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己に克つ
知人者、智也。自知者、明也。勝人者、有力也。 自勝者、強也。知足者、富也。強行者、有志也。 不失其所者、久也。死而不忘者、寿也。 |
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人を知る者はせいぜい智者のレベルにすぎない。自分を知る者こそ明知の人で ある。人に勝つものは、せいぜい力があるといった程度にすぎない。自分に勝つ 者こそ真の強者である。 満足することを知る者こそ富者である。あくまでも「道」を実行する者こそ、志を持 った人である。無為を守ってあるがままに生きる者こそ長命であり、死してなお恩 沢を残す者こそ永遠に生きるのである。 |
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| ー 守屋洋訳 | ||
第19章『学を絶てば憂いなし』で「己を知る」ことが教育の根本理念だと考えました。 第33章で、同じ内容の展開をしています。「己を知る」ということがどういうことか考えていきたいと思います。 |
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「孔子的生き方」と「老子的生き方」 |
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「知人者、智也」。この「人」は、自分を含む「世間の人」と読めます。「人を知る」ということを処世術として考える人だと考えていいでしょう。戦争でいう「敵を知れ」です。人に勝つための智です。これを「孔子的生き方の人」と呼んでいきます。 そんな人の獲得した知識や生き方は「智」のステージに留まったものである。「智」を「小賢しい人間の計らい」と考えています。その「智」は立身出世型の智で、獲得されていくごとに更に増殖していくほかなく、そして絶対化され、自己保身化されていくものです。外部世界の事象です。 「聖を絶ち、智を棄てよ」と老子は言っています。これを「老子的生き方の人」と呼んでいきます。 |
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「自知者、明也」。絶対的なものとして外部世界の事象について知ることの無意味さと過ちに気づくことが老子のメッセージを受け止めることでしょう。外部世界は相対的なものなんだよ。外部世界を成り立たせているものが何であるかを知ることが大切なことなんだよ、と老子は呼びかけ続けます。 この自分も外部世界の事象として存在します。だから、外部世界を成り立たせているものを知るということは、とりもなおなさず自分自身を知るということなのです。 自分自身を成り立たせているものを知る人は「明」のステージに入った人です。「明」のステージでは、人はTAOに拠って生きているのです。 |
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「勝人者、有力也」。外部世界の事象はこの「力」に支配され続けてきたといえるでしょう。政治経済も宗教科学もそして世間の人の営みもこの「力」に支配されて今の世界を形成してきたのでした。言い換えれば、人々のそして人類の「人に勝ちたい」という想念の集合体として今の世界は成り立っているのです。「孔子的生き方」の勝利といえます。 このパラダイムが続く限り、人の抗争は続き、戦争を回避することはできないでしょう。 21世紀が「環境・平和・人権の世紀」として創造されていくならば、パラダイムの大転換が必要です。「孔子的生き方」に対峙する「老子的生き方」を教育の新しい潮流として創り出していく必要があります。 既に科学の世界ではパラダイムの大転換がかなり進行しているようです。 |
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「自勝者、強也」。しかし、戦争を考えればわかりやすいのですが、「孔子的生き方」を支配してきた「力」は外部世界の事象ですから非情で、無情なものです。常に断崖絶壁の上に建築されているようなものです。「栄枯盛衰」の反復の歴史です。「無常」です。 これに対して、「老子的生き方」の世界は、人々の心をつかんで離さないものとして、「孔子的生き方」からのドロップアウトとしてもう一つの潮流を創り出し続けてきました。シドニーオリンピックでアボリジニの世界からのメッセージが発信されたことは、21世紀のパラダイムの大転換を志向している証左であると考えます。「力」に勝る「強」の世界が存在し続けている事実に人類が覚醒し始めているのです。 |
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