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| 「明日、月の上で」 (平安寿子) 2003.1.30 UP |
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とんがりトビ子は26歳。 一度は普通に就職したものの、ある日思い立ってかつての恋人、ブンちゃんに会いに中国山地の霧舟温泉にやってきた。 ブンちゃんは東南アジアに出かけていて居なかったが、ブンちゃんの姉がいるラーメン屋「鳳凰軒」で働きながらブンちゃんの帰りを待つ事にする。 そこでストリップ小屋のお母さんやマリアと知り合い・・・ トビ子の性格は個人的にはあまり好きではないが、その個性を前面に押し出し、田舎町で起こるドラマを軽快に描いた作風は良かった。 幾つかのアクシデントが起こるのだが、その対処の仕方がさっぱりしていて気持ちよい。 それでいて情に深く、登場人物たちの思いが伝わってくる。 テーマが絞られている印象を受けたが、ジャンル分けすれば純文学とエンターテイメントの中間ぐらいか? 一つ一つの事柄に対してもう少し書き込んであると感情移入出来る重みのある作品になると思うが、あえて軽快にズバッズバッと書くことで全体に飽きが来ないで楽しめる効果がある。 もっとも「パートタイムパートナー」と同様、主人公の性格がもろにはっきりしているので、人によって好き嫌いが分かれる作品であろう。 |
| 「素晴らしい一日」 (平安寿子) 2001.10.21 UP |
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第79回オール読物新人賞を受賞した著者のデビュー短編集。 印象は尻切れトンボ。 著者自身、ユーモア小説の書き手が減ったので私が書く 、と言っているが、オチで読ませるのではなく、展開の意外性でもなく、なだらかに オカシイ、オモシロイ、そんな短編集である。 『素晴らしい一日』で、次々とお金を借りまくる友朗と、それに付き合う私。 私 の気持ちがどんどん変わってゆく様が何となく面白い。 だからどうなんだ?と問 われても説明できない面白さである。 『アドリブ・ナイト』は 、家出娘の替わりに親の臨終で芝居をする羽目になる、と いう話だが、どこか冷静な主人公のおとぼけぶりと、田舎の面々の素朴さがマッチし ていい感じである。 これは、声に出してアハハと笑うような笑いではなく、うふ ふと上品に笑う笑いでもない。 表に出ない心の内にじわじわと響いてくる不思議 な笑いである。ナンセンスギャグでもドタバタ喜劇でもなく、そうだ!愉快という言 葉が適当だろうか? しかし、どこかで暗い部分があったりもする。 この人独 特の世界を創り出しているのかも知れない。 『オンリー・ユー』もほのぼのとした面白さがある。 男女の変な関係を描いてい るのだが、由佳子の無邪気な笑顔が、作品全体の明るさになっている点が見事である 。 『おいしい水の隠し場所』は、一人一人の人物像が、よく描けている。 そ してユーモラスな展開の中においしい水の質問が、美しく強烈なイメージを放つ。 こういう話が書けると爽快だろうなあ、と思った。 『誰かが誰かを愛してる』は設定がユニークである。 そして結末がありきたりで はなく、希望や明るい未来をイメージさせる終わり方で、このあたりはよく考えてい るなあ、と感心した。 『商店街のかぐや姫』は、主人公の月恵という女性の 個性がすべてである。 題名もぴったりで、ラストにふさわしいユーモラスな短編 だった。 全編通じて、読後にこれだけ「明るさ」と「希望」が残る短編集も めずらしいのではないか? 小説作りの作品例としては最高級のものだと思う。 力技でなく、優しい小説。 それが一番ふさわしい評かも知れない。 |
| 「粗忽拳銃」 (竹内真) 2001.10.30 UP |
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落語家の流々亭天馬、映画をやっている時村、貧乏役者の広介見習いライターの可奈
の4人は、偶然、落ちていた拳銃を拾った。 ふざけて天馬が撃った実弾は、選挙 ポスターに穴を開け、4人は慌てて逃げ出した。 天馬は、この時の体験を、落語 に取り入れて披露する。 CG屋の椎名が銃のことを嗅ぎつけ、撃たせて欲しいと 言ってくる。 4人は折角拾った拳銃なので、それぞれ撃とうということになるが ・・・。 「拾った拳銃」というたった一つの題材を元に、若者5人の青春を描くユーモア小説 。 個性的なメンバーの友情とそれぞれの生き方が巧く描かれていて、メンタル的 な面に共感出来る部分が多かった。 拳銃発砲、やくざがらみなど、実際は、かな り恐ろしいことなのだが、この人の手に掛かると、すごく楽しいことのように思える から不思議だ。 天馬の落語がこれに一役買っているのだが、時村の映画、広介の 芝居、可奈のインタビューなどが、複合的に絡んで、物語全体を活き活きとさせてい る。 前向きな彼らの姿に元気づけられる人は多いのではなかろうか? |
| 「それでも、警官は微笑う」 (日明恩) 2002.9.17 UP |
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池袋署の武本は、ある殺人事件で使われた銃を追っていた。 そして、銃の持ち主石島を乱闘の末逮捕するが、麻薬取締官の宮田も石島を狙っていた。 宮田は恋人の父、泉の麻薬容疑を晴らすために、ずっと捜査していたのだ。 潮崎警部補がインターネットで捜し当てた横川模型店を訪ねた武本と潮崎だったが・・・ 第25回メフィスト賞。斬新な本格ミステリの受賞作が続くメフィスト賞の中で異彩を放つ実力派警察小説である。 武本の力強さと正直さが光り輝くとともに、超個性的な警部補潮崎の存在が心温まる。 そして麻薬取締官宮田の一途な思いや、上司、同僚たちの粋な対応に心を揺さぶられる場面が幾度となくあった。 本来、警察ものはあまり好きではないので、読むのに時間がかかってしまったが、読み終わってみれば、なかなか良かったと思う。 犯人の境遇や心理も詳しく描写してあり、また事件が終わったあとのアフターケアも丁寧で有耶無耶になっていないところに、この作品の完成度の高さを感じる。単にハードボイルドとは呼べない+αを感じるミステリである。 |
| 「鬼の探偵小説」田中啓文 2001.11.29 UP |
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31歳の若さで警視庁捜査一課の警部になったペニー・芳垣と、忌戸部署の一見うだつ
のあがらなさそうに見えるが、実は隠れた力を持つ鬼丸刑事が挑む4つの怪事件を描
いたキャラクター連作集。 ペニー芳垣は陰陽師であり、アメリカ流の捜査と六壬 式占の組み合わせにより抜群の成績を誇る。 一方、鬼丸は鬼童丸という鬼であり 、<スナック女郎蜘蛛>で仲間から情報を得ながら、独自の捜査をする。 4つの事件はそれぞれ魅力ある不思議さを備え、物の怪がらみながらも、本格ミステ リとして評価できる。 特に蜘蛛館での密室殺人は、ダイイングメッセージもあり 、解決の出来から見てもかなりしっかりしたミステリに仕上がっていると思う。 ペニー芳垣と鬼丸という敵同士の二人が組んで捜査をするので、事件そのものの解明 の他に、二人の関係がどうなるかというスリルがあり、気が抜けない。 そこがこ の短編集の最大の魅力となているのだろう。 |
| 「2002本格ミステリ・ベスト10」 (探偵小説研究会)2002. UP |
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毎年読んでいるが、いつもながら本格ミステリばかり30位まで選んでいるので、読
書の参考に大いに役立たせてもらってる。 今年の内容ではメインのランキングや 「国内本格」座談会は当然良かったのだが、ネットやTV、ヤングアダルトコミック などとミステリの関係が批評されていてとても参考になった。 こういう本に三 澤未来さんや春都さんのサイトが載っていると何か不思議な感じがする。 作者の 近況は結構あてにならなかったりするので流し読みしているが、加納朋子さんが子供 と一緒に「アギト」や「ヒカルの碁」を見ているという情報がほのぼのとしていて有 益だった(笑)。 ランキングについては大体納得のゆく感じだったが、13位の 藤岡真の「六色金神殺人事件」は全くノーマークだったので、読んでみたいですねえ 。 ランクには入ってないが、「中空」を評価している人が何人かいて嬉しかった のと、柳広司の名前が意外と個々のランクで入っていてびっくりした。 ランク外 で注目しているのは「悪いうさぎ」(若竹七海)「見知らぬ演芸場の問題」(LED )ぐらいか? 「このミス」でもそうなのだが、個人のアンケート回答で、「今年 は読んでないので」とか「レベルが低くて5作選べない」とか書いて、5作載せない 人が必ず居るのだが、いつも気になっている。 「それなら別の人にアンケート権 を渡して欲しい」と思うのは変だろうか? 「読んでない」というのは、お金を払 ってこの本を買っている読者に対し失礼だし、「5作選べない」というのも理解でき ない。 読者は少しでも多くの埋もれた良い作品をたくさん知りたいと思うのでは ないか。 これはアンケート回答者の責任というより、編集者の責任ではないか。 総合ランキングだけ載せるならそれでも構わないと思うが、個々のアンケート結 果を載せるなら、5作は勿論として、さらにコメントでなるべく色々な作品を推して いるようなのが、読んでて一番面白いのだが。 このあたりは是非一考願いたいも のである。 ちょっと厳しいことを書いたが、そうは言っても、こうして本格ミス テリのみの年間ベストというものがあるのは、ミステリの読書家にとってありがたい ことであり、今後も一層充実した内容で頑張って欲しい。 |
| 「アリア系銀河鉄 道」(柄刀一)2001.3.20 UP |
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| 宇佐見博士が現実離れした
時空での事件を次々と解決してゆく趣向の短編集。 『言語と密室のコンポジション』 宇佐見博士は博士は、「字義原理・実存の猫」によって、字義がそのままに現出す るというベテルの塔に連れてこられる。 最上階の「言霊実存の部屋」で聖女テレサが 殺され、傍らには見知らぬ男の撲殺死体があるが、凶器はなく、聖杯は盗まれていた ・・・・。 言葉遊びミステリなのだが、条件が細かく設定されているので 、ピタっとはまって はいるが、都合良く舞台設定した感がある。 ミステリというより、軽いクイズとして 読めば、結構楽しめるかも知れない。 『ノアの隣』 ノアの方舟の世界にやってきた宇佐見博士。 アララトになる地に建てられた白い館に は、実時間を守るために、1/3のミニチュアの方舟が置かれていた。 実時間で2ヶ 月後、元の地に降り立った一行は、一部崩れた白い館を発見。 ところが、この石の建 物の中で、方舟は以前と逆方向を向いていた。方向転換出来る幅はないのに・・・。 結構大胆なトリックであるが、ちょっと伏線がわかりやすくミエミエの感もある(か なり考え方が限定されてしまうので)。 その物理的トリックだけでなく、ストーリー 全体にも仕掛けを施している点は評価出来る。 ただ、トリックのためにつくられた小 説という気はする。 『探偵の匣』BR> ミリガン博士から、ある事件について話を聞いた宇佐見博士。 吉武博士が毒を盛られ 、その妻が殺されたが、犯人はわからないという。 宇佐見博士は、余命幾ばくもない 吉武博士との会話で事件の謎を推理してゆく。 吉武博士の中の他の人格の協力も得て 、少しづつ謎解きを進めてゆくが・・・。 花瓶とウイスキーグラスを小道具に演出した推理は、なかなか論理的で、成る程と思 わせる。 しかも、唯の本格推理には終わらぬ工夫が用意されていて、そちらの方には 驚いた。 『アリア系銀河鉄道』 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を下敷きにしたファンタジックな作品。 しかし、事件そ のものは宇佐見博士の旧友鶴見未紀也がどんな方法で毒されたか、と言う謎とローウ ェル刑務所からの脱獄事件の謎で、かなり具体的である。 未紀也 の残した「宇宙のすべてをうつしとる・・・」という言葉から推理してゆくが・・・ ・・ 毒殺トリック、脱獄トリックともに、新しい発想で見事だと思う。 脱獄の方はやや危 なげだが、ダイナミックな方法で、あっと言わせる。 毒殺トリックには素直に感心し た。 確かに作者はロマンティストで、特にこの作品では美しさが際だっていて、素敵 なミステリに仕上がっている。 『アリスのドア』 番外編。 宇佐見博士が、部屋からなんとかして脱出しようとする話。 要は一種のパズ ルなのだが・・ さりげないヒントがちりばめられていて、読み物として楽しめた。 全編通して パラレルワールドの世界は、状況を自由に設定出来るだけに内容の面白さをより求め られるが、柄刀氏のこの作品は氏のトリックメーカーとしての資質が見事に発揮され たものと言って良いだろう。 文章全体に巧さは感じられないが、特に「アリア系銀河 鉄道」などは、小説全体の雰囲気に好感が持てる。 |
| 「いつでも夢を」(辻内智貴) 2003.3.31 UP |
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| 街角で雨に打たれ続けている女。 その女を黒塗りの高級車の後部座席から見つめている男。 男の車が走り去った後に、女に近づく男。 男は女の体に手を伸ばすが、女の握り締めたカッターナイフに刺されてしまう。 男が逃げ出した後、ジローはその女を見つけた・・・ 辻内氏はやっぱり最高だ。 「TOKYOオトギバナシ」という副題がついているこの小説は、まさに「大人のおとぎ話」という言葉がぴったりな夢のような話である。 ジローや洋子や龍治のそれぞれの思いを深く描き出すとともに、周囲の人達のあたたかさに包まれる様子もしっかり描かれていて、温かさと冷たさの入り混じった鮮度のいい小説だ。 洗練されたユーモラスな会話も巧いのだが、なんといってもラストの大芝居ぶりが印象的であった。 あまりにも露骨すぎる感じがしないでもないが、「大切なもの」を丁寧に書きたい気持ちがすごく伝わってくる。 こういう小説を読んでみたかった! 印象としては「センセイの鞄」(川上弘美)の世界観に近いような気がするが、真面目な恋愛小説であるにもかかわらず、堅くなく読み手に優しいのである。 今までの辻内作品には、強烈さや人情などが個々に前面に押し出されていたが、本書は、そこからまた一段レベルの上がった非常に完成度の高い作品であると思う。 |
| 「ようこそ雪の館へ ルピナス探偵団」(津原やすみ) 2001.9.14 UP |
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サイコたち聖ルピナス学園の仲良し三人組は、詩島くん、サイコの姉のフジコととも
にスキーに行くことになったが、旅館への道を間違え、謎の洋館にたどり着いた。 そこは美人作詞家長綱晶世の邸宅だった。 翌朝、雪の積もった密室状態の中庭 で、晶世の死体が発見される。 現場には謎の血文字が・・・ 講談社X文庫ティーンズハートの一冊なのだが、本来硬派のおとぎが読むような分野 ではない。(一応断っておくが・・・) しかしながら、津原氏を読むにあたって 、「妖都」や「蘆屋家の崩壊」は難しそうなので、これを選んだ。(何たる理由・・ ・) 二重密室だというし・・・ 文体こそ少年少女向けだが、内容はなかなかどうしてバリバリの本格物である。 雪の二重密室、血文字のダイイングメッセージに対して繰り出される様々な推理。 しかも、どの推理もそれなりに根拠があって、かつ真相は最後まで明らかにならな い。 ミステリとして最後まで破綻無く推理が進められていて、欠点が見当たらな いのだが、素直に評価出来ないのは、やはり小説そのものがおとぎに合わないせいだ ろうか? |
| 「闇の楽園」(戸 梶圭太) 2001.6.9 UP |
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| 長野県坂巻町の藤咲町長は
、村起こし案を公募することにした。 公募審査の結果、無職の青柳敏郎の応募し たお化け屋敷だけのテーマパーク「坂巻ダークランド」が採用されることになるが・ ・・。 議員の一人、君塚は、ある業者に脅迫されていてプラスティック廃材を捨 てるルートを提供していたが、そこに真道学院という謎の集団の大始祖、丸尾が接触 する。 坂巻の地に新たに学院のネストを建設するのが目的だった。 第三回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作。 カルト教団をテーマにした小説は最近よ く書かれるが、ストーリー的には目新しくなく、ミステリとしてはやや魅力が乏しい 。 ただ、小説としては、テーマの魅力もあって抜群に面白い(この手の話はノベ ルズタイプによく見かけられるが)。 町長、町長も娘、青柳、君塚、丸尾といっ た多視点から描かれているために、誰もが主人公になり得る程人物が描けていると言 えるが、逆に小説の中心がぼやけてしまったような気もする。 色々な要素をいっ ぱい詰め込み過ぎている感じで、それだけ作者の構成力があるということだが、かな り読ませる文章を書く人だと思った。 |
| 「中空」 (鳥飼否宇) 2001.10.29 UP |
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女性カメラマン猫田夏海は、小料理屋で出会った池旅庵という人物に、竹茂村に行け
ば今、竹の花が見られると聞かされ、先輩の鳶さんとともに竹茂村に行くことになる
。 わずか七軒のその村は、一字姓ばかりで独特の慣習のある村だった。 荘子 の考え方を範とする徹底的な男系社会であるらしい。 そして二十年くらい前に、 この村である事件が起こったという・・・ 第21回横溝正史ミステリ大賞優秀作。 荘子思想の閉鎖的な村を舞台に、陰惨な 連続殺人が起こるという本格ミステリの典型的なパターンである。 わずか七軒の 村でしかも男系社会であるために、女性があまり目立たないので、実質的な登場人物 は少ないが、犯人を限定するのはなかなか難しい。 本格ミステリとしてどれだけ 評価出来るかわからないが、あるひとつのトリックに関しては感心した。 おとぎ もそのトリックを考えたことがあったのだが、使い方が非常にうまい。 トリック とはこういう風に使うのだ、という見本のようなものだ。 その点、非常に参考に なった。 推理はかなり穴があるが、本論より周辺の人の動きや対応などがよく練 られている感じがした。 全体的にユーモア的な雰囲気があるので、事件の悲惨さ の割に気楽に読める。 ただ、キャラそのものは個性的でユニークな割に、人を惹 きつける魅力という点ではやや乏しいか? 特に主人公の猫田夏海があまり女性的 に描かれてないのが、惜しい気がする。 |
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