はじめに
最近、絵本に対する関心が高まっています。それは、各地で読書運動(文庫、保育園、幼稚園での実践)が盛んになっていること、その中で絵本作家の優れた絵本が、出版されてきたことが、あげられます。喜ばしいことです。
小学校入学当初に、子どもたちに本の読み聞かせをすると、集中して聞けない子どもや、話の出来ごとだけわかって、おもしろかった、つまらなかったで終わる子ども、作品の世界で共感を持って聞ける子ども、ことばに敏感で感受性豊かな読みができる子どもなど様々です。今では誰もが本に接して来ているのに、この違いはどこから生じるのでしょうか。おそらく、乳幼児期に、どのような絵本との出会い方をしてきたのかが問題にされるのでしょう。
ちょうど、私の子どもが、絵本好きで、よく本を見るようになったので、子ども自身の興味・関心の問題、生活経験の広がりなど絵本を通じて考える機会に恵まれました。忙しい中にもわが子と一緒に絵本を楽しむひとときを持てたことは幸せなことでした。一冊の本をもとに母と子の通じ合う世界が広がって行くのも、働く母親としてうれしいことでした。これは文芸作品を読む上でも大切なことだと言えます。
本当に文芸作品に出会えるまでには、やはり六、七年の年月を必要とするでしょう。その間の子どもたちの成長発達を促すものは、絵本だけではありません。絵本はその一つです。けれども、絵本が芸術としての生命を持つ以上、絵本でなくては育てられないものがあるはずです。乳幼児の成長発達において絵本がどのような役割を果たすものなのか、この記録を通して読者と共に考え合うことができたら幸いです。
第一章は、誕生から三歳になるまでの成長記録です。絵本歴と言ってもいいでしょう。
第二章は、ある一冊の本に、はじめて出会ってから、子どもはどのような過程を経て本の世界に入っていくのでしょうか。ここでは具体的に記録したものを載せました。
第三章は、子どもの認識を深めていったと考えられるもの−言葉・文字・数−について、どのようにして、それを子ども自身が獲得していくのかまとめてみました。
記録の対象者は昭
50・5・12生まれの長女(典子)です。彼女は昭51・4・1から保育園にいきましたので、絵本の記録は、ほとんど夜と日曜日のものです。働く母親にとって育児は大変なことですが、子どもと一緒にできるわずかの時間を大切にしてきました。本当にわが子との触れ合いが凝縮されるのは、保育園の行き帰りと、お風呂に入る時であったと言ってもいいでしょう。
トントントントン
ドアの むこうに あなたがいる
ちょっと ためらって
「ただいま」
あなたは 首をかしげて
「おかえりなさい」
そう いって ケラケラ笑います
口を ゆがめて
「だっこ」
もう あなたを だいて
まわります。
ふたありの 笑い声も
まわります。
