深海 2




 深くもっと深く沈む。すべてを照らしていた、正しい光はやがて小さな清潔な点となり、

やがて強い一筋となり、そして潔い点に変わって消えていくだろう。

底につく頃私の身体はそのまま仰向けで深い海の底へ沈む。

底が近くに来る頃には何も見える事もなく、耳には心臓の音しか確認できなくなる。

定期的に動く鼓動も、底に到着して間もなく止まる。


何も聞きたくないから沈む。

何も知りたくないから落ちる。

深く青く暗い海の底。

私の耳は何も聞かず、

私の眼は何も見ず、

私の口は何も語らない。


心は意味の求め方がわからず働く事を止める。それで良い。それが得策だ。

ただ深く、ただ暗く、ただ無音で、何も動かない。

いつか赤い魚がどこからかやって来て、私の鼻先をくすぐりながら、くるりと方向転換をしたら、

それは浮上をしろと言う命令を私が私に下す。


赤い魚は私の分身、赤い魚は私の血。


身体の中に脈々と流れる赤い血の様に、赤い魚はただ深く、ただ暗く、ただ無音で何も動かない。

その深い深い深い海の底に脈々と流れる泳ぐ。優雅にそして醜悪に。

美しく冷たい赤い魚は、私に少しの休息を許し、そして時間が来れば外へ出ろと言う。

和やかで、温和で、暖かい場所としてココはふさわしくないのだ。

むしろ自由に深い深い海の底を泳ぐ赤い魚のジャマをしているだ。

休息の時間は長くは無い。とてもとても短い。それでも私はほんのヒトトキでもこの深海で、生きる為の糧を得る。


生きる意味や意義や使命なんてモノは今もってわからない。

でも、生きる何かをくれるのだ。


もっと生きていたいと、生きなくてはと、私が私に言い聞かせるように、

赤い魚は静かに私にそう呟く。


生きる事が人としての仕事なのだと。生きものとしての義務なのだと。