<恋人>

当時の恋人は、理解の範疇を超えて無神経だった。
学歴はかなりのものだった。
しかし、人間としては何かがかけている人物だった。
いつも美月の浮気を疑い、執着し、そのくせ放任していた。
俺も人にどうこう説教できるほど優れているわけではないが
何故別れないのか不思議でならないほど、人間性を疑うものだった。
4年の付き合いだという。
相手の男には「何があっても俺から離れられない」という気持ちが見え隠れしていた。
結局は、一年目で既に割りきった美月の気持ちに気付かず
最後はその傲慢さに、多いに後悔と反省をしたようだが。
後悔先にたたず、とはまさにこのこと。

美月は時折かかってくる電話に、辛さを一切出さずに応答した。
静かな部屋、会話はまる聞こえだ。

「どうしてる?」

「うん、仕事元気に行ってるよ〜。」

「週末、見舞いに行こうと思ったんだけどな、実家帰らないと。おかんが。」

「そっか。お母さんも淋しいんだし、たまには顔出さなきゃ。
 友達んち遊びに行ってばっかりじゃダメだよ」

「わかってる。ゴメンな。」

「ううん、お母さんによろしくね」

「こないだO(彼の友人)に怒られたよ。美月もっと大事にしろって」

「そっかぁ、Oさん、わかってるね〜」

「俺だって大事にしたいよ。でも・・・」

「ありがとう。大丈夫だから、お母さんの側にいてあげて。またね。」

「浮気すんなよ、またな」

まるで友達と話しているかのような会話だった。
聞けば1ヶ月以上会っていないという。
浮気をするなだと?この体で。
事情を知らないのか?心配でないのか?
母子家庭だというが、逢えない理由が母親ばかりというのはなんだか胡散臭い。
ライバルの男でありながら、その言葉に耳を疑った。

またある時の会話。

「仕事でミスって最悪。行っていい?」

「ごめん、明日夜勤だから休みたいんだけど・・・」

「なーなー俺の事好き?」

「ん?好きだよ。」

「今度、デートしよう。絶対。今までのお詫び。すごい抱きしめたい。」

「ほぉーどこ連れてってくれるの?」

「あんまり金ねーからなー。」

「じゃ、おうちでってところかしらね?」

「ごめんな。」

「ううん、会えるだけで嬉しいよ。都合わかったら教えてね」

「わかった。本当今日逢いたかったよ。どうしてもダメ?」

「うーん、ごめんね。」

「いや、じゃぁまたな」

「またね」


しかし、切った後の美月の顔を見て悟った。
彼はもはや恋人ではない。

あまり詳細に思い出すと腹が立つので書かないが、
高熱が出て、その時知っていたにもかかわらず終電がないと言って
家にこなかった事もあった。
タクシーを使ったって首都高に乗れば20分でつくものを。
ま、その時は俺がそばにいれたから、こなくてありがたかった(笑)
無頓着な男が相手だったおかげで
俺は存分に寝顔と辛いながらも作ってくれる笑顔を眺められたから。


何故別れないのか聞いてみた。
復讐中だという。
自分が一番居心地いいと思うまで徹底して都合のいい女になって、
捨てるのだそうだ。
美月らしい。
この手法が通じるかどうかは相手によるだろうが
彼の周囲の女のパターンを完全把握している場合は有効だろう。
現に、最後には
浮気を繰り返した彼に「お前が一番」と言わしめ
その返答として、別れを言い放った。
不満や罵りや蔑みの言葉を一切言わず、
「今までありがとう、他に好きな人が出来たの」晴れやかに言い放った。
その場では色々思い出されて涙も流れたというが、
俺が思うにそれは、哀れな男への同情だったのだろう。
少なくとも別れが悲しくて流した涙ではない。
恋人が苦しんでいる姿を見ぬけない恋人など、恋人ではない。
その後しつこいまでに美月に付きまとっていた。
が、一蹴された。その仕打は当然だ。
ざまーみろ。