三、ひとりで本を取り出すまで(四・五・六ヶ月)
▼自分から本に興味を持つまでに典子にはどんな生活があったのでしょうか
はじめは、じっと物ごとを見つめる段階と言ってよいでしょう。三ヶ月未満は横に抱いていたので典子はだいたい上を仰ぐ姿勢でした。その上は青い空があったのです。三歳になった時、二ヶ月頃の写真に「これ何を見ているの」とたずねたら「オソラヲミテイルノヨ」と教えてくれました。
抱っこでの散歩から乳母車を使って散歩をさせるようになりました。典子の目に写るものが今までと違ってきます。周りの垣根や子どもたちの遊びを、そのつど立ち止まって「ほら、おねえさんやお兄さんが鬼ごっこしているのよ」と言ってみたり、「何をしているのかな」と側に寄ってみたりしました。典子は電車が好きで、よく乳母車を止めて、「ほら、電車よ」と上り下りの電車を見たものです。こんな時も、じいっと見つめていました。乳母車の中でも、握りこぶしをじっと不思議そうに見つめそのうち指を一本一本開いていきます。人差指、親指、中指、薬指、小指という順に開いていきます。(
136日目)「あれ、お指が動くのね。人差指、親指……」
と言葉をかけて、一緒に不思議そうに見たものです。一つの手にしても、こんなに不思議な出会いがあるのかと私を感心させたのでした。この時期は、すべての物を見つめることによって、物をより知るのだろうと思います。
私の目も、じっと見つめていました。ずっと後で「オカーサン 目ノ中ニ ノリ子チャンガイルヨ」と話しかけたことで気づきました。
“じっと何かを見つめる”ということは、興味への関心ととってよいのではないでしょうか。満四ヶ月になると、大人の食事に夢中になりました。口をピチャピチャ鳴らし、何か声を出して手をバタバタさせるのです。大人の食物が欲しいというように見つめています。鏡の中の自分にも気がつきました。鏡を見て、ニコッと笑います。(
139日目)その時、「ほうら、これは典子ちゃんよ。ふふふ」と笑って、何回も典子の顔を映してやりました。そうするうちに、はじめて初期の“いないいないばあ”ができるようになったのです。(145日目)それは「いない いない」と声をかけると、首を横にして「ばあ」で首を戻して私の顔を見て笑うしぐさです。満五ヶ月にはいると歌が好きで、楽しそうな表情をします。よく、どんぐりころころを歌ってあげました。顔の表情も赤ちゃんらしくなる月です。おもちゃも左手から右手へ右手から左手へと移し変えて喜んでいます。
「のり子さん」
と呼びかけると、嬉しそうに大声で笑います。(
161日目)この日を境に急に活発になったという大きな節を感じました。たとえば、喉がつぶれないかと思えるくらいキーキー言ったり、喉を鳴らしたり、鼻をつまんだり、髪を引っぱったり、他にも紙を破くなど、活発になってきました。ひとり遊びも長くできるようになりました。月齢が進むほど、対象物に近づこうとして“はいはい”へと進み、探求活動は活発化していきました。本棚にも気づき、本を引き下ろすことをはじめました。こうして典子は日常生活の中の興味を持ったところに向っていくことを知ったのです。興味を持つということはたいていの場合大人のであり、“見つけた”という発見の喜びは、好奇心を育てていく大切な芽生えだと考えています。このような知的な欲求は常に周囲のとくに母親が、一緒に驚き、一緒に笑い合うことから見につけていくもののようです。さらにこの探索活動の中に、すでに子ども自身が次ぎの段階の遊びなり活動なりを準備しているということがわかります。


