書評(さ行の作家)

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「大統領のクリスマスツリー」 (鷺沢萌)2002.5.28 UP
香子と治貴はお互い日本人留学生としてワシントンで知り合う。
治貴は司法試験に合格して弁護士になるなど、二人は一緒に暮らしながら次々と夢を実現させて行くのだが・・・

アメリカで出会った治貴と香子の幸せな日々を、主に香子の告白調で語るラブストー リーなので、なんとなくストーリーの予測がついた。
ドラマとかにもよくあるパ ターンだ。
鷺沢さんの文章は読みやすく、感情がこもっているので、いつの間に か引き込まれるのだが、ちょっと分かり易過ぎるかな?という印象だ。
「大統領 のクリスマスツリー」という小道具をきっちり物語りにはめ込んでいるのが、あまり に正統的で模範的なラブストーリーではあるかもしれないが、やや物足りなさを感じ る。
治貴と香子の人となりがすごく詳しく描写されているので、二人の像はイメ ージできるのだが、底にある感情まではなかなか踏み込めない感じがする。
ただ 香子の治貴に対する心情は部分的に巧く的確に表現されていて、女の人なら共感を覚 えるだろう。

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「崖の館」(佐々木丸美) 2001.2.26 UP
昭和50年代前半に書かれた埋もれた名作ファンタジーミステリ。
詩のような短文が連なる独特の技法は、状況がわかりづらい面はあるものの、全体を覆う不思議な印象を醸し出し、そこに、この小説の美しさがある。
2年前に死んだ女性の死の真相を探る崖の館の男女。
無邪気さの残る主人公の視点で、登場人物のさりげない仕種を描き出す。
密室を初めとする小トリックをいくつか使い、伏線もあるなど、本格の骨格もしっかり持った作品。
ただ、ぼかし気味の描写からすると、ファンタジーミステリ として読むべきだろう。
現代の新本格とも違う、独自の世界を構築した隠れた傑作であろう。

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「時の渚」 (笹本稜平)  2002.8.23 UP
元刑事で私立探偵の茜沢圭は、松浦老人から人探しを依頼された。
若い時に子供 を産んだ直後の妻を亡くし、赤ちゃんを抱え途方に暮れていたところ、赤ちゃんを引 き取ってくれる女性があらわれ、彼女に子供を渡したのだが、その後の消息が不明で あるという。
死を間近に控えた松浦老人の依頼を引き受けた茜沢は、それが自身 の事件にも結びつくことを知って行く・・・

第18回 サントリーミステリ大賞・読者賞ダブル受賞。
「午前三時のルースタ ー」にも似た人探しミステリなのだが、どうもこの手の地道に辿ってゆくストーリー は退屈で苦手だ。
文章もやや未熟さが感じられ、人物にも思い入れがしにくい。
しかしながら、後半急速にまとまってゆくストーリー展開には唸らされた。
そして意表をつく真相!
ミステリとして評価するならこの点に尽きる。
読み 終わり、全体像を振り返ってみると、前半部分も非常にコンパクトに書き綴られてい る印象に変わってきた。
あまり無駄の無い好作品かもしれないと思い直した。
ラストは感動的なシーンだが、文章のほうが設定の味わい深さに追いついていな い感があり、それが少し残念だった。

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「ジャンプ」 (佐藤正午)  2002.8.23 UP
三谷純之輔の恋人南雲みはるが、リンゴを買いに出かけたまま行方不明になった。
三谷はリンゴを手掛かりに南雲の行跡をたどり、次々と事実が明らかになってゆ くが、肝心の南雲の行方は全く掴めなかった。
失踪の原因に心当たりのない三谷 は、南雲の友人や姉から話を聞くが、そうしている内にも数日が過ぎ・・・

佐藤正午氏は初読みだが、本書でその感性に感心した。
主人公が恋人である女性 の失踪の謎を探って行くわかりやすいストーリーなのだが、真相の見事さは並みのミ ステリ以上だ。
文体はどうも好みに合わなくて、途中退屈だったが、仕上げが非 常に巧い。
ラストの処理の仕方は単に感動して終わるという感じではなく、なん となくさわやかな印象を残す。
失踪というやや暗めのテーマを、こういう形で終 結させられるという点に、独特の才能を感じる。
再読したくなるような重みのあ る小説ではないが、ただの小説とも一味違う一風変わった面白さのある小説だ。
内容は明らかにミステリなのだが、作者が表現しようとしたのは、ミステリではなく 、POPな恋愛小説なのかもしれない。

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「神様がくれた指」 (佐藤多佳子) 2002.5.6 UP
スリで刑務所に入り、出所してきたばかりのマッキーこと辻牧夫は、ことも あろうか、電車の中で同乗していたママの財布を掏られてしまう。
しかも少年少 女のグループに。
彼らを追いかけたマッキーだが、逆に怪我をさせられ、昼間と いう名の男に助けられる。
昼間は、普段「マルチェラ」と名乗り、占い師をやっ ている男で、辻は彼と同居しながら、少年グループを探し始めるのだが・・・

読み始めの印象は「しゃべれどもしゃべれども」ほどの面白さがなく、普通 の話のような感じだった。
今回はスリの話で、かなりミステリ色が濃いというこ ともあるが、明るさがあまり感じられないこともその一因のようだ。
登場キャラ にも深くのめりこめず淡々と話が進むが、後半一気に盛り上がりを見せる。
辻の 竹内に対する思いが高まるシーンは感動的とも言える名場面であった。
勿論、犯 人の逃走劇がどうなるのか?という先に対する興味深さもあって後半の面白さは抜群 である。
結局、さわやかなラストに終わるところも気持ちいい。
実に読み応 えがあった。
しかし、もう一人の主人公である昼間の心の動きは、少しまとまり を欠く感があるし、他の人々も個性豊かでそれなりに心情が吐露されているのだが、 どこか推し量れないところがあってその点が気になった。

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「兎の秘密 昔むかしのミステリー」(佐野洋) 2001.9.30 UP
おとぎ話を題材にしたミステリー8編収録の短編集。
遠山の昔の教え子で今は作家となっている田辺が、遠山夫婦の元を訪れた。
そして、いきなりお伽噺の「かちかち山」の話を始めるのだが・・・。(「兎の秘密 」)

ベテラン健在。
おとぎ(私)の生まれる前から活躍しているミステリー界の重鎮 であるが、この短編集ではまだまだ一線でやってゆける実力を感じた。
誰でも知 っている有名なお伽噺を、現代の事件と絡めミステリー仕立てにしているのだが、や はり題材がわかりやすいため、非常に読みやすかった。
おとぎ(私)のパロディ クイズと違い、お伽噺に関する考察も深く、ユニークな解釈をしている。
終わり 方が完全解決でない独特の終わり方で、印象深かった。
特に気に入った作品は「兎の秘密」と「蟹の証言」。

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「火の粉」  (雫井脩介) 2003.5.16 UP
裁判長梶間勲は、死刑が求刑された武内被告に対して、無罪の判決を言い渡した。
梶間は退官した後大学教授になり、武内に再会し、学生らに冤罪の体験談を語ってくれるように頼むのだが、その後武内が隣の家に引っ越してくる。
姑の介護に疲れていた勲の妻の尋恵は、武内と親しくなり、ある日、武内からの申し出で、姑の介護を武内に頼むのだが・・・・

これは紛れもない傑作である。
ジャンルを分類すれば、日常サスペンスミステリということになるだろうが、とにかく最初から最後まで謎に満ちた新感覚の小説である。
じわじわと迫ってくる見えない恐怖の描き方が抜群に巧い。
いや、恐怖だけなら、もっとリアルな怖いホラーも世にたくさんあるだろう。
しかし、本書の特筆すべき点は、複数人の不安や恐怖がリミックスされて描き出されていることであろう。
ヒロインの女性の視点からストーカーの恐怖を描いた作品などのように、一人の恐怖を深く描いた作品は過去にもたくさんあると思うが、本書は多重主人公の形をとってるので、一人の妄想などに支配されず、比較的客観的なサスペンスに仕上がって入るにもかかわらず、なかなか真実が見えてこない点で、その恐怖の質は粘着質のある重いものになっているのである。
裁判小説でもあり、犯罪小説でもあり、家族小説でもある本書は、内容的にはミステリ2,3冊分の価値があるのではないだろうか。
ストーリー展開がなかなか読めない点も、良い方向に活かされてると思う。
決して後味の良い小説でもなく、感動的でもないのだが、それでいて尚、本年度ベストに選らばれてもおかしくない、と言わざるを得ない見事な作品である。
これほど充実したサスペンスミステリは長い間お目に掛かってない気がする。
雫井氏は「虚貌」でかなり注目されたが、本作品で一気に飛躍した感がある。
サスペンスの面白さを十二分に堪能できる作品であるのは間違いない。
ものすごく絶賛したが、気になる点もある。
まず、ミステリ的にはあまりに軟弱な印象がある。そして、裁判のリアル感がやや乏しいと感じたのだが、どうだろうか。

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「次の町まできみはどんな歌をうたうの?」  (柴崎友香) 2001.10.9 UP
大阪から東京へ行くドライブのメンバーは、ぼく(小林望)と後輩のコロ助、そして 恵太とルリのカップルの4人。
元々、コロ助が、憧れの清水さんに逢いたいと言 い出したことから、ディズニーランドツアーも兼ねて企画された。
道中の4人の 語らいの中で互いの境遇についての会話がなされるのだが・・・

表題作他「エブリバディ・ラブズ・サンシャイン」の2本の中編を収録した作品集。
作者の柴崎友香さんは、2000年に「今日の出来事」でデビューし、『サリン ジャーの会話体、レイモンド・カーヴァーの短編と響き合うポリフォニック小説』( 本書表書きより)と絶賛されるらしいが、外国文学に疎いおとぎにはさっぱりわから ない(笑)。
表題作は、小林のルリちゃんを好きな気持ちをメインに色々話しを 絡ませてあるが、全体的に肩の力を抜いた会話体の中で、感情を浮きだ足せていこう とする印象を受けた。
ちょっとせつない青春小説風だが、そこには仄かに希望の 余韻を残している。
「エブリバディ・ラブズ・サンシャイン」の方が面白かった 。
眠ってばかりいる女の子が主人公で、とっても変わった作品だった。
とに かくよく眠るのだ。
先生の前でも、ライブハウスでも・・・
主人公の素直な 自己表現と彼女を取り巻く、ゆきちゃん、かおるちゃん、先生のとても優しくあたた かいキャラで、単純かつ異色な設定を効果的に展開ささえているのに感心した。
特に先生の人柄がとても魅力だ。
テーマの勝利ではあると思うが、この作品のよ うな世界が描かれるならば、次の作品をまた読みたいと思う。

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「残響」 (柴田よしき) 2002.2.5 UP
杏子は結婚していた間、夫の石神に暴力を受けていた。
杏子が石神をかばって刑 務所に入ったのをきっかけに離婚したのだが、杏子には石神と一緒にいるときだけ過 去の声が聞こえるという特殊能力が開花していた。
それを知った警察から、ある 事件の協力を求められた杏子だが、石神からの離別を願うあまり、苦悩し続ける状態 になる・・・

”残響のように過去の物音を聞くことが出来る”能力を持つ杏子が、事件にかかわる 度に苦悩しながら段々と方向性を見出してゆく様を描いた異色連作ミステリ。
ミ ステリとしての印象は薄いが、杏子の心情がよく描かれており、、特に歌に思いをこ めて歌う様は心憎い演出だ。
ピアニストの東海林へのかなわぬ恋、石神との関係 の清算、女性刑事葵との友情にも似た感情・・・。
何冊か並行読みしていた中で 一番地味な前印象の本書が、意外にも最も夢中になった1冊になった。
連作短編 の1作1作の長さが読むのに丁度良かったせいかも知れないが。
物語としては一 応の終結を見ているので、シリーズ化することはないだろうが、この杏子という女性 は再び会いたいと思う忘れがたいキャラクターである。

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「柚木野山荘の惨劇」(柴田よしき)  2001.8.29 UP
猫の正太郎と同居人(飼い主)の桜川ひとみは、友人作家の結婚式に招待される。
そこで土砂崩れが起こり、正太郎や犬のサスケの活躍で車に乗っていた招待客は 何とか無事だったが、山荘は孤立してしまう。
そんな中、招待客の一人が突然苦 しみだし、死に至る・・・。

話の内容はともかく、とにかく可愛い。猫のことである。
冷蔵庫を開け閉めした り、パソコンを起動させたりするスーパー猫なのだが、肉汁に前足をひたして舐める 様子など、それだけで愛らしくなってくる。
事件は連続毒殺事件なのだが、猫の正太郎が主人公なので、どこか客観的に見れ、ユ ーモアな雰囲気がただよっている。
しかし、結果はなかなか練られている。
単純だと思われていた事件も意外な真相が隠されており、伏線も結構張られていたり する。
面白いユーモアミステリである。

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「やっとかめ探偵団とゴミ袋の死体」(清水義範)2001.7.7UP
70歳を越えた老女早坂千代は、ある日ゴミ集積所でバラバラ死体の一部を発見する 。
小さな菓子屋を営むスーパー婆ちゃん波川まつ尾を中心とするやっとかめ探偵 団は、ゴミ問題とともに事件について調査と議論を繰り返す。
まつ尾の見事な推 理で事件は解決するかに見えたが・・・

やっとかめ探偵団と聞いて、なんとなく子供達が謎を解いて行くイメージを持ってい た。
多分、少年探偵団の連想からであろう。
実際はインターネットを駆使す るスーパー婆ちゃんが中心の老女の集まりだったので、ちょっと面食らった。
バ ラバラ死体とアリバイの謎を追求して行く本格推理であるが、ゴミ問題についても名 古屋を舞台に社会派小説的に問題提起している。
しかしながら、短く楽に読める 作品でもある。
ちなみに「やっとかめ」というのは、名古屋弁で「久しぶり」の 意味らしい。

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「鏡の中は日曜日」(殊能将之)2002. 9.21 UP
十四年前、鎌倉で起きた殺人事件の再調査を依頼された名探偵石動は、その事件をもとにして書かれた鮎井郁介のミステリを読みながら、ある違和感を感じる。
一体どうしてこのミステリは、名探偵水城最後の事件と銘打たれているのだろうか・・・

この作品は殊能氏の才能がまたまた如何なく発揮された作品である。
冒頭の章、そして名探偵石動が殺される・・・、何が何だかよくわからないままに読み進むと驚くべき真相が待ち受けていて、すべてがつながっていることを知り、愕然とした。
作中作である鮎井と水城の事件も、トリッキーではないものの、しゃれたミステリになっていて、この作品全体の雰囲気にぴったりだ。
ただ、「樒/榁」を先に読んでしまったのは、完全に失敗だった。
楽しみは確実に半減してしまったから。
それにも関わらず、脱帽するしかなかった本作は「ハサミ男」に匹敵する名作と言えるのではないか。
ミステリ作家の濱岡稔氏が、自著同様、本作でマラルメの詩を引用していることに驚いていたが、むしろ、本書の雰囲気は「さよならゲーム」に通ずるものがあるような気がする。

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「黒い仏」(殊能将之)2001. 6.6 UP
石動戯作と助手のアントニオは、大生部暁彦から、9世紀中頃の円載が唐から持ち帰 ったとされる秘宝を探して欲しいと依頼される。
一方、日本シリーズで沸く福岡 では、指紋が全てふき取られた部屋で男性の遺体が発見される。安蘭寺で古書を調査 する石動だが、比叡山の僧兵夢求と星慧の対決に巻き込まれ、さらに警察の捜査にも 絡んでゆく・・・。

噂で色々と評価は聞いていたが、予想以上に面白くない。
トリックらしきものは あるのだが、本格ミステリとしての様式を備えているかどうか・・・。
探偵役の 石動も見るべきところはなく、対決物としても中途半端な感じがする。
どうせな ら「妖星伝」のような完全な伝奇ものにしたほうが、まだ魅力があったと思う。
「ハサミ男」が離れ技だっただけに、期待も大きかったのだが、並のミステリ以下の 出来と言わざるを得ない。

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「美濃牛」(殊能将之) 2001.7.17 UP
フリーライターの天瀬とカメラマンの町田は、謎の男石動と共に、岐阜県暮枝村の亀 恩洞という鍾乳洞にある病気が治るという奇跡の泉を取材しに行く。
亀恩洞の持 ち主、羅堂真一と当主である父の陣一郎。
真一に飛騨牛の講義を聞かされる羽目 になる。
さらにコミューンの代表、保龍に会いに行くが、そこで二人は石動の正 体を知らされる。
リゾート開発の話が持ち上がっていて、真一がそれに反対して いるというのだ・・・。

「双頭の悪魔」や「ラグナロク洞」と似た感じがするのは、亀恩洞のせいだろうか?
探偵石動の初登場作品であり、その魅力の片鱗が見え隠れしているが、ミステリ としては、ラストで驚かされたのが最大のポイントだろう。
暗号や小トリックも 色々と組み合わさっているが、そのままでは何となく拍子抜けしそうな感じだったが 、やはり傑作と言われるだけのことはある。
「ハサミ男」ほどのインパクトはな いものの、かなり大胆だったし、充分納得出来る質のものだった。
「ハサミ男」 の医師、「美濃牛」の美濃牛に関しての評価はしづらい。
物語の雰囲気を高める のにうまく活かされている、という意見もあろうが、本格ミステリといしての価値を 下げているようであまり必要性を感じなかった。

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「名探偵に薔薇を」(城平京) 2001.6.14 UP
小人地獄事件の始まりは、 マスコミに送付された「メルヘン小人地獄」という一編の童話であった。
藤田家には 主人の克人、妻の恵子、娘の鈴花がいた。
藤田家の家庭教師である三橋荘一郎は、駅 で見知らぬ男に「小人地獄をご存じか?」と声を掛けられる。
数日後、取り壊し間近 の繊維工場で恵子の死体が発見される。
床には「ハンナはつるそう」の血文字と無数 の小人の足跡が・・・。
続いて二人目の犠牲者が出て、「ニコラスは煮よう」の血文 字が残されていた。
藤田家を襲う災厄に対して、三橋荘一郎は友人である名探偵瀬川 みゆきを呼ぶ・・・・。

第八回鮎川哲也賞の最終候補にもなった、めずらしい 二部構成の長編。
「メルヘン 小人地獄」という童話と毒薬の存在からして、事件への興味を引き立てるのに充分で ある。
第一部は「小人地獄」の謎とアリバイ崩しがメインテーマだが、個性的な超人 名探偵瀬川みゆきの登場シーンも強烈である。
最初から名探偵として生まれた彼女は 、何のために名探偵であり続けるのか?
現実離れしているが結局これが第二部にもつ ながる重要なモチーフであった。
第二部でいきなり小人地獄による不可解な殺人事件 が発生し、再び瀬川の登場となるが、後半のスリリングな展開は誰が予想し得ただろ うか?
事件となぞの構成も舌を巻くほどだが、風貌の描写のほとんどない瀬川をこれ ほど深く描き、また読後になんとも言えぬ余韻を残せる筆力に驚いた。
後半、物語世界に完全にまきこまれてしまった。
全く特殊なミステリなのだが、最も本質的なミステリなのかもしれない。

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「スキッピングクリスマス」 (ジョン・グリシャム)  2003.1.5 UP
クリスマスを前にした会計士ルーサーは、娘のブレアがペルーに行ってしまったのを機に、今年のクリスマスは馬鹿騒ぎをやめて、妻のノーラと海外クルーズに出かけるという計画を思いつく。
しかし、いざそれを実行しようとすると、隣人らからあらゆる妨害を受ける派目になってしまった。
それらに何とか耐え、クリスマスを迎えようとするルーサーとノーラだったが・・・。

「リーガルサスペンスの巨匠ジョン・グリシャムが描くハートウォーミングストーリー(帯)」と銘打たれているが、まさにこの言葉がぴったり来る名品であった。
アメリカのホームコメディーというのはこんなに面白いものなのか。
洗練されたユーモアセンスと本当に心が幸せになるあたたかいストーリーで、ある意味、理想とする小説である。
日本では想像もつかないほど、アメリカのクリスマスパーティーというのは盛大らしいが、それをスキップ(すっぽかす)してしまう、という発想はアメリカ人にとってはより身近で面白いだろう。
しかし、日本人が読んでもこれは充分楽しい。
前半は割と単調なストーリーなのだが、これでもか、という繰り返しさえも、さらりと書いてあるので心地良い。
後半に入るとさらにドタバタ要素が強くなり、この物語の真骨頂が待ち受けている。
読後感が非常に良くて再び読書欲の沸いてくる感じがある。
日本では似たタイプの物語をあまり思いつかないが、あえていえば「ぶたぶた」シリーズに近いかもしれない。

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「名探偵チビー 首なし雪だるまの謎」(新庄節美)2001.5.29 UP
全国的に有名になった五月の風ケーキコンクールを中止せよ、との脅迫状が届いた。
同級生のミリーから相談を持ちかけられたチビーは、助手のニャットとともに会 場のホテルに行くが、ケッコー警部も既に警備を開始していた。
徹夜で警戒にあ たるチビーたちだが、早朝、密室状態の厨房でケーキが壊されてしまった・・・・。

密室でケーキが壊されるという大胆な不可能犯罪なのだが、トリックのほうも島田荘 司ばりのダイナミックのもので、児童書にしておくのが勿体ないぐらいである。
時間に関しても厳密で、また犯人あてとしての面白さも一級品である。
さらに解 決の仕方に工夫を凝らしており、チビーの意外な面が見られるなど余裕のあるストー リーになっていて、読後感も非常に良い。
児童の年齢ではちょっとややこしい推 理かもしれないが、その分大人が読んで楽しめる。
例のごとく、読者への挑戦で 考えてみたが、まったくわからず解決編を読んですっかり感心してしまった次第であ る。
チビーシリーズを読むのはこれが3作目だが、ミステリーとしてはこれが抜 群の出来だと思う。

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「名探偵チビー 泣き虫せんたく屋の謎」(新庄節美)2001.5.29 UP
ジブザブクリーニング店のせんたくものが何者かによって、地面にばらまかれてどろ だらけにされてしまった。
同じ日に近所のオライリー音波エネルギー研究所で水 中自動車の設計図が盗まれる事件が起きた。
ほかにもこの1年であちこちで軍事 機密が盗まれる事件が4つ起こっていた。
同一犯によるものと思われるが・・・

容疑者は完全に絞られた犯人当てだが、なるほどと唸る点が一つだけあった。
そ こさえわかれば、あとは糸を手繰るようにして事件の全貌が明らかになる。
読者 への挑戦はまたしても完敗であった。
チビーの両親の行方不明事件が、ストーリ ーのもう一方の柱になっており、物語としての面白さを高めている。
ネズミとネ コとウサギの取り合わせが段々板についてきて、ますますキャラの個性が際だってき たようである。
児童向けの謎解きとしては割と分かりやすいかも知れない。

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「名探偵チビー 虹色プールの謎」(新庄節美)2001.6.15 UP
ある日、5月の風市の市民プールの水が虹色に染まった。
何者かが虹色絵の具を ばらまいたらしい。
小学生の探偵チビーは新たに助手にしたニャットとともに捜 査を開始する
同じ日にパックン夫人邸で宝石が盗まれたことがわかり、チビーは そちらにも関わることになる・・・。

子ネズミの名探偵チビーと子ネコの助手ニャット、そしてウサギの新聞記者ダンスが 5月の風市で起こる奇妙な事件を解決するシリーズの第一弾。
児童書といって も馬鹿にしてはいけない。
読者への挑戦状付きの堂々たる本格ミステリである。
動物キャラであるために、一人一人の個性の違いがわかりやすく、こういう点は 大人の小説でも見習うべきところかも知れない。
謎は興味深い謎で、解決編を読 むと成る程という感じだった。
子供にとってはやや難しいと思うが、ユーモアや ドタバタストーリーに頼らない謎解きメインの良作だと思う。

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「涙の川」 (菅野奈津)2002.1.13 UP
銀行に勤める杉山に、娘の彩が公園で何者かに刺された、と連絡が入る。
事件の 詳細は、彩がいきなり野球帽の男に刺された後、そばにいた自営業者の男も刺され重 傷を負ったということだが、公園には妻祥子もいたはずであるが、祥子は事件につい てなぜか話そうとしない。
警視庁の上条と深川署の滝本両刑事が組んで捜査し始 めるが・・・

第四回日本ミステリー文学大賞新人賞佳作。
公園で起こった刺殺事件を軸に、被 害者の父杉山と、上条刑事の視点で交互に進んでゆく堅実な構成の作品。
地道な 捜査がしっかり描かれているのと、杉山の犯人に対する執拗な追求が情熱的に描かれ ていて、全体として重厚な作品に仕上がっている。
ストーリーその ものには新鮮さはないが、杉山と上条の心の動きがじわじわと伝わって来るような文 章で、この人は新人ながら書き慣れているなあ、という印象を受けた。
テーマの 深みやストーリーの平淡さなどには、まだ未熟さが感じられるが、そのあたりの実力 がつけば、高村薫や宮部みゆきにも劣らない優れた小説家として大成出来そうな予感 がする。

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「閉じたる男の抱く花は」(図子慧) 2001.9.26 UP
卒業式から帰る途中、本荘祈紗は、友人の西田を見失ってしまう。
近くで発砲事 件が起きたことを小耳に挟みながらやっと見つけた西田は、学生風のコートを着た若 い男と一緒にいた。
男の顔をひっぱたいた祈紗は、コートの中の黒い銃を見て息 を呑んだ。
これが、この男との運命的な出会いになるとは、この時点では想像だ に出来なかった・・・

ハードボイルド、恋愛小説、ミステリ、そのどの言葉にも当てはまる本書をある書評 では官能小説と評していた。
少女小説作家として数多くの作品を発表してきた図 子さん故に、読みやすくかつ美しい繊細な文章、ページをめくる手をとめさせないス トーリーの面白さは抜群である。
しかし、何と言っても、男性にしろ女性にしろ 、どこまでも深い心理描写がすごい。
決して、難しい言葉で表現しているわけで も、理屈っぽく長ったらしく説明しているわけではなく、一つ一つの仕種で簡潔に、 複雑な心理描写・感情表現に成功している。
ヒロイン本荘祈紗は普通のOL風で あるが、実は激しいまでに男に反応してしまう一種の病気とも言える感情に悩まされ るのだが、特異な女性だとしてもその心理に共感できる女性は多いのではないか(あ くまで推測に過ぎないが)。
そして、タキの生き方は、ハードボイルド、悪く言 えばやくざ風であるが、生け花をコーディネートする天才だったりして、どこまでも 格好良く、男にとっても女にとってもある種憧れではなかろうか?
対する佐宗の 人柄もまた魅力的で、この3人を中心に展開する物語がどうなるか最後まで余談を許 さなかった。
名作「ラザロ・ラザロ」では、国際謀略小説風のところがあって現 実からかけ離れていたが、この作品はより日常的で、その点でも高い完成度であると 思う。
印象としては山本文緒作品に近い気がするが、男性の描き方では、こちら のほうがより深く描いていると思う。

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「卵の緒」(瀬尾まいこ) 2003.2.8 UP
育生は小学生。
家には父さんがいなくて母さんと二人暮らし。
でも、自分は捨て子であると疑っている。
母さんは育生のことがとても好きだが、最近は朝ちゃんに首ったけだ。
育生は友達の池内君が長く学校を休んでいるのが気になっていて・・・。
表題作他「7's blood」収録。

「卵の緒」は2001年第7回坊ちゃん文学大賞受賞作である。
中学講師という職業柄か、子供の描写が可愛らしくて巧いなあ、と感じた。
「卵の緒」に出てくる母親の性格は実に開けっぴろげで憎めないキャラなので好感が持てる。
母子家庭のお話であるが、ハッピーストーリーで、親子の愛、友情などをテーマにわかりやすく書かれた軽快な小説である。
「7's blood」の七生と七子のコンビの組み合わせも面白い。
七生は小学生にしてはしっかりし過ぎているとも思うが、二人のやりとりはとても奥が深く透明で心あたたまるものがある。
ラストはやや物足りないが、途中ほっとするような場面がいくつもあり、「和み系」小説の傑作だと思う。

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「木乃伊男」(蘇部健一) 2003.1.6 UP
長野の大学生、布部正男(ぼく)は、毎年夏の恒例になっている療養生活をしていたが、ある日、隣りのベッドに全身包帯の木乃伊男が眠っていて驚いた。
木乃伊男自身から事情を聞いて安心する正男だったが、布部家には木乃伊男もまつわる恐ろしい言い伝えがあった・・・

「絵で犯人がわかる全く新しいタイプの推理小説」と銘打たれているが、確かにその通りである。
蘇部氏は「動かぬ証拠」でもかなり実験的試みに挑戦していたが、その作品の出来はあまり良くないという印象がある。
しかし、本書は、短めの長編ながら、非常に面白い試みで成功していると言っても良いだろう。

木乃伊男はだれ?というシンプルな謎ながら、練られたプロットと驚きの連続が巧くかみ合い、意外とまともな作品になっている。
本格ミステリの本流ではないが、非常に面白いアイディア小説である。
絵に必然性のあるミステリなら、こういう形式の本でも評価できる。
蘇部氏の快心の1作であろう。

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