ESPAS

     五

 深夜だがその日の内に四人は再び支部に集まった、それに二人メンバーが加わっている。六人はそこで耳に掛けるタイプのヘッドフォンに小さなマイクを付けた様な物を借り受ける。組織が独自に作り出した小型無線機だ。チャンネルの設定ができる物もあるがこれは出来ないので全員の声が全員に聞こえる。

「それで、作戦は?」

 智がそう切り出す、それぞれが席について和正を見る。彼は微笑みながら淵の厚い丸い眼鏡の奥で目を細めた。

「君達に一任します」

「そんなんだから出世できないんじゃない?」

 藍が速攻で切り返した。気弱げな笑い声を上げる上司を六人が半眼で見て、立ち上がった。既に全員が戦闘用の装備をしている。

「ああ、言い忘れてました」

 先頭を切って歩く夏樹がドアの前で立ち止まった。

「死人は出さないようにしてください」

 全員が何も答えないのは、そんなこと百も承知だ、という意思表示だ。そして六人がそれぞれ出て行った。

「聖司、何丁持った?」

 出ると同時に藍が訊いてきた。

「三丁」

「そんなに持ったの?」

「おい、一丁じゃ話にならんぞ」

 答えたのは聖司ではなく昼間いなかったメンバーの一人、深谷慶だ。彼だけ聖司と同じ膝まである季節外れのコートを着ている。

「だって銃って重いじゃないですか」

「鉛玉が必要になったらどうするんだ?」

「マガジンを変えます」

 慶は溜息を付いて先に行ってしまう。

「どうしたんでしょう?」

 藍が不思議そうに言う。

「彼は真面目なのよ」

 言ったのは追いついてきた一人の女性だ。美しい波打つ黒髪をショートカットにしている。

「あなたなら大丈夫だろうけどね」

 氷室奈々はそう言って笑いながら先に行ってしまった。追い抜かれた時、聖司に流し目を送ってきたが聖司はそれを見なかった事にする。

 六人はビルの裏にある駐車場からそれぞれの乗り物で目的地に向かう。聖司と藍は青いクーペだ。そのクーペの横を黒いバイクが抜き去って行く、サイドカーが付いていて慶と奈々が乗っているはずだ。聖司達もそれに続いた。

 組織に車はタイヤを全てオリジナルに代えたり、エンジンを積み替えたりとか全てがチューンしてある。だから簡単に速度メーターを振り切らせる事も出来るし、異常な運転にも耐えられる。聖司も藍も暴走的な運転はしないので愛車のクーペは今まで一度も壊れていない。

 六人が向かう所は一軒のビル。三階建てでまだ明かりが点いている。六人はそれぞれバラバラの場所に乗ってきた物を止めてビルの前に集まった。

「どうする?」

 奈々が言った。

「上と下で挟むか」

 夜なのにサングラスを掛けた夏樹が言って上を見る。

「どうやっていくの?私が持ち上げる?」

 藍が言って同じように上を見た、跳び上がれない高さでなはい。

「いや、非常階段がある。そこから登ればいい」

 智がそう言って上に向けていた視線を下ろす。

「で、誰が行く?」

 聖司が言うと六人がそれぞれ視線を走らせた。

「上に二人、下に四人でどう」

 藍が言った、誰もも反論しなかったのでその案は決定となった。

「私と慶で上がるわ」

 奈々がそう言って手を上げた。

「上手くすれば静かに屋上から入れるから」

 誰も異議を唱えなかったのでこれも決定。奈々と慶が非常階段に向かい、他の四人は玄関に向かう。入口のガラスが曇りガラスになっているので中に何があるのか分からない。四人はそれぞれ銃を取り出す、藍と智は脇のホルスターから、聖司はコートの胸から、夏樹は腰の後ろから取り出し全員同士に弾倉を出して銃弾の数を確認して同じ動作で同時に戻した。そしてそれぞれサイレンサーを取り付ける。

「行くぞ」

 夏樹が言ってサングラスを指で押し上げる。全員それに静かに頷く。慶と奈々の気配がしないので二人は足音一つ立てずに屋上へ昇っているようだった。

 四人は玄関の自動ドアの前に付き、それが開く。開くとそこはいきなり受付ロビーだった。警備員が缶コーヒー片手に椅子に座っていた。その警備員の制服を着た男の腰には銃が下がっている。その男は聖司達を見て驚いた様に腰を上げたが何も出来ずに肩を打ち抜かれ、椅子と一緒に床に倒れ込んだ。

「まずいでしょ」

 藍が言いながら周りを見る。夏樹を先頭に藍と智が左右に展開し後ろに聖司がつく。

「一般人かもしれないって考えなかったの?」

 藍が夏樹に非難を浴びせる、先輩だという事などお構いなしだ。警備員の男の右肩を抉って体内に留まった銃弾はただの鉛玉では無い。それは人体に薬剤を注入させる銃弾、超能力を消す薬を含んだピルを弾頭に内蔵した弾丸だ。組織の作った物で威力は弱いが超能力者相手には良く使える。

 痛みに泣き叫ぶ警備員に夏樹が駆け寄り顔面を蹴りつけて黙らせた。しんと静まるロビー。何の前触れもなく階段から飛び出して来た二人の男が侵入者四人を発見する。その二人の手にはサブマシンガンが握られていた。

「藍、智!」

 夏樹の声に答えて二人が前方に片手を向ける。二つの手から発する波は共鳴して強力な場を作り出す。ふたつのサブマシンガンが轟音と共に銃弾をばら撒き始める。その銃弾は四人にぶつかる前に空中に止まってしまう、サイコキネシスである藍と智の手から生まれた力が銃弾を止めているのだ。なにも無い所に銃弾が止まって密集していく、その様は異様な光景だった。

 智と藍に挟まれていた夏樹の姿が忽然と消える。一瞬後にはマシンガンを連射する二人の後ろに現れている、一瞬で移動できる距離では無い。そして一人の肩に銃弾を打ち込んだ。もう一人はそれに気付いて振り向くと同時に後ろから左肩と左腕を撃たれた。二人のサイコキネシスが能力を解除すると空中に縫い止められていた銃弾の全てがバラバラな音階を奏でて地面に落ちた。

 床に転がる二人の男に聖司が近づく、二人の手からサブマシンガンはもぎ取られ遠くへ蹴飛ばされていた。聖司が二人の目を見る、すると二人の男は糸が切れた様に気を失った。

「二階に行くか」

 四人は静かに移動する、二階に上がると三階から誰かが下りてきた。

 

 屋上に向かった二人は気配を消して上まで上がり、そして入口の前に立っていた。

「これ、壊して良いよね」

 奈々が指しているのは入口のドアにかかった鍵の事だ。なぜか外から鎖が巻かれ南京錠がかかっている。

「静かにな」

 奈々が拳銃を取り出しサイレンサーをつけた。それを片手に南京錠に触れる。すると南京錠の表面に霜が生まれる。そしてそれがやがて氷に変じていく。

 氷室奈々の能力はフリーザー、冷凍・冷却能力。氷室家はフリーザーの家系で何人かマスター級を輩出している、現在の八人いる最高会メンバーに奈々の母親が入っている。

 南京錠か一分程度で白い煙を上げ始めた、絶対零度まで温度が下げられたのだ。それに銃口を横から突きつけて引き金を引いた。奈々は鉛玉の装填された銃を抜いていた、鉛玉は南京錠を破壊して飛んでいった、音も小さい。落ちた鎖がドアを擦って音を立てた。

「行くぞ」

 慶が先行して中に入った。階段を下りて三階に入ると周りを見る。なん部屋かあるが多くの部屋が電気は点けてあるがドアが開いている。先ほどからサブマシンガンの掃射音であろう音が連続して聞こえている。ドアが開いている部屋は無人と見なし唯一閉まっている部屋のドアの前に立つ。中には数人の気配がする。

「奈々、お前がやってくれ」

 奈々が無言でドアの前に立つ、そして無造作にドアを開けた。

 中には三人の男達がいた、部屋にはモニターがいくつかあり警備室のようだったが二人にそれは関係ない。三人の内二人がサブマシンガン、一人が拳銃を持ったがすぐにそれを取り落とす。全ての銃器に氷の結晶が生まれていた、奈々が一瞬で銃器の温度を引き下げて低温火傷を引き起こさせたのである。

 床に転がって氷に包まれていく銃器を見て唖然としている男達に銃弾が襲い掛かる。奈々の後ろに立った慶が両手に拳銃を持って連射したので一瞬で全員が両肩両腿に銃創を作って床に倒れ伏した。入る前に聞こえていた連続した銃声は聞こえなくなっていた。

「こんなもんか」

「この人たちほんとに能力者?」

「訊いて見るか?」

 慶の目が色を変えて黒瞳から銀目になる。慶の能力はプレコグニション、未来予知であり発動時に瞳の色が変わる。未来を教える者の意を取って「フューチャーテラー」などとも呼ばれる。

 未来を見ながら床の男に近づきその胸倉を掴んで引き上げる。

「超能力使えるか?」

 男はうめくだけだがかすかに首を横に振った。

「本当に?」

 男はうめき声を上げるだけで返事が出来ない、首もはっきり読み取れるほど動かなかった。慶はその男を放り出した。

「下に行く」

「はいはい」

 先に歩いていく慶に奈々はついて行った。階段を下りて二階に着くとちょうど下から上がってきた連中と行き会った。

「誰かいた?」

「下っ端が数人」

 小声で情報交換をして二階に重要人物がいる事を確認する・

「じゃあ、行きましょうか」

 夏樹の声で二階に調査を始める。

次へ

ホームに戻る