扉
昔々のある所に、一枚の扉がありました。
白い砂の海のど真ん中。
青く包む大空の下に、鍵穴すら無いノブのついた木の板が一枚。
扉の横には壁もなく、屋根も床もなければ蝶番すらありません。
裏に回ればどちらが表だか、裏とは左右逆の位置にノブがつくばかり。
扉はポツンと独り立ったまま、地平線に囲まれています。
数年が経ち、近くに小さな村が一つ出来、何に何人かの旅人も扉のそばを通るようになりました。
数十年が立ち、扉は砂漠の観光名所となりました。
支えもなく、どんな強風が吹こうと傾くことなく、どれだけ日差しが照りつけようと色あせることなく立ち続ける扉は、見る物を不思議な気持ちにさせました。
数百年が立ち、偉い幾つもの名声を持つ学者が現れ、こう言いました。
新発見だ。
何人もの学者達が駆けつけ、大がかりな調査が始まりました。
しかし、最新の機械を使って解った事は、それが扉だと言う事だけでした。
それでも偉大な発見をした学者の名は、更に名声を深めました。
そして数千年が立ち学者の扉発見ブームも廃れ、観光客も誰も来なくなりました。
まるで、学者も観光客もどこにも居なくなったようにある日を境にピタリと。
近くの村から少年がバケツを持って現れ、ノブを回して扉を開けると中に入ります。
緑覆い茂る森の中、よく磨かれた水晶が溜まって出来たような湖から水を汲むと、また扉を閉めて村に戻ります。
先祖代々、村が出来た時から水汲みは村の少年の仕事です。
今日も、扉は扉のままです。