四、自分で本を選び出す(満七・八・九ヶ月)
六ヶ月後半から大人の言うことに対して、自分の感情や意思を表すようになりました。人が「おいで」と言った時、手を出すことや好きな歌をよろこび、手をたたくようになりました。また、大人の言葉に対して、動作でこたえるものが見られるようになってきます。ぬいぐるみのクマゴローと言うと、それをポンポンたたき、さようならに対して「ばいばい」と手を振り、だめだという言葉に対してもやっていることをやめるというように、大人の話が理解できた月と言えましょう。
典子は遊びを見つけることが得意でした。おもちゃ一つないテーブルだけの時でも、指で強くその上を引っぱっては、ビービーと音を出しおもしろがったほどです。この頃から、本棚の本を取り出して、好きなものを開くことをはじめました。まだ一ページずつめくるのではなく、ところどころ開く程度です。いろいろな本を取り出しては開くのですが、一つだけ特徴がありました。それは背表紙が青いものを引き出してくるということです。
『ゆかいなかえる』『風の又三郎』『かあさんがんばる』『空気と水の実験』などでした。『ゆかいなかえる』はとてもお気に入りで、ずっと手放さなくなった本です。おそらく『ママだいすき』の中のカエルと結びつけたのではないでしょうか。
毎朝本棚の前にすわると『ゆかいなかえる』の本を取り出しパラパラとめくり、かえるを指差し、取ろうというしぐさをしていました。そこで、この本を読んであげるきっかけができました。読み聞かせといっても、はじめのうちは絵を二人で読んでいくというやり方です。かえるたちが輪になっているところでは「ひらいた ひらいた」の歌を歌ったり、指さしたところを「黒いてんてんよ」と言ったりしました。だんだん、文も読むようになり、黒い点てんと読むだけで、かえるの卵の点てんを指さすようになってきました。このようにして多くの探索活動の中から本に目をつけた典子は、本に描かれた絵と前に見た絵本やおもちゃとを結びつけるようになりました。
※『風の又三郎』 宮沢賢治著 学研 一九六九年発行
※『かあさんがんばる』 稲木昌子作 鈴木義治え 理論社 一九六六年発行
※『空気と水の実験』 文 板倉聖宣 絵 石田武雄 国土社 一九七二年発行
さらに八ヶ月、九ヶ月と成長するにつれ、物ごとに対する好奇心が高まり、今まで以上に活動が著しくなってきました。ハイハイができるようになって、イルカみたいに飛びはね、あるいはおしりを高く上げ、シャクトリ虫のようにして、くずかご、コード、おもちゃなど周囲にあるあらゆるものが、彼女の遊びの対象になるのでした。しかも、その速い動きには目を見張るばかりです。このような活動を見ていて、本当に赤ちゃんって好奇心の“かたまり”みたいだと感じたものでした。
昭
51・1・18、満八ヶ月、この日は『マーシャとくま』を購入し、私が典子にその絵本を読んであげた日です。西郷竹彦先生の公開保育を参観し、絵本に対する私の考え方が積極的になった日でもあります。この本には、典子はあまり興味を示さないので、ひとます本棚に飾ることにしました。そこで『いないいないばあ』を取り出してみました。典子はこの本を大変気に入ったらしく、毎日のようにおばあちゃんと一緒に絵を見、絵本の言葉で話しかけ、動作化することを楽しんでいたようです。「こんこんぎつねも いない いない」「ばあ」というところが楽しそうで、よく笑っていました。本を開いて「なぜこのところがすきだったの」と三歳の典子に聞くと「きつねが笑っているからよ」と言っています。読んでもらうのが嬉しそうなので『いいおかお』も本棚に立ててあげました。この本の登場人物は、ふうちゃん、ねこ、いぬ、ぞう、おかあさんと日常見られるものが登場してくるので興味をもったらしく、犬や猫を見たいという態度を示すようになり、毎日窓から近所の猫を見たり、外へ犬を見に連れていくのが日課のようになりました。今まで「ネコ」と言っていた私は、この本から「ほら、にゃあにゃがいるよ」と、抱っこしながら言葉をかけるようになったのです。典子も本を開くと「ワンワ、ニャーニャ」と、はっきりした発音でないまでも声をかけるようになったのです。このように、日常見られるものを絵本の中に見つけたり、逆に絵本の中で接したものを実際の生活や自然の中に発見することに驚きと喜びを表現するようになりました。ひとりで本を開いて見たものが載っているところを探し出すようになりました。『ベビーエイジ
11月号』を引っぱり出しては、着物、リボン、赤ちゃん、オマルなどの写真を指さし、声を出すようになったのがちょうどこの頃でした。私はきっと『自分の知っているものがここにあったよ』と言っているような気がし、物に名前があることが理解できるようになったのではないかとも考え、それぞれ指さしたものには、物の名前をはっきりとした発音で言うようにしました。順番に絵本のページをめくれるようになったのもこのじきでした。※『ベビーエイジ』
満九ヶ月になると、おばあちゃんのことを「バーバ」と言うようになりました。犬の格好をして体を揺すりながら「プッシュ、シャー、プッシュ、シャー」と言ったり「のり子さん」と言うと「ハイ」と言えたりします。
この頃から『ふしぎなたいこ』という本を見つけだし、毎日見るようになりました。おそらく
251日目に与えたおもちゃのたいこのためではないかと考えています。たいこをなぜ与えたかといえば、この時期は、たたくことに大変興味を持っていたからです。ばちでたいこを交互にたたき、自分のまわりにはいろいろおもちゃを並べ、まったくドラマーみたいでした。見ているだけでも楽しくなりました。この『ふしぎなたいこ』はあまり読んではあげられませんでしたが、ひとりで絵を見ながら自分の鼻を引っぱってみた本です。探索活動の中から自分で見つけだした『ゆかいなかえる』『ふしぎなたいこ』は、いずれも読み続けられる本になります。私の方から与えた『ママだいすき』『いないいないばあ』『いいおかお』も何回も繰り返して見ていました。

