水松色文箱‐MIRUIROHUBAKO‐


     



火遊び




男はサンドイッチを注文した女を垣間見た。
ウエイトレスが運ぶ盆の上にはいかにも多くの湿気を含んだようなパンに包まれたキュウリの破片とハムの切れ端が見えた。
女は煙草に火を付ける途中に上目使いでちらとこちらに目を移した。
「あなたも召し上がるかしら」
サンドイッチを手に取り、不意に口へと近づける女。
爪には睡蓮の花のネイルが施されている。
サンドイッチが口に入った瞬間、唇は睡蓮に触れた。
瞳は池に浮ぶ睡蓮の葉に移った。
葉の隙間には空気を求める無数の鯉が空を仰いでいる。
今みなもが不意に揺れた。
覗きこむと、そこに男がいた。
男にサンドイッチを勧めた女がいた。
池の中では互いが確実に触れ合うことを前提とした眼差しを交わしていた。
二人を照らす明るい光。
男が女の手に触れようとした瞬間、四角い固体をかいくぐり泡が男めがけてふきだしてくる。
光が一瞬にして消えうせた。
全てはもう泡の中。
再び何も見えなくなった。
池に映るのは底を覗き込む男の顔だけだった。
男は覗いていたグラスを手に取り、発砲の盛りを過ぎたジントニックを口に含んだ。
女は灰皿に煙草をねじ付け火を消した。
サンドイッチを手に取り、静かに食べ始めた。
煙草の灰は形なく崩れていた。



 
男はいくらかの金を机に残し、静かにそのバーを去った。  







とっぷ