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学生生活 大学は家から出て東北にある地方都市の下宿生活だった。高校時代までのどちらかというと内向的な生活、そして受験勉強の生活から開放されて大学では親元から解放された自由さもあって、できるだけやりたいことを積極的にやることを意識した。
大学に入ってしばらくして、専門課程の授業を受けて、この道は自分の道と違うと言うことを感じた。 大学に合格すると、電子工学は当時最難関の学科と言うことで、自分の専攻学科を言うことはなんとなく自慢げな気持ちだった。 しかし、講義を聴いてみると、難解な高等数学、チンプンカンプンな教科書。講義も一方的でまるで判らず黒板に書いてある意味不明な数式をノートに写すのが精一杯で、苦痛な長い時間であった。 結局最低限出席しないといけない実験を除き代返、代筆が可能なものはすべて同級生に頼み、実験レポートは友人の丸写し、試験も全て、再試験で、本試験時の模範解答を友人から教えてもらうことで臨んだ。
しかし、大学もそう甘くはなく、再試験で不合格な単位がたまって、専門課程に移る2年生のとき3年にあがれず留年となってしまった。
お金は、家からの仕送りと、奨学金が毎月支給されたのがあった。
Sも180mm以上の背が高く石原裕次郎を心棒する色男だった。
しかしナンパといっても当時はダンスホールで親しくなった女の子とチークダンスに持ち込めたら成功で、帰りに家まで送ってあげ、電話番号を聞く位でその先に行くことは自分としては余りなかった。
彼女との出会い
“踊ってもらえますか?” 案に反して気軽に誘いにのってくれた。 踊りながら
“以前Aと来てましたよね”
“あら、あの時来てたの?ダンスが面白いから友達誘って又来ちゃった。”
“A君は、高校の同級生で、久しぶりに会ったら、ダンスに行ってみないかと誘われてこの前来たのよ”
“この前は、可愛い感じの様子だったけど、今日は大人っぽいかんじですね。お勤めですか?” “そうよ、君は学生?A君と一緒のときは、可愛い感じにまとめたほうがいいなと思って可愛くしたのよ” “相手によって雰囲気を変えるんですか?” “そうよ。当たり前じゃない。女の子は、常に釣り合いを考えるのよ” “それじゃ、僕の時はどんなかんじになるんですか?” “君の場合は、普通よ。”
“Aはボーイフレンドなんですか?” “ノン。単なる同級生よ。君は一緒に踊るガールフレンドいないの?” “実は、いないんです。” “ここから誰か連れ出したらいいじゃない。” 思い切って “それじゃ、君を連れ出しちゃおうかな。名前はなんていうの?”
“名前は、ないの。” 結局、ダンスホールが終わるまで二人で踊り、帰る頃になって聞いてみた。 “帰り、送りましょうか?” “どうしようかな?遠いわよ。” “遠いのは別に構いませんよ”と言うと彼女は一緒にきた友達を目で探していたが、一緒にきた友達にジャーネと言う感じで挨拶した。
心はやる気持ちで二人で外へ。
“皆な、チエって言うわね” “チエって、あの智恵子抄の智恵子さん?” “そうよ、キミは?” “僕はミズノって言うんだけど。悪いけどキミっていうのはやめてくれる?” “ミズノ君ていうのは、言いにくいわね。アナタにするわ。”
夫婦でもないのに“アナタ”は多少抵抗があったが“キミ”よりは良いと思ってあきらめた。
その後、教えてもらった電話番号に電話をすると、気軽に付き合ってくれた。 Aと同級生と言う事なので、1浪していたAに対して、現役の自分はチエより一つ下と言う事になる。 最初、自分が年下である事を知られないように精一杯大人ぶっていたが、すでに社会人であるチエにはかなわない。 いつか、チエに引っ張られるような感じになっていた。
喫茶店に座っても 頼んだコーヒーにミルクを入れてやると
“そんなに入れて私を太らせる気?”
“せっかく入れてあげたのに文句言うな”
“あたりまえじゃないの” そして社会人であるチエは、デート代もほとんど出してくれた。 チエがレジで払うのを後ろで待っていると
“私が連れて歩いているみたいでいいじゃないの” そんな彼女が、二人で歩いているとき、ふっと腕を組んで来るときがある。 そんな時、心の中はどぎまぎしているが、それを見破られないように平静さを装う大変さ。
そして帰りが遅くなり、夜遅く送っていくときは
今思えば、おんぶしてあげればよかったのだが、その頃はとても恥ずかしくてできなかった。
ある時急に道の真中で “こんなところで変な事いうなよ”
“アナタって駄目ね” チエにこんな状況で振り回されていると、自分からチエに何かを仕掛けるとゆうのができなくなってしまっていた。 “アナタ女性で一番大事なものは何か判る?” “それはね。セックスよ。”
自分はどぎまぎしてしまって、 “ね。アナタ。教えてあげるね。私、他の人と結婚が決まっている人と付き合ってたのよ”
そんなこともあって、しばらく、つきあいは途絶えた。 忘れかけた頃、下宿に久しぶりにチエからの電話。
“どうしてましたか?”
“相変わらずですけど”
“出て来ない?” 久しぶりに、心をときめかせて会った。
“アナタって冷たいわね” “アナタと付き合い始めた頃とても楽しかったな” “私のほうが年上だって事知ってた?” “知ってたよ” “なんだ。知ってたのか。”
そしてしみじみとチエは自分を見ると言う。 ”君だって、おばさんになっちゃうんだろうな” ”私は30歳までしか生きないの。おばさんになってまで生きていたいと思わないわよ” その日は夕方から雪が降ってきていた。
“小さい頃ね。修道院の女の人達が、雪が降る町をと言う歌を歌いながら歩いていたのよ。 町の中を二人で歩いているとレコード屋から当時“ひまわり娘”として人気のあった伊藤咲子の歌が聞こえてきた。
“この歌。この歌。あなた覚えて置きなさいよ。私が好きな歌なんだから”
当時曲名は知らなかったが“好きなのに好きと素直に言えなかった”という物悲しい曲だった。
結局、こちらから手を握る事さえできなかった事もあり、いつか友人のような感じになっていた。 ”君が結婚しても、付き合ってくれる?”
”当たり前じゃないの”
”アナタ、社会人になって自分の事少し変わったと思う?” ”多少、苦労したから少しは変わったんじゃないのかな。” ”アナタ、全然変わっていないわよ。”
くやしまぎれに “ミズノ君がもらってくれるの待っているの” 思わず
何故、あんなこと言ってしまったのだろう?
それから会っていない。
自分の結婚が決まって、チエの事が気になって、数年ぶりに電話をしてみたら " 娘は、結婚して家を出ました” と母親。 現在の電話番号を聞いて、思い切って電話してみるとチエが出た。
“久しぶりね。” “今ね。ちょっと手が離せないのよ。ガキをね。お風呂から出したばかりなのよ” すっかり、母親の声になっているチエの声を聞いて早々に電話を切った。
それが最後だった。
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