夢叶うとき

 

 

読書をしていると、芳しい香りが鼻腔をくすぐる。

 

自分の好きなお茶の好みを、すぐに覚えた彼女。

 

その優雅な手つきでいれられるお茶は、どんな飲み物よりもおいしかった。

 

そして、華やかに微笑む彼女が隣にいた。

 

もう、それは遠い日の出来事。

 

 

「ルヴァ様!はい、これ!」

 

目の前に置かれたのは、確かに彼の好きなお茶。

 

しかしこれをいれたのは、美味しいと評判のこのカフェテリアの主だった。

 

・・・彼女では、ない。

 

「ま〜た、物思いに耽っているんですか?もう、ルヴァ様ったら」

 

明るく笑う少女。はちきれんばかりの笑顔。

 

どこか、愁いを帯びていた彼女の笑顔とは、違う。

 

「何を考えていたのか、当ててみましょうか?」

 

自分の顔を覗き込んでくる、その瞳。

 

意志の強そうなところは似ている。キラキラと輝きを持っているのも似ている。

 

「そうですね・・・ずばり」

 

しかし。彼女ではないのだ。

 

「・・・ロザリア様の、ことでしょう?」

 

そう、ロザリアとは・・・え?

 

ドキン、と心臓が跳ね上がり、ルヴァはようやく我に返った。

 

「あ・・・あ、あなたでしたか・・・アンジェ」

 

ルヴァの前に座り、いたずらっぽい表情でじっと彼を見つめている少女。

 

栗色の髪をした、新宇宙の女王。

 

「あなたでしたか、って。一体、誰と勘違いされたんですか?」

 

くすくすと笑う彼女に、ルヴァは苦笑いを浮かべる。

 

「全く・・・あなたって方は・・・私などをからかっても、つまらないでしょうに」

 

「からかってなど、いませんよ」

 

アンジェリークは茶目っ気たっぷりに肩をすくめると、自分に持ってきたソーダを飲む。

 

小さく立ち上る泡。彼女には、そんなさわやかなイメージが似合う。

 

宇宙の危機、という深刻な状況であるのにもかかわらず。こうやって、明るい雰囲気をもちつづけている

 

この少女のバイタリティーには、正直な話感心する。

 

新宇宙の女王として、上手くやっているのは見ていたらわかる。

 

彼女のよきパートナーであるレイチェルと共に、女王試験の時より数倍成長している。

 

「・・・なんですか、ルヴァ様?」

 

じっと見つめる視線に、アンジェリークは少し身じろぎする。

 

「いえいえ。あなたも、女王らしくなりましたね」

 

「・・・ありがとうございます」

 

ニッコリと笑ってみせるアンジェリーク。

 

その顔に、ルヴァも笑みを浮かべてうなずき返す。

 

が、その顔は彼女の次の言葉で固まってしまう。

 

「じゃ、私のこと好きになってくださいますか?」

 

「・・・・・・」

 

絶句したあと、深いため息をつくルヴァ。

 

「アンジェリーク・・・何度も言いますが、私はですね・・・」

 

「ロザリア様が、お好きなんですよね?わかってます」

 

「そうじゃなくて!」

 

赤い顔をしたルヴァは、その表情で肯定しつつも必死で彼女を戒める。

 

「私は、守護聖なんですよ。そして、あなたは新宇宙の女王。・・・す、好き・・・とかですね、そういう感情を・・・」

 

「おや、私はそういうのって関係ないと思うな」

 

不意にかけられた声。

 

振り向くと、片手に飲み物を持って立っていたのは夢の守護聖。

 

「こんにちは、オリヴィエ様!そうですよね、そんなの関係ないですよね♪」

 

アンジェリークが嬉しそうに、相槌を打つ。

 

オリヴィエは、2人の座っているテーブルまで来ると、割り込むように間に座る。

 

「そうそう。だからアンジェ、私と仲良くしようよ?」

 

「だめですよ、オリヴィエ様。私は、ルヴァ様が大好きなんですから」

 

「お、言うじゃない。ルヴァ、あんたもやるねえ。女の子に、ここまで言わせるなんてさ☆」

 

あっけにとられて2人の会話を聞いていたルヴァは、疲れたようにため息をつく。

 

「なんだって、2人して私をからかうんでしょうねえ・・・」

 

「からかってなんか!」

 

期せずして重なる、2人の声。

 

それがますますからかわれているように聞こえ、ルヴァはやれやれと腰を上げる。

 

「すみませんが、部屋に戻らせてもらいますね。どうぞ、あなた方はごゆっくり」

 

「え、ちょっと、ルヴァ様!」

 

アンジェリークは急いで引きとめようとしたが、こうなってはルヴァが耳を貸さないのはよくわかっている。

 

小さくなって行く後ろ姿を見送って、「は〜あ」と大きなため息をつくアンジェリーク。

 

 

そんな彼女の様子を、クスクスとひとしきり笑った後、オリヴィエは聞いた。

 

「で、どうすんの?このままじゃ、見込みなさそうじゃない?」

 

「・・・それを、言わないで下さいよ〜」

 

女王試験の時から。あの時から、アンジェリークはルヴァをずっと想っている。

 

それは、オリヴィエもよく知っている。

 

それから、ルヴァが前回の女王試験の時からずっと、ロザリアを想っていることも。

 

すれ違う2人の想いに、なんとなく目が離せなくなって、おせっかいを焼きつづけている。

 

「大体あんた、ルヴァに好き好きって言いすぎだよ?そういう気持ちはね、ありったけの想いを込めて言うもんだよ」

 

「・・・お言葉ですが、オリヴィエ様?」

 

少し言葉の調子を変え、アンジェリークは真っ直ぐにオリヴィエの顔を見つめる。

 

「私はいつだって、ありったけの想いで好きって言っていますよ」

 

彼女の、その勝気な瞳。だけど、どこまでも強い強い感情。

 

・・・アタシだったら、そんなアンタにベタ惚れするだろうけどねえ。

 

そこまでの想いを寄せられて、平気でいられる奴の神経がわからない。

 

口には出さず、オリヴィエはそう思う。

 

「ロザリア様みたいには、なかなかなれませんけどね。だけど、あきらめたりしませんよ」

 

「・・・アンタらしいね」

 

はい、と笑うアンジェリーク。

 

「ま、がんばりなよ。アタシはいつだって、アンタの味方だからさ☆」

 

「ありがとうございます。あ、じゃあ私、もう行きますね?」

 

「はいはい。じゃあね」

 

ひらひらと手を振り、去っていくアンジェリーク。

 

本当は他の誰より忙しく、この世界の行方を心から案じている。

 

・・・だけど、恋愛に関してはからっきし不器用な少女だ。

 

駆け引きも何もかもが苦手。

 

ルヴァのことが大好きで、でもその感情は直接口にして「好き」ということでしか表せなくて。

 

最初は戸惑っていたルヴァも、どうやら慣れきってしまったようで、半分冗談じゃないかと思っている様子。

 

冗談じゃないのは、あの子の顔見りゃわかるでしょうに。

 

オリヴィエはため息をつくが、ルヴァに理解しろと言うほうが無理なのかもしれないと思い直す。

 

・・・こりゃ、どうにかするしかないのかもね。

 

優しい夢の守護聖は、じっと考え込み始めた・・・。

 

 

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