第弐の始まり

 「だめだだめだだめだ」
 「”だ”が6回に、”め”が3回」
 「そうね」
 「あ……」
 堅固にそびえ立つホーロウ城の城門を背に立つ門番の制止に、イゼルが率直な意見を呟きサティアが同意する。
 門番は一瞬首を捻るが、何か解らなかったらしく。
 とにかくもう一度、一喝する。
 「ダメだ。紹介も無く、身元の分からない奴を城に入れられるか」
 「入りたいんじゃなくて、雇って欲しいんです」
 「それがダメなんだ」
 その斜め後方二歩の辺りでサティアが軽く腰に手を当てて、ため息をつく。
 一体何を考えているのやら。そこまで常識無しとは思えないのだが、イゼルは城の門番にいきなり城で雇って欲しいともちかけ、そのままかなりの間問答している。
 自分がため息を付いた回数は6+3を越えるだろう。
 門番の衛兵自体が比較的良い人のようだから無事で済んでいるが、ゴロツキと変わらないような手合いなら、とうに斬り殺されても文句は言えまい。
 イゼルの方は全く懲りないらしく、まるで他の表情が出来ない人形のようにニッコリ笑ったまま、同じ事を続けてる。
 もっとも、傍らため息なんぞついているサティアが止めようともせずに居るのも、これで本当に雇われたら面白いなとか内心思っているせいなのだが……。
 「幽霊、退治してみせますから」
 と、今までもたまに思い出したように唐突に色々言葉が出ていたのだが、それらに何の関心も示さなかった門番がハッとしたように青ざめて後ずさる。
 どうやらかなり聞き流していたらしい。
 それでも普通人間の脳は重要なことは選択して聞き取るのだが、この門番の大脳はあまり活性していないのだろうか。
 もう少し大きく下がれば、閉ざされた城門の大きな飾りに後頭部をぶつけていただろう。
 いや、何にせよ門番。大脳の活動状態が低くても既に学習しており、反射的にそこまで下がるのを止めたのかも知れない。
 「な……、何故それを…………」
 「海で船乗りの人から聞いたんです」
 「あ……いや、その……その件は片づいたんだ」
 何か焦りとホッとしたような表情が入り交じる。
 「おい!」
 と、頭上から鋭く別の声がかかる。
 ホーロウ城の城壁は堀こそないものの、大の男の三倍以上の高さがある。その高さから、別の門番が半分身を乗り出して見つめている。
 門番というより見張りであろうか、一人とは不用心と思ったが、この二人でペアなのだろう。
 下の門番に比べると、声に柔らかみが無く、高さのせいで表情も読みとれない。
 下がった方がいいかな……
 サティアがそう思った途端、イゼルと目があう。
 「戻りましょうか」
 「ええ……」
 同じくそう思っていたのか、イゼルはサティアの返事を聞くと我先に歩み去る。
 だが、予想通り。
 海の波間に浮かびながらでは起伏で見えなかった街と城をつなぐ長い一本道、
 ピタ……
 街が視界を覆い切る一つ手前、門番が見えなくなった辺りでイゼルが不意に止まる。
 疲れた……と言う訳ではない。
 サティアが追いつき、その横で同じようにピタリと止まる。
 遅れがちなサティアを、待ったわけでもない。
 「どうする気なの?」
 止まらなかった風だけがそのまま吹き抜け、長い黒髪がふわふわと揺れる。
 全く悩みもないように澄んだ影色の瞳が、見上げるようにサティアに振り返った…



 「簡単ね」
 「そうですね」
 闇夜。
 月は出ていたようだが、今は雲に隠れている。
 城壁によじ登り、城内を見渡すサティアにイゼルが相槌を打つ。
 高いと言ってもただ高いだけ。
 見張りも正面の門だけで、側面は皆無と言っていい。
 見張り台だけが闇の中寂しく佇んでいる。
 塀を登るのは人間には至難でも、人外の海魔にとってはロープもなしに造作もない事だった。
 この辺りでも魔物の一匹や二匹は出るのだが、わざわざ城に侵入してくる事もなく、そう言った考えは最初から無いらしい。
 二人とも黒づくめだ。だが、いわゆる泥棒ルックでは無い。
 忍び込んでおいてなんだが、泥棒ルックでは泥棒と間違われかねない。
 見つかりにくいよう黒づくめにはするが、おしゃれにもこだわろうというのが二人の同意見だった。
 あの後街へ戻った最大理由はその為だ。
 最初はどうやって忍び込むかの話しだったが、最後は……というより、どんなカッコで決めるかが話題の全てだった。
 だいたい動きにくいことにイゼルはマントを羽織、サティアは黒いと言うだけでドレス姿だ。
 派手な喪服と表した方が的確かも知れない。
 「サティアさん、ますます美人ですね」
 「あんたも、なかなか似合ってカッコイイわよ」
 昼間暑かったせいか、手のひらから伝わる石のざらりとひんやりした感覚がちょっとだけ気もちいい。
 サティアの記憶が正しければ、ここ数百年争乱の噂はあってもこの国が巻き込まれた事はない。
 やはり、平和ボケ……と言うヤツであろうか。
 下を見下ろす、なかなか低木の多い茂った良い庭だ。
 散歩をするにも、隠れん坊するにも良いだろう。
 つまり、侵入しやすい。
 今度もあっさり降りると、低木の一つに身を隠して辺りを見回す。
 見張りも見あたらない。この分なら本城に入るのも容易いだろう。
 まぁ…、その後どうする気か知らないが。
 その気になれば、女の子一人抱えて逃げるのなど造作もない。
 その後暮らしにくくなるかもしれないが、いまでも別に楽しい暮らしはしていない。
 と、サティアの視界の端に、妙なモノがひっかかる。
 向こう城壁を奇妙な固まり……いや、フードとマントに身を包んだ人間がロープを伝って次々と降りて来る。
 「泥棒……」
 イゼルも気付いたらしく、惚けたように呟く。
 確かに、こんないい加減な警備、街に長年住む者が気付かない訳がない。
 それなら、適当な商家に入るより、この城の方がずっと楽な仕事だろう。
 それに、数人の人間が生活を潤す程度の財宝なら、案外気付かれないかもしれない。
 「知らせてあげないと……」
 そうね…。サティアが心の中で同意した瞬間、イゼルは突然ザッと茂みから飛び出し…
 「皆さーん。泥棒ですよーっっ!」
 割れんばかりの大声で叫ぶ。
 「ちょっ…と……、何に考えてるのよ」
 さすがに顔面を引きつらせ、サティアが立ち上がって何とか声量だけは押さえて抗議する。
 「泥棒泥棒って、もし遊び人の兵士が集団で遊郭に夜遊びに出かけて戻ってきた所だったらどうするのよ?」
 「夜遊びにしては戻りが早すぎませんか?」
 「じゃ、城内マラソン大会に向けて秘密の特訓をしている人たちだったら。当日勝って周りを驚かそうというささやかな野望をつぶす気なの?」
 瞳を見据えて、ふと思う。
 目の前のイゼルはこちらにまっすぐ見つめているが、その口は動いていない。
 それに、声は正面から響いてはいない。
 声の響きもかなり違うような気がする……
 「いつから見てたの?」
 「城壁の上で話されていた辺りからです」
 シュッ……
 声から位置を確認。振り返りざま右手を振り回し、瞬時に十数センチ伸びた太い爪が虚空を薙ぐ。
 居ない……?
 幻聴だったのろうか?
 「…………」
 少し安堵のため息……。
 いや、居ない筈がない。
 「……そんなに心配しなくても大丈夫です」
 声は更に続く。
 さっきまでは後ろ、今は確かに正面だ。
 だが見えない。
 「?」
 と、顔のすぐ横を何か小さい物がひょいと通り、後ろのイゼルがパシと受け取る。
 やや大きめの、石のようだ。
 そして、イゼルはまるで準備していたかのように、そのまま石を投げつける。
 迫り来る、火球に向かって……
 ゴウンッ!
 投擲された石とマントの一団が放った火球が空中でブツかり、即席の花火が庭園を照らす。
 「おしっ」
 技量的に難しい事ではないが、外せば避ける暇無く喰らってしまう。
 大した胆力である。
 サティアを振り返って満面の笑みでVサインなどする。
 「………」
 単に解ってないだけのような気もするが………
 どうやら、マントの一団はイゼルに気付くと、すぐに敵と判断し攻撃してきたようである。
 「……っ」
 状況の変化に戸惑いつつも、サティアが舌打ちする。こんな城の中庭で攻撃してきたとなるとただの泥棒などの訳がない。
 予想よりも最悪。
 服装から昼間の奴らと同じかもしれないが、今度はやる気満々だ。
 既に全員城内に降りており、更に火球か撃墜された事にも驚かず散開して迫ってくる。
 戦い慣れしているだけでなく、連携も心得てる。
 昼間の逃げっぷりからしてそうだったが間違いなく、プロの一団だ。
 だが……
 「エベラントさん、ゴルダーさん。ヨークさん」
 またサティアの後ろから、風よりもよく響きわたる声が駆け抜け……
 ギンッ
 ガッ……
 ガギン!
 剣撃が闇に木霊する。
 呼び声に合わせて茂みから飛び出した兵士が、マントの一団に斬りかかったのだ。
 だが、不意をついた攻撃もマントの男達は太めの短剣で受け止め、傷一つない。
 続き、ガシャガシャ……と鎧の金具が小さくも大きな音を響かせる。
 一体何人隠れていたのか、茂みから次々と兵士が現れそれぞれマントの男を取り囲む。
 数では圧倒的に兵士が有利だ。
 だが、マントの男達の動きには、とまどいの色はない。
 キィィーン……
 その音はどこで発生したのか……
 場が展開しすぎでサティアにはその剣撃がどこでしたものか解らなかったが、それを合図に一斉に剣撃音が唸りを上げる。
 しかし、……かわされている。
 打ち合う者もいるが、誰一人としてマントの男の体を刃で捕らえない。
 味方同士で邪魔しあうような素人はいない。
 マントの男達の技量が完全に勝っているのだ。
 「ゼスメルさん、アディさん、左。バーマンさん、ゲムさん、ミーリアさん、右の援護。ザサムさん、シリルさん……」
 と、次々と指示がまたあの声で響き、どうやら名前を呼ばれたらしい兵士が即座に反応する。
 高くよく、不思議なくらい澄んだ声だ。
 低音の方が遠くまで響くが、雑音の中では高音の方が聞き取りやすい。
 あの戦闘の中に居たら解らないだろうが、離れて見ているとよく解る。
 数でも技量でも敵わないなら、地の利。
 相手を更に分断し、より不利な地形に追い込もうというのだ。
 ただの庭といえ地の利は普段から住まう兵士のお手の物。
 ジリジリと戦場が移動を始め、それにつれて明らかにマントの男達が防戦に回らされる。
 と、ジレたようにマントの一人が仲間を踏み台にして囲みを飛び越え、こちらへと走ってくる。
 いまだどこに居るのか解らないが、おそらく狙いは声の主。
 指揮官さえ倒してしまえば形勢は逆転できる。
 だが……
 サティアがさっと前に踏み出す。
 その前にはイゼル。そんな邪魔くさい所に立っていたら、確実に殺られる。
 それに先ほどからの声は女の物、方向的にも合う、指揮官と間違われたら目も当てられない。
 事実……、マントの男はイゼルの前で大きく振りかぶり……
 ザンッ!
 「……!」
 間に合わない。
 イゼルの一つ分ぐらい手前で大きく振り下ろす。
 当然、間合いの短い短剣などイゼルには剣の先も届かない。
 「……………な…何なの?」
 サティアは困惑するが、確かに何か剣に切り裂かれるような音はしていた。
 距離的に届くはずは無いのだが……。
 それに、イゼルは何か困ったようにこちらを振り返って何か自分より少し下の辺りを指さしている。
 斬られた、という雰囲気ではない。
 マントの男は、躊躇無くもう一度振りかぶり剣撃を撃ち放つ。
 もしかして……
 サティアがそう思った刹那、薄く月を包んでいた雲が晴れ、闇に慣れた目には輝かんばかりに眩しい月がこれみよがしに顔を出す。
 ひょい……べしっ!
 「いたいっ」
 イゼルに近寄ると、襟首をつかんで後ろに引き倒しつつ前を覗き見る。
 ちょっと間の抜けた、抗議の叫びは気にしない。
 切り裂かれたフードが舞い散り、蒼くも薄く銀色に輝く長い髪が闇と風の狭間に揺れる。
 ただ……、背は描写の美観を損ねかねないくらい小さい。
 子供くらい……っーより子供だろう。
 どうやら、フードを切り裂かれるだけでマントの男の剣撃を二度かわした少女は、戦闘中だと言うのにスッとこちらを振り返る。
 目が合った瞬間、そっと優しく微笑む。
 大きな瞳に似合わぬ大人びた微笑みだが、月の光のおかげか妙に絵になる。
 続き……
 ガキ…ンッ!
 マントの男のショートソードが、横から突き出された槍を辛うじて跳ね上げる。
 更に追いついた別の兵士が逆から斬りかかり、跳躍だけでなんとかかわす。
 聞こえた訳ではないが、何となくフードの奥で舌打ちしたのが解る。
 もう、逃げ場はない……
 ……!
 閃光。
 魔術か火薬か……、それは解らないが男の手元から突然閃光が溢れ回りの兵士が一瞬止まる。
 それで十分だった。
 それを合図に、あちらこちらで閃光や爆音がさざめき……、それらが消えた時には……、マントの男達の姿は無い。
 すっ……
 だが、サティアの人間と違う目は誤魔化せない。マントの男達が越えていった城壁に向き直るとサッと……
 「追い掛けないでください」
 ……追い掛けない。
 理由は三つ。
 一つは今は二本足、もう少しで勢い込んで転ぶところだった。
 二つ目は、落ち着いて考えれば追う理由が無い。この城の兵士ではない、追い掛けてやる恩義はない。
 三つ目、その声。さきほどから聞こえていた声が、本当にこの少女の物か確かめたかったのだ。
 追いかける振りしてこの場を逃げるなどいう事は最初から考えない。勝つのは無理でも、この場の兵士全員の注目の中、いつでも突破できる自信はある。
 そして、確かにこの少女の声らしかった。
 「なるほど……」
 サティアが軽く明後日の方を見る。
 何のことはない。先ほどから居場所が分からなかったのは単に相手が自分の視線より低かったからだ。
 てっきり同じくらいの背の高さと思って遠くばかり見ていたら、薄闇の中視界の下をちょろちょろと動き回っていたのだ。
 「フィゼアさん、こいつら……」
 槍を持った兵士が、イゼルの顔を見て少女に呟く。
 「………………」
 しかし、フィゼアと呼ばれた少女は何かぼ〜……っとしたまま動かない。
 「あ……、はい」
 そして、夢から覚めたかのように兵士に振り向く。
 「ごめんなさい。この方々の名前は何て言うんだろうと考えてましたから……。私の名前だと気付きませんでした」
 慌てて謝る。
 天然ね……
 サティアが、腕組みしたまま頷く代わりに軽く二の腕を指先で小突く。
 「そうですよね。名前って難しいですよね」
 お尻を押さえつつ立ち上がったイゼルが何か、嬉しそうに援護する。
 この娘もだし……
 サティアがもう一度、二の腕を軽く小突く。
 「レイセルさん。それで、ご用件は?」
 「コイツら、昼間幽霊退治に来たヤツです」
 良く見れば、確かに昼間合った門番だ。
 何か声の響きにムッとしたサティアが一瞥くれるが、あまり気にした風もなく続け……
 「親切な方ですね」
 「……」
 ……る間も無く、フィゼアがそう応える。
 「いえ、あの……」
 「怪しい人じゃありませんから、大丈夫です」
 何故そこまで断言する?
 場所が場所じゃなければ裏手突っ込みの一つくらい入れたいぞ。
 そう思いつつも、イゼルの行動をジッと目で止める。
 自分の握った右手を見つめていた。
 止めなかったらやっただろう。
 「私も昼間に合いましたから。少なくともあの人達の仲間ではありません」
 「ああ、そうなんです」
 少々不満げな門番にそう続け、その言葉で何か思いだし、気付いたイゼルが同意する。
 サティアも思い出した。
 やはり、さっきの一団は港を駆け抜けていったマント達。
 そして、目の前のフィゼアはその後……それを追っていた小さなマント姿だ。
 すると……あの袋の中身は………。
 あの時のイゼルの言葉は正確ではないが間違いなかったようだ。
 けっこうやっかいな状況だな………。サティアが少し眉をひそめる。
 「それでは夜ももう遅いですし、せっかく来ていただいたのですから。今日は泊まっていってもらいましょう」
 そう言いつつマントを取り、パタパタと手で服を叩いて身だしなみを確認する。
 どうやら、さっきの斬撃で服が破けてないか気にしたらしいが、どうやら無事らしい。
 ホッとしたように微笑み、こちらへ向き直る。
 「フィゼアと申します。ホーロウ城へようこそ」
 「サティアよ。こっちはイゼル」
 「よろしくお願いします」
 にこやかに挨拶を返すが、サティアの視線はフィゼアの服に止まったまま動かない。
 「変わった服ですね」
 変わった服という訳ではないが、イゼルがニコニコと口を開く。
 俗に言う、侍女服というやつである。
 イゼルはどうやら見たことが無いらしい。
 すると意味も知らないのだろう。
 やっかいだな……
 兵士に命令している所から、こう見えても将校orお偉い貴族の娘さんかと思ったのだが……
 後半か……
 この手のお城の侍女と言えば、お偉い貴族の娘や金がありすぎて困るような大商家の娘が行儀見習いの一環として行っている。
 上級騎士や下級貴族がうっかり暴言を漏らすと、その日の内に爵位を剥奪されて打ち首くらい成っても不思議ではない。
 時代劇などを見ていると、若い侍が奥女中に一目惚れして家老に相談したらあれはどこそこ家の姫君云々で、結局その女中の目の前で一応カッコつした後やはり身分違いで涙をのむという話が年に二、三回くらいあると思うが、あれを思い浮かべてくれれば解りやすいと思う(見てない人の方が多いから解らないかもなぁ感覚的には……。み
 直接本人では無い分、ヘタな対応がとりにくい。
 サティアの頬に汗が伝う。
 「似合いませんか?」
 その困惑する視線に気付いたのか、フィゼアが問う。
 「昼間ボロボロにしてしまったので、合うサイズのが無かったんです」
 そう言いつつ、折り曲げた袖を何とか左右そろえようとする。
 なるほど、言われてみて気付いたが、フィゼアは明らかにサイズの大きすぎるブカブカの大人ようの服を着ており、袖やら何やらを無理矢理折り曲げ巻き込みつり上げ来ている。
 明るいとはいえ月明かり、最初そういうデザインなのかと思ってしまった。
 「時間があれば仕立て直すんですけど……」
 至って普通の反応。
 少し息を吐く。
 何かあったら逃げればいいのだ、何を緊張している。
 演技でなければ当人自体の性格は悪くなさそうでもあるし……
 「レイセルさん。アディさん。念のため多めに警備を残し、皆さんも解散するよう伝えてください」
 言われた兵士が、サッと伝令に走る。
 「……」
 伝令は端から見てるとつまらないほど速やかに伝わり、兵士達は解散していく。
 「それでは、食事とお部屋を用意しますからついて来てください」
 イゼルがチラリとサティアの表情を覗き見る。
 表情は明るく、行きましょうと素直に誘ってるようだ。
 そして、反応もまたずににこにこと無警戒に後を追う。
 「……」
 サティアは状況が理解出来つつも、感覚的に納得できないまま、とりあえず従うことにした。