北斗神拳と美味しいアレ

 有史以来、最も素晴らしい拳法である北斗神拳。核戦争で文明が荒廃した現代(一九九X年)においても空前絶後の威力を誇り、またその雄大さが時代をも動かし得るということは、誰もが知るところであり、改めて説く必要もあるまい。

 だが、北斗神拳の美点の最たる物とは、秘孔を突かれた悪党の断末魔の叫びなのではないかと、私は考えている。「あべし!!」、ゲーム中でも多用されるこの言葉を、聞いたことのない者がいようか。「あ」で雄大さを、「べ」で力強さを誇示しておきながら、末尾に「し」と結ぶことで貴婦人のような品格を醸し出している。もはや我々は、この言葉の美しさの前に聞き惚れる以外の術を知らない。有名な「ひでぶ!!」「たわば!!」についても同様である。つまるところ、わずか二〜四音のなかに、北斗神拳の全てが凝縮されているといっても過言ではないだろう。そこでこの度、私は強敵たる諸君の為に、断末魔の言葉について統計をとり、その傾向を示す。劉家神拳二千年の歴史は、到底この中では語り尽くせぬが、このホームページが、北斗の歴史を紐解く手助けとなれば幸いである。

 さて、本題に移ろう。北斗の拳で面白いことを言いながら倒れていった悪党たちは全部で百五十五名に及ぶのだが、まず特徴として、その半数が「ぷらぼっ!!」「ぺがふ!!」など、ハ行の音(またはその濁音、半濁音)で始まる叫び声を残している。「ぽげぇ!!」に至っては、劇中に五回も登場する。有名な「ひでぶ!!」などと比べると存在感こそないものの、もはや北斗の拳におけるデファクト・スタンダードであるといっても過言ではあるまい。

 一体なぜ、これほどまでにハ行の音で始まる声が多くなったのか。彼等の多くは、北斗神拳によって絶命しているわけだが、最期に彼等がどのようになるのかを考えてみてほしい。・・・そう、そのほとんどが内臓を破裂させて死んでゆくのである。「H」の発音は、腹の中に溜めていた息を、一気に吐き出すようにしてするものだ。破裂するということは、体の内部から外部に向けて、非常に強い力がかかっていることを意味する。よって、破裂時に肺に残っていた空気が気道を勢いよく通過し、「H」の発音となることは、何の不思議もないどころか、むしろ自然ですらある。つまり、破裂しながら何か言おうとしたことで、破裂時の空気の噴出と言いたかったことの発音が混じり合ってしまったもの、それが多くの断末魔の正体だったというわけだ。

 次に、それらの断末魔はいつごろ発せられたものなのかということに、話を移そうと思う。諸君等、多くの強敵達は、ラオウとの戦いの最中でこれらの名言が残っていったと考えるであろう。しかし、それは大きな誤りである。面白いことを言って死んでいった全百五十五名の内、ラオウが倒れる前、つまり十五巻までに既に亡くなっていた者は、わずか五十三名に過ぎない。悪党の残り百二名は十六巻以降、ケンシロウの圧倒的な力の前に、為す術もなく果てていった。

 一見すると、物語の山場である中盤に声が少なく、後日談的な後半に行くにつれ発声する者が増えてゆくことは、不条理極まりないことに見えるかもしれない。だが、実際にはこのことは非常に理にかなっている。なぜなら、強敵との戦いを通して北斗神拳は確実に進化しているのだから、ケンシロウの突きは強敵との戦いの前より格段に強くなっているはずである。突きが強まれば破裂時の衝撃が増し、よりたくさんの空気が体内から送り出されるようになる。さすれば、今まで声が出なかったような場合でも声帯が響いてしまい、声が出るようになることは自明なのである。漫画の人気がなくなってきたから、北斗の拳名物の面白い声をたくさん出すことによって人気を維持しようと必死だったなどとは、間違っても考えてはいけない。

 それから、これは気付かずにいる者も多いかとは思うが、みんな絶叫時にはひらがなで叫んでいるということも忘れてはならない。カタカナで叫んだのは、「ブァラ!!」(十巻)「ゲベ!!」(二十巻)「ガヘッ」(二十五巻)の三回のみで、しかも全てケンシロウが技をかけたのではない。普通の話なら、技が炸裂したときにはカタカナで叫ぶはずだ。そこにきてひらがなである。これは、普通の漫画に出てくる技が直線的に、ごく一部の破壊を目指しているだけなのに対し、北斗神拳が体内組織全てを滅殺する、他の技とは次元の違うものであるということの証左であると考えられる。体の至る所が崩壊しながら発する、どのように声帯を使っても通常では出せない声、それがひらがなという形で文面に現れているのだ。

 以上のことに鑑みるに、何一つとっても、北斗神拳が他を圧する拳法であるということが改めて確認された。人として生きる為、我々は北斗の拳から学ぼうという姿勢を忘れてはならない。学校にあっては友人の秘孔を突き、家にあっては親兄弟の秘孔を突き、逢い引きの最中には彼女(彼氏)の秘孔を突く。これが人間社会における、道徳的な行動というものに他ならないのである。

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