六、言葉が出る=(我を通す)(満一歳〜一歳二ヶ月)
自立の第一歩を歩みつつある月です。立つこと、言葉が言えるようになってきたことがあげられます。「オーカータン」(おかあさん)「マコチャン」(友だちの名前)「コーチャン」「シンチャン」が言えました。これは一歳ちょっと前です。
昭
51・5・2に『はけたよ はけたよ』を与えました。なぜかというと、この頃オムツをさせないですぐどこかへ行ってしまうので、パンツをはくことが楽しみながら練習できないかと思ってのことでした。一回目は興味なしで、すぐ棚に飾る結果になってしまいました。八ヶ月頃に、ツンツルテンというしぐさ(両手をバンザイの形をして手首をくるくる回すというもの)をよくしたものです。この本の中の「しっぽのないおしり」「つるつるのおしり。あはははは」という部分を読みながら、私が「おしりがつんつるてん」と言ったら、「ツンツルテンのしぐさ」をしたのです。そして、たつ君のおしりを見ました。パンツをはかせたいという願いを持っているので、ここで私は、
「ほら、馬も笑っているよ。おかしいって」
「うしも。ねずみも。ねこも。いぬも」と指さし、目のところを見ながらおかしそうに笑
ってみせました。
おばあちゃんがいつも典子のオムツを洗濯している場面を見てきただけに、
「おかあさんは おふろで たつくんの おしりを じゃぶじゃぶ あらったよ」
「さあ パンツを はくんですよ」というところを結びつけたようです。すぐこの絵を開きました。こうしたやりとりがあるようになって、たつ君と言って、ひとりで『はけたよ はけたよ』を取り出して読むようになり、典子自身がパンツを自分ではこうと足を入れるようになりました。私と二人で楽しくおしゃべりしながら読む本に発展しましたが、この本の本当のおもしろさがわかるようになった時、またきっとひとりで取り出すだろうと考えています。
この頃『スイミー』『モチモチの木』『ちびくろさんぼ』『ねずみくんのチョッキ』『ふしぎなたいこ』を取り出していました。本棚から取り出して一ページずつめくり、どこか気に入ったところを見つけると、そこを指さし、語りかけているといった感じです。
『モチモチの木』では「ジッチャ ジッチャ」と呼びかけています。お気に入りの本は『ふしぎなたいこ』と『ねずみくんのチョッキ』です。
この頃、好きなところを取ろうとするのか本を破くようになりましたので、ひとまず高いところに片づけてしまいました。(
6・22)それまではどちらかといえば、本の世界の中でひとり言が多かったのですが、片づけることによって周囲の人たちとのおしゃべりが目立ってきました。『ママだいすき』を再び出してやった時のことです。「ほら ママだ」という絵が気に入ったようです。今まであまり興味を示さなかった「こんどは だっこ」というところも開いては、すぐに私の膝に乗ってほほを寄せ、抱っこ、抱っこというしぐさをしました。『ふしぎなたいこ』は、やはり鼻が長くなるところが興味の中心です。『かえるのえんそく』は必ず毎日開いています。どこがひきつけるのかはわかりません。一度片づけてしまった本をまた、もとに戻してあげました。それは大人の本を取り出すようになったからです。
またこの頃には(
6・23)、おばあちゃんが広告の紙であおいでいると、すぐ隣りの部屋に行ってうちわを持ってきたのです。あおぐものはうちわ、ということがはっきりしてわかったからでしょう。大人の会話がだいたい理解できるようになると同時に、典子自身のいも増え、一歳で15語だったものが、日を経るごとに関連した言葉を覚えるようになりました。たずねることにも答えます。雨の日、おんぶして保育園に向う途中のことです。(7・19)「典子さん、雨の音ってどんなに聞こえる?」とたずねると、
「パップ パップ」と答えます。傘の上に落ちる雨の音に「パップ パップ」と言う典子に、私もさしている傘をクルクル回したものです。
旅行中の電車の中で突然歌いだしたこともありました。(
7・26)ダージ ダージ ア・ワ・ワ(ラソ ラソ ラララの旋律です)と大きな声で何回も歌いました。歌が出るようになったのがこの月の特徴としてあげられるようになりました。
「オジチャン オバチャン ナニクッテ カガンダ エビクッテカガンダ」というわらべ歌や、すずめの学校、はとぽっぽのところどころを歌っています。
この旅行で典子は、はじめて瓢湖の白鳥や、蝉を見ました。蝉の鳴き方に「チ」と言って、虫に「チッチ」と言うようになりました。この頃から急に典子の視界が開けていくように私には見受けられました。「立つこと」「話すこと」「歌うこと」すべてが自分の意思でできるということは、やはり喜びであり、つぎのものを生み出す意欲につながるものだということを感じました。大人のしぐさをまねること、たとえば咳をした時も「ゴホ ゴホ」と手を口にあててやります。新しく帽子をかぶったり、服を着たら鏡を取り出して覗きこんでいます。あどけない、かわいらしいしぐさが、ますます大人をひきつけ、声をいろいろな人がかけるようになってきます。この頃から大人のまねをするということ、これは一つ一つの生活習慣を全身で覚えていく時期として、いいかげんに大人は子どもに接することができないことを、子どもに教えられました。


