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出会いはある意味、あっけないほど簡単だった。
落日の刻。
たえず醜い思惑の蠢く澱んだ空気も、世を溶かすかのごとく沈む太陽のとうてい汚れを知らぬ艶(アデ)やかな朱色の中では、とうについえたはずだった明日などというくだらない単語への微かな希望すら、いまだ塵ていどには残っているのだと、つい夢見たくなってしまう刻。
それは一種、暗示じみた生理反応というべきなのか。
希望が、何処からやってくるのか知りたいなどと思ったこともないけれど。
無機質な汚濁を凝(コゴ)らせるコンクリートの街に吹き溜まる自身を顧(カエリ)みて、然(シカ)るに立ち竦む。
囚われれば息づく命の欲求において行かれ、取り残されてしまうそのパラドックスを懼(オソ)れて。
胸腔の裡で享有(キョウユウ)しうる、血肉以外の枯渇しえない湧出の存在を確かに知りつつも。
知らないと言い聞かせる。
焦げる孤独が皮膚を焚(ヤ)く砂漠に在って、躰内を侵蝕する微細な砂の痛みに耐える方法をほかに。
ただひとりきりで生きるのでは誰とも頒(ワカ)ち合えないから。
なんの為に生き続けてゆくのかを。
どうやって知ればいい。
「お互い時間の無駄はさけよう」
知りたくなければ見てはいけない。彼方の暗黒のみ映す瞳へ、烈(ハゲ)しい日輪の姿を。
ただ黙って俯いたまま。
これまでのように。
「そっちの最強とこのオレとで一回きりの勝負を」
永いこと整備されてない、傷んだアスファルトを踏む音。
ゆっくりと、小ジャリを噛む厚底の靴の気配。
男の声をいっそ穏やかな気持ちで受け止めたのはこれが生まれて初めてだった。
神経のささくれないオーラを感じたのも。
目線を上げて・・・その時、本能は否定したかもしれない。行動を。
邂逅の苛烈さを。
一面、朱陽の海にあって、あたかも異邦の詩人のごとく必衰を憂う眼差しとぶつかる。
凛と張りつめた鋭気を仄(ホノ)青く輝かす双眼。
猛々しく、深く、静謐な。
剣呑な退廃を孕む見慣れた路地裏の光景は、そこでようやく彩りをもった『現実』となって歪んだ時間軸の幻を壊した。
薄い硝子を小石の投擲が打ち砕いたような、一瞬のことだった。
「突然死(サドン・デス)・・・かよ」
唇を引き歪めて嘲ったのは己自身。一体いつから、これほど安閑たる惰弱を抱えていたのかと。
魂の『餓え』を感じられないほど。
「ファラン」
振り返りざま、仲間のひとりが呼びかけた声はゆき過ぎる強風にまぎれ、わずかな残滓(ザンシ)のみ、届いた。
「どうする?ファラン?」
どうするかなど、質問を投げかけられること自体に違和感すら感じてしまう自分が、どうしようもなくおかしかった。
「いいぜ」
重い腰を上げる。見つめる視線はそらさないまま。
「誰にも手出しさせないと約束してほしい」
「いい度胸だ。このオレ様と真っ向勝負とはな」
とりあえずのポーズを作れるほどには、逸(ハヤ)る気を抑えることに成功できた自分を、まだ捨てたものでもないと自画自賛しつつ。
「オレはファラン。てめぇは」
「仁・・・風間仁だ」
対峙する。
運命と。
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