あの続編がついに登場。
その名も『変態SFの逆襲』。
愚文ですがお読みください。
(管理人こと橋本和幸)


『変態SFの逆襲』1回目・空から降る一億のデブ

 おれは知人から言わせると『変態SF』の大家であってほかの何者でもないという。むかつく物言いだが、彼が言うことはいちいちもっともなことだし、おれは反論することさえできない。
 例えばここのホームページでやっていたドラマサイト。一向に読まれる気配はなかったし、ついに閉鎖に追い込まれた。自作小説の『天使のラッパ』も感想などついぞ聞かれたことがない。それに対して『変態SF』は、2002年8月10日時点でヤフーの検索総数は実に1万2000件超、おれはそこのトップに君臨しているのだ。おれはいままで生まれてこの方、仕事もプライベートも学力もスポーツも含めて1000件以上の膨大なリストのなか、1位になったことなどないのに、この圧倒的な力強さは誰がみても異常すぎる。
 これはある意味、ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』がなければ単なるへぼ監督でしかないことと通じるものがあるのではないか。例えば彼の監督作品『アメリカン・グラフティー』、何人が観たことあるだろう。まったくおれの『変態SF』と同じことではないか。
 ……えっ、全然ちがう。そうかも知れない。確かにおれより、ルーカスの方が数倍すごい。あごひげだってダンディーでかっこいい。おまけに英語だってぺらぺらとしゃべる。しかし、おれだって無精ひげで他人から嫌がられ、デブった体で存在感を誇示する。おまけに正しくない日本語をしゃべり周囲を驚かしているのだ。少しぐらいは似ているだろう。いや、ほんのちょっと。観方を180度変えたら。いや、だからルーカス邸の3件隣りに住む禿げ親父ほどには。
 とにかくだ、ルーカスにあやかっておれは『変態SF』の大家として、自ら『変態SFの進行』の続編『変態SFの逆襲』を書くことを決めた。多分、第3弾も書くつもりだし、そのときのタイトル名は『HENTAIの復習』(復讐ではない。復習だ)になるだろう。そして4弾目は『変態SFの進行』以前の歴史を描く『エピソード1』に移ることとなる。そうしておれはヤフーの検索件数を意地でも増やしてやる。『モーニング娘。』のページ検索総数24万6000件ぐらいには増やしてやる。貯金も増やしてやる。抜け毛が目立ち始めた髪も増やしてやる。体重も自然と増やしてやる。いや、体重はすでに増えすぎだ。
 そういう理由で、今回から数回に分けて不定期で『変態SFの逆襲』を書いていく。前の文で「理由」と書いてあるがこれはもちろん、「わけ」と読むべきで宮部みゆきみたいに『理由(りゆう)』と読んでいい理由でも、『模倣犯』と読んでいい理由でもない。また、前の文にも2度ほど「理由」と使ってしまったが、とにかく、おれの文章ででてくる「理由」は「りゆう」ではなく「わけ」と読むべきなのだ。
 まー、そんなことはどうでもいい、ドはドウナツのドでもいい。レはレモンのレでも、ミはみんなのミでもいい。だけどファはファイトのファは強引すぎじゃないか。おれはだから『ドレミの歌』は嫌いだし、アニメの『おじゃ魔女ドレミ』も1回も観たことがないのだ。いいや、そんな話をするためにおれは書いている理由じゃないんだ。ちなみに前の分に書いてある「理由」は「わけ」と読むべきで宮部みゆきみたいに……はぁー、疲れた。
          ※
 とにかく本題に入ろう。おれは前作『変態SFの進行』で変態SFというジャンルは他のジャンルに浸透と拡散が進み、崩壊していったと書いた。だけど、その後、多くのひとから、『変態SF』としか言えない作品が多数存在することを指摘された。それらの作品を丹念に読むと確かに間違いなく、それらは『変態SF』としか言えないものだった。そう『変態SF』は生きていたのだ。それも勢力を増して、1億のデブがそれこそ降ってわいてくるように。
『変態SF』が逆襲するため文学界に送った第1の刺客、それはまさに太っていたのだ。おれも確かに太っているし、オフ会に対抗してデブ会を開催しようと何度も思った。しかし、こいつの太り具合はただものではない。小松左京全盛時なんか目じゃない。そして、ここで言う太っているとはけっして作者が太っているわけではないのだ。作品が太っているのだ。
 新書版で実に510へ゜―ジ、明らかにへ゜ージが太っている。さらに、冒頭が「地響きがする――と思って戴きたい。」で始まるほど、太っている。しかもタイトルが『どすこい(安)』(集英社ノベルズ版・ハードカバー版は『どすこい(仮)』)で、力士が、デブが活躍するほど太っている。ここに所載されている7作品ともに力士、デブの物語であるほど太っている。
 それにしても、ここに所載の7作品、本を読むとデブになって死ぬ「土俵(リング)・でぶせん」、力士の形をした茸を食べ太ったため外に出られなくなった悲劇を書いた「すべてがデブになる」など、明らかに日本総1億デブ化を目論んだ小説としか思えない。おれも「ハ゜ラサイト・デブ」を読んだときには、もともと会社内でハ゜ラサイトなデブと呼ばれる存在なだけにずしりと応え、1週間後にはおれの体内にあるミトコンドリアがさらに太った。体重も5キロは太った。自分の身体が知らず知らずのうちに変態してしまう怖いSF小説なのだ。
 これを書いた京極夏彦も多分、『変態SF』の電波にやられたのだろう。大体、彼はもともとSF作家でなく、新本格推理の大家として知られているひとなのだ。それが、知らず知らずのうちに『変態SF』の勢力拡大に手を貸してしまう。『変態SF』恐るべしだ。
 それにしても、ここに置いてある力士形の茸、うまいよな。へっへっへ、むしゃむしゃむしゃ。(筆者、食いすぎでさらに変態化が進む)




『変態SFの逆襲』2回目・劣勢変態DNA

 SFはミステリーには勝つことができない。それがこの変態世界での大方の観方だ。
「DNAの違いだよ」
 そう知人のひとりはつぶやく。変態SFのDNAは、変態ミステリーに比べ劣性だというのだ。横溝正史の近親相姦じみた世界、さらに江戸川乱歩の変態チックな強固な世界と比べ、なんて変態SFは弱いのだろう。ショートショートの大家・星新一も最初はミステリーの変形としてしかみられていなかったではないか。所詮、変態SFなぞ変態ミステリーのできそこないとして出来上がったものでしかないのだ。
 たとえ、知人の言うとおりだとしても私は優性のDNAをもつ変態ミステリーなんて負けたくない。頭がヨコジュンのハチャハチャ小説のように出鱈目であっても、足が星新一のショートショートのように短くても、アソコがアンドロイドのように不能であっても、変態ミステリーなんて負けたくない。だいたい短期間だったとしても変態SFが輝いていた時期もあったんだ。ミステリーが優等生づらする、DNAで決められる世界なんて真っ平ごめんだ。
 そう思って私は日夜、変態SF啓蒙のため、がんばった。このまま、『ガンダム』のように地球から脱出し、引力の影響を受けない宇宙に飛び出て、変態ミステリーの跋扈する日本につばをはきかけたい。そんな気持だった。
 そんなとき、登場したのが佐藤友哉だった。昨年、『フリッパー式』(講談社ノベルズ)でメフィスト賞を受賞した彼は、謎解きなんだか、こじつけなんだかわからない変態なノリで物語を破綻させ、変態ミステリーの優位性を決定づけた。変態SFは彼の才能に負けたのだ。というより、私はただただあきれ、ついていけなかった。ほかならぬ彼の所属しているミステリーでさえ、ついていけなかったぐらいなのだから、私みたいな最下級層になんてついていけるはずがない。とにかく変態ミステリー帝国、恐るべしだ。敗北感にくずれた私は、お盆休みに実家の北海道へ帰った。
 傷心の私(けっして骨休みではない)は私を許し、喜ばせてくれるSFを探すしかなかった。そこで出会ったのが『デジャ・ビュ』(幻冬舎文庫)だ。ここに登場するのも私と同じでDNAが劣性だらけでできた女の子。努力しても優性の人間が支配する社会ではどうすることもできないでいる。夢だった宇宙飛行士にもなれない。絶望が訪れる。だが、優性であるはずの人間たちもけっして明るい人生を送っているわけではない。容姿・資本すべてを得た彼らは夢をなくし、何をすればいいのかがわからない。夢をもつ彼女に皆、嫉妬し、あこがれている。優性で何ひとつ不自由ないはずの登場人物の男は、メチャクチャなコードでできあがった彼女のDNAの一部をわざと体内に入れることで救いを求める。ほんとうの意味で『デジャ・ビュ』は何もかも救いようのない世界だ。
 そして物語のスパイスとして入れられるのは、作者・桜井亜美お得意の援助交際、レイプといった女子高生の負の部分。彼女の作品が変態SFといわれる所以だ。しかし、変態な描写も彼女にかかるとどこかさびしく荒廃したイメージしか読者に与えることはできない。変態でありながらも悲しい物語、それが『デジャ・ビュ』で受けた私の印象だった。
 優性の変態ミステリーも苦悩を得ているはずだ。とにかく、劣性だからってあきらめちゃいけないんだ。『デジャ・ビュ』を読んだ私は再度、努力をしはじめた。80年代に流行り、そして沈んだはずの変態SFの英雄格であった伝奇SFも『陰陽師』のブームで再燃の可能性もなくはない。
「それは無理だよ」
 そんなとき、私のこころの中に誰かの声が聞こえはじめる。
「伝奇SFブームが再燃なんて無理な話だ」
「何でなのよ」
「伝奇SFはSFの英雄ではない。むしろ悪なのだ」
「なぜ?」
 私はそうこころの中の声に問いかける。
「わかるだろうに」
 ビジョンがきた。
『ミステリ・オペラ』? なぜ、『神狩り』(伝奇SFに入れるかはひとにもよるが……)の山田正紀がミステリーなの。『神狩り2』早く出して(今秋に出るけど)。
<私立探偵飛鳥井シリーズ>? なぜ、『ヴァンパイヤー戦争』の笠井潔がミステリーなの。「SF評論」がんばって。
「どうだ、気づいたか。いまのミステリーの隆盛は伝奇SFの書き手たちの裏切りによって始まっているのだ」
「あなたは一体?」
「私こそ、SFの元英雄であり、いまはミステリーの手先。変態界のダース・ベイダ―、伝奇SFそのものだ」
 伝奇SFがアナキン・スカイウォーカーなの? たしかに感情的で、登場人物たちが、ときどき我を忘れて暴力をふるうところはそっくりだけど……。そうすると小松左京が飫肥(オビ)・ワンか、納得。クイーン・あー淫らは新井素子か大原まり子っていうところなんだろうな。C-3POは顔的に神林長平だろう。ヨーダはやっぱり、いつもは紳士なのに、SF仲間が集まるとフォースをみせまくる星新一。そうしたら、うるさいだけのジャージャーは、ジャージャーはピー(以下伏字)、バタン。私の意識がなくなる。




『変態SFの逆襲』3回目・絡みたいナイト


          1

 私には気兼ねなく付き合える友人がほとんどいない。口数も少なく、話題も貧弱。周囲の人間たちは私について「このひとに人生の楽しみなど存在しているのか」と思っている。だけど、こんな私にも「人生の楽しみ」は存在しているのだ。細々とやっているこのホームページの更新は楽しみの筆頭だ。
 ネット上にいる私は現実にいる私と違って陽気で明るく、うまく立ち回ることができる。更新をするとその分だけなんらかのリアクションがあり、私のわずかなコミュニケーションの場となっているのだ。また、自作小説としてアップしている『天使のラッパ』は確かに稚拙ではあるけれど、まったくのド素人が書いたはじめての小説にしては割といいものだと自負している。このままずっと書きつづけていけば、小説家は無理にしても漫画の原作者ぐらいならなれるかも、なんて期待をときめかせ、毎週のように更新を続けていた。
「今日もホームページの更新をしようかな」
 そう思い、ノート型のコンピュータを立ち上げるとそこにはメールが1通、届いていた。伊橋さんからだ。伊橋さんは私と同じ専門学校出身の女性。私の数少ない友人のひとりだ。『天使のラッパ』にはひそかに彼女を登場させているが、彼女には言っていない。多分、彼女が知ってしまえば名誉毀損で訴えられてしまうからだ。
「はしもとさーん、この間、言っていたCD早くかせよbyイワシ」
 いつものことだ。彼女は強引かつ暴力的な言葉で次々と私のものを奪っているのだから。私はホームページの更新をあきらめ、伊橋さんへのレスを最優先させた。そしてこのことがあとで大事件を招く結果となったのだ。

          2

 数日後、ネットあらしによって私のホームページはひどい状況になっていた。
「1.名無しはたいてい一番冷酷
あんな文章でほんとに漫画の原作者にでもなるつもりなんだろうか。ほんっとおまえには変態SF評論家がお似合いだよ」
「2.漫画日本昔話の竜騎士命
まったくどっかの小説や漫画からすべてパクってつくって、それでオリジナルなんていうところがすごく幼稚」
「3.ねんねんころりよ
いやー、みなさん読んでますね。私なんかほんの数行で寝ましたよ」
「4.臀部の喇叭
ラッパは普通、漢字=喇叭でしょ。終わりのときを告げるリヴァイアサンは聖書中の記述ではラッパではなく喇叭を鳴らしたわけだし。こいつ勉強してないよな」
「5.名無しはたいてい一番冷酷
↑もしかして電波系。そもそも聖書っていうけど、訳本によってラッパとするのもあれば、喇叭とするのもあるの知ってた? 大塚英志の『リヴァイアサン』しか読んでないのわかるよ」
「6.名無しはたいてい一番冷酷
4↑ バァーカ」
「7.幼児期の終わり
みなさん、文章理解してますね〜。ぼく、この人の文章ひどすぎてさっぱり理解できなかった」
「8.名無しはたいてい一番冷酷
だけど本名、明かすところがすごいよね。生きていけないよ、この人」
etc、etc。
 ひどい、こんなのひどいよ。全部、そのとおりじゃない。文章確かににおかしいし、内容はすべてパクってバッカだし、数行読んで眠くなるよ。だけど名無しだっていつもレス多い暇人だし、こういったものに入る投稿者の一人は確実にそいつのファンなわけだし、おまえの方が人生危ぶまれるっていうやつも多いじゃん。批判されているやつの方が少なくともおまえよりはマシなわけだし……(後略)。とにかくやめてやる『天使のラッパ』の連載なんか。
 こうして、私のホームページから『天使のラッパ』の更新は途絶えた。登場人物の清くんとか、伊橋さんとか、勇気くんなんか人形までつくっていたのに。それも無駄になってしまったのだ。

          3

 失意の私に対して励みとなったのは高瀬彼方の『カラミティナイト』(ハルキ文庫)だった。この小説の主人公・智美は、将来の小説家をめざし頑張る高校生。ファンタジー小説を執筆し、ホームページでそれを公開してそれなりに好評を博している。そんな状況に彼女は上機嫌で酔いしれ、そのファンタジー小説に登場する人物を人形にして部屋に飾っている。そう、まるで私と同じように。そして彼女もあることがきっかけでネットあらしに会い、自分の書いた小説を酷評されてしまう。小説を削除し、人形を投げ捨てる智美。
 しかし、このあらしは彼女を陥れるワナにすぎなかった。さまざまな人間たちの思惑によって彼女は慟哭の心臓をもつ少年・忍を守る第5の騎士「カラミティナイト」としての能力を発動してしまう。彼女の能力は自分の書いた小説に登場する人物のちからを人形に入れ込むこと。その人形をもった人間は小説そのままのちからを使うことができるのだ。
 物語は彼女に恨みをもつ少女や親友たちが彼女の人形を持つことで話は二転三転し、結末まで予想はつかない。
 人形により変態してしまう、まさに変態SFの傑作と呼べる展開に私は酔いしれ、しばし自分の不幸を忘れた。そのとき、頭のなかに声が聞こえた。
「きみもワナにかかったのだ」
「なんだって」
「どれかひとつ『天使のラッパ』の人形をもてばわかる」
「もしかして私もカラミティナイトにでもなるって言うのか?」
「確かめてみろ」
 私は大久保清の人形を手にもってみた。まばゆいばかりの光がみえる。そして私は、そして私は……。
「まったく変わらんだろう」
 ほんとになにひとつ変わっちゃいない。
「それはそうだ。清はおまえの本性だからだ。ただし、おまえは今日から変態SFを守る騎士『絡みたいナイト』として活躍する」
「敵は? カラミティナイトならば敵が存在するはず」
「カラミティナイトではない。絡みたいナイトだ。とにかくこれから来る」
 なんてつまらん駄文だと、みんな思うな。おれ(一人称だけおれに変更)も実は頭を抱えている。そんなとき、無理やり場面展開を図るようにおれは恐ろしいほどのフォースを感じた。フー、ハー、フー、ハー。息が苦しそうで喘息持ちかと思ってしまうこの声、間違いなく……
「はしもとさーん、私許さないわよー」
 えっ、敵ってもしかして伊橋さんか?
「伊橋さん、なんでダース・ベイダ―みたいな声に。そもそも前回からの流れからみるとここでは伝奇SF作家が登場して対決するはず。たとえば夢枕獏とプロレス対決とか、山田正紀と笠井潔でSF談義とか、平井和正の講演『幻魔大戦と私』を聴くとか、していくと思ったのに。そもそも今回は(も)SF評論になってないし」
「だいたい、遡上に上る作品のパロディ小説でありながらも、その作品を解説・評論し、なおかつSFの近況をしゃべるというのに無理があるの。それはともかく、あなたは許さない。フー、ハー、フー、ハー、あなたの家にくるのに走り疲れたわ」
 そしてなぜだか知らないが彼女はいきなりSMの女王と化し、乗馬の鞭でおれの身体を打ち据える。
「いま、変態小説はSFじゃないんだから。田口ランディの『アンテナ』(幻冬舎文庫、他)にはすべてのSFは負けるのよ。だって私、そこに登場するSMの女王にいかれちゃったんだから」
 変態小説といえばミステリーじゃなかったのかよ。びしっ、びしっ。もしかして気持ちいいかも。そんなことはともかくなぜ、伊橋が敵なのか?
「あなた、メールに書いた文章、おぼえている?」
 えっ、なんだっけ。
「伊橋さんはほんとうに『天使のラッハ゜』に登場するキャラクターみたいだって書いていたのよ。『天使のラッハ゜』の意味がわからず、ネットで調べていたらあなたのサイトがみつかったの。読んでとても許せなくなったわ」
「もしかして、あのあらしは」
「ジャニーズに連絡して嵐を動かそうとして失敗したけど、台風一家には連絡がついて動かすことができたわ」
 台風一過の字が違うと思いつつ、おれは受けるべき伊橋の鞭に快楽をおぼえ、ますます変態SFの帝王に近づきつつあった。
(次回へつづく)




『変態SFの逆襲』4回目・へんたいSF

1章へんたいSFの日常

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 これはへんたいSFの物語なのである。
 へんたいSFといってもへんたいの一種ではない。確かにへんたいには似ているが、少なくとも『SMスナイパー』を愛読しているひとではないし、ブルセラショップに通っているひとでもない。もちろん幼児に対し、いたずらして警察沙汰になるようないけないひとでもないのである。
 だけどへんたいSFはへんたいSFであって、へんたいSFとしてしか呼べない存在なのである。通常、へんたいSFは本や映画、アニメ、ゲームなどあちこちに氾濫している。そしてそれらのものに触れるあまり、ひとそのものがへんたいSFとなってしまう場合もある。この物語に登場するへんたいSFもモトはひとでいまは調布市にひっそりと暮らしているヒュ―マノイドタイプだ。
 調布市に住むへんたいSFは1970年、ちちとははという怪獣たちのバトルによって生まれたらしい。どうして、このバトルが起こったのかいまでは知るよしもないが、どうやらちちとははという怪獣はそういうものを行う存在らしい。
 へんたいSFは小学生ぐらいまでふつうの人間のように育ったのだがある本との出会いが彼を変えてしまった。星新一のショートショートである。なにげなく読んだ『ボッコちゃん』(新潮文庫、他)にはまった後、彼はまたたく間に70冊強もの星新一の本を揃えた。SFマインドにやられたのである。それ以降、SFと称される本は何冊も漁った。しかも、それだけにもとどまらず、アニメ観賞にもひたった。
 アニメではまったのは『機動戦士ガンダム』『超時空要塞マクロス』といったロボット物ではなく、『うる星やつら』『さすがの猿飛』『Theかぼちゃワイン』『ガラスの仮面』といった美少女物だった。『魔法の天使クリィミーマミ』もそんなに好きではないといいながらも全話観ていた。あだ名で「クリ―ミィマミ男」とさえいわれたときも一時期あり、さすがにこのときばかりはへんたいSFはちょっと堪えた。せめてロボットアニメぐらいに抑えようと治療のため『聖戦士ダンバイン』を一生懸命観ていたときもあったが、ここで注目してしまうのは妖精の女の子チャム・ファウばかり。声優の川村万梨阿がアニメ雑誌で妖精のコスプレをしたときは2冊も買い、ちょっと興奮していた。
 SF映画に親しみはじめたのもちょうどこのころで『グレムリン』『ゴーストバスターズ』は劇場で観た。角川版『南総里見八犬伝』も劇場で観たが「薬師丸ひろ子のエッチシーン、SFXなんだってよ。そんなところに金かけず、きっちりやれよ」とへんたいSFは友人といっしょに怒鳴りまくった。

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 高校に入るとテレビアニメを観る時間、SF小説を読む時間ともに激減、へんたいSFはSFから遠ざかった。SF映画についても『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ターミネ―ター』『ゴーストバスターズ2』とも劇場で観たが、『ハスラー2』『ベストキッド2』『Wの悲劇』など普通の映画もそれ以上に観ていた。人間に戻りつつあったのだ。ただ、このころは本屋の立ち読みで友達といっしょにエロ本の袋閉じを無断でびりびり破いたり、「おれはリアルな描写が欲しい。リアルでいけば絶対、楕円なはずだ」とほざき、机一杯にリアルな女性の性器を描き、教師に怒鳴られるなど、ほんとうのエロ、へんたいだった。
 大学のころにはほんとうにエッチなこともしたが、プライバシーの問題もあり、あえて省略する。ただし、新宿歌舞伎町のコスプレイメクラでやらしいことはしたことはないのは事実だ。
 その後、へんたいSFは編集の専門学校に進んだ。編集者になりたかったからだ。そこでは単位のかかる課題で、ウケを狙い、友人たちといっしょに宮沢りえの『サンタ・フェ』をはじめ、樋口可南子、本木雅弘などのヘアヌード写真集について論じ、講師からはなぜか絶賛された。「きみたちがまとめたものが一番、インパクトがある」なぜだか知らないが、へんたいSFはうれしかった。

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 SFから遠ざかり、へんたいSFはへんたいSFではなく単なるへんたいになっていたが、社会人になると徐々にまたSFマインドに浸り、へんたいSFとしての本領を発揮しだした。ロボットアニメ嫌いであったのだが『新世紀エヴァンゲリオン』にははまり、通して3回は観た。ただし、ひとつ付け加えるならあくまでこれは綾波レイの声優・林原めぐみがお目当てだったということだ。林原めぐみは声優デビュー作となった『めぞん一刻』から注目。『らんま1/2』(女版らんま)、『チンプイ』(春日エリ)、『平成天才バカボン』(バカボン)などはよく観ていた。『チンプイ』については女友達とファンサークルをつくるという話まででるほど、盛り上がっていたくらいだ。
 SF映画は『ジュラシック・パーク』『スター・ウォーズ新シリーズ』『A.I.』『マトリクス』など主な作品は劇場で観ているが一番はまったのは『平成版ガメラ3』だった。詳しく説明しなくてもわかるだろう。へんたいSFは前田愛のファンだったからだ。対外的には『キューブ』とか、『クローン』がいいとか通好みの意見を述べていたが、それらはすべて嘘だった。

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 そんなへんたいSFが、最近読んだSF小説が北野勇作の『かめくん』(徳間デュアル文庫)だ。ここに登場するかめくんはかめくんと呼ばれているがいわゆるかめではない。みどりがめでもぞうがめでもうみがめでもない。かめに似せてつくったロボットなのである。
 もともとこのかめくん、宇宙戦闘が続く時代につくられた兵器だったのだが、戦闘が小休止しつつあるのかどうか、かめくんのなかには普通の社会で働くものもでてきた。『かめくん』に登場するかめくんもそんな一体で、普通の社会に溶け込もうとする。そして日常社会のなかでかめくんによるへんてこりんな物語が繰り返され、妙な味をもって一気に読み込ませる。
 へんたいSFの一番のお気に入りはエロビデオをかめくんに貸して、銭湯を教える人間のシーン。何度も何度もここを読んでは「日常的でありながらもちょっといやらしい」へんたいSFの妙にいかれている。
 そして読み直す度にへんたいSFの記憶装置ともいえるお腹はみるみる膨れ、異常にデブってくる。これ以上は太れない。そう思いながらもへんたいSFは読み直しの衝動をとどめることはできなかった。

2章へんたいSFの旅立ち

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 平和そうに思えるへんたいSFの生活も実は平和ではない。へんたいSFには敵が多いのだ。最近、隆盛を極めているへんたいミステリーはその筆頭といえるし、純文学のなかにもへんたいSFを敵視するへんたいは氾濫している。
「サイコパスな時代とはいうけれど、なぜ、こんなに精神異常ともいえる異常性愛がもてはやされるようになったのだろう」
 スケベではあるが、セックス観は極めて守旧的なへんたいSFはそういまの社会を憂えている。サイコパスがもてはやされるのは時代そのものがサイコパスとなり、文化が仕方なしに追従せざるを得なくなったからなのだ。
 自分はへんたい化の進んだ社会のなかで逆に取り残されていっているのかも知れない。そう思い、へんたいSFは幾度目かの『かめくん』再読後、自分を高めるため、新たな旅を決意した。

          2

「そうかい、決めたのかい」
 そう口々にみな、同じ言葉をへんたいSFに発する。
「へんたいSFだから仕方がないもんね」
 なぜ、へんたいSFが旅に出るのが仕方がないことなのか? わからないが、どうやらそれがへんたいSFの習性らしい。
「それではみなさんお元気で」
 こうしてへんたいSFの新たなる旅が始まったのだ。
(第4回おしまい。第5回につづく)

※この物語はフィクションです。たとえへんたいSFに当てはまる人物がいたとしても、また書かれている内容の90%は本当なことだとしてもけっして鵜呑みにしないでください。




『変態SFの逆襲』5回目・∞H


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「お目覚めですか、邦彦様」
「ああ、ジャン。今日はこれから漫談の勉強と聞いたが」
「漫談の先生は張りきっていますよ。なにしろ、あなたは並外れたボケができる人だから」
 ジャンの本名は雪ノ丞。SF作家・横田順彌のハチャハチャシリーズに登場する主人公と同じ名のデブ。雪ノ丞でジャンとは苦しいと思うが、荒木飛呂彦の人気コミック『ジョジョの奇妙な冒険』だって、空条丈太郎であだ名がジョジョと苦しい。とにかくいわれているんだから仕方がないのだ。
「それにしても、高道様はどうしたものか。邦彦様の双子の弟なのに、こうも違うとは。由緒正しき、変態SFの家系に生まれたのに、最近はマシナリーの研究などあやしげなものに没頭しているとか」
「高道って誰?」
 邦彦と呼ばれた男の頭に?マークがうずく。男はファッションにうとく、ぼさぼさした頭を掻き上げると腕組みしながら考え込む。
 そんな奴、いたっけ。それに最初の出だしといい、5話のタイトル。なんなんだ、これは。
「邦彦様が弟様を無視するのもわかります。何せ調布市仙川はかの天才探偵にして、変態文学の主人公・金田一耕助の住まい」
「ジャン……」
「お疑いなされますか。金田一は武蔵野市の北、川の流れる緑ヶ丘に住んでいると表記されており、ここの該当は仙川しかありません」
「だから、そうじゃなくてジャン。このタイトル」
「∞Hがなにか」
「俺はもしかすると、∞BL……」
「何をおっしゃります。邦彦様は変態SFの次期、頭首になる人なんですよ」
「だから、ごまかすなよ、ジャン。それに俺の名前は邦彦じゃなくてちゃんとはしもとと」
「邦彦は、狩人のお兄さんの名前(加藤邦彦)ですよ。『あずさ2号』はよかった」
「何の意味もないじゃないか。だいたい狩人は兄弟であっても双子じゃないし。それにジャン、俺は」
「高道様(たぶん、狩人の弟の名前なんだろう)には気をつけなされ。牝犬の子ら、それがあなたと高道様に課せられたものなのだから」
「牝犬の子らって、それは俺らがくそったれ野郎、サノファビッチ(牝犬)ということをいいたいじゃ」
「とにかく気をつけなされ」
 ジャンは太った巨体を顕示しつつ、はしもとから遠ざかっていった。

          2

 それにしても『∞BLUE』のハ゜ロディとはな。はしもとはそう思った。2000年以降の平井作品のなかでは『時空暴走 気まぐれバス』の方が、評価を高く付けているのだが、12月にはちょうど集英社文庫版がでるということもあって無理して作ったのだろう。冒頭はどちらかというと、ショッへ゜ー、から始まりたかったが……。
「はしもと様には教えがいがある」
 そんなことを思っているといつの間にやら舞台が変わっている。グレート義太夫みたいなデブの先生がボケを教えているのだ。
 それにしても何で、こんなやつが俺に。少なくともお前よりは上で当たり前だろう。お前はヨガの格好でもしてジャンフ゜(空中浮揚)しているのがお似合いだ。
 はしもとは内心そう怒りながらも授業をほどよく受けているとジャンが、近づいてくる。
「ほんと彼はあなたのお笑いの才能を買っているんですよ」
「なー、ジャン。ほんと、もう、やめにしないか。『8マン』『サイボーグブルース』、平井和正は確かにサイボーグSFの傑作をつくった。これ以降の日本のSFは、サイボーグといえばこの2つの作品からの影響を受けている。それは認めよう」
「邦彦様、だから」
「いいからジャン、聞け。だがこの2作品に登場するサイボーグは果たしてサイボーグなんだろうか? サイボーグは生身の人間をベースに機械部品を入れているものを指す。
 だが『8マン』も『サイボーグブルース』もサイボーグとされているものはほとんどが機械で、人間の部分を残しているのは記憶しかない。脳の記憶をコンヒ゜ュ―タに転写した、こんな存在がサイボーグと呼んでいいのか? すでにアンドロイドでしかないだろう。こんな物が日本のベーシックなサイボーグ物とされてきたわけだぜ」
「伊橋様が高道様に傷つけられたと聞きますが、見舞いには」
「だから高道って誰? それより、話を最後まで聞け、ジャン。
 サイボーグ物なのに、セックスや食事ができない。これがアンドロイド的要素を詰め込んだ平井和正の功罪だ。子どもを産んだサイボーグ物はたくさんあるけど、この2作品の影響により機械化されることのマイナス要因として生殖機能・食欲をなくすという発想が定着してしまったんだ。
 逆にアンドロイドが映画『ブレードランナー』の影響で、こいつらは確かに人間なんかじゃないが、ボディは『8マン』『サイボーグブルース』より生身の人間に近づいてしまっている。そしてついに日本SF大賞の新人賞佳作となったある作品には、生殖可能なアンドロイドが登場した。アンドロイドの方がサイボーグよりも人間らしくなっちゃってるんだぜ」
「さすが、邦彦様、博学でらっしゃる」
「つまりだ、俺がいいたいのは、サイボーグはじゃんじゃんセックスできるはずなのに、平井和正の登場によってサイボーグによるセックスシーンが減ってしまった。『∞BLUE』はそんな罪な人の罪な作品『8マン』の続編(?)なんだぜ。だから変態SF的に駄目だといってるんだ、ジャン。
 まー、とにかく伊橋には会ってやるさ」
 はしもとはジャンから遠ざかり、伊橋の家へと向かった。

          3

「あなたなんかが来ても、もうどうしようもならないわ」
 小柄で胸なしの女性ははしもとの来客を歓迎することはなかった。
 変態SFの家系である兄のはしもとか弟の高道に嫁ぐはずだった伊橋は、高道とくっついたがすぐに捨てられ傷ついている。はしもとの来客も彼女の傷心をなぐさめることはできなかった。
「伊橋さん、気にしないで……」
「だから、あなたの顔はまったく好みじゃないのよ。『∞BLUE』の主人公・ジョナサンだったらなぐさめられても良かったけど、あなたははっきりいって駄目。あなたの弟の勇気くんは少なくとも顔だけは格好いいわ」
「高道の本名って勇気って言うんだ。勇気ってどんな奴だっけ」
「そんなこといってていいの?」
「だって俺、そんな弟いたこと自体、覚えていない」
「後ろを見てみたら」
 はしもとは後ろを振り返った。長身の少年が立ち、はしもとを見下ろしていた。

          4

「ついに会ったな、はしもとよ。俺はおめーのこと憎んでいるんだぜ」
「だから憎まれている理由が」
「勇気って名に覚えがないのかよ」
「まったく」
「自分のつくったキャラの名前忘れるかよ、ふつう」
「勇気っていたような気もするけど」
「すげー、腹立つぜ。自作小説『天使のラッハ゜』2部の主人公の名前だよ」
「ああ、遠藤勇気くん、天使グルーフ゜のリーダーね。忘れてたわ、確かに」
「おめーが、『セーラー服世界』だなんてものに没頭したおかげで俺の活躍は中途半端な物になったんだぞ」
「だって、そもそも2部はおめーが活躍する物語じゃないもん」
「2部のタイトルには『新生ミカエル』って」
「新生ミカエルって、おめーのことじゃないぜ。別にいる。君は新生ミカエルと闘うけど、たぶん勝つ見込みはないはず」
「てめー、ふざけるな。なんで、そんな」
 勇気はがくっと体を落とす。
「それにしても、おめー、わざわざそんなことから、マシナリーなんてくだらないものになったの」
「俺はいまマシナリーじゃない。マシナリーなのは、おまえの方だ」
「おいっ、よせよ。マシナリーなんか」
「おまえが寝てるうちに改造したんだ」
「ふざけんなよ、おいっ。マシナリーは変態SFの可能性をなくした8マンの発想の延長線上から生まれたものなんだぞ」
「何でだよ、うれしいはずだぜ。マシナリーは8マンと違ってセックス可能だ。記憶を機械に転写する発想は同じでも、ボディは人間と同じことができ、制約だって何もない」
「だから、セックスが可能なだけで、変態性を増すわけじゃ」
「加速装置も付いているんだぜ」
「セックスに加速? ということは、ふつうの人がセックス1回のところを加速してたくさんできるってことに」
「そうだよ、何で『∞BLUE』が変態SFかわかっただろ。
『∞BLUE』は『8マン』『サイボーグブルース』で変態の可能性をなくしたサイボーグ物に未来を与えた作品だったんだよ」
「おまえ、本当はいい奴だったんだな」
「兄さん、あんたに、続編書いて欲しくて……だけど、これじゃ」
「安心しろ、ギャグ小説に生き返らせて今後も使ってやるから」
「そんなのやだ」
 勇気はますます、元気をなくした。
 だが、はしもとはこうしてますます変態性を上昇させたのだった。
(第6回へつづく)


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