・・・夢・・・?
夢を見ていたのかな…
ぼうっとする体、しびれる指

そう、あたしは・・・・・



アストローナ暦166年5月


目がさめると、フィーは馬上の人になっていた。
人とは言ってもフィーは「人間」ではない。
フィーは、「妖精」。
ピーターパンのティンクと同じ。
人形のような体に昆虫の羽根を持つ生物。
神秘的?
否、この世界にはありふれている生物の中の一人である。
それを今から証明しよう。

「やっと、起きた」
日を背に少女の影。
フィーは記憶を辿り声の主を考えるが…わからない。
「目を覚ましたのか?」
男の声。
少し神経質そうな、張り詰めた声。
声の主はアーズウェル。
古い神を信仰する長身の剣士。
過去に何があったのか、「背教者」の烙印を押されている。
…が、腕は一流(に限りなく近いと本人は主張する)
協会から逃げつづけているのだから、事実一流以上、なのであろう。
フィーを始めとする4人の中で、
今後もっとも伸びるであろう人物である。
「お、ようやくお姫様のお目覚めか」
御者台から振り返ったのは一人の男。
中肉中背、これといった特徴のない顔。
ふと見落としてしまうような、そんな男である。
だが、それは生来のものではないことは、
彼の着る異質な服を見ればわかる。
ニンジャと呼ばれる戦士の衣。
さまざまな影に潜み、
一撃必殺を身上とする人間のひとつの形である。
事実、彼も一度だけではあるが、
その一撃を持って相対した敵の首を一閃したことがある。
人のよい笑みの中に隠された凶暴性、
それが榊原陣という男である。

さて、ここまでは普通の人間。
ありふれた、という表現がしっくりくるものであろう。
(もっとも我々が知りうる限りの非日常での「ありふれた」ではあるが)
冒頭で述べた、神秘的な生物はこれからである。
「ったく、また皆に迷惑をかけてさ。
 少しはセキニンってやつを感じなよ」
小柄な少年。
だが、深くかぶった帽子の内と腰の辺りからは
ふさふさとした獣毛が覗いている。
少年は獣人のなかでワーキャットと呼ばれる生物にあたるのだ。
彼の名は柚木、この一行の中では僧侶と呼ばれる役どころについている。
僧侶といっても、こちらは陣とは違い神に仕えているわけではない。
冒険者の中で「僧侶」というのは怪我を治す力を持った人間を指す。