第四章
ホトルが言った満月のときまで後三日となった。
フロイトとウィルバーはホトルに必要最低限の荷物を用意してもらった。
暗闇に紛れる事の出来るマントに、決して切れることのない魔法のかけられたロープ、持ち主の命を護るように想いが込められた短剣を二振り、フロイトが練習中だった弓(自分で用意した)、そして、木の実を挽き潰して焼いた乾物(乾パン)の一種と飲み水を持った。
「明日旅立ちます」と、ウィルバーが言った。「正確には今夜の真夜中に」
「そうか・・・あの子をしっかり護るのじゃぞ」と、ホトルが言った。「最後に言わねばならぬ事がある、フロイトを呼んできてくれ」
ウィルバーは何も言わずに彼を連れに向かった。
「フロイトよ、お前さんに忠告がある」と、ホトルが言った。「一つは癒しの風に向かう道のりは簡単な物ではない、それをよく心に刻むこと、もう一つはパルドラスには癒しの風に身を晒すまで入国してはならぬということじゃ、なぜなら・・・それは時が来れば話そう」
すると、彼はもうただの大樹になってしまったように何も語ろうとしなかった。
夜になった。
二人は静かにホトルに別れを告げ、その場を後にした。
「かつて風が現れた地点では以前に大きな戦いがあったようです」と、ウィルバーが古臭い書物を見ながら言った。「この辺でも大きな戦いがありました、パルドラス王国と魔物たちとの」
「そのパルドラス王国って言うのはどんな国なの」と、フロイトがたずねた。「ホトル様も言ってたけれど」
「わたしも中には入ったことが無いので噂だけですが、その国に住む人々はみなすばらしい才能を持っているそうです」と、ウィルバーは言葉を続けた。「例えば、国王は武才に秀でているため、今まで一度も戦で負けたことがありません、噂ですが」
「野蛮な人たちみたいだね」と、フロイトは言った。「話で聞く限りだと」
「そんな事はありません」と、ウィルバーが突然言った。「王妃のほうは大変理のある方だそうです」
「それもその本に書いてあったんだろう」と、フロイトは書物を指差し言った。「ほら、そこに書いてある」
「ばれましたか」と、ウィルバーが言った。「しかし目が良いですね、あなたと私はこんなに離れているのに」
すると、彼は骨のように細い両腕を広げた。
「僕、目だけはすごく良いんだ」と、フロイトは言った。「これって才能かな」
そのときだった。
「隠れてください」と、ウィルバーが言った。「奴らです」
現れたのは魔物だった。
「この辺にいるらしい」と、一番体の大きい魔物が言った。「奴を見つけて八つ裂きにしなければ運命は変えられてしまう」
「その運命ってえのはどんなもんなんだ?」と、別の魔物が言った。「俺達にどんな関係があるんだ?」
「お前そんなことも知らなかったのか?」と、最後の魔物が言った。「奴を殺さなければ俺たちはパルドラスに滅ぼされるんだ」
「何だって!!」と、それを聞いた魔物が言った。「俺たちも死ぬのか?」
「あぁ、見つけて殺さなければな」と、大きな魔物が言った。「だが殺せばいいのよ」
「このままでは危険だ」と、ウィルバーが声を潜めて言った。「私がおとりになりますからその隙に」
「ピューッ」と、どこからか鳥笛の音が響いた。「ピューッピューッ」
「何だ?」と、次の瞬間幾多の矢が魔物の肉体を襲った。「ぐっ・・・」
「大丈夫か?」と、少年の声が聞こえた。「一人は顔色が悪いなぁ」
「もともとです!!」と、肩を叩かれたウィルバーは言った。「失礼な」
「僕に触れないで!!」と、フロイトは叫んだ。「大変なことになるから」
「おい、落ち着けよ、分かった、触らないから」と、少年は言った。「変な奴だな」
「あなたは何者です?」と、ウィルバーが言った。「なぜ私たちを助けてくれたんですか」
「ああ、お前たちは偶然助けたんだ」と、少年は言った。「俺は傭兵をやっているパルだ、この辺は魔物が良く出るからね、子供でも雇ってもらえるのさ」
「魔物を殺しただけ報酬が出るんですね」と、ウィルバーが言った。「素晴らしい」
「あの矢はどうやって放ったの?」と、フロイトが言った。「まさか一人で?」
「そのまさかさ」と、パルは言った。「お前も弓を持ってるな、どのくらいの腕前だい」
「まだ練習中なんだ」と、フロイトが言った。「あんまり上手くない」
「俺が教えてやろうか」と、パルが言った。「俺のテントがすぐ近くにあるんだ、来いよ」
「本当!!」と、フロイトはうれしそうに言った。「僕、フロイトよろしく」
「彼は怪しいです」と、ウィルバーが言った。「テントはありがたいと思いますが」
「大丈夫さ」と、パルが言った。「なんなら俺の武器持ってくれよ、魔物」
「私が魔物?魔物ですってぃ」と、ウィルバーは少し顔を赤くしていった。「私は魔物じゃない、水人族のウィルバーです」
そして、三人はテントに向かった。
テントは一人だけが使っている割りに意外と広かった。
「お前たち旅してるんだろと、パルが言った。「何の目的でその旅をしてるんだい」
「僕たちは癒しの風って言う風を求めて旅をしてるんだ」と、フロイトは言った。「今度の満月の夜に現れるんだ」
「それ以上ぺらぺら口を滑らせてはなりません」と、ウィルバーが言った。「あなたはあまりにも無知です」
「本当に癒しの風を探しているのか」と、パルが言った。「俺もその風を探し続けてきたんだ」
「なぜあなたが癒しの風を求めるんです」と、ウィルバーが言った。「あなたはすこぶる健康そうですが」
「必要としてるのは俺じゃない」と、パルは言った。「妹だ、妹の病気はもう治らないと医者に言われてるんだ」
「僕も普通じゃ治らない病気なんだ」と、フロイトが言った。「腐食の身って言うんだけど」
「えっ、じゃあお前の前世は生贄だったのか?」と、パルは驚いたように言った。「そうか、だから、あの時触るなって」
「私はこの土地で風が生まれると思います」と、ウィルバーは言った。「なぜならここでは最近戦があったからです」
「最近じゃない、これから起こるんだ」と、パルは言った。「お前たち知らないのか、ここでパルドラス国と魔物の最後の戦いが始まるのを」
「何ですって」と、ウィルバーは言った。「ではここは今すぐ戦場になるんですか?」
ウィルバーとフロイトは絶望に見舞われた。
ここが戦場になるということはたくさんの人が死ぬということだ。
ジルが傷だらけになった時のように死ななくてもたくさんの怪我人が出る。
「俺もその戦いに参加するんだ」と、パルが言った。「戦いが終わるまでは隠れてた方がいいぜ」
「僕に弓を教えてくれる話はどうなったの?」と、フロイトは言った。「死んじゃうかもしれないじゃないか」
「大丈夫だよ」と、パルは言った。「最前線で戦うわけじゃないんだ」
そして、戦いが始まった。
パルはその戦いで弓に撃たれて死んだ。
フロイトに弓を教えることなく・・・。
第五章
戦いの終わった後を見ると残ったものは虚ろだった。
二人は癒しの風が現れるのを待った。
そのとき地上を浄化するかのごとく、清らかな空気が大地から染み出てきた。
それが癒しの風だった。
風は死んだ者たちの魂を癒し、肉体を癒した。
新たな誕生だ。
全ての死んだ者の生気が蘇った。
魔に魅入られていた者たちは天に昇り、心良き者は生き返った。
パルも生き返った。
フロイトにも異変が起こった。
体の奥から何かが込み上げてくる。
そして、それはフロイトの全身からあふれ出た。
腐食の力が消えた瞬間だった。
「時が来たな」と、ホトルの声が近づいてきた。「お前さんに話す時が」
「あ、ホトル様」と、フロイトが言った。「時が来たって・・・」
「オ前ノ正体ヲ明カス時ダ」と、懐かしい声が響いた。「フロイト」
「ジル」と、フロイトは叫んだ。「また会えた」
「あなたはパルドラスに近づいてはならないと言われましたね」と、ウィルバーが言った。「それはあなたがあの国の王となる方だからです」
「知っています」と、フロイトが言った。「風に触れたその時、全てを知りました・・・あなた方の願いも」
「では向かってくれるな」と、ホトルが言った。「わしらの願い叶えてくれよ」
「俺も行く」と、パルが言った。「癒しの風が俺の妹を助けてくれたのが分かった、そして俺がお前を助けることも」
「わしら三人はパルドラスに入ることは出来ん」と、ホトルが言った。「それも分かっているはずじゃ、風に触れたのじゃから」
「では行きます」と、フロイトが言った。「また会える日が来ることを」
そして、二人は旅立った。
再び会うことを約束して・・・。
その頃パルドラスでは大変な事が起こっていた。
だが、癒しの風は二人にその事を教えはしなかった。
話がぜんぜんまとまってなくてすみません。