8月28日

 私は自動車学校に通っているが、今日はさぼった。実は昨日もさぼった。というか、1週間ほどさぼり倒している。
 さぼる理由は、自動車学校がいやだからだ。人がいるのがいや、家から遠いからいや、他人に強制させられて通っている嫌。
 しかし、1週間さぼっていると、さぼる場所に困る。いつもさぼりに利用する書店にはもう十分に入り浸った。店員が側にいると私は恥ずかしくなる。立ち読みばかりしているから。加えて、店員の青年がまっとうな人生を送っていそうな様子だからだ。
 そろそろさぼるのは潮時だ。明日は自動車学校に行こう。とても嫌だが、行こう。

7月30日

 朝友人の家に行くために家を出た。すると、目の前を黒猫が横切った。
 その猫は近所でよく見かけられる。この間向かいの家で餌を与えられていた。
 友人宅につくと、インターホンを押した。けれども、何の反応も返ってこない。どうしたものかと思っていると、庭のほうから声をかけられた。
 その声は友人の声だった。
 縁側で白猫を友人は撫ぜていた。なぜだろう、友人は猫が嫌いなはずだ。いつだったか、夜中家の庭に猫が集まってうるさくて堪らないと彼は言っていた。
 「その猫はどうしたんだ? 」
 問い掛けると友人は猫の喉を撫ぜた。心地よさそうな声をしばらく聞いた後、友人は言った。
 「頼まれたんだ、面倒を見てくれって」
 昨日の夜庭で猫が集会をした。議題は孤児の猫をどうするか。白熱する議論の結果、家にくることになった、と友人は言った。
 「それで、議長の猫が今朝俺の家にこの子を連れてきたわけだ。
  ところで、議長は自分がよくしつけている人間からお礼をさせると言っていた。そのお礼がそろそろ来るはずなんだが。ちなみに、議長猫は黒猫だった」
 ぼくは今朝会った黒猫を思い出した。そういえば友人にもその猫のことを話したかもしれない。
 「それでな、その黒猫はこうもいっていたぜ。しつけの悪い人間には罰をやらなくてはってね。最近黒猫に横切られてたりしなかったかい? 」
 今日友人の家に行った。猫をネタに酒をせびられた。

7月29日

 夏休みにも関わらず、今日ぼくは大学へ行く用事があった。夏休み開け提出のレポートに必要な資料を探さねばならなかった。
 夏休みのために図書館は人気がなかった。一階カウンターに司書がいるだけだった。当然ぼくが探している資料がある地下書庫で誰かとすれ違うことは無かった。
 書庫は本が劣化しないように暗い電灯で照らされていた。ぼくは視野が狭くなるような感覚を感じた。非現実的で映画のようだった。連想でホラー映画を思い出し、ついでに、何かサスペンスでも借りようかと思った。
 お目当ての本がある棚を発見した。
 けれども、そこにはなかった。無断で持ち出されたか、別の本棚にあるのだろう。
 本を探しながらぼくは、ボルヘスの「バベルの図書館」を思い出していた。あの小説に登場する司書は一冊の本のために人生を失ったが、ぼくはそれほどでもない。レポートを書き損じるだけだ。
 そして、ぼくの旅は結末も違った。お目当ての資料と映画原作で内容はサスペンスの文庫とボルヘス全集から一冊抜き出したものという宝物を見つけて一階に帰還した。

7月25日

 古本屋は坂上堂といって、名前の通り、坂の上にあった。
 その坂というのは尋常なものではなく、「坂ノ下前」というこれまた名前の通りのバス停から坂の頂上を見ると、坂が途中で空に消えている。空に繋がって見えるほど長い坂なのである。
 空に至る坂をぼくは歩いている。本を詰め込まれて重い鞄はベルトを体に食い込ませた。鞄は歩くたびに揺れて、中の本の角が体に当たって痛かった。
 坂上堂への道のりはまだ長く、坂は相変わらず青空に繋がっていた。まだこんなに登らなくてはならないのか。重い鞄を抱えていると気力が尽きてしまって荷物を捨てて帰りたくなるが、今まで登ってきた労力を無駄にしたくないので頑張って登ることにした。
 そんなぼくの側を一陣の風が通り過ぎた。自転車が猛スピードで下って行ったのだ。なるほど長い坂というのは下るのには好都合のようだ。気持ちよさそうだった。
 ぼくは坂上堂の主人から自転車を借りようと思った。