2000年11月4日 秋田県大館市樹海ドーム
麻布台出版社「ポポロ」2000年12月号既出
11月4日、晴れ。青森、弘前、盛岡、福島、仙台、秋田‥‥、あちこちから満員のお客さんを乗せて到着したバスがドーム脇の大駐車場にズラリと並ぶ。今日の開演は午後4時。お祭りのように並んだテントで軽食を買い、食事をしながらなごむ人、芝生の上に座っておしゃべりする人、赤、黄、青の『S map』カラーにペイントされた機材車の前で記念撮影をする人‥‥、開演までの時間をみんな思い思いに楽しんでいる。
ここは秋田県大館市にある樹海ドーム。本誌にとっても昨年の札幌以来1年ぶりの取材となるSMAPのライブツアー。前号のインタビューでメンバー全員から、「これは見ごたえがあるに違いない」と想像できるコメントをもらっていただけに、この日を待ちに待っていたファンのみなさんと同様に、本誌取材チームもわくわくしながら樹海ドームのゲートをくぐった。
10月14日に札幌コミュニティードームからスタートした“SMAP'00 S map Tour”は、彼らにとっての初ツアーである94年の“Sexy Six Show”から数えて7回目のツアーとなる。今年はいったいどんな内容で楽しませてくれるのか。どんな感動を、驚きを、与えてくれるのだろうか。
午後3時、開場。ドーム内の座席が埋まり始める。当日の取材ポジションはステージ正面の花道下。これから始まるライブをあれこれ想像しながら、開演までの時間を過ごす。
ファンのみなさんが、そして私たち取材陣が、この1年を心待ちにしていたように、SMAPのメンバーも、毎年、毎年、この時を楽しみに待っている。
「ライブが年に一度っていうペースもちょうどいいと思うんだよね。テレビやラジオ、雑誌とかを見て、ファンは僕たちに会いたい、見に行きたいっていうテンションも高まるだろうし、僕らも1年くらいたつとライブをやりたくなる。だから、お互い一体になって盛り上がれるしね。そんなファンに対しては、感謝してますよ。“ありがとう!”ってね。でもそれは最近思うようになったかな。昔はなんかカッコつけてたというか、夢中だったから、そういうことがよくわからなかったんだろな。最近は、すごく強く感じるようになった」
これは前号のインタビューでの中居の言葉。剛も、
「歌とか踊りっていうのは僕たちのいちばん最初からやってることだから、ライブをやると気持ちも何かそこで一度リセットできるっていうか、元に戻せるみたいな感じになります。
だからライブは自分たちにとってもすごく大事だなって思う。1年に1回のツアーを楽しみにしていてくれる方もたくさんいるし。今年は特に1年以上待たせてしまったので、それなりのものはやらなくちゃいけないっていう気持ちもありますしね」
――と、自分たちの中での“ツアー”の位置づけが実に明解だ。そして楽しんでもらうためにはどうしたらいいのか。彼らは毎年、一生懸命考えている。その姿勢はツアーがスタートした94年から、まったく変わっていない。
たとえば初の全国ツアーを目前に控えた94年の6月、メンバー全員にインタビューをした時に、中居はすでにこう発言している。
「今回のタイトルは“Sexy Six Show”だから、大人の方々にも楽しんでもらえるような雰囲気を取り入れたい。でも、ステージを観に来てくれる人の中には小学生もいるから、あまり偏らないようにね。最近ファン層が幅広くなってきてすごくうれしいので、より多くの人に喜んでもらえるようにと思ってる。そう考えると難しいけれど」
だがその時、7年後のツアーで、日本全国、全部で8ケ所の会場に集まるファン層がここまで広がるとは、さすがに予想できなかっただろう。上は推定60代、下は幼稚園まで。今日の会場にも、ジャイアンツの帽子をかぶった小学生の男の子がいる。慎吾ママの衣装をまねた幼稚園の女の子がいる。パパとママと小さな女の子の3人連れがいる。ニコニコしながら開演を待っているおばさんがいる。高校生ぐらいの男の子ふたり連れもいる。そして気合いをいれてオシャレした10代、20代の女の子ももちろん――。
1万5千人の“期待感”がピークに達した午後4時、会場は暗転した。いよいよライブの開演だ。
趣向を凝らした
意外な仕掛けが楽しみなオープニング
SMAPのライブは毎年、アルバムをリリースし、それをひっさげて全国を回るというスタイルで定着している。今年のアルバムはもちろん『014 S map』。これまでのレパートリーとアルバムからの新しい曲とがどう構成されるのか、またアルバムイメージとコンサートの構成がどうリンクするのか、それを想像し、また意外な仕掛けに驚くのも毎年の楽しみのひとつだ。
たとえば去年の“BIRDMAN”では、赤いオープンカーに乗って5人のBIRDMANがステージに登場、ピストルの発射を合図にライブがスタートした。斬新な映像で話題になった「Fly」のプロモーションビデオと同じ、クールなイメージでのオープニングにドキドキした。
クールと言えば“Sexy Six Show”のオープニングで、小粋なNYジャズをバックに、ボロ布のようなものを頭からすっぽりかぶった人の群れがうごめき、その中からシルバーのコートに身を包んだ彼らが登場したシーンも忘れられない。さて、今年は一体どんな趣向で気持ちをつかんでくれるのだろう。
聴こえてきたのは「らいおんハート」のメロディーだ。場内からわきあがる歓声。だが唄うのは本人たちではない。と、前方、ステージの左右に設置された巨大スクリーンに、小さな女の子の映像が映る。彼女がたどたどしく唄い始めると、会場の雰囲気がふわっとなごむ。早くも一緒に口ずさむ人もいる。こんなふうに気持ちがあたたかくなるオープニングでくるとは……。「やられた!」という感じ。そして、ステージをおおっていた『S map』の巨大な幕が開き、SMAPのメンバーが姿を現せば、そこからは一気にヒートアップ。楽しさと感動を共有すべく、あとは一緒に盛り上がるだけだ。
中居VS木村の
頂上“対決”が見られるのもライヴだけ
前号のインタビューで木村は今回のアルバムについて、「ライブで一緒に遊べる道具を1個作ったという感じ」と話してくれた。「今日は1日、みんなで一緒に楽しもうよ」というのが、ライブという“ファンとSMAPが直接触れ合える場”における彼らの基本姿勢なのだろう。
だからこそ、歌とダンスといういわゆる“本業”に加えて、SMAPのライブからトークとゲームのコーナーははずせない。今年で言えば、ゲームのコーナーでは『SMAP×SMAP』でおなじみの“スケートボーイズ”がそれだ。
あのねのねのふたりがスクリーン上でMCを始める。コーナー名は“歌うアイドル キックオフ”。「結成から12年、スケートボーイズは、いったいいつになったらデビューできるんでしょうねぇ」という原田伸郎さんのコメントがおかしい。スケボーに乗って登場したスケートボーイズは、ピンクのタンクトップに白い短パンと白いハイソックス姿。ズラの上に名前入りのはちまきをきりりと締め、ステージの奥から前方へ向かって全員で滑ってくる。
ミョーに可愛い(?)彼らを見ていたら、6年前のインタビューで、彼らが本当のスケートボーイズだった頃、スケボーには苦労したという話をしてくれたことを思い出した。
最初にテレビのスタジオでスケボーをやった時、『スーパージョッキー』のステージから落ちてしまったこと。光GENJIのステージでは、誰かの足を踏んでしまったこと……。樹海ドームのステージからは落ちなくて良かった――なんて思ったりして。
さて、このコーナーでは、公演ごとにいくつかの種目でメンバーが対決をすることになっている。ツアーのラスト、11月27日の東京ドームで最下位になったメンバーは、『SMAP×SMAP』で罰ゲームをしなければならない。この日の種目は青春リレー対決。小さな自転車を漕ぎ、網をかいくぐり、バスケのシュートを決め、バットのまわりをぐるぐる回って、パン食い競争をし、ラストはトイレットペーパーの紙を1ロール分、芯になるまで引っ張るというものだった。
第1回戦は中居VS木村という、ファンにとってはうれしい組み合わせ。マジで戦うふたりに、慎吾が「SMAPの頂上対決です! 20代後半だと言うのに、ズラをつけていますっ! 短パンとハイソックスをはいていますっ! 4〜5年前、このシーンを誰が予想したでしょうか!」と興奮の実況中継。トイレットペーパーで思わぬ時間をくった中居が大敗を期し、稲垣、剛、慎吾の3人は、中居のタイムより1秒でも速ければビリを免れることになる。しかもこの日は特別に、当日限りの罰ゲームとして、“帰りの飛行機でひとりだけ席が別”という試練が待っていた。
結果はギリギリながらも慎吾が滑り込みで中居のタイムを上回り、中居がひとり落ち込むハメになった。
ここで特筆すべきは、すでに立派な大人になったメンバーが、真剣にゲームに取り組んでいるということだ。負けじと頑張る顔、負けて悔しがる顔、他のメンバーにエールを送る顔、僅差で勝って喜ぶ顔……。彼らのこんな素顔を、間近に見られることがファンの楽しみであることを、きっとメンバーはよく知っているのだろう。
98年の“VIVA AMIGOS!”では、カラオケコーナーで盛り上がった。慎吾がリクエストしたGLAYの「However」を唄う木村があまりにカッコよくて、嫉妬した剛が途中で音を消すという暴挙に出たり、ひとりずつ順番のはずが、吾郎が2曲連続で選曲してしまいブーイングされる……なんて一幕もあった。
お約束(?)吾郎の髪ネタ。
樹海の湿度のせいで…。
そしてファンのもうひとつの貴重な楽しみはトークのコーナーだ。もちろんこれは中居をはじめとするメンバーの楽しみでもある。特に中居は「僕にとって、MCはメロディーのない歌ですから(笑)」というほど、このコーナーを大事にしている。この発言は冗談半分としても、中居のMCは、進行役という意味で、年を重ねるごとに磨きがかかってきた。
SMAPのライブはひとりで何ケ所か来てくれる熱心なファンも多いため、トークは御当地ネタを含めた、その日の旬な話題が中心になる。この日も中居が、「ここはドームだけど、まわりに山とか、普通の家とかあってさ、なんか公民館みたいでいいんだよねぇ。同じドームでも東京ドームとかと違って、すごくみんなに見られいてる感じがするし」と言うと、場内からは歓喜の声と拍手。続いて木村がライブの前に、隣りのグランドでサッカーをしたという話を披露する。サッカーに参加したのは稲垣を除く4人とバンドのメンバー。グランドにいた4人の中学生に「ねぇ、一緒に試合やろうか」と話しかけると、中学生たちは一瞬「えっ!」と絶句したそうだが、彼らとのサッカーは非常にリラックスした楽しい時間だったようだ。
見事に晴れ上がった大館の青空のもと、普段暮らす東京よりもちょっとだけ冷たく、澄んだ空気を思いっきり吸い込みながら、サッカーに興じるメンバーの姿を想像すると、なんだかこちらにも楽しさが伝わってくるような気がする。「剛は見事に中学生ととけ込んでいたよな」という木村の突っ込みに、「あ、俺って普通にしてるとオーラが出ないんだよね」と返す剛。その話題をきっかけに、メンバー全員が「オーラ出してみてよ」と剛にねだり始める。
で、残ったひとり、稲垣はといえば、「吾郎は『サッカーしてくる』って出かけた時から俺らが戻った時まで、ずっとドライヤーかけてた」(木村)そうで、そのわりに乱れているヘアスタイルを中居に突っ込まれると「だって樹海ドームだから、湿度が高くて髪がまとまらないんだよ」と言い訳。また、“アルバムの中の好きな曲”話では、剛が『Happy Train』と答えると「オマエ、昨日は『STOP!』が好きって言ってたじゃないかよぉ」と中居の突っ込み。「いや、『STOP!』も好きだけど、『Happy〜』も好きなんだよ」と、剛は理由を延々と説明する……。
恐らくどの話題もその場の流れで出たものなのだと思うが、こんなふうに彼らはお互いに発言をフォローしあい、あるいは突っ込みあいながら、いつでも楽しい時間を提供してくれる。それは彼らなりの見事な心配りだといつも思う。
ライブは生き物。アーティストの体調や精神状態、あるいは会場の雰囲気でガラっと内容が変わってしまうこともある。それでも「この日、ここへ観に来てくれたファンには、最高に楽しいライブを」と、ゲームやトークのコーナーでも、彼らは常にベストを尽くしているはずだ。
年齢とともに積み上げたキャリアが
ライヴにも生かされている。
アルバム『014 S map』は、メンバー自身もインタビューで答えているように、これまでになく自然に、大人っぽい感じに仕上がっている。以前から――特に『006 Sexy Six』の頃から――NYの著名なアーティストと共演したり、意外な人に楽曲を提供してもらったりと、彼らのアルバムには大人の遊びが随所にちりばめられていたのだが、今回は「らいおんハート」も含めて、背伸びしなくても等身大の自分のままで、大人の歌が唄えるようになったということなのだろう。
この成長ぶりは、今年のライブでのパフォーマンスに如実に現れていたと思う。特に「shiosai」や「you're My Love」、「青いイナズマ」のバラードアレンジにした部分など、聴かせどころで会場がシーンと聞き入る場面が何回か見受けられた。もちろん「らいおんハート」の時もそうだ。
「らいおんハート」のイントロが流れ、木村が最初のパートを唄い始めた時、客席を振り返ってみた。小さな子供も、おばあさんも、みんな一緒に唄っている。SMAPの歌声と、会場の静かな歌声がリエゾンしながら心の奥底にしみじみと響いてきて、「いい歌が唄えるようになったんだなぁ」と感動してしまった。
もちろん大人の歌に挑戦するという試みは、ツアーが始まった頃からやっていることだ。95年のツアーでは、吾郎がカーディガンズの「カーニバル」を披露した。初めて聴いた時には意外性がいっぱいでとても驚いたのだが、ツアーのラスト、沖縄でのライブでは、彼がしっかりとその歌を自分のものにしているのを聴き、音楽に対する真摯な姿勢にエールを送りたくなったことを覚えている。木村や吾郎がギターを弾くことも、この頃から定番となった。
それから5年。現在の年齢とキャリアがうまくマッチしたのが、まさに今年だったのだろう。今回のライブでとても感慨深かった曲が2曲ある。ひとつは「夜空ノムコウ」。この曲をメンバーはステージ上に設けられた階段に座って唄った。みんなも小さな声で口ずさみながら、手にしたライトを振っている。曲のラスト近く、大スクリーンに、それぞれの表情がひとり、またひとりと映し出された。その表情が何とも言えず切なくて、詞が表現する世界が胸にぐっと迫ってきた。
そしてもう1曲が、1回目のアンコールのあたまで唄った「雪が降ってきた」のバラードバージョン。この曲は92年の12月にリリースされた、彼らにとっては6枚目のシングルだが、ライブで唄われることがわりと多かった曲だ。だが、通常は元気のいいオリジナルのアレンジで唄われるこの曲を、今回のライブでは唄い出しのパートを剛、吾郎、慎吾、木村、中居と順番にソロでつないでいくという、バラードバージョンで聴かせてくれた。客席も静かにその歌声に聴き入っている。8年前の曲が新しい楽曲に生まれ変わったようで、大人っぽい表現がさらりとできるようになったのだなぁと、感慨深いものがあった。
が、一方で、思いきりはじけてそのパワーに圧倒された楽曲もある。もちろん「慎吾ママのおはロック」だ。もはや香取慎吾とは別人格と化したという慎吾ママがステージに現れると、場内騒然。会場を見渡すと、60歳くらいのおばさんも、30代のお母さんも、小さな子供たちも、10代、20代のファンも本当に楽しそうだ。アリーナ席はもちろん、後方スタンド席のファンも、飛び跳ねながら踊っているのが良く見える。SMAPのコンサートで、これだけの人数が一糸乱れず同じ振り付けで踊ることは今までなかったので、改めて慎吾ママの国民的人気を実感した。
7年間のライブツアーの経験も、もちろん彼らの表現力の糧にはなっているだろう。だが、ドラマ、バラエティー、映画、CMと、幅広く活動を続けてきたSMAPだからこそ、ここまでの力がついたのではと思う。特にソロ活動が多い彼らは、ひとりひとりが別個の現場へ飛び出して行き、それぞれがいろいろなものを吸収してSMAPへ戻ってくるということを長い間続けてきた。そう考えてみると、ライブは彼らが様々な現場で考え、悩み、そのうえで自分のものにしてきた“大切なこと”の集大成なのかもしれない。
静と動のめりはりが
見事につけられるようになった2000年。
思いおこせば、「$10」が大ヒットしたのが93年。翌94年に『君色思い』、「Hey Hey おおきに毎度あり」、「オリジナルスマイル」と次々にヒットして、初めての全国ツアーがスタートしたのがその年の7月だった。このあたりからコンサートに行き始めた人にとっては、今年はすでに7回目のツアーとなる。
これだけライブを重ねてくると、メンバーとファンの間にはいつの間にか約束事ができてくる。たとえばトークの時に座ること。これはいつからの慣習なのか定かではないが、ある時、トークの時間が長くなることを考えた中居が「みなさん、どうぞお座りください」と言ったことに端を発している。今回のライブでも中居は同じように「お座りください」と言っていたが、「早くトークが聞きたい!」という思いの表れか、そう言われる前にすでに座る準備を始めていた人もずいぶん見受けられた。
また、今回はなかったのだが、「オリジナル スマイル」の唄い出しで、「♪世界中が幸せになれ!」という部分を、木村が自分で唄わずに会場にマイクを向け、全員の大合唱に耳を傾ける……というのも恒例のシーンのひとつだ。
そしてここのところ、ライブばかりではなく歌番組やバラエティーでもネタのひとつとなっている中居のソロ問題。ツアーを始めた当初はここまでネタになることはなく、「君色思い」の唄い出しは中居のパートだし、94年の“Sexy Six Show”でも、アルバム『006 Sexy Six』に収録されている中居のソロ曲「My Childfood Friend」を披露している。男の子の微妙な恋心を綴ったこの曲は、当時の彼の年齢ともマッチしていたのだと思うが、中居ならではのちょっと照れくさそうな唄い方が曲にぴったりあっていて、聴いていると心がふわっとあたたかくなるような名曲だったと思う。
今回のライブではトークのコーナーで、「自分の唄い出すパートが歌詞じゃなくてウッ!みたいなかけ声だと、やっぱり気持ちが入らないんだよねぇ」と笑いをとったり、また吾郎、慎吾の3人でパフォーマンスした「夏の風を忘れゆくように」でも、「これなら音程はずさないから」と場内を笑わせたあと、吹き始めたピアニカで一瞬旋律を間違えて弾きそうになり、自ら苦笑いというシーンもあった。
そのような流れから言っても、今年のアルバムにはソロ曲もないし、このままいくのかなぁ……と思っていたコンサート終盤。巨大スクリーンには中居の“生い立ち”VTRが映し出される。5歳まで女の子みたいに育てられたこと、野球少年だったこと、早く大人になりたくてちょっぴり背伸びしていたこと‥‥。そんな紹介のあと、中居のソロ曲「Chain Gang」が始まった。ステージ中央のセットの一番上、パーカーのフードを頭にすっぽりとかぶって段に座ったまま唄う彼の姿は、どこか孤高のボクサーのイメージとダブり、心にグンと迫ってきた。
そして、もしかしてこれは初めてでは……と思うのだが、続けて中居はひとり2曲目の「青春」を唄う。この時、スクリーンには彼がこれまで出演してきたドラマ――『味いちもんめ』『最後の恋』『ナニワ金融道』『伝説の教師』のVTRが流れ、中居の歌に耳を傾けながら、私たちは“中居正広がたどってきた28年の人生の縮図”を駆け足ながら振り返り、同時にSMAPの12年間にも思いをはせることとなった。こんなふうにしみじみとした演出は、これまでのライブではあまりなかったのではないのだろうか。
そういえば、これまでSMAPのライブは、ロック系の曲で加速度をつけてガンガンに会場を盛り上げ、エンディングへ向かうということが多かった。たとえば「心の鏡」、「Run! Run! Run!」、「今すぐ天気にしておくれ」、「どうしても君がいい」、「オリジナル スマイル」、「がんばりましょう」などが、歴代のツアーでライブ終盤を飾ってきた曲だ。が、こうして以前を振り返りながら考えてみると、「夜空ノムコウ」や「らいおんハート」との“いい時期の出会い”が、SMAPのライブにおける音楽面での方向性を、無理なく自然に“年齢にマッチした形”へと導いているのかもしれないと思う。
昨年の“BIRDMAN”ツアー、雨の中で行われた札幌・真駒内オープンスタジアムでのライブでは、「夜空ノムコウ」の大合唱で終わり、打ち上げられた8発の花火が夜空を彩って幕を閉じた。今年のライブでは、アンコール前の中締めに「オレンジ」を唄い、1回目のアンコールも「雪が降ってきた」バラードバージョン、「愛の灯〜君とメリークリスマス」、「らいおんハート」アルバムバージョンと、聴かせる曲をラストにもってきている。
今回のオーラスは「青いイナズマ」、「がんばりましょう」というノリのいい曲ではあったが、じっくり聴かせるところとダンスも含めて魅せるところ、この“静と動”というめりはりが見事につけられるようになったのは、ひとまわりもふたまわりも大きくなったSMAPというグループのパワーの証ではないだろか。
会場がどんなに大きくなっても
「5人との距離」は変わらない。
今年のツアーは、札幌コミュニティードーム、しぇるこむ仙台、大阪ドーム、大館樹海ドーム、福岡ドーム、名古屋ドーム、さいたまスーパーアリーナ、そしてラストの東京ドームと、大きな会場をまわるスケジュールが組まれた。
このことについて木村は、「大きな会場ってお客さんとの距離が遠いから、自分としては、もっとみんなと距離的に近いところで身近なライブをやりたいなっていうのはあるんだけど……」と前号で話してくれた。だが今年はこれで行くと決めた以上、どうやったら大きな会場でもファンと触れ合えるのかを、きっと考えているのだと思う。
樹海ドームでのアンコールでの出来事。それまでは正面のステージとそこから左右とまん中へ伸びる、合計3本の花道の上を彼らは動いていた。ステージの端から端まで移動して左右のスタンドの側へ行き、そこから伸びる花道の端っこまでフルに使ってなるべく後方のファンとも触れあおうとする。それだけでも相当な運動量だ。だが、縦長の樹海ドームでは、どうしてもステージから一番遠い奥の客席の近くまでは行くことができない。そこでなんとエアシューターでステージから滑り降り、アリーナの中央通路を突っきって後方に設営された小さなステージまで走っていったのだ。
通路の両側にいたお客さんは、いきなり真横を走っていくSMAPを見て大興奮。また最も後方でライブを見守っていたファンも、肉眼ではっきり表情やしぐさが見えるほど近い距離まで来てくれて唄う5人を見て、きっと飛び上がるほどうれしかっただろうと思う。
メンバー全員、ドーム後方でしばし唄ったあと、再びステージに戻る。その後、花道も含めたすべてのステージを縦横無尽に走り回っていた木村が、2度目のアンコールの時、心底うれしそうに笑いながら、もう一度、ステージを降りて後方へ全速力で走っていくではないか。通路脇は再び熱狂、もちろん後方席からも歓声があがる。ステージ中央の通路でライブを観ていた記者の前をあっという間に駆け抜け、上半身裸で走っていく木村の後姿はぐんぐん小さくなっていく。バスタオルを首にかけ、背中や腕には、まぶしいくらい汗が輝いていた。
会場が大きくても、ファンとの距離を近づける方法はあるのだなぁと、改めて彼らの“思い”に感動した。ステージの上にいても、メンバーはみんな、ひとりひとりのお客さんの顔を実によく見ている。目が合えばうなずいたり、手を振ったり。中には自作のグッズを受け取ってもらった超ラッキーなファンもいる。今回の樹海ドームで目立ったのが、オレンジ色のキュートな王冠。最初に木村がひとつ、続いて慎吾がひとつ、最後に中居がひとつ受け取ってかぶって唄う。それぞれみんな、しばらく後で、それを客席に投げ入れる。こんなふうに目線で、しぐさで、あるいは物を介して、SMAPとファンは近づいていく。
だがもちろん、直接的に触れあうことだけが、SMAPとファンとの距離を縮めているわけではない。一緒に唄い、身体を動かし、「うれしい」「楽しい」という気持ちや感動を共有するという“一体感”もまた、得難い経験だ。だから、客席の反応は、メンバーにとってとても大切なバロメーターになる。
まだ彼らがツアーを始める前、お正月の武道館公演が定番だった頃、「遠くの客席ってどれぐらい見えているの?」と聞いたことがある。するとみんな、「不思議なことにすごくよく見えるんだよね」と答えてくれたのだが、94年のインタビューでもこんなふうに話している。まずは木村のコメントから。
「ステージって今の自分がすぐわかる。ちょっとダラっとすると、逆に頑張ってという声援を送ってもらったり、反応がダイレクトに返ってくるからね」
それに対して中居は、
「ファンの子たちってするどいよ。こちらが思う以上に喜んでくれる時はうれしいけれど、反面厳しいとこもあるし。でもそれがいい関係なんだと思う」
と答えている。ツアーというものを経験する前に、すでに“ライブにおけるファンとSMAPのいい関係”をわかっていたのだろう。そしてその素敵な関係を7年間、維持してきたのだ。
だからこそ、ファンも1年に1度、同じ空間と時間を共有できるライブを心から楽しみにしているのだと思う。そしてもちろん、SMAPのメンバーも――。
つながれた5人の手と手。
これまで何度、この光景を目にしただろう。
では最後に、また今回のライブに話を戻そう。最後の曲、「がんばりましょう」の間奏部分で「バイバイ!」「またね!」という言葉が客席に向かって投げかけられる。木村が、吾郎が、剛が、慎吾が、客席に向かって手を振る。ペットボトルから水を飲んだあと、中居がふっと息を吐いて前髪をふわっと飛ばす。この中居のしぐさは7年前からずっと変わらない。楽しかったライブもいよいよエンディングだ。
SMAPのライブで昔からの定番となっているのがこんな風景だ。ラストの曲ではステージの左右、あるいは花道と、メンバー5人がバラバラに散って、できるだけ多くのファンに別れの挨拶をする。そして、全員がステージの中央に集まり、5人そろって最後の挨拶……。
今回の樹海ドームでもそれは同じ。ステージ中央に戻ってきた5人は、向かって左から木村、剛、慎吾、吾郎、中居という順番で、誰からともなく手をつなぎ、つないだ手を高くあげて、それから深々と一礼する。
彼らが手をつなぐ瞬間は、終わりの合図でもあるのでもちろん寂しい。だが、自然と手をつなぎあうメンバーの姿を見ていると、そこに確かな絆を感じるような気がして、うれしくもある。彼らはこの12年間の間に、こうやって、何度手をつないできたことだろう。
前日深夜までリハーサルを繰り返し、開演ギリギリまで内容にこだわりぬいて初日の大阪公演を迎えた94年のファーストツアー。沖縄で経験した初めての野外コンサート、ファンと一緒に唄った「翼をください」が印象に残った95年。「すごく良かったよ。メンバーに人生預けちゃってもいいんじゃないかと思えるくらい」と中居も感動した96年。金沢公演で3回のアンコール、帰りの飛行機ギリギリの時間まで盛り上がった97年。その年のツアー唯一の野外ライブを行った札幌、天気にも恵まれてとびきりの笑顔がこぼれた98年。札幌公演のスタートはあいにくの雨模様、だが熱気で止ませてラストの花火を楽しんだ99年。
そして今年、撮影機材の後片付けをしながら、ドームを後にするファンの列を眺めていた。ふと目をあげると、巨大スクリーンにはモノクロ映像で、今年のライブの様子がドキュメンタリーのように流れているではないか。ドームクラスの会場で何万人もの人が退場するにはかなりの時間がかかる。この映像は、待っている人への素敵なプレゼントだなと、改めて彼らのさりげない優しさが心に染みた2000年……。
過去の思い出とライブの余韻にひたりながら樹海ドームの外へ出ると、空には青白いきれいな月と、大きな星が輝いていた。みんなが乗ってきたバスが、車が、「SMAPに会えて良かった」というさめやらぬ興奮と、「来年、また会える」――そんな思いを詰め込んで、それぞれの家を目指して走り始める。
私たちとSMAPの幸せな関係がいつまでも続くことを願って、来年まで待つことにしよう。次はどんな思い出を作ることができるのか、楽しみにしながら――。