花 薫
夏風が私のところに届いた 二度目の使者は しかしそれは息も絶えだえだった もう風ではなかった 私の頬にくちづけするや まったく栗の花薫りであった たちまち消えてしまった 私自身が栗の茂みに流れ込んで そこで揺れているようであった 二度目の使者がくるまでには かなりの時間がかかった あまりのその薫りに 私はそれを待ち焦がれていた 私は頭痛がした 私は泣き顔をして顔を伏せた 二度目の使者は 私は恥じらいを知った 栗の花薫りを含んでいた と言うのもその薫りは いや一度目の使者も含んでいたのかもしれない 私がいつも夢幻にかぐあの香りであった 私は気付かなかったのだ 私が十三の時にはじめて知った あの恋しい 私自身の 私だけの あの薫りであったからだ
(1968年6月)