思い出季節
筆者:sakuU 編集:秋月 優菜
【第二部 これから、そして…】
教えてくれるその時があんなに悲しい時に教えて貰えるなんて僕は、思いもしなかった。
僕はバイトが休みの日はいつも彩と一緒にいろいろな所へ出かけていた。
今日は動物公園に行くことになっていた。
僕はいつもの待ち合わせ場所で待っていた。
いつも彼女は時間ぴったりに来るはずなのに、その日はいつもの時間より一時間遅れてきた。
「ごめんなさい、一時間も送れて」
彼女は頭を何回も下げた。
「いいよいいよ、遅れた理由はなんにしても来てくれたんだから」
初めての遅刻だったので僕は気にしてはいなかった。
「そうだ、早く行こうよ」
今日はパンダの赤ちゃんが人目に放される日だった。
2人で電車に乗り動物公園に向かった。
僕は駅に着くと彼女の手を引張り走った。
その時だった、僕には今までは一度もそんな風に感じた事はなかったけど、彼女の手、すごく痩せているように思った。
でも、口にするのは失礼かと思って何も言わないでおく事にした。
そして、動物公園に着くと同時にすごい光景が目に飛び込んでくる。
「う、まさかこんなに人がいるとは」
こんな光景は今まで生きてきた中でも一度きりしか経験がない。
それは一度だけ友達に誘われて行ったコミケである。
あれ以来人ごみは嫌になっていた。
「本当だ、一杯人がいるねー、私もこんなに人がいるところ来るの初めてだからドキドキしてきちゃった」
2人で人の数に圧倒されながら動物公園の中に入っていった。
「迷子にならないように手繋ごうか?」
僕はちょっと照れ臭そうに彼女を見た。
すると彩は嬉しそうに僕の顔を見ながら差し出した手を握り返してくれた。
「レッツゴー!」
僕は彼女の手を離さないように、ゴリラ、ゾウなどいろいろ見て行った。
そして最後のメインイベント、パンダの赤ちゃんの所に来ていた。
「おお」
「ちっちゃくてかわいいねー」
ほんの一瞬、彼女がとても寂しそうな表情を浮かべたような気がした。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
でも訊ねるといつもの笑顔でそう返してくれたので、きっと気のせいだったという事にしておいた。
客足の多さにパンダコーナーは入場制限で5分しか見ることが出来なくなっていて、メインイベントはそのたった一目で終わりを迎えた。
「んーお腹減ったね」
パンダコーナーを抜けるといつの間にか時計は18時を回っていた。
「うん」
2人でお店を探しながら駅に向かった。
「あ、あそこにファミレスがあるからあそこで食べようか?」
2人でファミレスに入り食事をした。
そして、21時を過ぎた頃にやっと地元に戻って来た。
「んー今日も楽しかったね!」
「うん、本当に今日楽しかったー、今日は本当にありがとう」
「ううん、また行こうね!」
急に彩が下を向いいてしまう。
「どうしたの?」
「本当は、もうこうして高崎くんと遊べるのこれで最後なの」
「はあ」
僕は、最初彼女が何を言っているのか解らなかった。
単純な言葉なのに、その意味にたどりつくまでかなりを要した。
まさにマヌケ、しばらく間をおいてから慌てて問い返す。
「え、何でもう遊べないの?なんで?」
「私、明日からまた入院しないと行けないの!本当は最初にデートした時に言うべきだったかもしれない。
私ガンなの、病院の先生に言われたの、あと2ヶ月持つか解らないって言われたの、
だから親が自分の人生最後まで楽しみなさいって言ってくれて、嬉しかったな、
先生は入院しなさいって言ったんだけど、私は外に出て普通の生活したかったの、
ちょうどそんな時に高崎くんが声かけてくれて、急に誘われたからビックリしちゃったけど、嬉しかった、
でも私体弱いから、きっとすぐに嫌われちゃうかと思って病気の事言わなかったの、
でも日に日に高崎くんと会うたびに私あなたの事が好きになっていちゃって、
余計に言うのが怖くなっちゃって、今まで言えなかったの、ごねんね」
彩が泣きながら今まで言えなかった事を僕に話してくれた。
きっとこれで最期だからと思って、勇気を出して、話してくれたんだろう。
僕は、彼女を抱いた。
折れてしまいそうなほど細い体だったけど、力いっぱい抱きしめた。
「え!」
「僕も彩の事大好きだから、一人で悩まないで何でも僕に話してくれよ。
俺そんなに弱い人間じゃないから、みな実を守っていく力があるから」
「ごねんね」
「もう、もうあやまらなくてもいいよ。
本当の事を僕に教えてくれたことだけでも嬉しい。
やっと彩の彼氏になれた、かな」
「ううん、高崎くんはずーっと私の彼氏だもん」
「キス、してもいいかな」
僕は彩を見つめた。
「うん」
僕達は、唇を重ねた。
「私高崎くんと付き合えて本当に幸せ」
そして、彩は次の日から入院する事となった。
僕は毎日遅くなっても彩に会いに行った。
日に日に彩の体は細くなっていき、それでも僕はあきらめずに、せめて一日でも長く生きていられるように毎日彼女を励ました。
しかし8月31日、とうとう彩は帰らぬ人になってしまった。
でも彩が幸せって言ってくれた言葉が最後まで僕の支えになっていた。
僕は毎年8月31日になると彼女のお墓に行き花を飾って一年間何が起きたかを報告している。
そして彩の分まで最後まで生きていく事を誓った。
彼女と過ごしたあの夏は、今も僕の胸で輝き続けている。
忘れないよ、彩の事、それが僕の、明日への生きる力になっていくから…