科学防衛戦隊ロジカル☆ファイヴ!
        第28話:夢みる乙女はテイスティ。わたしをた・べ・て(はぁと)


 嫌な時期がやってきた。俺、こと加賀俊哉はこっそりと毒づいた。
 現在、2月7日。いわゆるバレンタインfイの一週間前である。

 俺は別に、モテナイ男だとか、そういうことではない。そういう意味で、この時期が嫌なのではない。モテてモテて困るから、この時期は虫歯の心配をしなければならなくて憂鬱、なんていうわけでもない。それに、今までのバレンタインデイは、友人からいくつか義理とも本命ともつかないようなチョコをもらったりして、それなりに楽しんでいた。
 今年は、そういうわけにはいかない。
 なぜなら、今、俺は小学生だからだ。



 詳しく説明すると長くなるので、かいつまんで話そう。
 俺は、もともと今現在、理工系の大学に通っているごく普通の二十歳だった。まあ、ちらほら大学で実験中に新物質発見しちまったりして、天才とか言われることもあったけど、普通といえば普通の大学生だった。それが、何故か……。
 ゼミの帰り、あれは確か夜だったな、俺は黒服を着た上にネズミの顔をかぶった怪しい奴ら3人に羽交い絞めにされて、奇妙な薬を飲まされた。硫酸銅水溶液に似た感じの青い液体で、見るからに毒薬らしかったので吐き出そうとしたのだが、口をふさがれていたのでそれもできずに飲み込んでしまった。(あれでもし無理やり吐き出していたら、今度は口移しで飲まされたかもしれない)
 俺は見事なまでに完全に気を失って、そして。朝。
 目を覚ますと、俺の体はちびっこかった。小学生の、多分低学年くらいの体になっていた。

「なんじゃこりゃあ!!」

 俺は叫んだ。なんで薬飲まされたくらいで小学生にならなきゃいけないんだ、そんな薬は聞いたことがないぞ。どこぞのアニメじゃないんだし。

「それはあいつらが未来から来たからでしよ☆」

 そうかそうか、あのネズミ頭は未来から……って今のアニメ声はなんだ!?
 おそるおそる、振り返るとそこには、アヤシイ生物がいた。全体的な印象はウサギに似ているが、あれは絶対にウサギじゃない。ホログラフィーかとも思ったが、それにしては量感がありすぎる。
 そいつは、ぴるん☆と音を立てて、宙返りをした。

「加賀俊哉くん、君には今から、科学防衛戦隊として戦ってもらうでし!!」
「はぁ?」

 わけがわからなかったがわからないなりに事情を聞いて。俺の体を小さくしたのは未来から来た科学壊滅教とかいう宗教団体で、科学の発展を妨げるために、優秀な化学者になるであろう俺を狙っているのだということ。ウサギは、うさぴょんなどとフザケタ名前を名乗ったが、うさぴょんたちはとにかく科学を守るために戦っているのだということなどを知った。
 俺?聞いただけじゃ信じられなかっただろうよ、でも、俺の体は現に小学生になっている。若返りの薬が存在していない以上、未来のテクノロジーが関わっているっていうのはまあ比較的納得のいく説明だ。科学で大事なのは頭で考えた理屈じゃない、現実をどこまで正確に記述できるか、だ。

 そういうわけで、俺は科学防衛戦隊のバケガクイエローとして、科学壊滅教の奴らと戦うことになった。
 そして、小学三年生の加賀俊哉として暮らすことになった。
 学校とか、そういうあたりの手続きは全部うさぴょんが偽装してくれたし、人間関係の方は、俺の前に加入していたセイブツグリーン・児島裕未に記憶を操作してもらった。
(「ちょっとニューロンのつながり変えるだけだもの、簡単よ」)
 親も、俺はまだ本当に小学三年生なんだと思っている。ま、そういうわけで、あとは科学壊滅教の奴らをぶっ潰して、俺が元に戻る方法を言わせるだけだ。

科学壊滅教の目的とか、どうしても詳しく知りたいヤツは、ここを参照、だ。


 そういうわけで、俺は今、脳みその中身は大学生のまま、小学校に通っている。
 おかげさまで、俺は一種の天才児になってしまった。もちろん、怪しまれないように、テストではわざと何問か間違える。(まあ、国語なんかは、わざとじゃなくても結構間違えるが)
 けれど、やっぱり中身が大人すぎるというのは隠しきれないらしく、俺はクラス中から一目置かれるようになっていて。それでいて、みんなとは仲良くやっていこうとしているわけだから。

 断言できる。今年俺に来るチョコレートは、今までの数倍になる。
 ただひとつ言えるのは、それがまったくうれしくないっていうことだ。考えてもみろ、相手は小学生、それも三年生だ。俺にロリコンの趣味はない。

 そういうわけで、俺の今年のバレンタインは間違いない。華やかだけど暗いだろう。


 今年のチョコ戦線は、すごい。
 小学校の近くのお菓子屋でも、チョコレートのセールに人だかりが出来ている。

 何がそんなに楽しいんだか、オトコの俺にはいまいちよくわからない。
 戦隊の女子メンバーの中でも、バレンタインはなかなか盛り上がっているらしく、チガクブルーの斉藤梨香が、チョコレートにどんな媚薬を仕込むべきかということを俺に相談してきた。
 とりあえず、その場でちゃきっと睡眠薬を渡しておいたが、おそらくそれを食べさせられるのはブツリブラックの関口雪人先生だろう。関口先生の冥福をお祈りしよう、アーメン。

 唯一の彼女持ち、ソウゴウリカレッド・平原祥吾は、それなりに楽しみにしているようだ。
 もっとも、祥吾はやたらと読書家で、その彼女の沙奈さんっていうのもものすごい読書家なものだから、バレンタインデイはお互いに本をプレゼントしあっているらしいが。
 なんでも、バレンタインデイには「嫌がらせすれすれの本」をテーマに、ホワイトデイには「本命の本」を交換するらしい。読書家の考えることはよくわからない。

 もっとも、一番よくわからないのは児島裕未だ。
「とりあえず、みんなにケーキくらいはつくってきたげるね」
 とはいうものの、裕未はセイブツグリーンだ。趣味が襲い来る怪人の解剖だ。どんな怪しいケーキにしあがってくるかわからない。グルコースのみでケーキの形を作ってくる、とか、とにかくまだ食べられそうなものを作ってくれるといいのだが。


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 唐突に、変身アイテムの腕時計に通信が入った。デジタルの時計画面が急に、うさぴょんの顔に切り替わる。

「みんな、今日はバレンタインの一週間前でし☆ バレンタインといえば大事なイベント、イベントのときはそのイベントに即した策略を張り巡らすのが戦隊ものの悪役でし☆ 充分に気をつけるでし☆」

 一方的な連絡だけで切れてしまった。気をつけろ、と言われてもなあ。と、ぴろぴろぴろりん☆今度は、裕未からの通信だった。

「今の、どう思う?」
「どう思う、って?」
「ほんとに科学壊滅教の奴らは、バレンタインに何かしかけてくるつもりなのかしら、ってことよ」
「まあ、戦隊もののセオリーだしな。チョコになにか麻薬みたいなものが仕込んであるとか、そういうのってありそうじゃないか?」
「そうよね……そうなると、やっぱり、どっちかといえば狙われる、というか、私たちが見張ってなきゃいけないのって、女の子のほうよね」
「そうだろうな、店とかに怪人が入り込んでるって、ありそうだし」
「了解了解。それじゃ、私、ちょっとスパイみたいなこと、やってみるわ。事件がこの辺の店で起こるなら、バイトにでもなって潜入してみる」
「……いいけど。気をつけろよ」
「だいじょぶよ」


 裕未の通信はそれで切れてしまった。裕未は、俺から見て一番、戦隊の活動に熱心だという気がする。まあ、ひとりで先走りすぎて敵の手に落ちてみたりもするけれど。そういうときに助けに行かされるのは大体俺なのだけれど。


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 ちなみに、科学壊滅教の攻撃というのは、ほんとにセオリーどおりの、バレンタインチョコに怪しげな薬品混入させて人攫いやっちまおうぜぇ!とかいう内容だったのだけれど、裕未のスパイ活動のおかげか、すさまじく早くカタがついた。
   そんなこんなでバレンタイン当日、俺はやっぱり大量のチョコを抱えながら家へと向かっていた。そこへ、裕未がやってきた。

「やっほ、大漁だね」
「あんまりうれしくはないけどね」
「女の子からモテて嬉しくないの?あんまりそういうこと言ってると今の世の中ホモ疑惑立てられるわよ」
「俺は小学生からモテても嬉しくないの!」
「ふうん、じゃあ、高校生からバレンタイン。これなら嬉しいんでしょ?」

 裕未は、大きな紙袋をどさっと、俺の抱えている袋の上に置いた。ますます腕に重みがかかる。

「嬉しいでしょう?手作りよ、この裕未ちゃんの」

 ごめん、正直な話、半分この荷物持ってくれるほうがずっと嬉しい。


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 裕未が「ブラックんとこにもケーキ渡しににいく」と行ったので、俺たちは一度荷物を家に置くと、、関口さんの家へと向かった。

 扉を開けると、関口さんは、何故か、非常に困った顔をしていた。

「ああ……ふたりともいいところに。見てください、これ。」
 関口さんの前にある、巨大な茶色い物体。ほとんどモノリスのようにそびえたつそれは、ピンクの砂糖で
わたしをた・べ・てv
などと書かれたチョコレートだった。
「いやあ、梨香さんから大きな包みが届いたと思って、開いてみたらこれでしょう?どうしたらいいんでしょうねえ」
「食べれば、いいなじゃないっすか」

 俺は半ばあきれながら言った。けれど、関口さんは少し愉しげな様子を見せて。

「それが、これ、見てください。この、チョコレートからちょっぴり出ている部分……」

 関口さんの言うままに後ろへまわってみると。

「うぎゃあ!」
「うそっ!!」

 俺と裕未は一緒に叫び声をあげてしまった。
 チョコレートからは、ほんの少しだけ、誰か、女の人の指の先が出ていたからだ。

「関口さん!まさかこれ、科学壊滅教の!?」
「いえ、多分、梨香さんが自分で入ったんでしょう。彼女、バレンタインにはビックリするものを贈りますから!って言ってましたし。彼女も結構頭いいですからねえ、ちゃんと酸素ボンベくらい持って中に入ってるんでしょうけど……」

 何故かのんびりと言う関口さんに、俺はつい声を荒らげた。

「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないっすよぉ!!裕未!お前なんかチョコレート一発で破壊できる技もってないの!?」
「えっと、チョコレートの糖分だけなら多分ATPに転換できるけど……時間かかるよ」
「関口さんだって熱放射とかやれるじゃないすか!はやく助けましょうよ」
「でも、『わたしをたべて』って言ってるし、やっぱりちょっとずつ食べていった方がいいんじゃないかなあ」
「ブラック先生、やっぱりシュールですね」

 裕未はとっとと変身し、チョコレートの異化にかかるが、やっぱり酵素の力は結構遅いのだ。俺?俺は化学担当だ。化学反応が促進されるような温度にしたら、中にいる梨香さんは確実に死ぬ!!
 今日はバレンタインデイ。平原祥吾は彼女とラブラブ真っ最中だろうが、呼んだ方がいいかもしれない。裕未と関口さん、この二人だけじゃあ、俺の神経が持たない。多分。


 やっぱりやっぱり、バレンタインなんてロクなもんじゃねえや……。
 と、梨香さん救出後のチョコレートを無理やり食べさせられて、もう当分甘いものは食べたくない俺は思うのだった。




おそまつ。っていうか、この話、ちゃんと書きなおす予定です。
実際は、省略しちゃった事件のほうがほんとにメインの話になる予定だったし。つーわけで、かなり適当なバレンタイン企画でしたー。








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