「逆プリンカラメルがけ」

 今日の彼女はなかなか可愛かったな。デートから寮に帰った瀬戸口はそんな事を考えながら、服を脱いだ。
 もうかなり遅い時間だ。寮生の大半は既に風呂を済ませてしまったらしい。衣類が入った脱衣カゴは自身のを除くと一つしかない。タオルを手に取ると、瀬戸口は風呂場の磨りガラスドアをガラリと開けた。
「ふーろふろふろ、いいゆだなーっと、」
 一歩、二歩と鼻歌まじりに浴槽へ近づく。ひんやりしたタイルが気持ちいい。
 もうもうとした湯気を透かして見えたものに、何の気なしに目を凝らす。
「・・・おわぁぁぁっ!」
 一瞬、気を失いそうになった。足を滑らしそうになり、ガラス戸に慌てて掴まる。ガシャン、と大きな音がした。
 シャンプーハットをかぶり、プラスチックの風呂イスに腰掛けていた若宮が眼を開ける。
「瀬戸口・・・どうした?」
「どうした、って・・・何やってんだ、お前」
 若宮はきょろきょろと辺りを見回し、
「風呂、入ってんだけど」
「じゃなくて、それだよ、そ・れ!」
 瀬戸口が、きょとんとした表情の若宮の頭を指さす。若宮はようやく気づいたようだ。
「ああ、これか」
「若宮くん、そろそろ、じゃないですか?」
 これか、とあっさり言われて頭を抱える瀬戸口の後ろから声がした。
 善行だ。
「そうですか、それでは」
 若宮がシャンプーハットを外して、シャワーの蛇口をひねった。淡い湯気が立つ中に頭を突っ込む。
 瀬戸口が呆然と見守る中、若宮は洗髪を終えた。
「ふむ。成功だな」
 曇った鏡を手で拭いてから、洗い髪をチェックする若宮。
「今回のは、後ろもキレイですよ」
 若宮の目が届かない後頭部あたりは善行がチェックしていた。
「もしかして、ブリーチしてたのか?」
 瀬戸口もようやく事態がのみこめた様子だ。
「この、茶色と金色のラインが難しくてな。脱色を怠ると逆プリンにカラメルをかけたようになってしまうし」
 なるほど、そう言われてみればその通り。納得しかける瀬戸口だったが、ふと気づく。
「脱色したかったら、美容院行けばいいだろ」
「おいおい、戦士の給料でそんな所行けるわけないじゃないか」
 若宮はそう言って笑った。善行も一緒に笑う。
「だったら、そのまま逆プリンカラメルがけにしとけば?」
 笑われているのは自分のような気がした瀬戸口がつっかかるように言った。若宮は、苦笑した。少し、哀しげな微笑みだった。
「まぁ、ちょっとな」
 若宮と善行が目を見交わす。
(俺には言えないってのか)
 疎外感を募らせた瀬戸口がさらに尖った口調で言い捨てる。
「言いたくないなら、いいよ」
「おや、拗ねてますよ」
 善行のストレートな言葉に顔を赤くする瀬戸口。若宮が顔を崩して笑う。
「よし、びっくりさせた詫びだ。・・・って、おいこら逃げるな!」
 わぁ、こらよせ、やめろってば。がしっ、ずるずるずる。わしゃわしゃ。
「かゆい所はございませんかー?」
「かー?」
 若宮と善行の作り声が妙にハモって風呂場に響いた。瀬戸口がぼそりと、
「・・・足の裏。!!」

おわり

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