この物語には序文があり、その序文においてこの物語が如何なる性質の物語であるかということが言明されております。そこにも触れられている通り、この物語に隠されたテーマというものはありません。従って同様に、この物語の内側に脈々と流れるコンセプトの如きものもありません。筆者たるわたしとしては、ささやかなこの物語が幻想小説あるいは冒険小説として読まれることを望んでいます。
これを書いたわたしは何者でもなく、わたしが15年まえその場しのぎでとっさに名乗ったULSなる名前は多分、ユリシーズ(オデュッセウス)を適当につづめたものであったと思います。そのユリシーズが一つ目の巨人に名を聞かれた時に「ウーティス(誰でもない)」と名乗ったことを憶えていたせいでしょう。わたしはこの物語を子どもの頃に読みました。
-暫くしてトマスの像と夜の底とを丸切り判別出来なくなると、足の悪い老マウレーク人がぼそりと耳打ちするように言った。
「いやはや、あの若者は悪運が強いね。或いはわたしらが邪魔立てをしてしまったのか。ざっと見たところ、彼はどうやら命拾いしたようじゃありませんか、ええ?」
「そのようですね。」
黒衣の男は短くそう答えてぞっとするような笑みを浮かべた。-
◆主な登場人物
ヴェルナー…アンハルト国の将帥。
アルシャーテ…マウレークの王子。父は国王イスマイル。兄は太子ラシード。
アンネ…アンハルトの王。マーセル王リシャールの妻。
リヒャルト…アンハルトの大公。アンネの弟。
トマス…アンハルトの貴族。アンネとリヒャルトに幼いころより親しむ。
リシャール…マーセルの王。アンネの夫。
コルネリア…アンハルトの貴族。
サルワン…マウレークの貴族。
ウマル…マウレークの商人。
ムーサ…マウレークの貧民窟「黄金海」に巣くうならず者。
カラド…マウレークの組織「暗い眼差し」の首魁。
◆国
マウレーク…砂の国。豊かさゆえにしばしば「紅玉」と呼ばれる。
アンハルト…「西の国」。マーセルとは同盟関係にある。
マーセル…「西の国」。
ジョタン…マウレーク北西の国。「西の国」の軍門に降る。
シュウバ…マウレーク南の国。
小説『赤の舞台』