First Love




You will always be inside my heart
いつもあなただけの場所があるから



 薄い黒の空気に、白い右腕が伸びる。
 長くて、細い。
 彼女の体がリズムを刻んで、髪の一本がライトに浮かんだ。
 金色の髪。
 綺麗ね痛まないの、と訊いた私に、彼女は、十分痛んでるって、と笑った。
 嘘だ。
 きれいな人だった。
 もしも彼女が異性だったら、恋と呼んでも良かったかもしれない、私の感情は。

 出会ったのは、7年か、8年か。それくらい前。ことばさえまともに交わさないで、それでも、彼女の来た日のことを、何故か覚えている。何をしたわけでもない、ただ、彼女の立ち姿だけが残る。

   彼女が14、私が12だった時、彼女に振りをつくってもらった。私はそれを気に入って、小学校の音楽室で、友達を集めて広めたものだった。
 それがきっかけでクラブに入ったTが、まだ今も隣で踊っている。

 中学生の時は、そのTといっしょに写真を撮ったり、最前列でリハーサルを見たりしていた。年齢差の所為で話すことは殆どなく。たった一言の挨拶さえ宝物にして。
 中二のときに、ふとしたことで皆で貰ったブレスレット――錆びたそれが、まだドレッサーに眠る。
 何故か、私の学年が、彼女に最も多く振りつけしてもらった。
 皆、羨ましがっていた。

 話すこともなかった数年。けれど私達は、いつも彼女の踊りを見ていた。派手でもない動きが、とても印象的で。
 とても、印象的で。

 高校1年の冬、すこし関係が、変わった。
 最年長の、彼女とも仲の良かったHさんが、結婚することになって。
 結婚の前、新年会、高校生以上で集まって。私は彼女の向かいに座った。嬉しかった。
 そこではじめて、世間話して、笑ったんだよ。
 先生、こう言った。「教室開いてね、子供のときから知ってる子と、こういうふうにお酒のむの楽しみにしてたんだ」
 私達は笑った。「まだダメですって」
 お酒をのんだのは、Hさんと、先生で。
 先生は、もう短大が決まっていた彼女にもすすめたけど、彼女はカルピスを頼んだ。
「わたしもまだ、未成年ですから」そう言って笑って。
 私、訊いた。「将来は何に」
 「まだ考えてないって」そう彼女は笑う、「でも、やっぱかわいいお嫁さんかなぁ」

 私は思った。あなたなら、なろうと思えばいつでもなれるのに。

 雑談できる関係になって、四月、発表会が終わったあと、色々「改革」があって。彼女は先生の助手兼生徒として、やっていくことになった。学年を超えて仲良くすることもなかった私達が、はしゃぐようになって。年、越えて。やっと。

 やっと、苗字にサン付けから、あだな呼べるようになったんだよ。

 亮ちゃん。

 さすがに声をかけるときはどきどきするけれど。
 彼女も私を、さん付けで、呼ばなくなった。

 先々週、亮ちゃん、縦まきロールで来たから、どうしたのって訊いたら、ウィッグだよ、て笑った。
 お姉さんの話をした。美人なんだって。いつか見せてね、って言った。
 着替える部屋の戸も窓も開けっぱなしにしてて、先生が、若い娘がなんなの! て怒ってた。
 ちょうど小学校の事件があって。先生、何があるかわからないから気をつけなさい、って。

 先週、私はテストが終わって、返却も終わって、安心していて。
 亮ちゃんは、髪、たしか長い髪、ポニーテールにしてた。まっすぐ。綺麗。
 亮ちゃんは、教え始めた曲、まだ三分の一にもならない曲を、最初から細かくダメ出ししていった。アドバイスを一つ一つ、まだ覚えている。
 ここ深く。重心下げて。目線はっきり。
 サビの振りを、教えてもらった。8×4。
「もうちょっと進むー?」
 訊いた彼女に、私達は声をそろえて、ちょっとキツいです、と言った。
 速くて難しくて。でもお気に入りの。上手にできなくて、悔しくなるような。
「じゃ、来週。はやく来てよ、6時くらい」
 亮ちゃん、そう言った。間違いなく、言った。

 今週のレッスンは休みだった。

 先週のレッスンのあと、彼女は彼氏とでかけて。
 雨の中、事故に遭い。

 一週間後、6月の最後の日、彼女は消えてしまった。

 きれいで、
 優しくて、
 いつも笑ってて、
 ダンスもうまくて、
 教えるのも上手で、

 こんなに恵まれた人がいるのかって、思ってたのに。

 大人になることもなく、
 お嫁さんになることもなく。

 来週、って言ったのに。
 まだ踊り、途中なのに。
 2週間後、一緒に舞台に立つはずだったよね。
 ――まだ、数えるほどしか、亮ちゃんって呼んでないよ?

 19歳。
 幸せだったとは思う、けど、短すぎる。

 さんざん泣いて、まだ実感がわかない。
 眠っているような顔、とは思わなかった。
 きれいな顔にキズ。腫れて。青白くて化粧がけばだつ。
 化粧、上手だったのに。
 美人なお姉さんは泣いていた。こんな形で会うの?

 新体制のクラブは、まだ名前もついてなかった。

 実感が湧かない、けど、ひとつ、思う。
 ダンスに行っても、もう、亮ちゃんはいない。
 でも、まさかとも思う。
 もう、踊れないの。亮ちゃんの踊り、好きなのに。大好き、なのに。

立ち止まる時間が 動き出そうとしてる
忘れたくないことばかり

You will always be inside my heart……

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