じゃあ、どうすっか……と思って最初に思い浮かんだのがオマエだったんだよ」

「……………………」

「悪かったか?」

「わ、悪くはありませんわ」

「え? でもなんか怒ってね?」

「怒ってませんわ! ……そ、そういう事情があるなら最初に言えばいいのですわ!」

 顔を真っ赤にしてプリプリと喚くネイトに、トーリはステイステイなどと手を出している。

 隣でハイディがくすくすと笑っている。

「ミトッツァン、ちょろいよね」

「騎士などというものは概してそういうものだ。だから愚劣な王に仕えもするのだ」

 腕を組み、目を伏せたままのシロジロの言葉にトーリが反応した。

「おいおいシロ、やっと喋ったと思ったらずいぶんイイ空気吸ってるみたいじゃねーか」

「よく聞け馬鹿。ひとつ無料で情報をくれてやる。麻雀は馬鹿では勝てん」

「じゃあ俺、圧勝じゃね?」

「そんなわけあるかー!」という総ツッコミを無視して、トーリは指をシロジロに突き付けた。

「シロ、オマエこそわかってんのかよ。オマエが負けたらオゲちゃんが脱ぐことになるんだぜ?」

「安心しろ。そんなことにはならん」

「わっかんねえぞ」

「始まればすぐにわかる」

「よし、じゃあはじめようぜ!」

 四人の男たちが頷く中、メアリがまた小さく首を傾げた。

「それで、つまり、どういうことなのですか?」

 

 

 半荘1回勝負で、点棒の代わりに女性が服を脱ぐ、という鬼ルールを汗だくになって説明をし終えた点蔵は内心で頭を抱えていた。

 メアリはルールを理解し、受け入れた上で、

「点蔵様が守ってくれますものね」

 と言ったのだった。

 ……ぬおおおっ。自分、これで負けたら色々終わってしまうような気がするで御座るよ。

 色々終わってしまうのは宗茂も同様のようだ。

 脱がせば死(妻から)、脱がさなくても死(妻から)という進退きわまりなさは点蔵以上だ。

 ……だからといって大人げないで御座るよなあ。

 東場は宗茂の独壇場だった。

 軽くて安い手を上がりまくって場を回し、自分の親はトーリの安手に差し込み終了させていた。

 引きが強いのではない。

 ……イカサマで御座るな。

 宗茂の手がうっすらと透けているのは超高速で動いているせいに違いない。

 神速を持ってヤマと手配を入れ替えているのはわかっている。

 わかっているが、指摘はできない。

 宗茂の速度に追いつけないから現場を押さえられないからだ。

 このイカサマを使っていればもっと高い手も狙えるだろうにそれをしないのは――

 ……ァ殿のせいで御座るか。

 卓の誰かをトバしてしまえば完全に脱がしてしまい、ァがただでは済まさないだろう(宗茂を)。安手で少しだけ脱がして場を回しつつ、点差で勝利しようという魂胆なのだろう。

 それでもァは穏やかではないようだが。

 ……微妙に怒りのオーラが見えるで御座るな。

 怒りが見えるのはァだけではない。

 シロジロだ。

 無表情に見せて組んだ腕が微かに震えている。

「これ以上はやらせん」

 南場の起家であるシロジロの右手の甲に小さな鳥居型紋章が浮かびあがった。

 ツモの瞬間に、強い光を放ち紋章が消えた。

 莫大な現金を寄進することで幸運を引き寄せているのだ。その証拠に後ろにたつハイディが表示枠を幾枚も展開している。

 ……無茶苦茶でござるなあ。

 シロジロの行為は厳密にはイカサマとは言えない。宗茂のように牌をすり替えているわけではない。

「よおシロ。相変わらずいい空気吸ってるじゃねえかよ」

 トーリがツモりながら笑った。

 手牌に加え、切ったのは四索。

 いきなり捨てるものではない。

「馬鹿め。国士狙いか」

「馬鹿はオメエだろ。この勝負にいくらつぎ込むつもりなんだよ」

「いくらでも」

「そんなにオゲちゃんが脱がされるのが嫌なのかよ」

「……いくら遣ってでも勝つ。それだけだ」

 後ろでハイディがくねくねしているのを苦笑混じりに眺めつつ、点蔵はツモ。

 イカサマ全開に金の力で鬼引き状態、更に国士無双狙い。

 ……どーにもならんで御座るよなあ。

 点蔵の手牌はまだバラバラだ。

|一|二|三|四|五|七|九|九|九|\|南|西|北|

 せいぜい一気通貫、無理して清一色がうっすら見える程度だ。

 いきなりトーリに当たることはあるまいと「南」を切る。混一を目指すとしても南が浮いてからでは遅いという判断だ。

「ポン」

 鳴きが入った。

 宗茂だ。

 と、同時、宗茂の手が霞んで見えた。

 また超高速のすり替えだ。現場を見ても、腕を掴むことを許さない速度。

 その後も、シロジロはシロジロで相変わらず膨大な金額をツモに突っ込んでいるようで、トーリは真ん中あたりの牌をズバズバ切り飛ばして一九字牌は全く見えてこない。

 点蔵の手も進んではいるが、字牌整理さえもトーリのおかげで恐る恐る進めざるを得ない。

 国士無双が直撃すればそれで即終了だからだ。

 忍術でイカサマをすることを考えないでもないが――

 ……無理で御座るな。

 宗茂の眼をかいくぐって、というのは無理だ。イカサマがバレたとしたらどうなるか。罰符くらいで済めばいいが、この連中の辞書に「情け」「容赦」の文字が無いことを、点蔵は誰よりもよく知っている。

熟考の末「西」を切った。

「ポン!」

「……っ!」

 また宗茂だ。二鳴き。

 ……南、西、混一で御座るか? いや――

 すり替えを連発している以上そんな甘いことはあるまい。

 字一色。

 小四喜。

 大四喜。

 役満の名が脳裏をよぎる。

「北」を握ったままでは死に体だ。切らざるを得ない。

 それは分かっているのだが――

 

 

 切りきれないままに「北」を抱えていた点蔵は数巡後に決断の時を迎えた。

 ツモは一萬。

……ここは勝負で御座るな。

 テンパイだ。

ただ生牌の「北」を切ることさえできれば、だが。

 切った。

「おいおいテンゾー、そいつを切るのかよ」

「……無謀な忍者だな」

「…………」

「通しで、御座るか?」

 トーリが笑みをもって頷き、シロジロは腕を組んだまま動かない。

 宗茂が牌を倒した――

 ……まさかっ!

「ポン!」

 三鳴き。

「おいおいテンゾー鳴かせ過ぎじゃね?」

「責任払いだな」

 何を言われようと通ればこちらのものだ。

 点蔵の強打に三人の表情が微かに変わる。トーリの笑みにすら固いものが浮かんでいる。

 無言の中、牌の音だけが響く。

 そして――

 トーリが「二萬」を切った。

「…………ロ、ロンで御座るっ!」

「へ?」

「ちょっ、総長――!」

 ネイトが悲鳴を上げる中、点蔵が手牌を倒した。

|一|一|一|二|三|四|五|六|七|八|九|九|九|  |二|

「おいおいテンゾー」

「これは……」

「……ほう」

 九蓮宝燈。役満だ。しかも純正九蓮宝燈である。

「まさかテンゾーにやられるとはなあ」

 トーリは手牌を開示。国士無双十三面待ちテンパイ。

「……参りましたね」

 宗茂は小四喜テンパイ。シロジロは四暗刻単騎。

「負けなかったから問題ないな」

「ほら、ネイト。俺負けちゃったからさあ……脱げよ」

「ちょっ、総長!?」

「勝負はショーブだからしょーがねえだろ?」

「まさか総長この為に私を選びましたのね!」

「はっはっは。そんなわけねーだろ? ネイトの裸見て誰が楽しいん――」

 言葉を最後まで放つ前に銀鎖が跳ね、教室の壁に人型の穴ができた。

「やれやれ。結局いつも通りで御座るか」

 溜息混じりの点蔵の肩にメアリの手が乗った。

「私、信じておりましたわ」

「メアリ殿……」

 見つめ合う二人に、穴から顔を出したトーリは言った。

「テンゾー、いいカンジなとこアレだけど、死ぬなよ?」

「は?」

 トーリの言葉をシロジロが引き継いだ。

「九蓮宝燈をあがった者は死ぬ、という迷信がある。今後はせいぜい気をつけることだ」

 そうだそうだ、と周囲の生徒が嫉妬混じりに頷いた。

「……味方に殺されそうな気がするで御座るなあ」

 だがひとまず、今は肩に触れる体温を感じていたい点蔵であった。

 一方でネイトが「脱ーげ! 脱ーげ!」と言われているが、それはまた別の話だ。

 

(了)

 

 

《蛇足》

先日の投票結果を反映して、とりあえず二次創作。

 ぶっちゃけ立花夫妻があまり喋ってないのと、オゲちゃんが全く喋ってないのは申し訳ございませんですー。話のタイトルとアウトラインは前から考えていたんですけどもなんかアレな仕上がりになってしまいました。

 麻雀知らない人はテキトーに読んでください。

 麻雀詳しい人もテキトーに読んでください。

 あまり細かいツッコミはやめてくださいということでひとつ。