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僕は君の髪が好き。
顔も好き。陶器を思わせる白い腕だって好きだし、華奢な肩や、細い足も好き。 勿論性格だって仕草だって大好きで、要するに余すことなく君の全てを愛している。 だけど君は僕とは根本から違う人間で、ふとした瞬間(それは君と一緒にいるときでもいないときでも突発的に僕を襲う)それを気付いてしまって、例えば君が僕の知らない人と話していたり、そうでなくとも、君が距離的に離れていることを実感してしまうときとか。 僕はどうしようもなく泣きたくなって、それから一瞬後には必ず猛烈に君を殺したくなる。 君が死んじゃったら僕は片方の羽根を切り取られた蝶みたいに地に這い蹲ってからそのうちに死んで、たぶん生きる事なんて出来ないのにね。滑稽だ。 君が好きだよ。 「分裂する蝶々」 彼は彼女の首筋に背後からキスを落として、それからゆっくりとその細い首に片腕を回した。 その腕に徐々に力を込めながら、もう一度今度は頬に唇を押し当てるのだ。 「、ねぇ」 足の間に座らせた彼女は、そうした彼のいわば彼女の一連の生体活動を害する、もしくは消失させえる行為には一切関心がないようで、彼の唇が離れる際、耳元に呟かれた言葉さえ無視して只ぼんやり遠くを眺めている。 その人形のような様は彼にとってあまり気分のいいものではなかったけれど、とりあえず彼女の感覚だけはは、一応は彼のことを含んでいるのを彼は知っているので、あえてそのことについては何も言わなかった。 そのかわりに、彼は別のことを囁く。ギリギリと徐々に力を込めていく彼の腕に似つかわしくないようなささやかな声で、だけどしっかりと彼女の鼓膜は穿つように彼は言葉を発した。 「このまま俺が君を殺すって言ったらどうする?」 冗談めかした台詞や、笑みを浮かべるその表情だけでは、只の戯れと取られたって仕方ないが、彼女に巻かれた腕はそれが戯れかどうか疑問を投げかけていた。 徐々にしまってくる頸動脈は、彼女にとってある種の不快感を与えているだろうに、彼女は相変わらず無表情で彼の方なんて見ない。もしかして死んでたらどうしよう、と彼は思うけど、小さく開かれた彼女の口から小さく苦しげな空気が出入りするのがは聞こえて、安堵する。ここからして彼の行動には矛盾をはらんでいるのだが、彼は気付かない。 「どうする?」 腕に込める力を緩めることなく、彼は開いた方の手で彼女の前髪を梳いた。額にかからないように上に押し上げ、そのまま流れに沿って、ゆっくりと撫でる様に腕を落とす。彼女の髪はいつもとても触り心地が良くて、彼は彼女の髪に触ることが好きだ。 大好きだ。 君が好きだよ。 彼女は何も答えなかった。何も答えないまま時間と沈黙が過ぎて、ただただ彼は彼女の首を絞めていった。それこそ、「真綿で首を絞める」ようにゆっくりと。 彼は、その間自分が何を考えていたのか分からなかった。ただ、「ああ、このまま彼女は死ぬなぁ」と自覚はしていたが、あくまでそれは自己内での認識でしかなく、それ以上のものには発展しない。つまるところ、だからどうすると言ったわけでなく、彼にとって今が全てで。 しばらくして、彼女の「・・・ひぅ」という掠れた音が気管から漏れた。だけど彼女は何も言わない。 「このまま殺しちゃうよ?」 彼は再度彼女にささやきかける。彼女の顔が出来るだけ見えるように、顔を傾けて、彼女の目を見て。 だけど彼女の視線は遠い。 彼女は彼なんか知らないって言うみたいにやっぱり遠くを眺めていて、彼は突然とても悲しくなった。それは明らかに彼の自分勝手な感情であり、それは彼も自覚しているのだが。きっとこのまま彼がこの腕を放したって、彼らはもう戻れないところに居ているのかも知れない。もしかしたら、それだけで彼は彼女を殺そうとしているのかも知れなかった。 彼女は彼に何でもくれた。欲しい言葉だって照れながらも何だって言ってくれたし、したいことだってさせてくれた。彼女は、つまるところ心地の言いレベルで彼を受容してくれたのだ。(全面的に否定されるのは根本から駄目だったけど、反対に全面的に受容されるなんて、きっと気持ち悪くて考えられない。)それはとても幸せで。 彼は既にして彼女が居なくては生きていけないくらいなのだ。 ・・・なのに。 君が好きだよ。 突如として感傷は彼を襲う。 彼は彼女とは違う人間で、彼女は彼とは違う人間で、それぞれ一つの体を持っている以上、きっと近づくより離れるのが簡単。だって世界はこんなにひろいのだ。例えば、瞬きするその瞬間に彼女が消える。気違いじみたその想像は、嘲笑に伏されることなく、それこそ本当に突然やはり気違いじみた彼を襲うのだ。 すきって、いって。 その度に呟く戯れ言。彼女は呆れた顔で好きな言葉をくれる。 好き。 なのに彼は言う。 だけどすぐにはなれちゃうね。 つまるところ彼は、彼女と一つの個になれないことに我慢がならない。根本的な矛盾に、彼は気付かない。 君が、好きだよ。 「死んじゃって、いいの?」 彼女はもしかしたら自分が死んでしまうかも知れないのに、何の反応だって返さない。呼吸だけは苦しそうなのに、それだけ。彼の腕を振り払うために暴れたりだってしないし、その腕に自分の腕を伸ばすことだってしない。 もしかしたら、自分は彼女にとってどうでも良い存在なのかも知れない。特に理由はなく、彼はそう思った。ともすれば、直感した。そう考えると彼は発狂しそうで、表情が情けなく歪むのを自覚。 「・・・俺の事なんて、どでも、い?たぶん、俺、君が死んだら生きてけないと思うんだけど」 悲しくなって、切なくなって。 彼は泣きそうな声を出す。涙腺の奥が今にも決壊しそうになって、泣きたい。 訳もなく、羽根をもがれた蝶々を思い浮かべた。離れたところに頼りなげに横たわっている蝶を飛ばすに置いては役立たずの二枚の羽根の残骸はゆっくりと風に乗って移動する。ふわり。 地に縛り付けられたままの蝶を置いて。 「・・・ね、ぇ」 初めて、彼女が彼を見た。 感情のこもらない視線で真っ直ぐ彼を射る彼女は、ゆっくりと頬を彼の腕に当てる。 「・・・?」 彼は彼女の行動が分からなくて、なすがままで、だけど首に回した腕は離せなくて。 彼女は何とか出る声で、だけどはっきりと言葉を発した。 「し、ってる。」 だって、ころさないでしょう? 彼が大きく目を見開いて、無意識に回していた腕をほどいた。そうすると彼女は気管にいきなり取り込まれた酸素に戸惑い、咳き込み、彼は慌てて彼女の背を撫でる。 「だ、大丈夫?!」 「かっ・・・ふっ・・っ」 自分がしたことなのに彼は必死で、ともすれば崩れ落ちそうになる彼女の体を支えた。胸を押さえて激しく方を上下する彼女のその様子は、やはり先ほどの行為が彼女になってかなりの苦痛であったことを明確に証言していて、彼の心に初めてはっきりとした罪悪感(それまで、もしかしたらぼんやりとでもそれを感じてたかもしれない。)のような感情が生まれる。 ・・・はぁっ、としばらくしてからやっと何とかまともに息が出来てきて、彼女は下を向いていた顔を彼の方に上げた。生理的に潤んだ瞳は真っ直ぐに彼とあい、彼は心に生まれた得体の知れない罪悪感に視線を逸らす。それが卑怯で仕方のない行動と言うことは、彼にとって痛いほど分かっていたけど、彼はそれをせずにいられなかった。 だけど彼女は、そんな卑怯者の彼には構わず、言葉を紡いだ。 「ばか、みたい。こんなこと。」 まだ少し掠れた声の彼女は、どうして、とは聞かない。きっと、彼にだって答えられないことを彼女は知っている。彼女はそれだけには賢しい。彼の心の闇(つまるところ気違いじみたパーツ)を、全部理解してるなんてとてもじゃないけど言えないが、それくらいが分かるには、賢明だ。 だから、彼女は言いたい言葉だけ、言い放つ。結果的に、彼が欲しい言葉を。 一番残酷な生き物のように、しっかりと、視線を逸らさない。 逸らしてあげない。 「こんなこと、しなくたって、一緒、いたげるから」 「・・・ごめん、」 「・・・泣くな」 「ごめん」 「蝶々、みたい、俺」 「・・・何それ」 「わかんない」 彼の顔がくしゃりと歪んだ。君は酷いなぁ、と呟く。 突き放してくれたらいっそ楽かも知れないのになぁ。声には出さず思った。きっと死ねるよ。 それから彼は彼女を抱きしめて少しだけ泣いて、「うるさいよ殺人未遂犯」と憮然とした声を漏らす彼女にぽんぽんと頭を軽く叩かれながら、どうして自分はこんなので、どうして彼女は此処にいてくれるのか夢見心地で考えてみた。 やっぱり、無駄な徒労に終わってしまったけれど。 fin. ちょっと手を離しただけで飛んでいってしまいそうな君がとても恐い。駄目だと思うのに、僕はまたきっと君を殺したくなる。でも、たぶん、結局殺せない。それからどうしようもなく卑小な僕は、君に縋り付いて同じように泣くだろう。繰り返し。羽根を失った蝶々なんて生きることが出来るはずがないじゃないか。だけど、羽根を失う恐怖に脅かされながら生きていくなんてもっと出来ない。 優しい君はそのことを朧気に分かっているから突き放せないんだ。それにつけ込んで、僕の殺人未遂はたぶん死ぬまで続く。 ☆わけわかんねです・・・;途中から私も混乱してました。 何だか私がどろどろベタベタが好きです。言うなれば黒甘。男が精神的に弱すぎて依存しなきゃ生きていけないカプが萌え。(外道・・・) 病み最高。最初立場逆にしようかなぁと思いましたが、やっぱ好みを突き通します。 書くだけなら誰にも迷惑かけないからいいんです・・・!! とか言いつつも、友人にこれ渡して、FD返してくれる際、友人とても困っていたことを覚えています。(当たり前)かけとるやん迷惑。 反転すると「彼」の駄目具合が倍増。 本文ウン行目「したいことだってさせてくれた」。 深読みすると微妙にアブナイ。(笑) |