Wind〜風の導き〜
筆者:sakuU 編集:秋月 優菜 サポート:coffin
心地よい風が、まるで体を吹き抜けるように通り過ぎる。
ふと目を開けると、そこには見知らぬ風景が広がっていた。
「ここは?」
回りを見ても、木、木、木…
「俺…おれ?いや、ぼく…僕は何をしてるんだろう?
そうだ、勉強が嫌で、そしたら学校も嫌になってきて、かまわずバイクを走らせて、そしたらここに着たんだ」
どおりで見たことのない風景が立ち並ぶ。
「どうしよう、帰り道もわからないし…俺ここで死ぬのかな?」
辺りを見渡してみるが道の一本も見当たらない。
乗ってきたはずのバイクも見当たらない。
帰り方が分らない。
「はあ、もう少しここで、空でも見ているかな?」
何も考えずにしばらく空を眺めている。
「ん?」
自分の周りの木、そして草がざわめき出した。
風は、今はもう吹いていない。
何がどうなっているのか、僕にはかわからかった。
「あっ!」
空を見上げると今までゆっくりだった雲が今までに見たことのない速さで移動している。
あそこには風が吹いてる。
まるで、僕の周りにだけ風が吹いていないような。
「一体何が起きてるんだ−−−」
ふと気付くとむしょうに怖くなってきて大声を出してその恐怖を吹き飛ばそうとしていた。
「うわー!!」
気味が悪いので目を閉じていた。
その時だった、何処からか声が聞こえて来た、ような気がして話かけてみる。
「だ、誰?」
目を瞑ったまま。
怖いから。
「ダメ、目を開けないで」
そしたら女性の人の声が返ってくる。
「え、何で、目を開けちゃいけないの?」
慌てて開きかけた瞼をもう一度強く瞑るが当然視界は真っ暗で何も見えない。
だけどそのまま何処にいるか解らないその女性に話しかけていた。
「あなたは一体、誰なんですか?」
一番気になっていた事をあえて一番最初に聞いてみた。
「ごめんなさい、今は、まだ言えないの、でもあなたならきっと分ってくれると思うの…」
誰だか分らない彼女は、僕に何も教えてはくれなかった。
「あなたは、何故ここにいるの?」
今度は彼女の方から僕に尋ねてくる。
「僕は、今の生活、人生が嫌で、それから逃げ出して、そしたらいつのまにかここに来ていました」
正直に、誰だか分らない彼女に今の自分の気持ちを打ち明けた。
「どうして、自分の人生が、嫌なの?」
「僕は、毎日毎日同じ事の繰り返しの今が、嫌いなんです」
「そんなに同じ事の繰り返しの人生が嫌だったら、変えればいいじゃない?」
「でも、そんなこと出来るわけないじゃなかい」
「できないできないって言っているから出来ないのよ!
少しは自分で何とかしようっていう気持ちないの?」
「え、」
今までそんな事を言ってくれる人がいなかったので戸惑っていた。
そうだった、僕はいつも出来ない出来ないと言ってばかりで。
何事もしようとしなかったことを思い出していた。
この身体はなんのためにあるのかと。
この手は。
この足は。
この目は。
やれない事などないはずだ。
無理だと思ったのなら変えていく努力をすればいい。
夢は掴むモノ。
けして儚い空想だけのモノじゃない。
生きているのなら。
夢へ向かって努力していく事を止めてはいけないんだと思う。
それを止めてしまえば。
きっと人は生きていけなくなってしまうんだろう。
僕はもう少しで、そうなるところだったんだ。
「どう?今までのことを思い出して何か自分で人生を変えようと努力したことある?」
僕は何も言えなかった。
まるで彼女が僕の心の中が分るかのように話かけてくる。
そうまるで、僕の姉のように。
僕の姉は事故で命を落としてしまった。
僕はまだその時は小学6年生だった。
学校で姉の事故の知らせを聞かされた。
急いで病院に行ったがその時はもう………
その日は一日中姉のベットの前で泣いていた。
次の日も。
その次の日も。
とても悲しかった。
いつも僕を助けてくれたのが姉だった。
勉強が分らなかった時も親に叱られた時も、いつも姉が助けてくれていた。
「う、う、うっ」
昔のことを思い出していたら気付かぬうちに涙が流れていた。
「大丈夫、あなたはきっと一人でも生きて行けるから頑張って!」
その時、暖かい温もりに包みこまれた感じがした。
僕はとっさに目を開けた。
そこには、姉がいた。
「ねえちゃん」
僕は、泣き声で話しかけた。
「大丈夫、あならなら絶対しっかり生きていけるわ。
自分の人生は自分で開くのよ。
生まれ変わる事は出来なくても、今を変えていく事は出来るから。
それが生きるっていう事だから。
私にはもうあなたの傍にいてそれを助けてあげる事は出来ないけど。
ずーっと遠くで、もう会いにこられないくらい遠くで。
それでもちゃんと、いつも見守っているからね」
姉は優しく僕を抱きしめた。
「ねえちゃーん」
僕は姉に泣きついた。
「あなたは、私の大事な弟だから…」
「うん、俺頑張るよ、頑張るよねえちゃん」
僕はずっと泣いていた。
そして再び瞳を開けるともうそこに姉は居なく、さっきまで僕が寝転がって空を眺めていた場所だった。
「ねえちゃん」
僕は周りを走りながら姉の姿を探した。
でも何処にも姉は居なかった。
でも僕には分った。
さっきまでは本当に姉がいたことが。
「ねえちゃん、ありがとう、俺これからの人生変えてみせるよ、ありがとう!」
何処に居るかわからない姉に、僕はこれからは自分の人生は自分でつかみとっていくんだということを決意した。
「じゃあね、ねえちゃん、俺もう家に帰るよ、でもまたここに会いに来るから、じゃあね」
僕がそう言うと風が体を包んだ。
その風が僕から離れると、不思議なことに一本の道だけに風が吹いている。
僕は戸惑うことなくその風が導く道を歩いて帰った。
これは僕にとって新しい人生の一歩になった。
【wind〜風の導き〜 完】