Step by step

 

・・・参ったなあ。

栗色の髪の女王候補・アンジェリークは、ベッドの上でため息をついた。

昨日からおかしいおかしいとは思っていたが、やっぱり頭がぼんやりする。

どうやら、風邪をひいてしまったらしい。

起き上がってはみたものの、体が熱く感じる。結構、熱は高いようだ。

今日は、日の曜日。寝込んでいたところで何の支障もない日ではあるが、ア

ンジェリークにはある計画があった。

それは・・・。

「やっほう、アンジェー!起きてる?」

明るい声とともに入ってきたのは、同じく女王候補であるレイチェル。

「もう。ノックぐらいしてよって、いつも言ってるでしょ」

アンジェリークは、声を出すと頭に響くので顔をしかめながら言う。

「あら、どうしたの?具合悪いの?」

ライバルでありながら、どこか似たもの同士の2人は、なんだかんだと張り

合いながらも、今ではすっかり親友になっている。

もちろん、そんなことはお互い口になど出さないけれど。

「風邪かなあ。頭、ガンガンする」

「え、じゃあ薬飲まなきゃ」

そう言うとレイチェルは、彼女の部屋に帰って薬箱を持参すると、コップに

入れた水とともに、白い錠剤をアンジェリークに差し出す。

「ありがと」

薬を飲むアンジェリークのベッドに腰掛けると、レイチェルはなんでもない

ような顔で言う。

「で、どうするの、今日。やめとく?」

「まさか。行くわよ、もちろん」

勝気な性格だが、本音は優しいレイチェルは、少し心配げな表情になる。

「・・・大丈夫?」

「大丈夫。がんばらなくっちゃ」

アンジェリークは、笑顔でウインクして見せた。

 

とは、言ったものの・・・。

一向に治まらない頭痛に悩まされながら、アンジェリークは聖殿の廊下を歩

いていた。

目指しているのは、闇の守護聖クラヴィスの執務室。

守護聖一、寡黙で無表情な彼。何を考えているのか分からない、と最初は敬

遠していたものの、時々見せてくれる穏やかな笑みに心が惹かれた。

それでも、相手はアンジェリークには全く関心がない様子。

いつもどこか遠くを見ているような眼差し。

その瞳に映りたいと。いつのまにか心からそう望んでいる、自分がいた。

・・・負けないんだから。

クラヴィスの心を捉えているのが誰かは、分からない。でも、彼が時々見せ

る寂しそうな横顔も、世の中すべてに対する虚無感も、その想いがうまく届

かなかったことにあるのではないか。

そう、アンジェリークは思っていた。だからこそ、その心の中から誰かの面

影を無くしてみせると、日の曜日にはこうやって訪ねているのだ。

トントン。

執務室をノックすると、すぐに返事があった。

「こんにちは、クラヴィス様!」

自分の声が頭に響いて、一瞬ふらつきそうになりながらも、アンジェリーク

は目一杯明るい声で挨拶する。

「・・・また、お前か」

窓際で、こちらを振り向くクラヴィス。苦笑しているように見えるのは、気

のせいか。

「ね、クラヴィス様。今日もいいお天気ですよ♪」

いつものように、ニッコリ笑ってみせるアンジェリーク。その額に、一筋汗

が流れる。

「良かったら、庭園にでも行きませんか?お花がとっても、綺麗で・・・」

話しながらアンジェリークはしまった、と思う。クラヴィスはあまり外へ出

たがらないので、いつもは部屋で話をしようと誘うのだ。

とはいえ、何か話してないとしゃがんでしまいそうな辛さと、ここへ来る途

中に見つけた草花を彼にも見せたい気持ちとで、ついそう言ってしまった。

しかし意外にも、クラヴィスはうなずいた。

「・・・それも良かろう」

え、と思う間もなく。

クラヴィスは執務室を出て行く。慌ててアンジェリークは、その後を追った。

 

えーっと・・・夢じゃない、よね。

よく晴れて、うららかな雰囲気の庭園を歩きながら、アンジェリークは心の

中でつぶやいた。

何を話すわけでもないが、時々目に付いたもの・・・木の新芽や、咲き誇る花

など・・・を観賞しながら、2人で歩く。

いつもより楽しそうに見えるクラヴィスに、アンジェリークは戸惑いを隠せ

ない。

なんか、これってデートみたいじゃない・・・?

朦朧としている頭が、ますます混乱する。

やがて2人は、庭園の隅にある大きな木の前まで来た。

「約束の木・・・この前に立つのは、久しぶりだ・・・」

クラヴィスは、木を見上げてつぶやく。

その表情の中に、いつもの遠い眼差しを見つけ、アンジェリークは辛くなる。

以前、誰かとここへ来て。どんな話をしたのだろう。

そんな、切なげな瞳で見つめたのは、愛しい人?

さびしい。隣りにいるのに、こんなに遠いなんて・・・。

「どうした・・・」

クラヴィスの問いに、はっとする。

「何でもありませんよ?」

笑ってみせたアンジェリークは、自分の顔をじっとクラヴィスが見つめてい

ることに気づく。

私を・・・見て、くださっている?

彼の深い群青色の瞳に映っているのは、確かに自分。

その瞳の色に吸い込まれそうになって、アンジェリークは意識が遠くなるの

を感じた。

「アンジェリーク!」

最後の意識の断片で、彼女は愛する人の叫びを聞いた・・・。

 

ゆっくりと目を開けたアンジェリークが最初に見たものは、自分の部屋の見

慣れた天井だった。

・・・やっぱり夢かぁ。どおりで、ね。

やれやれとため息をついたその時。

「気が付いたか・・・?」

突然の低い声に、アンジェリークはびっくりして飛び起きた。

目の前にいるのは、さっきまで夢の中でデートしていた、闇の守護聖。

いや、どうやら夢ではなかったらしい。

「・・・気分はどうだ・・・」

「あ、はい、あの、全然平気です!」

そう言いながらも、残る頭痛に頭を押さえる。

「無理しない方がいい・・・。今日はもう、休め」

そっとクラヴィスは、アンジェリークの額に手をあてる。冷たいその掌から、

彼女の熱を奪おうとするかのように。

心配そうな、その瞳。

アンジェリークは、急速に鼓動が高まるのを感じる。

「あの、クラヴィス様・・・」

「・・・?」

「その、心配してくださったんですか?」

クラヴィスは少し驚いたかのように、目を見開く。そんな表情も初めて見る

ので、アンジェリークは固まったままだ。

「フッ・・・まだ、人の心は残っていたようだからな・・・」

「え、あ、いえ、違いますよ!そういう意味じゃなくって・・・」

慌てるアンジェリークにフッと笑うと、クラヴィスはベッドから離れた。

ドアのところで彼は言う。

「次の日の曜日は・・・無理をするな。来なくても良い」

アンジェリークは、はっと息を飲む。

きゅっと唇をかみ締めて、うつむき加減に聞く。

「それは・・・迷惑って、ことですか?」

「・・・私のほうから、訪ねて来るということだ」

思っても見なかった答えに、アンジェリークは驚いた表情で顔を上げる。

クラヴィスは、柔らかい穏やかな笑みで彼女を見ていた。紛れもなく、深い

想いを込めて。

「これ以上、私に大事なものを無くさせないでくれ」

 

END

 

 

§ じろりんのあとがき §

 

666HITをゲットされた、ソーニャ様への貢物です()

アンジェリークなら何でも、とのことでしたが、ほかならぬソーニャ様のリ

クエストなので『勝気ちゃんとクラヴィス様』で書かせてもらいました。

気づいたら、想いが通じてたってパターンですね。結構、アンジェのプレイ

中には良くあることですが(笑)

楽しんでいただけたら、幸いです。