最近読んだ本


「密やかな結晶」
著者 小川 洋子          出版 講談社文庫
 静かに「消滅」の進む閉ざされた島で、人々は何をなくしたのかも思い出せない。強いられる感覚の「消滅」を日常の出来事として受け入れる島の人々の姿は、理不尽なこと、非人間的なことに順応し、疑問を覚えなくなっていく怖さを思わせます。一方で、記憶を感じる「心」を失わない「彼」と、記憶狩りに狩られるはずだった「彼」を助ける「私」と「おじいさん」の存在は、無抵抗に「消滅」に順応していくことのへの批判と反抗、人間としての心を最後まで失わないことの重要さを感じさせます。


「オリガ・モリソヴナの反語法」
著者 米原万里          出版 集英社文庫
 1960年、チェコのプラハ・ソビエト学校で学んだ日本の少女・志摩が、約30年後、翻訳者となってモスクワへ赴き、在学中に出会った舞踏教師オリガ・モリソヴナの半生を辿っていく話です。500ページ近い長編ですが、オリガ教師の足取りを追う過程がまるで推理小説のようで、一気に読み終えてしまいました。誇張された表現は一切ないのに内容は奥深くリアルで、迫力のあるノンフィクションを読んでいるようでした。前半は志摩の少女時代や現在の境遇、友人との再会などが中心ですが、中盤から後半では、当時不安定だったロシアの政情の中で生き抜いてきたオリガ教師と、その周囲の人たちとの関わりにスポットが当てられていきます。また、著者自身も作中の志摩と同じ頃にプラハのソビエト学校で学び、その後ロシア語の通訳をしていたため、日本の姿がロシアの価値観などと対比されて描かれています。
 米原万里氏は他にエッセイやノンフィクションなども書いていますが、私が一番はじめに読んだのはこの本でした。一番好きなのもこれです。この人にはもっとたくさん書いて欲しかったです。


「からくりからくさ」
著者 梨木香歩          出版 新潮文庫
 


「りかさん/ミケルの庭」
著者 梨木香歩          出版 新潮文庫
 「からくりからくさ」に出てくる主人公の1人、蓉子との子供時代の話です。蓉子が祖母からもらった市松人形「りかさん」は、人とこころを通わせ、強すぎる気持ちを整理してあげられる不思議な人形。人の思いや願いを預けられた古い人形たちの心に触れて、かつての持ち主たちのもつれた気持ちの糸を解きほぐしていきます。話は大きく分けて蓉子の両親と祖母のわだかまりがとける「養子冠の巻」と、第二次大戦前にアメリカから日本に親善大使として送られた青い目の人形、「アビゲイルの巻」から構成されています。
 「ミケルの庭」は「からくりからくさ」の後日談で、りかさんがアビゲイルに託された問題が、最後に解決されます。


「水なき雲」
著者 三浦綾子          出版 中公文庫
 和郎・亜由子夫婦と、亜由子の姉の佐貴子夫婦、そしてその子供たちが主に出てきます。それぞれの夫婦はお互いのすれ違いや過ちが重なって、気持ちが離れていってしまうのですが、子供たちは純粋に育っていきます。そしてラスト直前で悲しい事件が起こるのですが、それをきっかけにして、和郎と亜由子の息子・純一は、和郎の行動の理由を問いただします。和郎は純一との会話を通して、亜由子と向かい合う決意をします。
 一番印象に残ったというか、考えさせられた人物は亜由子です。亜由子は、姉に対するコンプレックスや、自分を守ろうとする気持ちから、他人を傷つけることがあります。
 個人的に好きなのは、佐貴子夫婦の娘の公子です。登場することは少ないのですが、周りの思惑に惑わされずに、自分の道を自分で着実に決めていきます。


「暗殺者ロレンザッチョ」
著者 藤本ひとみ          出版 文庫
 ロレンツィーノという青年が暗殺に至るまでの過程を、フランス王妃カトリーヌに告白するといったストーリーなのですが、心理描写が的確で迫力がありました。あくまでも犯罪者の心理で、とても肯定できるものではないのですが、その始まりは私たちが誰でも持つようなマイナスの感情で、説得力のある語り口なのです。ただ、このロレンツィーノの論理はとても偏っていて、足りない物があると感じました。