| BOOKS | ■俺は常々思っている。評論ってのは馬鹿らしいな、と。 他人の感性を薀蓄して何になるというのだ? 慎ましく読め、と。 だから、論じない。 感性を感性で受け止めろ。 曰く、慎ましく読め、と。 |
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| ■坂口安吾『堕落論』■ |
| 『終戦後、我々はあらゆる自由を許されたが、人はあらゆる自由を許されたとき、自らの不可解な限定とその不自由さに気づくであろう。人間は永遠に自由ではあり得ない。なぜなら人間は生きており、また死なねばならず、そして人間は考えるからだ。(中略)人間は堕落する。義士も聖女も堕落する。それを防ぐことはできないし、防ぐことによって人を救うことはできない。人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない』 |
| (坂口安吾『堕落論』、角川文庫、p101より) |
| ■島田清子『みぞれは舞わない〜十七歳の遺書〜』■ |
| みぞれは舞わない みぞれは まっすぐに落ちる ちっぽけな水滴と 大きな雪の塊は 争っているように早い ボタッと落ちて スーッと消える だから みぞれはなんだか悲しい 雪には余裕があるのに みぞれにはない なんだかあの人に似ている だから みぞれの音は寂しい みぞれは花びらのようにきれいなのに みぞれはなんだか哀しくおかしい 道化師のようにみぞれは消える みぞれの暖かさの内には 誰も入ってゆけない だからみぞれの暖かさを 誰もしらない |
| (島田清子『みぞれは舞わない〜十七歳の遺書〜』、大和出版、p171より) |
| ■高野悦子『二十歳の原点』■ |
| 旅に出よう テントとシュラフの入ったザックをしょい ポケットには一箱の煙草と笛をもち 旅に出よう 出発の日は雨がよい 霧のようにやわらかい春の雨の日がよい 萌え出でた若芽がしっとりとぬれながら そして富士の山にあるという 原始林の中にゆこう ゆっくりとあせることなく 大きな杉の古木にきたら 一層暗いその根元に腰をおろして休もう そして独占の機械工場で作られた一箱の煙草を取り出して 暗い古樹の下で一本の煙草を喫おう 近代社会の臭いのする その煙を 古木よ おまえは何と感じるか 原始林の中にあるという湖をさがそう そしてその岸辺にたたずんで 一本の煙草を喫おう 煙をすべて吐き出して ザックのかたわらで静かに休もう 原始林を暗やみが包みこむ頃になったら 湖に小舟をうかべよう 衣服を脱ぎすて すべらかな肌をやみにつつみ 左手に笛をもって 湖の水面を暗やみの中に漂いながら 笛をふこう 小舟の幽かなるうつろいのさざめきの中 中天より涼風を肌に流させながら 静かに眠ろう そしてただ笛を深い湖底に沈ませよう |
| (高野悦子『二十歳の原点』、新潮社、p179より) |