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Squall on the rainforest 1





突然の雨が一行を襲った。
 南国の樹木特有の大きな葉を大粒の雨が叩く、雷鳴にも似た音が辺りを支配する。
 皆、慌てて木の下にかけこむ中、青い髪の青年だけが、空を見上げて立ち尽くしていた。
「凄いな…」
 雨は青年を包み、たちまちのうちに彼の髪からも、形のいい顎からも、だらりと下げた両腕の指先からも軍服の裾からも水を滴らせる。
「こんなとこによく暮らせるもんだよ、しかも好き好んで…」
 顔を顰めて呟く青年を案内人が仮設の天幕の中に引きずり込む。
「水も滴るいい男ってとこね。でも、熱帯だからって濡れりゃ風邪引くわよ?」
 案内人の揶揄も耳に入らぬように、憑かれたように青年は雨を睨んでいた。





 アリスナ大陸・リア自治区・自由軍本部
 リアシア国北方、ローディン地方の政治抗争解決のため、自由軍の派遣がリア三国首脳会談によって決定されたことを受けて、自由軍本部では作戦会議が行われようとしていた。


「…眠い。」
 会議室への長い廊下の途中で情報部開発室勤務、ヴィンセント=サヤ=セルマ少佐は大あくびをした。青く染めた髪に緋色の左目。右目には海賊のごとき眼帯をした彼の異貌は無機質なこの建物の中で否応無く目立つ。
「緊張感なさ過ぎだぞ、サヤ」
 隣を歩く開発室統括、アールダン=ラヴァーダ少将が軽く窘める。波打つ黄金の髪に、アイスブルーの瞳が端整な顔に冷たい印象を与える。
「昨日は『フィールド』を創るのにハマっちゃって…ローディンの地形を参考に創ったからあながち遊びでもないだろ?」
「上層部のすべてが『フィールド』による訓練の有効性を認めているわけではない。莫大な予算と天才教授を招聘してまで創設した開発室だが、その有効性を理解できる人間は上層部には多くない。『フィールド』を用いた訓練は"軍隊"の訓練ではない、"白兵戦"の訓練であって実戦では役に立たないなどということをおっしゃる御方もいらっしゃる。お陰様でわが開発部はたった2名で『フィールド』開発をしなくてはならない。」
「だってうちはそんなでかい組織じゃないんだぜ?局地での白兵戦が自由軍の役目じゃないか。何万という兵を指揮するのは3ヶ国軍に任せておけばいいんだよ」
「そうはいかないのが組織のやっかいな所だ。上層部は3ヶ国軍からの退役軍人ばかり。そのやり方が身に染み付いている者も多い」
「くそっ、凡人の爺の分際で天才のやることにケチつけんなよな〜!」
 上役を口汚なくののしって、またサヤは大きなあくびをした。
「だいたいなんで俺が出なきゃいけないんだ?アールダン。作戦会議に副官つきなんていいご身分じゃないだろ?」
「たまには私が味わっている苦痛を味わってもらおうと思ってな」
「…悪魔め。今回のフィールドの出来が悪かったらアールダンのせいだ」
 憤慨するサヤを見てアールダンは含みのある笑いを浮かべた。





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