死には死を
3
カイは自宅に着くとテレビをつけた。
今、某国の大統領が誘拐されたことで政治、報道機関はひっくり返っている。さらに、その大統領が税金を使って、麻薬を輸入していたことが発覚、政治界は大混乱。国民は国内各地で大規模なデモを展開しており、それによる放火、テロ、暴動が多発。警察、軍隊が総動員で鎮圧しようとするため、市民はさらに猛反発。結局、二週間の間に死者が500人も出たのだが、いまだ、暴動は治まっていない。
ニュースのチャンネルにすると、大統領誘拐事件ではなく、残酷な死体が何体も映し出されていた。
「……ご覧のように、元々人間だったのかが疑われるほどに無残に切り裂かれています。怪物は、全身が茶褐色で2メートルを越える身長、右腕には1メートルほどの鋭いつめを持っており都庁に向かって毎分約100メートルという異常な速さで移動中です。2・3回自衛隊との戦闘を受けたのにもかかわらず、スピードはまったく緩めておりません。都庁には3万人ほどの自衛隊員が召集されており、戦闘車両も数十台確認できます。この怪物の正式名称は“サンプルp255”といわれ、アンドス製薬会社が極秘裏に作っていた化学兵器でアメリカ陸軍との共同制作により完成したものだそうです。近々アンドス製薬社長は事情聴取を受けるそうです。
繰り返しお伝えします。現在、都庁を中心とした半径15キロ圏内は、避難勧告およびバイオハザードが発令されております。また、サンプルの影響により空気感染する恐れがあるため、30キロ圏内は屋内待機令が出されております。都内にお住まいに方々は、絶対に窓を開けずに屋内で待機してください…。」
カイは、腰を浮き上がらせた。それと同時に、電話が鳴った。取ると加藤からだった。
「おいおい。テレビを見たかぁ?バイオハザードだってよぉ。わくわくするじゃねぇか。」
「喜んでいる場合じゃないぞ。今すぐお前のところに行くから。今どこだ?」
「俺もお前に会おうと思ってたんだ。なんせこんなことは人生100年のうちに、何度もあるわけがないからねぇ。」
「わかった。どこで落ち合う?」
「取り敢えずお前のところに行くわ。」
電話を切ると、カイは立ち上がりクローゼットを開け、かかっている服を一気にどかした。そこには銃が隠されていた。カイは一丁一丁手に取り、持っていくものはベッドの上に放った。銃を選び終えると、今度はベッドの下の引き出しを開けた。中には特殊装備や、弾倉が入っていた。選んだ銃に合う弾倉、暗視ゴーグル、などを放り出した。すべてをスポーツバッグに詰め込むと、窓から真下に止めてある自分の車に落とした。
一息撞こうとしたその時、ものすごい爆音とともにドアがぶち破られた。振り向くと、テレビに出ていたあの怪物が仁王立ちしていた。
「おっと…また会うとは……。」
「オマエヲ……コロス!」
言葉を発すると同時に、カイに飛び掛ってきた。カイはベッドに飛び込むとベッドに残っていた銃を取り構えた。怪物の爪は、空を切り本棚を砕いた。その隙を突いて、カイは銃の引き金を引いた。鋭い銃声が二発鳴り響いた。カイは銃の反動で後ろの壁に頭を打った。怪物は左足を打ち抜かれて悲鳴を上げながらのた打ち回っていた。
「……っつつ…くそ、マグナムだとは予想外だった……。」
後頭部をさすりながら怪物を見た。怪物は立ち上がり戦闘体制になった。が、激しい銃声とともに怪物は再びひれ伏した。入り口を見ると加藤だった。
「俺のAKが火を吹くぜぇ!」
怪物は見事、加藤のマシンガンによって蜂の巣状態になって倒れていた。
「ひゅー。倉庫でめぐり合ったエキストラじゃんか。邪魔して悪かったなぁ。」
「いや、邪魔してほしかったところだ。……ばかに速かったな。」
「ん?……いやぁ、久しぶり俺の腕がなると思うとゾクゾクしちゃってなぁ。高速をかっ飛ばしてきたぜぇ。」
「そうか……。」
ふと気づくと、怪物はいなくなっていた。
「おい。またいなくなっているぞ。」
「あらら、お早いお帰りだなぁ。まだ俺は撃ち足りねぇぜ。」
怪物が倒れていたところには、黒ずんだ血痕と、悪臭だけが残っていた。
「もしかすると……おい!加藤!今すぐ都庁に向かうぞ!」
「んぁ?なんだよ急に。もう少しゆっくりしても…。」
「いいから早く車を出せ!」
加藤は、カイの怒声に押されるままに車に乗り、発進させた。
「でも何で都庁なんて行くんだよ!今怪物が向かっているところだぞ!」
「いいか!加藤!あの怪物はアンドス製薬が作ったモンスターだ!」
「なんだってぇ!」
「きっと、生物化学兵器だろう。アンドスめ…やはりあれを作っていたのか…。」
「やっべーな。こりゃ都庁に行くっきゃないだろう!…?…なんでそんなことをカイが知ってるんだ?」
「………過去にアンドス製薬に勤めていたことがあったんだ。社長が裏で何をやっているのかってな…。」
「軍の命令でか…。」
「…………。」
「まぁ、お偉いさんの命令ならしょうがないって。」
そういうと、加藤は携帯を取り出した。
「…どこに電話して…。」
同時に銃声が響いた。後ろを向くと、数台車が追いかけてきた。
「くそっ!何なんだこいつらは!」
「あぁ、俺だ。大至急都庁に全部隊、もってきといてくれ。何?無理じゃねぇ!さっさと動け!でないと、全員首にするぞって言っとけ!」
「おい加藤!誰に電話してるんだ?」
「都庁に俺の全部隊がいる。お前はここから降りて、そいつらを指揮してやってくれ。」
「ここからって…どうやって降りるんだ!」
「こうするのさ!」
加藤がギアを一気に押し倒した。軽い爆発音とともに、カイの体は宙に浮いていた。パラシュートが開きゆっくりと都庁に向かい始めた。
「ちゃんとやって来いよぉ!」
加藤はさらにアクセルを踏み込んだ。
4
アンドス製薬会社、社長室。
「現在の調査状況を報告しろ。」
“こちらA班。未だに怪物の足取りがつかめません。”
“B班です。怪物がいたと思われる倉庫を発見しました。血痕と、人の足跡があり、現在調査中です。”
“C班です。避難勧告の出されている地域に、一台の車が侵入しましたがどうしましょう?”
「適当に始末しておけ。なんとしてもあのサンプルを探し出すのだ!」
男は、荒々しく通信を切った。ルーツ・アンドス。アンドス製薬会社、二代目社長。表では、ガンの特効薬などを発明し、わずか5年で世界中に支店を出すほどに急成長した会社。しかし裏では、生物化学兵器や、特殊な武器を作っているという噂が流れているほどである。
「くそっ!貴様のおかげで、実験体のサンプルは手に入れ損ねるわ、そのサンプルは町を歩き回ってるわで、いったいどうしてくれるっ!」
アンドスは、机の上にあった灰皿を目の前に立っていた男に投げつけた。男は瞬時に銃を抜き、灰皿を打ち落とした。銃口からはひとすじの煙が立ち昇っていた。
「あんな派手に博士を追い回すもんだから、わしに反感を抱いてるやつが警察に垂れ込み追って!今じゃわしがこの事件の最重要容疑者になってしまったわ!」」
「しかし、今更になってなぜあのサンプルを探すのでしょうか?放牧は済んだのですから、無理に取り戻さなくても時期に帰ってきますよ。」
男は、銃を丁寧に懐に戻しつつ言った。
「じゃあお前はあいつを無傷で捕まえることができるのか?」
男は、「さァ」というようなジェスチャーを見せた。ルーツはいすに座りなおし、机に伏せた。
「あぁ…このままでは私の苦労が水の泡になってしまう……。」
ルーツは、今にも鳴きそうな声で言った。
「……元はといえばお前がしくじらなければこんなことにはならなかったんだ!お前が責任もって連れて帰って来い!」
「…わかりました。では、私の部隊を使ってもよろしいですか?」
「サンプルさえ戻ってくれば、お前なんぞいらん!さっさと行け!」
男は、一礼すると早々と社長室を出て行った。社長室の前にはひょろ長い男が一人立っていた。
「よぉ、大将ォ。お説教は済んだかぁい?」
「あぁ。派手にやらかしたからな。」
「ひゃひゃひゃっ。そりゃぁ、社長はキレルわなぁ。そんでぇ?次の仕事は何なんだぁ?」
ひょろ長い男は銃を取り出して、ニヤニヤ笑っている。彼の名前は、ジェイ・マルーラー。
元アメリカ陸軍兵士。しかし、麻薬に手を出し、十万人も集まったライヴ会場で、機銃を乱射。死傷者二千五百人に上り、精神科へ送られた。その後、現在に至るまでの経緯は不明。過去の情報も全て抹消されていた。
「逃がしたサンプルをつれて帰ってくることだ。」
マッド・クオーク。彼も同じく元アメリカ陸軍少尉。戦争時に伝染病にかかり、急遽帰国。完治後アンドス製薬のガードマンとして雇われる。体格のよさと、銃の扱いが社長に気に入られ、アンドス極秘特殊部隊の指揮官におさまっている。
「逃がしたのを捕まえるのかよぉ。結構面白そうだなぁ。」
「その件はお前に任せる。俺はやることがある。」
そういうと、クオークはその場を去った。
「ヘリ班を呼び戻せ!上空から、例の侵入者を抹殺するぞ!」
「おいおい。侵入者ってだれだよぉ。」
「避難勧告が出された地域に、入っていった車があったそうだ。今αチームがつぶしに行ったが、まだ応答がない。おそらく…。」
「なんだってぇ!あんたのとこの部隊が全滅するなんてあり得ないだろお。」
「だから行くんだ。お前はサンプルを捕まえてくればいいんだ。」
「へいへい……まったく、おいしいところだけ持ってきやがるんだよなぁ……。」
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