PROLOGE
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「32、33、34…」 五月。 この時期、どの部活もみんな高校総体に向けて気合が入ってくる。 あたしの所属する陸上部も例外ではない。 特に、キャプテンの榊原 拓は、県内でも3本の指に入る長距離ランナーとして注目を集めている。 「波瑠さあ、なんで陸部のマネージャーなんてやってんの?」 よく友達に聞かれる。 高校に入学したとき、親友の遥子に誘われたから。 そう答えることにしているが、遥子は1学期が終わると同時にマネージャーも辞めてしまっていた。 まあ、動機が不純だったからねえ。 遥子はやめるときにそう言って笑っていた。遥子は拓のことが中学の時から好きで、どうしても近くにいたい、といって聞かなかったのだ。でも、ひとりでマネージャーになる勇気がないから、あたしにも一緒になって、と頼んできた。 なってみると、結構大変だと言うことが遥子には分かったらしい。選手のユニフォームの洗濯、練習のタイム取り、結果の記録、お茶の準備、その後片付け…。もともとめんどくさがりやだったせいもあって、一学期が終わる頃には遥子はほとんど来なくなってしまっていた。 でも、あたしは毎日部活に行った。遥子に「もういいさ、いっしょにサボろう」と言われても、「でも、マネージャー行かなかったら困るじゃん。」と言って放課後はすぐに部室に直行していた。ひとりになるとますます大変だったが、それでも、別にこういう仕事は嫌じゃなかった。 だって、誰よりも近くでアイツを見ていることができるから 遥子は、「波瑠、ひとりでも頑張るの?」と辞めるときに聞いてきた。 「うん。やり始めたら、面白くなったから。それに世話する人いないとみんな大変だし。」 そう言って、あたしは陸上部のマネージャーを3年間続けてきた。 遥子はあたしの気持ちを知らない。あたしは拓を好きだと言うことは誰にも話していない。 表向きは「好きな人はいない」ということで通している。 気付かせてはいけない。誰にも。 だって、きっとあたしの恋は実らないから。 いつかみんなと離れて綺麗な思い出に変わるまで、きっとあたしは誰にも言わない。 高校総体まで、あと1ヶ月を切った。 「今日のメニューはこれで終了―。ほら、ダウンに行って来い!」 ササゴンの声がグランドに響く。はいっ、と大きな声があちこちから返ってくる。 少しみんなより高い身長が先頭を切ってランニングに入る。 それにつられてみんなもジョッグを始める。 地方大会への椅子は各種目6つ。 みんなそれを目指して頑張っている。 あと一ヶ月。それが終わると、長距離は駅伝に向けて練習が切り替わる。 …あと、半年。秋までは一緒に練習ができる。 そう思いつつ、あたしはみんなのお茶の準備をしに、ストップウォッチを首にさげ、部室へと走っていった。 |