窓円アパート : 1F > ラウンジ

羊皮の大きな絨毯が敷かれ、中央には深い緑色の大きなソファ。
ソファの上には、古い鳩時計がカチコチと不安定な時をきざむ。
ソファはなかなか座り心地がいいんだけど、うっかり座ってしまうと鳩時計のおしゃべりに付き合わされる。

ああ、ほらまた、鳩時計の扉が開く。



* * *

1.

昼過ぎ。
ラウンジのソファに座ってドクター・ジルは本を読んでいた。
別に本が読みたいわけではない。ここにいたいわけでもない。ただ、今は部屋に入れないのだ。

今朝、洗濯をしようと洗濯機をまわしたら何故だかフタが飛び出した。続いて洗濯物と、水と、泡が勢い良く発射した。
洗濯物は天井に張り付き、水は腰まで浸り、そして壁中が泡だらけになった。
ドクター・ジルはなにが起こったのかわからず、 だけど腰まである水はまるでプールみたいでちょっと楽しいからクローゼットから水着を取り出してのんびり泳いでたところで、 音井が帰宅した。
いつも青い音井の顔が、いつにもましてみるみる真っ青になる。
しかしドクター・ジルはそんなこと一向に介さずに音井を一瞥するだけだ。

「ドクター・ジル」
「お帰り、オトイ。あなたも泳ぐ?」
「ああ、あなたという人は、いつもわたしの想像を遥かに越えますね」
「なによそれ」
「やはり留守を任せるんじゃありませんでした」

とにかく、掃除をしますから、いいというまで部屋には入ってこないでください。冷静に、しかしいつになく威圧的な態度で音井に言われ、ドクター・ジルはしぶしぶ部屋を出てここラウンジで時間を潰しているのである。

まったく、暇だわ。ドクター・ジルはそんなこと言いながらソファにゆったりと座り、退屈な本のページを一枚めくった。