病気の誕生日
書いた人:しおしお
やってしまったわ……。
今日は、12月4日……。
そう……今日はアタシの誕生日。14歳になる日。
なのに、アタシは自分の部屋のベッドにて、仰向けになって天井を見ている。
どーして、こうなったのかしら。
原因はなんだったのか。
シンジの気をひきたくて、風呂上りにタオル一枚でリビングに居たのが原因……?
それとも、季節がもどりつつあるなかで、半そでにショートパンツで過ごしたのが原因?
そういえば、先週あたり学校全体で風邪が流行っていたわね……。
今になってアタシが……?
そういえば、昨日の夕方あたりから喉の奥が、ちょっとだけ痺れているような間隔があったような……。たぶん、あれがひき始めだったのかしら。
ピピピ……ピピピ……。
電子音が響く。
アタシは、右ワキに挟んでいた体温計を取り出し、自分の体温を確認する。
「38.1……。どーみても平熱じゃ無いわね」
愚痴りながら、体温計を枕元そばにある置時計の近くにおく。
そのとき、アタシの視界に今の時間が目に入った。
時刻は、9時半を少しまわったくらい。
今頃……2時限目に入った頃かしら……。
アタシが眠っている間にも、シンジたちは授業を受けている。
少しだけ不思議な感覚だ。
天井を再び見上げる。
何か特別なものがあるわけじゃないマンションの天井。
おそらくどこの部屋も似たような造りをしているデザイン。
ミサトのことだから、工夫とか何もしてないんだろーねー。
目に入ってくるのは新築に近いからかシミが見当たらない天井。
そして部屋を照らす為の照明機器。
その視線の向こうに、授業を受けているシンジたちを想像して見る。
何も変わらない教室の風景にいないアタシの姿。
みんなどう思ってるんだろ。
シンジに質問攻めとかしているのかな?
それとも、無関心?
いつもいるはずの空間から外されてしまっていても、日常ってのは変わらずに時を進める。
授業に遅れるとか言う心配はしてしない。
アタシは、大学をでているんだし、そもそも授業を受けているのも、日本には義務教育ってのが未だにあって、中学生までは学生でいないといけないと言う決まりがあるから。
ま……使徒が来ない限りパイロットが必要な局面は無いから、時間を持て余すよりはマシなんだけどね。
掛け布団を鼻先のあたりまで引き上げる。
ふと、今朝のことを思い出した。
アタシが中々起きてこないことを不思議に思ったシンジが、部屋の前まで来て声をかけてきた。
部屋の扉をあけたときのアタシの表情は多分かなりの不機嫌にみえたんだろうな。
すこしばかり怯えたシンジの表情を思い出した。
そのあと慌てて看病をする手筈を整えたシンジ。
このままだと、学校を休みかねない勢いだったから、
「大丈夫よ。夕方には治っているわ」
と言って送り出した。
夕方までに全快ってのは無理があるわね。
病気になったと少しでも自覚してしまうと、凄く弱気になっている自分がいることに気がつく。
やめやめ……。
後ろ向きになって、どーするのよ。
大人しく寝て体力を戻さないと……。
次に目を覚ましたときは、午後1時をまわっていた。
昼間に寝ることなんて無いと思ったけど、意外と寝られるものね。
「うわ……。汗でべとべとだ……」
自分が汗をかなり掻いていたことに臭いで気がつくハメになった。
1時過ぎてるし、お腹もちょっと空いてきたこともあるから食事をとろうと思ったけど、先に着替えないといけないわね。
「それよりも、先にシャワーを浴びたほうが良いのかしら……」
とは言っても、まだフラッとするしシャワーを浴びるのは危険ね。
シンジが学校から帰ってきてれば……。
か、身体をふいても……もらうとか……。
そ、それは恥ずかしくてできないわよ。
別の意味で熱が出てくるわね。
とりあえず、身体を軽く濡れタオルで拭いてから、パジャマを着替えることにした。
やっぱり、明るい時間にパジャマを着替えるってのもおかしな感じね……。
着替え終わると、冷蔵庫をのぞく。
シンジが何かつくっておこうかと言っていたけど、多分食べられないかもしれないからって断ったのよね……。
こんなことなら作って貰っていても良かったのかな?
なんて少し後悔が頭をかすめたけど、気にしていられない。
「確か、レトルトのおかゆがあったはずよね……」
ミサトが二日酔いでご飯をまともに食べられないときのために、買い込んでいたおかゆのレトルトをさがす。
それは、ほどなくして見つかった。
まあ、シンジが取り出しているのを何度か見てきたからね……。
この時ばかりはミサトに感謝してあげるわ。
レトルトのおかゆは、容器をうつしてレンジアップすれば良いだけなので、今のアタシでも楽勝ね。
ブゥゥゥゥン……
低い音を流しながら、おかゆをあたためる電子レンジ。
単調な音が続いていると、なんか色々考えてしまう。
今頃、シンジはお弁当を食べ終わっている時間かな。
いつも、3バカでつるんでいるシンジ。
たまにはアタシだけを見て欲しい。
そんな感情が渦巻く事がある。
でも、クラスの中でそんな感情を爆発させると、結局良く無い方向にしか行かないのも、今までの経験で判ってる。
少しくらいはシンジとの関係をハッキリさせないとねえ……。
アタシは待つ女じゃないんだから、誕生日にかこつけて迫ってみよう……。
なんて、考えていたけど、まさかそんな日に風邪をひいちゃうなんてね。
運がないのかしら……。
それとも、シンジとの関係をハッキリさせるには、まだ時期尚早ってことなのかしら。
来年まで、待てば良いんだろうか。
チン……
そこで思考がいったん止まった。
電子レンジにも止められるなんて……。
やっぱり、いまはまだ早いってことかしら。
おかゆを食べ終えると、アタシは再び布団に入り込む。
風邪薬は一応飲んだし、夕方までには快調とまでは行かなくても良いから……。
良い誕生日だったと思いたいな……。
――暗い中、長い道を歩いている。
いつからだろう。自分には1本の道しか無いって思いこんでいたのは……。
エヴァに乗る事が全て正しいことであり……。
それを否定する理由も無かった。
ずっと、その道を歩き続けるんだろうって思っていた。
だけど、いつのころからかその道は破綻して行く。
そしてその道は、ミルフィーユのケーキのようにもろく崩れていく。
アタシはどの方向に進んでいるのか判らなくなる。
この先どうなるんだろう……。
そう思っていたとき、アタシの手をしっかり握る手が現れた。
人の顔色をうかがって、アタシが何をするのかいつも怯えた表情をみせている男の子。
なのに、いざと言うときにはアタシを守ってくれていた。
いつの頃からか、シンジの事が気になり始め。
それが好きっていう感情に気がつくまで時間はかからなかった。
そうなると、今度はアタシがシンジの行動を気にするようになった。
まるで立場が逆になっていた。
でも、これはとても心地よい感情なんだなって思っていた。
――いつのまにか、長い道はとても広い草原に変わっていて、暗かったはずの周りはとても明るく輝いていた。
アタシは手を握っている男の子の方へと振り向いて、口を開いた。
「シンジ……」
「うわっ! 起こしちゃった?」
シンジがそこにいた。
いつのまにか草原から自分の部屋にとってかわり、いつものシンジの顔がみてとれた。
背景の天井がオレンジ色になっているから、夕方になったことが分かる。
「学校……終わったの?」
「うん。風邪はどう?」
「……。まだだるいかな」
「そっか。じゃあ夕飯は軽いものが良いかな?」
「そうね……」
「じゃあ。支度してくるよ」
そう言うとシンジは、夕飯の支度のために部屋を出ていった。
日本に来たばかりのころだったら、多分シンジを叩きだしていたけど……。
もう少しだけ部屋にいて欲しかったな……。
少しだけ扉の方を名残惜しそうにみる。
夕飯は本当に軽い物で済ませた。
やっぱりそこまで食べられる状態じゃなかったのも影響しているわね。
そして、再び自分の部屋に戻り、目を閉じる。
このまま今年の誕生日は終わっていく。
色々考えていたけど、こればかりは仕方ない。
来年はもっと盛大にしてほしいわね……。
誰に言うでもなく、来年の誓いをたてて、目を閉じた。
――だけど、昼間に寝ていたからか、数時間と経たずに再び目が覚めた。
昼間までのけだるさは何処かにいったのか、少しだけ身体が軽く感じる。
ふと、枕元の時計を見る。
今日が終わるまではまだ1時間ほど残っていた。
何もしないと言うのも悔しく感じたので、リビングでテレビでも見ようっかな。
照明を間接のものに切り替え、すこしだけ薄暗くしてから、テレビをつける。
特にこれをみるんだと決めたわけじゃないので、適当にザッピングをしてからニュース番組に落ち着くことになった。
今日、アタシが病気で寝ている間にも、世間は普通に1日が過ぎている。
その年に1度しかない12月4日はもうすぐ終わる。
まあ、こんな誕生日もありかな。
忘れることはないだろうし……。
さすがに毎年こうなるとゴメンだけどね……。
気がつくと、後に気配を感じた。
ミサトはまだ帰ってきていない。
そうなると、家にいるのはとっくに就寝しているペンペンと同居している男の子。
「眠れ……ないんだ?」
「昼間、寝すぎたからね……」
「そっか」
「そんなところに立ってないで座ったら? 見下げられてるみたいで良い気分じゃないわ」
「あ……。ごめん……」
シンジは少し距離をとって座る。
テレビ画面には、愛想笑いを浮かべるアナウンサーが映っている。
時間だけが少しずつ流れていく。
残り数十分になった今日だけど、最後にシンジと一緒に居られたから、それはそれで悪く無いわね。
「ア、アスカ」
「ん? なによ」
「喉渇いてる?」
「あー、そうかもね」
「じゃあ、牛乳でも温めるよ」
「砂糖は1個ね」
「判った」
シンジなりの気遣いなんだろうな。
会話はろくになかったけど、風邪を引いていたからか口の中が少しだけ乾いている。
それを感じ取ったのか、シンジはキッチンに入った。
マグカップに牛乳を注ぎ、レンジアップする。
ブゥゥゥゥン……
昼間聞いた単調な低い音。
そして、暖め終わった時になるベルの音。
同じ音でも、なんか違って聞こえる。
「おまたせ」
「待つほどの時間じゃないわ」
シンジは、トレイにのせた2つのマグカップのうち1つをアタシの近くのテーブルの上に置く。
そして、もうひとつを自分が座っている場所付近のテーブルの上に置いた。
アタシはシンジの様子をずっと見ていたわけじゃないから、もう1つ何かテーブルに置いた音に違和感を感じた。
その音がしたほうへと視線を移す。
そこには、ひとかけらだけ切られたケーキが皿にのせられ、置かれていた。
「それって?」
「……夕飯の後、アスカ……すぐ部屋に戻ったでしょ? 一応用意していたんだ」
「そ、そうなの?」
「うん……。本当はホールなんけど、さすがに今日は無理でしょ?」
「ま……まあね」
そう、誕生日ケーキをシンジは用意していてくれていたんだ。
だけど、今日はとても祝える雰囲気じゃなかったからケーキをだせなかったんだわ。
アタシが冷蔵庫の中を見ていれば、すぐに判ったことなんだろうけど……。
昼食はレトルトで済ませているから、冷蔵庫の中を見ることは無かった。
だから余計に驚いてしまった。
もう、今日は誕生日を祝う事は無いと思ったから。
「明日、改めて残りをだすから。今日はこれで我慢してくれる?」
「いいわよ。これで十分……」
「誕生日おめでとう。アスカ」
「ありがと……シンジ」
もうすぐ今日が終わる。
風邪をひいたりと色々あったけど、結果的には良かったのかなと思う。
<おしまい>
(2011年12月4日公開)
11周年記念になります。
今年はなんとか4日にぎりぎり間に合ったかな?
もう少し、執筆が活発になれ良いんですけどねえ(汗)