五、絵本を楽しむ初期(満十ヶ月〜一年)

 満十ヶ月は、よくしゃべるようになる月です。よく「アーチ、アーチ」と言っています。今まで読んだ絵本の中のものは記憶されていることがはっきりしてきました。たとえば「はと」の歌を歌っていると、すぐに本棚へゴソゴソと向い『ママだいすき』の中の鳥の場面を開いて見せます。蛙といえば蛙の場面を本棚から間違いなく、しかもすばやく取り出すのには驚かされました。掃除機にはってあるワッペンのワニに気がついた時、何を思ったか、ゴソゴソと隣りの部屋から『ママだいすき』を持ってきてワニの絵を開いて見せたのです。本当にびっくりしました。一致の喜びを知っていくようです。

 「いないいないばあ」と手の甲、本の陰、襖のかげから「バアァー」とやるようになってきました。『いないいないばあ』の絵本では、きつねのほかにくまも大好きです。『いいおかお』も表情をまねるようになってきて、「ぞうさんにも ぼくだっていいおかお できるよって いいおかお しました」というところの絵を見ながら、典子も「いいおかお しました」というまねをしています。典子にとっては『いないいないばあ』よりも『いいおかお』の方が、よりこの時期には興味を持ちました。自分から進んで取り出しては、人物のまねをすることが多いようです。それはつぎつぎに人物が登場してくること、表情があること、「おいしいは どーこ」と読者にも探させることなどが、子どもを引きつけるものと思われます。この二冊の本は痛んでしまうほど読まれました。

 十一ヶ月には飛行機の音を、どんなに小さくとも聞きとり「ブーン」と言って窓から外を見せなければ気がすみませんでした。本を開いて本の両端を持ち、本の上にすわって飛行機のまねをしたこともありました。また、何かを見つけた時は「ダ、ダ」と大声を出しました。花を見つけた時は、とても興奮して「ダ、ダ、ダ」とこちらがそれを見て声をかけるまで言い続けます。

 この月には、夜のおやすみ前に絵本を読むことを習慣づけたいと考え、まず、昔話である『したきりすずめ』を読んであげることに決めました。

 一度に通して読むといってもかなり長い文章なので、この時期には無理だと考え、つぎのようなやり方ですすめました。

 「むかし じいと ばあが おった」

これが、じいよと指す。

「ある日のこと……」

「このしょうわるめ!」

「このねぼすけめ!」

というところを、少し口調を強くして読むと典子は「フフフ」と笑いました。

「すずめがね、じいのおべんとう たべちゃったのよ。そして ねんねしてるの」というように絵の話をしてあげます。

 「じいは したきりすずめどんの おやどは どこらで ござるか ちょっちょっ ちょんちょんすずめどんのおやどは どこらで ござるか ちょっちょっ」

という箇所は、とても楽しそうでした。何回かは全部読んであげましたが、ほとんどの場合、絵本なしで話してあげました。ところが典子は、この本を毎日取り出すようになったのです。一緒に見ていないのではっきりしませんが、うまあらいどんのところを開いて、指さしながら、何かしゃべっていました。はじめの絵(すずめが眠っているところ)とうまをあらうところでした。じいが、うまのあらいじるを飲んでいるところを「ダ、ダ」と言ったり笑ったりしていました。ひとりで取り出しては楽しそうにしているので、私はこの本の「したきりすずめどんの おやどは どこらでござるか ちょっちょっ ちょんちょんすずめのおやどは どこらで ござるか ちょっちょっ」というところを、風呂に導入しました。この頃、典子は風呂であごの下を洗うのをいやがっていました。でも、ちょんちょんと言いながら、あごの下をガーゼでピチャピチャたたくと、とても喜んで洗わせるのでした。これが日課の一つになってきます。典子は、すずめをよく見つけるようになりました。屋根や枝にとまっているすずめをよく見かけます。「ほら、ちょんちょんすずめがいるよ」と声をかけてあげましたが、まだこの月齢では、すずめと言えないので、すずめを見るとあごの下を手でたたくしぐさをしたものです。とてもあどけない光景でした。

 誕生日を迎える頃には、言葉を使うことによって大人や周りの物と楽しく交わることをわかっていくようでした。そんな特、私にはふざけることを覚えたようにうつりました。母と子が相手の言葉に耳を傾け、語り合う楽しさを覚えたのです。一方、立てる喜びを知った典子は「立った!」といわんばかりの表情で「見て!見て!」と全身で私達に示すようでした。