単発小劇場『サンタなアスカ』

書いた人:しおしお


 

 アタシの名前は惣流アスカ。
 市内の中学校に通う普通の3年生。
 ここ最近は、幼馴染の碇シンジの態度にちょっとだけヤキモキしてしまう。
 思春期を迎えた男子は女子と関わりに距離を置きたがるって、昨日もママが言ってたっけ。
 今日こそ一緒に帰ろうと教室を見回してもシンジはとっくに帰ったあとだった。

 なによ…。ばーか。

 

 世間はクリスマスイブ。
 どこの人たちも本来のクリスマスの意味をはき違えているのか、いつの間にやらカップルのための日ときたもんだ。

 ただ今のアタシは、受験勉強真っ只中。
 1週間後…年を明けてしまえば、高校受験が待っている中学3年生。
 幼馴染と同じ高校に行きたくて、どうにか勉強をしている真っ最中。
 アタシの学力があれば、少々レベルの高い高校でも問題なく合格するって言われてはいるものの、不安で仕方が無い。
 どこかに落とし穴があって、気がつけば気になるアイツと別々の学校だってありうるんだ。
 だからこそ不安を打ち消すために机にしがみつくように勉強に励んでいる。

 別にシンジのことが…。って何を言わせるのよ。
 自分で勝手に想像し、かぶりを振って脳内映像のシンジを追い出す。

 …だからと言って休憩も無いのも大変よね…。
 ふとアタシは自分の部屋からベランダに出る。
 手に持ったタンブラーのぬくもりをわずかに感じる。
 アタシの家は市内の繁華街から少しだけ離れた住宅地にある。
 となりには幼馴染のアイツが住んでいたりするけど、ちゃんと受験勉強してるのかしら。
 今日はママがクリスマスパーティーを一応するって言う話だったけど、受験生ってのもあってそこそこ盛り上がって終わり。
 今日くらいはそこまで勉強しなくてもって心配してたけど、やっぱりアタシは今日の1日より将来の時間をとりたいのよ。
 寒空の中、アタシは星空を見上げる。
 いくつも瞬く数多くの星。
 男女は星の数ほどって言うけど、星って考えてみれば間に途方も無い空間が存在するのよね…。
 そう言うのって、出会うだけで奇跡になっちゃうわね。

 アタシは少しずつ冷めていくコーヒーをすすって再び夜空をみていた。
 多くの星の中で一際輝いている星を見つけた。

「なにあれ?」

 それに気がついたものの、星は徐々に大きさを増していった。

「ちょ、ちょっとこっちにきてるんじゃ…」

 そう思ったときは既に星はアタシの直前にまで来ていた。
 思わずアタシは身体をかがめベランダに伏せるような格好でよけようとする。
 だけど、考えてみれば隕石にしても突っ込んできたらアタシもただじゃ済まないんじゃ…。
 思えば短い人生だったような…。
 うう…。

 そう思っていたものの、衝撃はやってこなかった。
 恐る恐る目を開けると、隕石と思われた輝きはアタシの目の前で止まっていた。

「なによこれ?」

 そう思ったとき、光の塊が弾け飛び、中心部からなにか物体が見え始めてきた。

「くわーっ!!」
「へ? ペンギン?!」

 その物体は小さな動物。
 たとえるならペンギンのような…。って言うかペンギンじゃない!

「くわぁぁ」
「なんで、ペンギンが…」
「うきゅ?」

 疑問に思っているアタシに呼応するように目の前のペンギンは首をかしげるポーズをして見せた。
 まあ、しぐさは可愛いと思うけど…。

「ああ、そうだ。僕には使命があったんだ!」
「しゃべった?!」

 そう、目の前の動物が人間の言葉を発したのだ。

「僕は君にあることをしてもらうためにやってきたんだ」
「はい?」

 ペンギンはアタシの疑問もどこ吹く風。
 勝手に話を始めようとしていた。

「僕の名前は……」
「名前は?」
「ぺ、ペンペンって言うんだ」
「ペンギンだからペンペン? 思いっきり取ってつけたような名前で怪しいんだけど…」

 アタシはジト目でペンギンのような動物を見る。
 トサカはモヒカンのようになってて複数の毛が立っている赤い特徴的な色をしている。
 そして、問題は背中に機械のようなものを背負っているという点。
 どう見ても普通のペンギンには見えない。
 怪しい。どう考えても怪しすぎるわよ。

「まあ、そんなことはどうでも良いじゃない。君にはコレを付けて貰うよ」

 そう言うと目の前のペンギンは背中の機械のような所に手を回し…。
 回そうとしているんだけど、ペンギンの手はどうやっても届かないようで。
 3回ほど回ってからアタシの方を懇願するように見上げてきた。

「うう…。背中のバッグを開けてください…」
「それバッグなの?」

 あまりにも可哀想な表情で見てきたのでアタシは仕方なく背中の機械を開けることにした。
 どうやら、背中の機械の上部にボタンがあり、それを押すと開くという説明を受けてボタンを押した。

 すると、背中のバックから飛び出すように赤い髪飾りが二つ飛び出してきた。
 その髪飾りはふわふわと浮かぶとアタシの目の前にやってきた。
 それにあわせるようにアタシは両手のひらを上に向けると、重量を受けたようにぽとりと落ちた。

「何よ。これ」
「それを髪につけてください」
「……」
「あの…」
「思いっきり怪しいだけど…」
「お願いします。つけてくださいアスカ様」

 そう言うとペンギンは短い足を折りたたむように座ると身体をうつぶせに倒した。
 これって、土下座なんだろうか…。
 うーん。小動物にそこまでさせるとアタシの中に罪悪感が芽生えてくる。
 仕方ないつけるだけなら問題は無いわよね…。

 そう思うと赤い髪飾りを頭につける事にした。
 …ちょっと待って。

「アンタ。なんでアタシの名前を…」

 アタシの発言はそこで止まった。
 なぜなら髪飾りをつけたとたん目の前が光に包まれてしまった。
 そして、光の帯がアタシの周りをグルグル回り始める。

 何が起きてるの?

 光の帯は勢いを増してきて、アタシの服を光の塊にしてどこかに消し飛ばした。
 そして、その代わりに真っ赤な光がアタシを包み込む。

 光の帯が消えると何事も無かったように静まり返っていた。

「ちょっと…。何がおきたのよ」

 アタシはそうつぶやくと手を頭にかざした。
 なんかやけに重心が上半身の方にあるような感覚ね。
 それに…。

「なによこれ!」
「成功です」
「成功って何よ!」
「アナタは魔法少女として選ばれたんです!」
「なによそれ!!」

 ペンギンが突拍子も無いことを言い出した。
 魔法少女って何よ!!

「言ったとおりです。このクリスマスイブの夜に選ばれた魔法少女サンタとして戦ってもらうのです」
「ちょ、魔法少女だけじゃなくてサンタって何?」

 腹がたったので、目の前のペンギンをぶん殴ろうと拳を振る。
 だけど距離感がおかしかったのか、拳は空振りになった。

「え?」
「拳で戦うのは魔法少女としていかがかと思います」
「…なによこれ、腕が短くなってる? と言うよりも目線が低くなってる」

 アタシはあることが頭をよぎり、ペンギンを押しのけて部屋に入る。
 部屋に置かれている姿見に自分の姿を映す。
 そこには、アタシの昔のアルバムに残されている小学校低学年の姿が映っていた。
 映っているだけならまだ良いわ。確かアタシはさっきまでタートルネックのセーターにスカート姿だったはず。
 だけど、姿見に映っているのは身体に密着するような赤いボディスーツを着たアタシの姿が目に入った。

「ど、どう言うこと?」
「魔法少女に変身したと言うことです」

 混乱しているアタシにペンギンは冷静な口調で話す。

「ちょっと待ちなさいよ。これってどこの魔法少女よ!」
「いや、だって今時は変身して大人になるのって、受けないって言うし」
「どこの人が得をするのよ。こんな格好!」
「まあ…一部のお友達?」
「なんだかなー」

 ペンギンの適当な反応にアスカもつい適当な返事を返してしまう。
 しかし、アスカは別の問題に突っ込みを入れることを思い出した。

「その問題はあとで問いただしてやるとして、このピチピチとした衣装は何?」
「それはプラグスーツと言いまして。魔法少女には必須アイテムなんです」
「どこが必要なんだか…」

 アスカが呆れ始めていた時、ザラッとした肌が逆立つような感覚に襲われた。

「何よ。これ…」
「ブラックサンタ団だ」
「はい?」
「ブラックサンタ団だよ。やつらは世界のプレゼントを石炭に変えてしまうんだ」
「別にクリスマスなんて滅んでもいいわよ…」

 アスカはやる気なさそうにつぶやいた。
 そもそもアスカは受験生である。
 今年のクリスマスについても、どうでも良いと思っていたふしがある。

「そんな事言ってる場合は無いんだ。これを持って!」

 そういうとペンギンは今のアスカの身長と同じ程の長さの杖を取り出した。
 杖の先はトナカイの角が形取られていた。

「なによこれ…」
「君の攻撃アイテムだ。これを使ってブラックサンタ団を倒すんだ!」
「断ります」
「お願いします。アスカ様」

 アスカが断ると同時にペンギンは再び床に伏せた。
 こうなると、アスカは何故か自分が悪いと思い込んでしまうのか一応ペンギンの話を聞くことにした。

「で、そのブラックサンタ団はどこにいるのよ」
「はい。あの方向に」

 ペンギンが指差す方向を見ると、満天の星空をさえぎるような黒い空間があるのがわずかに見られる。

「あの黒い…ような場所?」

 アスカも夜空は暗いだけに、確信を持てずに居た。
 しかし、ペンギンは力強くうなずく。

「そうだよ。あそこに向かって飛ぶんだ!」
「飛ぶって…。アタシは人間だから無理よ」
「魔法少女だから飛べるよ!」
「何よ! その理屈は!!」

 ペンギンが説明をアスカに始めた。
 どうやら、自分に羽が生えているイメージを持っていけば飛べるとの事。
 その言葉を半信半疑な様子で聴いたアスカはベランダから空を見上げた。

 本当に飛べるのかしら…。
 羽ねえ…。
 羽……。羽…。

 アスカは羽を強くイメージした。
 すると、アスカの背中から大きな翼が4枚生え始めた。
 さらに、足元からも左右それぞれ4枚ずつ小さな翼が生え始める。
 12枚の翼が生えきると、アスカはわずかながら浮かび始めた。

「わわ…。本当に浮かび始めた」
「それでは、ブラックサンタ団がいる場所まで行きましょう!」
「わ…。判ったわ」

 ペンギンに促されるままにアスカは黒い空間へと飛び始めた。
 そして、ある程度近づいたところでアスカはふとした疑問が浮かんできた。

「ところで、どーやって敵を倒すのよ」
「手に持ってるトナカイの角を相手に向けて。魔力をありったけぶつけるんだ」
「それ、どこの熱血魔法少女よ」
「おっと、それ以上言っては特定されるからね」

 ペンギンはアスカの発言にあわてたように腕を大きく振る。
 何かまずい発言でもしたのだろうかとアスカは思ったが、とりあえずは目の前の敵をやっつけさえすれば、面倒なことから解放される
と思い、敵を倒す事に同意する事にした。

 ある程度距離をとって、ペンギンに言われるままに準備をしようとした矢先。
 黒い空間から黒い光線が飛び出してきた。

「えっ?!」

 アスカはその光線をあわててよける。
 光線はそのまま飛ぶと山間の鉄塔にぶつかった。
 すると鉄塔は銀色のボディを一瞬にして黒色に変わってしまった。

「黒くなった?」
「炭に変化されてしまったんだ」
「え? その設定って本当だったの?」
「信じられてなかったんだ…」

 驚きを隠せないアスカと対照的にがっくりと肩を落とすペンギン。
 だが、炭に変えられた鉄塔は根元をきしませながら倒れ始めていた。
 そして、鉄塔が倒れると同時に街の灯りが消え始めた。

「そっか。鉄塔に送電されてる電力が届かなくなったんだ…」

 アスカは眼下に広がる光景をみる。
 まだ街が静かになるには早い時間帯。
 クリスマスと言うことでカップルたちも多いだろう場所から悲鳴にも似た声が聞こえてきた。

「ま、まずいよ。街が混乱し始めます」
「ふ…。いい気味よ」

 街中がパニックになろうとしていた光景を見て、アスカは思わず本音が飛び出してしまったようだ。

 いい気味よ。アタシは受験生だからアイツと一緒にクリスマスパーティーくらいしたかったわよ。
 おじ様やおば様も招いて毎年やってたんだから。
 受験生ってことで、気を使われて今年は無しになったんだから。

「それはそれですよ。アスカ様」
「おっと、つい本音がでちゃった」
「それよりもブラックサンタ団を倒さないと、普通に街が混乱しますから!」
「それは困るわねえ」
「じゃあ、さっき言ったとおりにお願いします」
「判ったわよ」

 アタシはトナカイの角を大きく振り回して根元部分を両手でしっかり持つと、黒い空間へと照準を固定した。
 良く見ると黒い空間からサンタらしき姿が見え始めてきた。
 一般のサンタは赤い衣装を身に着けているはずだろうけど、目の前のサンタは黒い衣装を身に着けていた。
 ああ、これがブラックサンタ団ってこと…。

「全力全壊!!」
「Yes,my…」
「おおっと! 杖は喋っちゃいけないよ」

 一瞬なんか変な幻聴がアタシの耳に届いたような気がするけど…。
 気のせい、気のせいよね。

 そう言うと、トナカイの角は形を変えて二股の槍へと変化した。
 手で持っている部分の前半分は二股の槍がそのままらせん状に絡まった構造へと変化していく。
 アタシは、手に力を込めると、二股の槍の先に光の塊が出来ていった。

「これは?」
「それこそロンギヌスの槍だよ」
「そうなの?」
「ある程度パワーが溜まったら頭に浮かんだワードを叫ぶんだ」

 アタシは槍の先に出来た光の塊が徐々に大きくなっていくのを感じた。
 そしてある程度大きくなったところで頭に浮かんだ言葉を叫ぶことにした。

「ぶち抜け! ロンギヌスアターーーーック!!」

 アタシがそう叫ぶと槍の先から光の束が発射された。
 だけど、目の前のブラックサンタも黒い光を発射してきた。
 アタシとブラックサンタの中間でお互いの光線がぶつかるのを感じた。

「押し負けたら、自分自身が炭になっちゃうよ!」
「ちょ、ちょっとそんな重大なことは早く言って!」

 アタシはまだここで炭になるわけにはいかない。
 受験を終えてシンジと一緒の高校に行って…。
 シンジと一緒に登下校して…。
 シンジと気持ちを通じるんだ!
 アタシの気持ちを!!

「だから! 負けない!!」

 アタシの気持ちと同調したように、槍の先から放たれている光がさらに大きくなった。
 そして、ブラックサンタから発射された黒い光を押しのけると、黒い空間に飛び込んだ。

 一瞬の間が空いてから、黒い空間は離散していった。

 

「倒したの?」
「うん。これで今年のクリスマスは守られたね」
「……。『今年の?』」
「うん。多分来年も出てくると思う」
「アタシはもうしないわよ」

 ペンギンはアタシの返事を聞いて泣きそうな表情を見せていたけど、もう知らないっての。
 受験生は忙しいっての。

 ペンギンの主張を放っておいて、アタシは自分の家へ向かい始めた。
 ペンギンも仕方ないと言う表情であとを追ってくる。

「ところで、一つ思うんだけど…」
「なんでしょう?」
「ロンギヌスって…。神ごろ…」
「おおっと、それ以上は言ってはいけません」
「ま、クリスマスを破壊するっていう意味ではいいネーミングよね」

 考えてみればロンギヌスって≪神≫を殺したっていう人よね…。
 クリスマスを守る魔法少女が持っていいアイテムなのかしら…。
 まあ、次は来年って言ってたけど…。

 こんなクリスマスはもう勘弁してほしいわ。

 

 ブラックサンタ団の陰謀を退けたアスカちゃん。
 果たしてこの戦いに決着する時は来るのだろうか。
 頑張れアスカちゃん。戦えアスカちゃん。
 受験と平行して世界を救うんだ!

「いや、だからもうしないって」

 

 

<おしまい>

次回予告
『アイツに秘密がばれちゃって』
の巻でお会いしましょー。

「誰がするかー」

<つづきません>

 適当に思いついたままに書いた結果がコレだよ。
 まあ、リリカルなあの作品とか、敵の名前はサイボーグなあの作品とか。
 次回予告で内容がわかるのは、子供向けアニメではありがちなこととか。
 昔の魔法ものだと子供が大人になるから、その逆をいってみたりと、色々やりすぎたかな…?


(2009年12月25日発表)

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