書評(ま行の作家)

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「愛という」  (前川麻子)  2001.10.31 UP
いつでも男らしく果敢に生きている紅美という女性の結婚と離婚の日々を通して「し あわせとは?」と問いかけるドラマチックストーリー。
婚約取り消しの経験を持 つ紅美は、友人が勝手に登録したお見合いサイトで出会ったコンビニの店長の店にバ イトに行き始める。
店長の両親に気に入られ、仕事も覚えた紅美は自然な流れで 店長の渡部と結婚する。
そして何となく一年が過ぎるが、昔の 映画仲間の石村 と再会して、自分がしあわせなのかわからなくなる。
また、バイトの若い青年と 映画の趣味が同じだったため、自然に二人で外出する機会が増え・・・

著者は女優であり、脚本家である。
2000年『鞄屋の娘』で第6回小説新潮長 編新人賞を受賞して小説家としてデビューしたという。
本人の経験が活かされて いると思われるちょっと不思議な作品である。
すごく現実的で、紅美も現代的な 女性なのだが、生き方はとらえどころがない。
彼女の周りの男性たちもごくごく 普通のどこにでもいそうな連中で、憎めないけど頼りないキャラ。
結局、何を表 現したかったのだろうか?という感じもするが、逆にこれほど現代をぴったり顕して いる小説はあまり無いのではないか。
走馬燈のように流れる出来事の中で何一つ はっきりしたものはなくても、人間はいつの間にか成長している、ということなのだ ろうか。
小説としての面白さがあり、非常に不安定な内容ながら、安定したスト ーリーだった。
感想書きながら自分でも???

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「猫ちゃんを救え!」(松浦美彌子)2001.9.13 UP
ノラ猫をめぐるトラブルに対して「地域猫」という考え方を提案・実践する著者が、 自らの体験を元に、ノラ猫の現状、「地域猫」の実践レポートなどをまとめた、人にも猫にも優しい街づくりの提案の書。

日本で年間30万匹もの猫が殺処分になっている現状に対して、飼い猫に対する飼い主の義務も勿論だが、ノラネコに対し、「地域猫」という考え方は、大変ではあるが、すばらしい試みであると思う。
「地域猫」は、現在地域に住み着いているノラネコを、1代限り、地域住民が新しい飼い主として適切な飼育・管理を行うこと。
住民との対話、行政との連携、不妊&去勢手術、エサやりのルール化、フンの処理 ・清掃など、やることはたくさんあるが、反面、これらの点をしっかり押さえればほ とんどトラブルはなくなるのではないか、という主張には整然とした裏付けがあり、共感できる。
感情面のみに左右されない、というのがポイントのようだ。
猫は計算上、1年で80匹に増えるらしいので、のたれ死にする不幸な猫が生まれる前に、人間がある程度管理することが、これからますます重要になってくるのではない か、と思う。

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「銀杏坂」 (松尾由美) 2002.3.8 UP
中央署の木崎刑事は、若手の吉村刑事とともにアパート「さつき荘」で起こったダイ ヤ盗難事件を担当する。
さつき荘は、以前住んでいた諸橋佑香が交通事故で亡く なってから幽霊として出没するようになって、借り手がいなくなり、管理人一家以外 には、被害者の黒沼瑞江がいるだけだった。
ダイヤのブローチが紛失したとき、 外部からの出入りはなく、警察のアパート内の捜索にもかかわらず、ダイヤは消えて しまった・・。という「横縞町綺譚」を始め、超常現象のからんだ計5編からなる連 作集。

アパート内でのダイヤの消失、旦那を殺す未来予知をする女性、殺人現場近くで目撃 される青年の生霊、ビー玉を浮かばせる少年の身近に起こった密室殺人、空港での人 間消失・・・。
霊やら超能力やらの超常現象が関わる珍事件を次々と担当する木 崎刑事が、この作品の探偵役である。
SFミステリとして分類するのが適当だと 思うが、内容はかなり変化球気味である。
一番目の作品での諸星佑香の役割がな かなか印象的で美しささえ感じるが、ミステリ的にはラスト2編が好作品か?
特 に空港内の人間消失は見事な消失トリックである。
連作集としての全体の構成も よく考えられており、やや目立たない作品ではあるが、松尾由美らしい1冊ではない だろうか。

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「恋火」 (松久淳+田中渉) 2003.1.21 UP
ピアノ教室をリストラされたピアニスト健太は、アロハシャツの男から「本屋でバイトしないか」と声を掛けられる。
翌日、目が覚めると、健太はいつの間にか天国の本屋に来ていて、そこでバイトを始めるのだった。
一方、商店街の青年団で活動する香夏子は、怪談大会の失敗でイライラしていたが、ひょんなことからかつて行われていた花火大会のことを知る・・・

美しいメロディーを奏でるようなピュアストーリー。
複雑な展開の多い現代小説にあって、宝石のような輝きを放つ貴重な小説という印象を受けた。
「天国の本屋」での健太とピアノ弾きの女性の出会い、香夏子と花火師との出会い、交互に展開する二つの物語の行く末は、読者の期待を決して裏切らない。
確かに恋愛ストーリーではあるのだが、露骨にそれを表現しているのではなく、むしろ健太や香夏子のユーモラスでさっぱりした生き方を前面に出して、それと対比させるように過去の男女の物語を綴っている手法が素晴らしい。
「恋火」というタイトルも気に入ったが、シンプルでありながら奥の深い物語の構成も感心せざるを得ない。
そして文章の美しさも印象的であった。

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「あいにくの雨で」(摩耶雄嵩) 2001.1.30 UP
塔で殺人。発見者は少年3人。雪上には塔に向かう足跡1つ(雪の密室)。
本格トリック小説と思いきや、いきなり13章から始まり、密室トリックはあっさり解明される。しかし、これが後に非常に大きな意味を持つのである。
田舎の高校が舞台であるが、超管理主義の生徒会の内紛と連続殺人を組み合わせ、意外な展開へとつながる。プロットとしてはよく考えられた青春ミステリで、立派な本格であるが、異様に先鋭化している高校の様子が、現実離れしていて、気分的に後味は良くなかった

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「M.G.H.楽 園の鏡像」 (三雲岳斗) 2001.4.29 UP
鷲見崎凌は、森鷹舞衣の強 引な口説きに負け、偽装結婚して多目的宇宙ステーション「白鳳」に旅行する事にな った。
そこで新婚の加藤夫妻、ミュージシャンと女優のカップルの瀧本拓也・水 縞つぐみと知り合いになる。
白鳳に着いた凌たちは、無重力ホールで、与圧服を着 た瀧本博士の死体を発見する。
だが、その死体は無重力状態の宇宙ステーションではあり得ない墜落死の状態だった。
続いて、客の一人が部屋を出た途端、肺 胞破裂して死ぬという不可思議な事件が起こる・・・。

導入部において、凌と舞衣の軽快なやり取りは、物語に入りやすく明るいイメージを つくることに成功している。
白鳳についての細かい構造までは理解してないが、 丁寧な図が挿入されていて、状況把握するのに大いに役立った。
無重力での墜落 死というとびっきり魅力的な謎が提出されるのが良い。
二番目の圧力変化による 死の謎も興味深い。
一番目の死のトリックは発想の盲点を突いたもので、単なる 機械的トリックでなく、SF的舞台を最小限に利用してシンプルに作り上げられてお り感心した。
二番目の死はやや簡単かも知れないがこれも柔軟な発想の勝利であ ろう。
犯人当てとしての伏線などは弱いが、本格理系ミステリ、しかも素人にも 分かりやすいミステリの代表例であろう。
全体を通じて、ストーリーや登場人物にあまり無駄が無く、本筋を追って読めるので 非常に楽だった。
会話において、沈黙の「・・・・」を多用しているのが気にな ったが、ウイットに富んだ理解しやすい会話がなされ色を添えている。
凌と舞衣 、或いはその母親たちにも個性的な魅力があるので、今後シリーズキャラクターで使 って欲しいと思う。

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「十八の夏」(光原百合) 2003.5.13 UP
予備校生の信也は、土手で絵を描く紅美子と知り合い、同じアパートで半一人暮らしを始めるのだが・・・。
第55回日本推理作家協会賞を受賞した表題作ほか、「ささやかな奇跡」「兄貴の純情」「イノセントディズ」の全4編収録。

光原作品の魅力満載という印象だった。
表題作は、恋愛ミステリの部類に入るだろうか。
意外な展開になってゆき、充分興味深く読ませてもらったが、連城三紀彦風でもあり、受賞には納得できる。
シンプルなストーリーで気持ちよい「兄貴の純情」、法月作品と連城作品が融合したような「イノセントディズ」もそれぞれ楽しませてもらった。
しかし、一番のお気に入りは「ささやかな奇跡」。
ミステリ的小道具もさることながら、すがすがしい恋の話で感動的だった。
重松清風でもある。
主人公の水島の人柄が穏やかで、それが素朴な魅力をかもし出している。

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「時計を忘れて森へいこう」(光原百合) 2001.6.2 UP
主人公の女子高生若杉翠は清海にあるシーク協会の森へ通うようになった。
校外学習の際に森で迷子になり、自然解説指導員の深森護と出会ったのをきっかけに・・・。
学校で起こった体罰めいた事件に心を痛めた翠は、深森に意見を求めるが、深森は意外な真相を口にする・・・。

主人公の若杉翠の純真さと深森護の包容力のあるやさしさにすごく惹かれる。
北村氏の「私」と 同じ様な主人公であるが、ストーリーも日常ミステリの模範のような内容である。
文章全体に落ち着いたやさしさが感じられる。
深森護と同様、自然体のやさしさのようだ。
時折見せる若杉一家のほのぼのとした仲の良さはすごくあたたかい気持ちにさせてくれる。
親子や結婚の問題を通して家族が重要なテーマになっている。
「謎解きが弱い」という評価も聞くが、決してそんな感じはしなかった。
深森護の推理には美しさがあるし、鋭い。
光原さんというのはすごく文章のうまい人だと思う。
真面目な部分と雰囲気作りのための部分の使い分けが天才的で、読みながら重くなることも軽くなることもなく、いつの間に か自然にストーリーのなかに自分が溶け込んでしまう。

と、二話まで読んだ時点で、待ちきれなくてここまで書き連ねたが、第三話がまた泣けてくるような物語だった。
どうしてここまで深く人の心に入れるのか?
自然を感じる心はそのまま人に対しても無条件に依頼できる心と一緒なのであろうか?
トラストフォールしたら、自分の心の素直さの程度が正直に出るかも知れない。
文章にすると自分の感動を語り尽くせないもどかしさしか残らないが、実際にはここに書いた何倍もの様々な思いが、自分の中を駆けめぐっている。
作者もあえてミステリとは言い切っていないが、こういう上質の日常ミステリならいくらでも読みたいと思う。
「空とぶ馬」(北村薫)にめぐり会った時以来の感触かも知れない。

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「蒲生邸事件」(宮部みゆき) 2001.3.14 UP
予備校受験のために東京のホテルに泊まっていた尾崎孝史は、火事に巻き込まれ死に そうになるが、謎の中年男に助けられ、気が付くと、昭和11年2・26事件真っ最 中の東京にタイムスリップしていた。
平田と名乗るその中年男とともに、元陸軍大将の蒲生憲之邸で働くことになる。
そして、歴史の事実通り、蒲生憲之は自殺するが、拳銃が見あたらないという謎が・・・

やや、ご都合主義的な設定ではあるが、登場人物の一人一人が実に丁寧に描かれており、ドラマを見ているようだった。
最初戸惑っている孝史が、段々この時代に惹かれて行く様子を追いながら、いつの間にか自分がその世界にどっぷり浸っているのに気が付く。
貴之は何を隠しているのか?珠子は何を考えているのか?
黒井は何をしたのか?蒲生大将の心替わりの原因は?
そして平田はこの時代で何をやろうとしているのか?
自殺なのに、凶器が無いという謎よりも、こういった物語全体の謎が非常に魅力的であった。
後半、明らかになってゆく真相には、それぞれにいろんな思いや願いがこめられていて、どれをとっても欠かせないエピソードであるように感じた。
歴史の重みの前に、一個人では何もできないという歯がゆさはいつの時代でも普遍的なテーマではないだろうか。
後半はただただ一読者として、登場人物とともに泣いたり喜んだりして、とても充実した時間を過ごさせてもらった。
宮部作品の醍醐味を余す所なく満喫出来る名作だと確信します。

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「龍は眠る」(宮 部みゆき) 2001.4.17 UP
台風の中、高坂が拾ったヒ ッチハイカーの少年、稲村慎司は他人の心が読める超能力者だった。
雨の中、マンホールの蓋が開けられ、7歳の子どもが転落死する事件に遭遇した二人 だったが、慎司には犯人が見えていた。
証拠もないまま、犯人を問いつめにゆく 二人だったが・・・。
そして、慎司は超能力者なんかじゃない、と主張する織田 直也という少年が現れる。
一方、高坂のもとに、白紙の怪しい手紙が届くように なる・・・。

「蒲生邸事件」や「クロスファイア」と同じく超能力者を扱った作品であるが、他人 と違った能力を持っているがために苦しむ姿が、赤裸々に描かれている。
他人の 気持ちが分かってしまうことが日常生活に置いてどんなに怖いことかものすごくリア ルに伝わってくる。
人間誰しもそうなったらいいな、と漠然と考えたりするもの だが、現実にはその曖昧さがあるからこそ、楽しく暮らせているのかも知れない。
慎司や直也そのものでなく、高坂の視点で二人の気持ちを推し量って行くあたりは 、「火車」にも通ずる手法である。
後半の誘拐事件は展開が全く予想できず、終 盤にかけて段々小説としての面白味が増してきた。
「蒲生邸」程の完成度はない が、結末の処理の仕方もうまく、読後感の良い作品に仕上がっている。

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「失われた序曲」(夢羽)2001.7.11 UP
クレタ王ミノスの第五王子は、異形の化け物であった。
彼は成長するにつれ、殺 戮を繰り返すようになり、皆からミノタウロスと呼ばれ、恐れられるようになった。
唯一理解し合っていた姉のパイドラも、兄殺しの罪で二十年間の謹慎を申し渡さ れてしまう。
工匠ダイダロスは、ミノス王に脱出不可能な牢獄を造るよう命じら れる。
ダイダロスは、海の民の力を借りに航海に旅立つが・・・

デビュー作「時の鎮魂歌」の姉妹編であるが、こちらはダイダロスを主人公とする神 話の世界の話である。
ギリシア神話には詳しくないのでどこまでが定説なのかよ くわからないが、ダイダロスの深謀遠慮の様子がよくわかる。
やや通俗的なので 哲学的な深みは前作に劣るが、エンターティメント性は高くなっていると思う。
神話に基づいているだけあって、実に面白い読みものである。
デビュー作で明かされなかった迷宮の謎が、本作で解明されていることを考えると、 二作合わせて、ミステリの前編・後編とも言えるかも知れない。
尤も、探偵が事 件を推理するのではなく、時間をさかのぼって事件そのものを描写しているだけなの だが。

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「時の鎮魂歌」 ( 夢羽) 2001.4.25 UP
ランス・ドノヴァンは高校時代に神話狂いの女教師ヘレンの影響を受け、ギリシア悲 劇へと傾斜してゆく。
ニューヨークの大学に入学した彼は、真剣に考古学者への道を めざし始める。
そして、大学に入って3年目、初めて地中海へと飛ぶ。
クレタ島につ き、クノッソスの遺跡を徘徊している途中で、クノッソス全体の見取り図と思われる 図面を発見する。
数年後、ジェニファー・ウッズと結婚した彼は、彼女の強いすすめ でこの図面の現地調査を開始するが・・・。

これは、ミステリでなく、神話をモチーフにしたファンタジー冒険活劇である。
ドノ ヴァンの人となりを人物史的に描いた前半と、地下迷宮での恐怖のサスペンスで盛り 上げる後半。
26歳の大型新人のデビュー作だというが、ストーリー展開そのものは 目新しいものが有るわけではない。
しかし、深いギリシア神話の考察を背景に、奇想 天外な物語に仕上げているのは素晴らしい。
後半は活劇風になったが、登場人物の心 理関係も面白く、一応無理なくまとめられている。
新人ながら、400Pを一気に読 ませる力量を持った人である。

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「藤田先生のミス テリアスな一年」 (村瀬継弥)  2001.4.13 UP
主人公中村の小学6年生の担任だった藤田先生は、時々、魔法を演じて生徒達に教訓 を教える先生だった。
その魔法の数々は、実に不思議で大人になった今もまだ種 明かしされてなかった。
藤田先生の入院や同窓会を経て、段々種明かしされてゆ くのだが、その奥には深い事情が隠されていた・・・。

全体を通して、ほのぼのとしたミステリとなっているのが良い。
文章は決して卓 越したうまさがあるわけではないが、小学校が舞台ということもあってわかりやすく 書かれている。
いきなり、魔法が幾つも登場するのだが、どれも魅力的な謎であ る。
ミステリというより、奇術小説という感じだが、種明かしまでの過程も楽し め、長編小説としての意義がある作品になっている。
藤田先生が、なぜ、1年間 だけ、魔法を使って教えたのかがメインの謎になっていて、その真相もなかなかよく 考えられている。
びっくりするような驚きがないかわりに、なるほどと思わせる場面の連続で爽快感が あった。
殺伐としたミステリの多い昨今においては、こういうミステリの存在は ものすごく貴重だと思う。

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「約束」  (村山由佳)  2001.10.15 UP
小学3年生の僕ワタルは仲のいい3人の友達(ヤンチャ、ハム太、ノリオ)といつも つるんで遊んでいた。
しかし、ある日、ヤンチャが原因不明の病気で緊急入院し た。
やっと見舞いの許しが出て3人がヤンチャのもとを訪れると、そこにはやせ 細った腕、白っぽく濁る目、あちこちに浮き出している赤い発疹・・・青白く弱々し いヤンチャがいた。
3人はヤンチャのためにタイムマシンをつくる約束を交わし 、秘密基地となった倉庫で一生懸命に作り始めた・・・。

友情、人間、自然、死、病・・・、幾つものメッセージのこもった温かくも哀しい、 そして希望の物語である。
本物のタイムマシンなんて作れっこない、とわかって いながらも、わずかな可能性を信じて淡々とつくりつづける少年たちの心中はいかな るものであろうか?
そして完成したとき、一瞬でも現実を忘れ、その世界に入り 込んでいったのは彼らだけでなく、読者であるおとぎ自身もだった。
タイムマシ ンで未来に行って医者を連れてくる、というそれだけでは解決しないのではないか、 という問題も持ち出され、現実はそれほど甘くないという側面にも触れられており単 純そうに見えて、なかなか深い小説である。
小・中学生の読書感想文などにはい い題材になるかも知れない。

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「カラフル」 (森絵都) 2003.5.11 UP
ぼくは死んで魂になって流されていたが、天使が出てきて「再挑戦」のチャンスを与えるという。
天使プラプラのガイドでホームスティ先に降り立ったぼくは、自殺を図った少年、小林真の体に入った。
入院している間の家族の様子を見たぼくは安心するが、退院した後、徐々に家族の本性が明らかになってゆき・・・

児童書であるが、たくさんの人が気に入っている本なので読んでみた。
設定は、死んだ魂が別の体に移って復活のテストを受けるというもので、面白けどちょっとありがちかな、と思った。
前半は割と淡々としていて、内容的にも児童書としてはどうかな?というような感じがして、特に良い悪いは評価できなかった。
しかし、途中から話は一転して急に面白くなってきた。
そして、ラストがまたすごい!
作中でも雷が出てくるが、まさに雷に打たれたような衝撃だった。
これが児童書なんて勿体無い!
最初に感じたのと違う意味で、児童書にはふさわしくない、こんな素晴らしい本は大きくなってから読んでね、と言いたいぐらい。
家族や友人に関しても、最初はさして目を引かれなかったが、後半はそれぞれの特徴が際立ってきて、それぞれがこの小説を軸にバランスよく収まっている。
特に母親のキャラは最高である。
前半だけなら並みの物語で終わってしまうが、後半まで読むと作者の驚くべき才能に気づかされる。
この作者の他の著作も読んでみたい。

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「奥様はネットワーカ」 (森博嗣) 2003.1.28 UP
某大学の化学工業科の秘書、内野智佳は、同じ大学の助教授三枝と結婚していたが、研究室内では内緒にしていた。
パソコンで日記をつけたり三枝にメールを出したりしているが、それをサーバの管理者堀江助手は盗み見していた。
ある日、学内で友人の奈留子が何者かに襲われるとともに別の女性が殺される事件が起きた・・・

これは森さんならではだなあ、というのが読後の第一感。
文体は完全に森氏独特のものだが構成もかなり奇抜でこのような作品が成り立つのは知名度の成せる技であろう。
普通の人がこれを書いたら手抜きと言われそう(笑)
登場人物も限定されていてストーリーも単純だが、さすがにすんなりとは終わらない。
ただ、ミステリとしてはどうか?
仕掛け自体はかなり思い切ったことであっても使いかたがベストとは言えないと思う。
「SMシリーズ」で仕掛けと構成全体のバランスが非常に巧くかみ合っていたように感じたが、「Vシリーズ」以降やや不発花火的なきらいがあり、本書もその延長線上にある。
斬新な企画であることは評価に値しても完成度はやや低いかなあ。まあ、面白かったけど。

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「幻惑の死と使途 」 (森博嗣) 2001.2.24 UP
天才奇術師・有里匠幻が、 衆人環視の中での脱出マジック実演中に殺される。
さらに、葬儀の際、棺の中から、 匠幻の死体が消えるという事件が・・・。後日、同様のマジックショーを演じた弟子 までも・・・。
毎回密室等の不可能犯罪に挑む犀川・萌絵コンビだが、今回の事件は もともと不可能要素のあるマジックとの関連なので、単純なのにスケールの大きな謎 になっている。
解決を読んで、トリックとマジックは根本的には一緒な性質のものな のだ、とあらためて思った。
犀川のきれの良い応答も、このシリーズの楽しみの一つ である。
二人に比べると、脇役の面々は、やや影が薄いが、普通の人の代表のような 浜中の存在によって、ぐっと親近感の増す小説になっているのではないだろうか。

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「工学部水柿助教授の日常」(森博嗣)2001. 6.24 UP
国立大の工学部建築学科の水柿助教授の日常を描くエッセイ風ミステリ。
鉄道模 型やラジコン飛行機、奥さんの須摩子さんとのやりとり、三重県のM大での助手時代 の日々などをつれづれなるままに書き綴っている。

小説とエッセイのギリギリ中間のところか?
これをミステリと呼ぶには勇気が 要るけれども、はっきり言って面白い。
最初から最後まで、HPのカキコが続い ているような軽さで、実は密かにこういうのを書いてみたいと思っていたりする。
どこまで本人の体験なのか定かでないが、何かのんびりしていて楽しい人生だな あと思う。
森さんは三重大にいたのだろうか?
もしそうならおとぎの近くに 住んでいたことになる(あ、でも時間差があるか)。
津の町をこれほど悪し様に 言われて三重県人はだまっちゃいない、と言いたいところだが、大半の人は思わず納 得してしまうかも(笑)。

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「月は幽咽のデバイス」(森博嗣) 2001.8.28 UP
薔薇屋敷、月夜邸、黒竹御殿などと呼ばれる篠塚邸で女性が殺された。
密室状況 のオーディオルームには、水が大量にこぼれており、グラスの破片が散らばっていた。
瀬在丸紅子や保呂草潤平らは、偶然そこに居合わせたため 、その後の捜査に関わることになるが・・・。

保呂草の存在意義や紅子と七夏との駆け引きなど、Vシリーズとしての進展は見られるが、ミステリとしては、オーディオルームの不可解な状況の一点に集約され、しかもやや期待はずれ期待はずれの解決なので、作品自体の出来としては不満である。
ここまでの3作とも、犀川シリーズと同じように不可能状況の設定などの演出には変化がないが、切れ味が見られないのが残念だ。
紅子が中心とはいえ、他の人物との差が、犀川ほど際だってないせいでキャラのまとまりもやや散らばり気味である。

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「夏のレプリカ」 (森博嗣) 2001.5.1 UP
西之園萌絵の親友、簑沢杜 萌が帰省すると、家政婦一人を残して、家族全員外出していた。
兄の部屋には鍵 が掛かっていた・・・
翌朝、仮面の男が侵入してきて、杜萌を拘束する。
家 族3人を誘拐したという。
その後、杜萌の運転で家族3人が拘束されている山荘 に向かうが、何と犯人2人は車の中で射殺死体となって発見され、仮面の男は車で逃 げ去った・・・。

読み終わってみると、なるほどと思う場面に思い当たる。
事件全体に華々しさがない分、「幻惑の死と使途」に比べ、謎の魅力に乏しいが 、仕掛けはもしかしたらこちらの方が手が込んでるかも知れない。
杜萌の盲目の 兄、素生のエピソードを入れることで、物語全体のイメージを装飾しているのと、後 半の劇的なシーンの演出によって事件の不合理な部分を隠してしまっている感じを受 けた。
伏線・推理・真相という本格ミステリの要素はしっかりそろっているのだ が、やや、トリックのために設定された事件という印象はぬぐえない。
細部にこ だわらず、大枠で納得させるのは森氏らしいが、理系のミステリからはややはずれた 内容になっている。

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「魔剣天翔」 (森博嗣) 2002.2.22 UP
保呂草、紅子、紫子、練無の4人が見に行った航空ショーで、2番機と3番機が接触 して墜落した。
しかし、墜落した機体の中から見つかったのは、西崎勇輝の他殺 死体。
しかも、後部座席に座っていた西崎は、背中から撃たれていた。
同乗 していた女性、斎藤静子こと各務亜樹良は、保呂草がある美術品に関して依頼を受け ていた依頼人で、保呂草は彼女とともに逃走する。
空中で起こった不可能殺人の 謎を推理する練無たちであるが、死んだ西崎が最後に口に入れた3センチほどのガラ ス管の謎も含め、なかなか真相にたどりつけない・・・。

Vシリーズ5作目。
今回は空中密室の謎だが、割とシンプルで読みやすかった。
小道具の使い方やメイントリックも成る程と感心したし、人間関係もそこそこの 仕掛けがあって好感が持てる。
いつものようにやや強引なアクロバットではなか ったので、その分、会話の面白さを楽しむことが出来た。
Vシリーズを読むとい つも感じるのだが、ミステリのネタとしてはかなり大胆な驚くべきネタを駆使してい るのに、惜しげもなく紅子に平然と語らせるあたりが、森さんが天才たる所以だと思 う。
特異な存在ではあるが、紅子の人間性に徐々に魅力を感じるようになってき た。

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「まどろみ消去」 (森博嗣) 2001.6.13 UP
著者初の全編書き下ろし短編集。
作品毎に質の違う仕掛けがあるなど内容の充実 した作品集である。

『虚空の黙祷者』
ミドリは5年前に夫を殺され、息子とともに引っ越すことになるが、夫の親友の住職 からプロポーズを受けたミドリは・・・。

複雑な心理戦の末たどり着いた結末は読後感が良い。
この後味の良さがこの作品 の魅力である。

『純白の女』
ユリカが駅に降り立った時からのユリカの視点で描く不思議な現象と心情。
一連 の流れの真実は何なのか・・・。

仕掛けのある短めの短編だが、幻想・ホラー的要素を取り入れ独特の仕上がりになっ ている。

『彼女の迷宮』
夫の朝倉のふりをしてミステリ原稿を書いていたサキの運命は・・・?

ちょっとしたホラーである。

『真夜中の悲鳴』
阿竹スピカと石阪トミオミが実験中に遭遇した不思議な事件を描く。

事件そのものは目新しくないが二人のやりとりと最後のオチがうまい。
読後感の 良い作品である。

『やさしい恋人へ僕から』
僕とスバル氏の出会い。
変わった行動をするスバル氏にだんだん惹かれていく僕 だが・・・。

作者の意図は途中でわかったが、作品全体を通して非常にあたたかみのあるストーリ ーになっていて、スバル氏も すごく魅力的で愛らしい人物に描いてあるのが良かっ た。

『ミステリ対戦の前夜』
ミステリ研究会の競作発表会の審査員として呼ばれたモエ。
発表される部員の作 品に次々と痛烈な言葉を投げかけるモエだが・・・。

部員の作品がくだらないが結構面白い。
メインの仕掛けは別にあるのだが、パロ ディ作品として読むとなかなか良作である。

『誰もいなくなった』
ミステリツアーに参加した牧野ヨーコと浜中フカシ。
30人の踊るインディアン が消えた謎に振り回される。

犀川のすごさが際立っている。
トリックはちゃっちいが謎は魅力的であとはキャ ラで読ませている感じ。

『何をするためにきたのか』
甲斐田フガクはキャンパス生活で毎日意味ない暮らしを送っている。
そして、フ ミエ、ワタル、ゲンジなど変わったメンバーと出会うのだが・・・

これは現代ならではのオチ。
こういう描き方もあるのか、と感心した。

『悩める刑事』
キヨノとモリオの夫婦。
仕事を辞めてきたモリオは・・・

この仕掛けには完全に脱帽。
伏線がお見事!
さらにストーリー自体にもやさ しさがあふれ出ているのが良い。
この短編集の中でベストの作品かも知れない。

『心の法則』
モビカ氏の姉は、石を集め、色を塗る・・・

話の内容を完全に理解できていない。
こういうぼやっとした作品はやや苦手であ る。

『キジマ先生の静かな生活』
キジマ先生の生活ぶりを私の視点で描く。

オチがあるようなないような、これも意図するところがよくわからなかった。
ただ、何となくすっと読める作品ではある。

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「夢・出逢い・魔性」 (森博嗣) 2002. UP
クイズ番組の女子大生大会に出場するために上京してきた保呂草、紅子、紫子、練無 の4人は、スタジオ内で柳川プロデューサーが殺されるという事件に出くわす。
最有力容疑者のタレント立花亜裕美は、練無とともに謎の失踪を遂げる。
別の用 件で呼ばれていた探偵の稲沢とともに事件に巻き込まれてゆく4人だが・・・

Vシリーズ4作目にあたる作品だが、事件が淡々と進む割には、主人公の4人組がご ちゃごちゃして読みにくいのはいつも通りである。
銃声が一発なのに、死体には 傷が二つ、という不可解な謎が提示されているが、物語に占めるその謎の比重はとて も軽い。
いつの間にかページが進んでる感じだ。
シリーズキャラで読ませて いるという印象は否めない。
しかしながら、最後まで読むと必ずあらためて作品 の良さを見直すことになるのは、Vシリーズの忘れてはならない特徴であろう。
SMシリーズでも多少その傾向が見られたが、Vシリーズは特に顕著である。
ただそのトリックの使い方がイマイチで、これまでの作品も仕掛けの大きさの割には 不発に終わった感があった。
しかし、本書はその点、納得のゆく結末で合格点で ある。
ミステリとしての評価は?だが、ネタには脱帽しよう。

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「恋恋連歩の演習」 (森博嗣) 2002.3.4 UP
探偵の保呂草は、ある目的のために、世界一周の豪華客船ヒミコ号に乗り込む。
助手として同乗した紫子のほかに、なぜか、練無と紅子まで一緒に乗り込んでしまう。
そこで、銃声のあと、男性が消失する不思議な事件が発生する。
またもや、偶然居合わせた祖父江刑事の指揮のもと捜査が始まるが・・・

うーん、これはいい。
すごく素敵な小説。
Vシリーズの流れの中で、シコと 保呂草の関係が進んでゆくのも読みどころだったが、羽村と梨枝の物語がとても美し い。
豪華客船からの男性と絵画の消失、という不可能犯罪の謎も、いつもながら のキレのある真相で良かったのだが、途中の論理展開はミステリとしてはややトーン ダウンした感じで、この本はミステリというより恋愛小説としての印象が強い。
Vシリーズの中でも異色といえるのではないだろうか。
作者の意図はある程度予 測出来たのだが、それ以上にラストはホロリとさせられた。
Vシリーズの今後が 楽しみになってくるような作品だった。

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「長安牡丹花異聞」(森福都)2001.7.14UP
中国の歴史事実を下敷きに、美しいエピソードを創り上げた異色の短編集。

『長安牡丹花異聞』
表題作。唐の玄宗皇帝の時代。
少年黄良は病気の母親が桃を欲しいというので、大切に育て上げた牡丹花を売りに出 した。
買ったのは衛士歳崔融であったが、何とそれは万銭の値打ち がある夜光牡丹だった。
崔融は曹小蘭という娘の借金を肩代わりすべく、この 夜光牡丹で一儲けしようと黄良に持ちかける。
二人は計画を練るが・・・

最初のページから長安の情景が思い浮かぶような名文の連続である。
知らな い言葉が幾つもあるはずなのに、知らず知らず引き込まれてしまう。
暗闇に光を 放つ牡丹花という題材が美しい。
崔融と黄良がいかにして大金を手にするか? が読みどころなのだが、後半の展開はなかなか劇的で、意外な真相も用意されている 。
ミステリとは言い難いが、エンターテイメントとしては一級品であろう。
この短編は、第三回松本清張賞を受賞している。

その他「累卵」「チーティング」「殿」「虞良仁膏奇たん」「梨花雪」を収録。


「まやかし草紙」   (諸田玲子) 2001.2.22 UP
平安時代、貴族社会での殺 人事件の謎。
傑作!後半150ページあまりを一気に読んでしまった。
王朝 物特有の言葉の難解さも苦にならない。弥生と音羽丸の恋愛物語もからめ、謎の連続 、スリルとサスペンスあり、こういうのを息もつかせぬ面白さというのではないか。
平安京の内裏を中心とする閉じた社会での、複雑かつ微妙な人間関係。犯人は誰 かという興味もさることながら、解いて行く過程が小気味よい。
物怪や琵琶の祟 りなど絡み、多くの人が死に至るが、残酷さが弱く、救いがある気がする。
ホラ ーっぽい趣向でありながら、白楽天の明るい人柄によって、ある意味ハッピーな小説 になっている。
物語性を供えた一級ミステリーとして、申し分ない作品である。
王朝物では、「源氏物語人殺し絵巻」(長尾誠夫)以来、久々の快作と出会えた 気がする。素晴らしい。

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