性的虐待の特徴とその援助について


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 児童虐待防止法において性的虐待は次のように定められている。
「保護者(親権を行う者、未成年者の後見人その他の者で、児童を現に監護するもを言う)がその監護する児童(18歳に満たない以下同じ)に対し、次にあげる行為をすることを言う。(第二条)
 児童に猥褻な行為をさせることまたは児童をして猥褻な行為をさせること(第二条の二) 
 児童虐待防止法の成立は平成12年なので、今後児童相談所などの機関での性的虐待の定義はこれに基づくものとなると考えられる。
 制定以前には「家族内で、親又は養育者など(例:兄弟・叔父・叔母)が子どもに対して(中略)性的嫌がらせや性的関係を強要したりすること」などの定義で全国児童相談所などの調査で性的虐待は4.9%という数で現れている。(1997年度)
 しかしこの数字は、本人が訴えたか、第三者の目にも明らかになるほどの事態が起こったかしたものの数であり、家族で隠していたり被害者が明らかにできなかったりする場合、多くは水面下に隠れたまま存在しているのである。
 例えば精神科クリニックを受診した患者で幼い頃受けた性的虐待の影響を成人しても引きずっている者や、学校の養護教諭に誰にもうち明けられない経験を話す生徒は多い。このどちらも児童相談所と関わることは希であり、実数化していない被害者が少なくないことを表している。
 その表面現れないことの多くの理由は、被害者が虐待を表面化しにくい社会の条件に絡みとられているからである。虐待を見えにくくする社会を意識することが、援助の鍵を握っているといえるだろう。 
 

 
 第一章 臨床の側から見た性的虐待の定義
 奥山眞紀子は性的虐待と見なすかどうかのポイントを二つ上げている。一つは被虐待者の発達年齢やおかれている文化社会的状況の中で過度の性的な刺激となる行為で性的権利の侵害になる行為であること。二つ目はその行為が、被虐待者が子どもであることに起因する権力構造を背景に行われていることである。 
 クレア・バーク・ドラッガーは、カウンセリングを行う臨床の現場に適当である広義の定義として、性的虐待とは、身体的接触の有無に関わらず、加害者が性的・情緒的ニーズを満たすために、、暴力・地位・関係を利用して子どもに行った性的行為のすべてと定義している。 
 奥山の定義では子どもにとって性的刺激になりうるかどうかで虐待行為を定義し、ドラッガーは加害者側の意図に性的意味合いが含まれているかを問うている。
 またこの二つの定義を虐待防止法と比較した場合、大きな違いは加害者を保護者に限定していないことである。実際保護者以外(例:きょうだい。近隣住人・教師・親戚・保母など)から被害を受ける場合もあるので加害者は保護者というより「一方的な性に関わる行為を行える立場にある者」と見た方が、現実にあっていると言える。また、奥山とドラッガーの定義の虐待に当てはまる行為も、加害者側の性的ニーズという自覚が薄い場合や発達年齢に対して過度であるという見極め曖昧になりうることから「子どもが望まない本人又は加害者が性的な意味を含む行為のすべて。」としたい。

 
 第二章 性的虐待により考えられる影響
 1.身体的影響
 性的虐待による身体的虐待には
○性行為やそれに伴う暴力による傷害。
○性感染症
○妊娠等があげられる。
 性交や肛門性交の場合、膣口の拡大、膣口や肛門の裂傷・出血・変色・痛みなどが起こることがある。また、性器のいぼ、性器や喉の淋病、性器ヘルペス、尖圭コンジローマー、HIV感染など性行為感染症(STD)の危険性も考える必要がある。
 また広い範囲で身体的特徴に含まれる不安と苦悩の特徴として、、睡眠障害、食欲不振、拒食症、過食症、等の生活変容もあげられる。さらに喘息、湿疹、じんましん、腹痛や頭痛等の徴候を悪化させることもある。
 2社会的影響
 社会的影響は
○スティグマ
○社会的排除が言われる
 性という現代社会では制約や偏見が多いものに影響を受けることで性的虐待への偏見による二次的被害を受けることになる。
 また加害者が親族などの身内であった場合保護者という重要な基盤を失うこともある。
 3心理的影響
○解離その他の精神病、社会からの引きこもり。
○過剰な性行動の学習による性的行動化。低い自己評価と人の注目と愛を得るためにセックスを使う。落ち込んだ気分から抜け出すためにセックスをする。
○自責感、絶望感に至る。無力感。
○裏切られたとの思いを抱き、人を信頼できなくなり、世の中に敵対する。
 性的虐待を受けた子どもはPTSDの症状(記憶の侵入、回避と麻痺、覚醒レベルの上昇)が多いと言われる。また自己概念や自己認知に関して、罪悪感、否定的自己評価、自己避難といった現れ方をすることが多い。性的虐待の事実に対して子どもは自らの責任としてとらえる傾向が強く、その上に加害者が子どもに責任を転嫁する「説得と教育」を行うことが加わる。大人を中心とする社会では性的虐待の事実を受け入れないメッセージが繰り返し送られており、それを子どもが自らの内に受け入れることで罪悪感や自己避難が強化される。特に「自分を汚く感じる」と主張する子どもも多い。また低年齢で親からの性的虐待を長期にわたって受けた子どもの中には、性的虐待に関する加害者からのメッセージを身につけ、外化した行動をとろうとする。つまり子どもはふつうの生活で性的虐待とはよくある行為であるというメッセージを送られてきており、自分が疑似体験を行うことをふつうのことと感じていたり、そうすることによって自らが体験した意味を理解しようとするのである。中には親からの愛情と性を混同してしまい、愛情が欲しいときに性的な関わりを持とうとしてしまうことがある。
 心理面への影響は対人技術に関係し、性的虐待を受けた子どもは効果的援助を受けられないと以下の二つのうちどちらかになってしまいがちである。一つは自分の周りに他人との境界線を幾重にも張り巡らせてしまい、成熟した大人としての関係を持つことができなくなる。もう一つの傾向は自分自身の境界線も、また他人の境界線も認識できなくなり、人権やプライバシーを侵害することにもされることにも頓着しない大人になることである。
 例えばアメリカで売春婦を対象とした調査で子ども時代に性的虐待を体験した割合は57〜60%に達していたものや、オーストラリアでの研究で幼児猥褻罪の受刑者の800人を調べたところ、幼児期に性的虐待を経験していなかったものは1人だったというものもある。
 他に、虐待を繰り返し受けるということは、子どもは自分の嫌なことをやめさせることができず、無理矢理命令に従わされるため、無力な状態に恐怖を覚えるようにもなることがあり、この恐怖が一般化され、子どもは命令や規制に従うことに対して恐怖感を覚え否定的な反応を起こす、という報告もある。


 第三章 影響への援助
 性的虐待を受けた子どもへの援助をする場合、そのアプローチがさらに子どもの傷を深めないための配慮が必要である。
○子どもにワーカー・カウンセラー・教師・保母・その他が受容されていること。
○家族のいないところで面接すること。
○子どもとのコミュニケーションをよくするために人形を使ったり絵を描かせるなどの補助的な方法も考える。
○やりとりには子ども自身の言葉を使い、不明確な言葉は説明を頼むこと。
○「なぜ?」ではなく「どのように」とたずねる。
○親や加害者の状況を話すことへの子どもの恐怖や不安と、発達段階に配慮し、子どもを守ることを約束し安心させること。
 子どもが援助を受け入れられる土壌を作ることが必要である。
 1医療
 第二章であげた損傷やSTD、妊娠への診察のために性器診察が必要である。しかし被虐待児への恐怖感の少ない女性(得には男性もあるが)の産婦人科を紹介するためには女医はいまだ日本では少ない。性虐待に対応できる女性の産婦人科医や産婦人科の知識を持つ小児科医の把握をしておく必要がある。
 急性期対応の場合には膣内・肛門内の精子の有無が法的証拠になる場合もある。
 2心理
 心理面への援助は当然PTSDへの治療が重要である、虐待及び虐待者への感情を言語化したり他のワークによって整理し、トラウマワークを行い感情を整理することを手伝う。
 3教育
 子どもが幼い場合、自分が何をされたのかを表現する言葉や文化的定義を知らないため、事態を把握することができない。自分が体験したことがどういうことであるかを客観的に理解するための知識を子どもに与える。
 また、性的行動傾向を正したり、それまでに教わることができなかった正しい愛情と性の関係を教えることも必要となる。
 心理と教育の援助は子どもの発達段階によって相互に援助の後押しをすることがあり、援助者同士の連携が重要となる。
 4司法
 親権者が加害者である場合の親権剥奪等の加害者からの分離。また加害者が親権者であった場合もそうでなかった場合も、加害者を告訴する手続きをとるための司法の援助は必要である。
 親を告発する子ども、という現実に抵抗を感じる援助者もあるかもしれないが、告発することによって加害者側の日を明確にし、被虐待者の自責感を軽くしたり、法により守られているという安心感を得られたりする。 
 


  最後に
 児童への援助は児童と家族であったり児童と周囲の環境が軋轢なくシステムとして動いていくことを目指すことがあるが、性的虐待を受けた子どもへの援助は、被虐待者個人に特に注目し、社会と健全な注目つながりを持って生きていけるかに重点を置いてする援助を心がけたい。それは被虐待者が加害者の「公にしたくない」という意図を感じ取り、歪みを抱えたまま、表面を取り繕う適応をすることが多いからである。性的虐待への援助を考えるとき、一見何事もないように見える社会への適応システムを作っている子どものゆがんだ適応について考え、その歪みを健全な適応に導くことを目標にしなくてはならない。

参考文献:子どもの虐待とネグレクト 一巻一号
                       二巻一号
       子どのもの性的虐待 北山秋雄著
       メグさんの性教育読本 メグ・ヒックリング著
       子どもの虐待と性教育 浅井春男著 かもがわ出版
       私の体よ!(絵本)
              (教則本)
       虐待の仔


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