HOME 読んだ本
| 銀河鉄道の夜 作 宮沢賢治 よく知られた賢治の代表作なんだけど、ほんとに不思議な作品だと思う.世界中探しても類縁性のあるものってほとんどないように思える.この作品が稀有なのは何よりその感覚の触手を宇宙の果てにまで、できるかぎり伸ばそうとしていることだろう.鉱石の内部にまでその感覚を行き渡らせ、鉱物自身が感じ取る世界を掘り起こし描いて見せている.人間とは180度違った世界.”立派な地層もあるいはただがらんとした空に見えやしないか.”人間的な物の見方から離れることで見えてくる物がある.鉱物自身の視点、あるいは植物の視点、動物の視点、賢治はこうした視点を大事にした.このような視点を取り入れることで、社会的存在である以前の素のままで宇宙と向き合った人の姿が浮き彫りにされる.その様な存在認識を通してはじめて人は健やかにこの世界に根付くことができるのだろう.自然とのバランスの取れた関係が築けるのだろう.
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| インドラの網 作 宮沢賢治 この作品も「銀河鉄道の夜」に負けず劣らずイマジネーションの純粋さを極めつくした感がある。読んでるだけで大気圏外の冷たく希薄な空気の中で昏倒しつつある自分に気づく.これは幻視の中でのチベット高原なのか、とにかく幻視の中にもう一つの幻視を組み入れた入れ子構造になっている.透明な鉱石はみな内部に宇宙の火を静かに燃やしている.その火はたぶん冷たくて、なにも焦がすということの無い非物質的な炎.ますます浄化し、透き通らせてゆく浄福の炎. |
| 十力の金剛石 作 宮沢賢治 夢の中から香りだしたかのような、童話の中の童話、イメージのエッセンスが詰め込まれたような作品.妙なリアリティというものが感じられ3D的な実在感を持って言葉によって掻き立てられたイメージを味わい尽くすことができる.読んでるとき、目覚めている夢としてありありと視覚が甦ったことを覚えている. |
| デミアン 作 ヘルマンヘッセ ヘッセは愛読している作家の一人だ.流動食のようにこの人の文章はすんなり入っていくし、昔からずっと知ってたみたいに自分のHOMEとしてこの人は自分の中に位置づけられている.彼が紡ぎ出す登場人物はけっこう似ているものが多い.そのことは読んでいて安心感ももたらすし、幾重にも重ね描くことでより深みと広がりを増していったのだろう.その分世界が狭まるというのも否定できないかもしれない.限定された領域での深い掘削作業のように. |
| 津軽 作 太宰治 太宰治といえば人間失格、が有名だと思う.何年も前に読んだことがあるけどあまり印象には残ってはいない.やたら冗長な感じがした.あまりにも人間的というか、ひねくれ過ぎだろうという印象がある.でもまた読み返すと違うのかもしれない.というのも最近「津軽」を読んで太宰節の声色がはっきりと耳に届きだしたからだ。この人の背後には何か大きな民族的な裾野が広がっているような気がした.この人はその語り部であって、彼が空の器になればなるほど、作品は完成度を増していったんだろうなと思う.ちょうど恐山のイタコのように. |
| ツァラツゥストラはこう語った 作 F.ニーチェ 全編にわたって高揚感に溢れている.こんなにハイになって大丈夫なのかとよけいな心配までしてしまう.案の定至る所でツァラツゥストラは落ち込んでいる.深い谷間からの極端な高揚.そして再び急降下.これの繰り返しだ.このようなリズムは善悪の教えや最後の審判の教えを世界ではじめて広めたゾロアスター教の開祖としてのツァラツゥストラには必然だといえる.彼の教えは分極化することであり,仮借なく峻別することで世界に秩序を与え、人々に未来への方向性を与えた.しかしこれは彼にとって本当は方便でしかなかったのだ.なぜなら本当の善や悪などというものは存在しないからだ.何かの内的達成を成し遂げるための仮の方便なのだ.善悪の峻別化によって人は物事に対して鋭敏になっていく.自分のすることにたいして逐一内的価値を考慮することになる.それ以前は多分,人を殺したければ殺し土に埋めるといったことが,何の後ろめたさもなく行われていたのかも知れない.そのことがいけないことだと教えられたとき、人はその様な行為に対してためらわずして行うことが出来ない.踏みとどまることで内的反省が求められるのだ.それが少なくともツァラツゥストラの本意だったに違いない.しかしそこでもう一つの勘違いが起こった.掲げられた善悪の観念が揺るぎ無い絶対的なものとして,為政者や宗教上の支配者が都合よく利用し始めたのだ.搾取の為の道具として.そうして人は善悪に対しては決められたものとして受け入れることで、かえって自分の行いに対しては鈍感になってしまった.はじめから決められているのだから.しかしツァラツゥストラはそう望まなかった.それゆえに彼は再びニーチェの口を借りてこの世界に帰ってきた.今度は善悪の破壊者として.善悪の彼岸を教える者として. |